経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

新興市場の現状

2010-11-23 | 知的財産と投資
 先週末に、サザビー、アフタヌーンティー、キハチなどを傘下に置くサザビーリーグの株式公開買付が発表されました。
 今から2年ほど前になりますが、リーマンショックが発生して金融業界がひっくり返っていた何ともタイミングが悪い中、某外資系投資銀行が開催したセミナーで、機関投資家やアナリスト向けに知財ネタで話をさせていただいたことがあります(レジュメの一部ですが、こんな感じの内容でした)。そのセミナーの質疑の時間に、「そういった知財の専門家の視点から見て、何か推奨される銘柄はありますか?」という何とも直裁的な質問を受け、ちょっとばかり動揺したのですが、ここはズバッといかなければ格好悪いと思い、「東洋炭素、そしてサザビーリーグ。」なんて答えてしまいました。東洋炭素は、日経ヴェリタスの記事に書かれていた特許だけでない強力な参入障壁の存在に注目していたこと(その後の株価の推移はちょっと微妙ですが・・・)、サザビーリーグは、スターバックスの持分だけで当時の時価総額くらいあり、100億円以上の現預金とアフタヌーンティーやキハチの資産価値がほとんど評価ゼロなんてことはあり得ないでしょうと(こちらはまぁまぁかもしれません・・・)。
 先週末に発表された株式公開買付では、経営陣が全株を取得して非上場化を目指すとのこと。個人消費の低迷で業績が厳しいといっても経常利益が50億円近くある会社で、前期末の株主持分が558億円あるにも関わらず、先週末時点の時価総額が300億円弱。実質無借金のため資本市場で資金を調達する必要性も乏しく、この会社の場合は上場して知名度云々という要素もあまりないと思うので、これで株価を何とかしろと株主から攻められては、経営陣が上場を維持する必要性に疑問を感じるのも不思議ではありません。
 で、何が言いたいかというと、新興市場がこういう状況にあるということを、知財関係者も含めて多くの方々に知っていただきたいなぁと。発明→技術経営→ベンチャーといった流れから、知財業界でもベンチャーが話題になる機会が少なくありません。そんなときに、「日本の金融機関は、リスクをとってベンチャーに資金を出さないのはけしからん」といった意見を主張される方がいます。でもそれは表面的な部分に過ぎなくて、その根本的な問題は、こういった新興市場の低迷にあるのですよと。IPOの数が極端に減っている(ピーク時の10分の1くらいです)こともよく言われていますが、新興市場がこんな状態では、VCがベンチャー企業に投資したところで回収の目処がたたないし、そもそも株式を公開する意味が乏しくなってしまうから上場しようという意欲をもった企業も表れなくなってしまいます。そうした条件下で、リスクをとれといっても土台無理な話で、まずは資本市場が元気を出さないことにはベンチャーファイナンスなんて成り立たない。ベンチャーが育つ上での米国と日本の根本的な違いは、新興市場がちゃんと機能しているかどうかというところにもあるわけで、それはVCなどの金融機関だけの問題ではなく、資本市場にどのように向き合うかという国民性の問題も大きいと思います。「ベンチャーが育たない」と他人事のように嘆くだけではなく、本当にそれを憂いているのであれば、郵便貯金に眠っているお金で新興市場の株を買いましょうよ、なんて言いたくなる今日この頃(というかここ数年)です。

答えーや、坂本。

2010-11-18 | その他
 前回の龍馬伝で、龍馬が山内容堂に徳川幕府に大政奉還を建白するよう迫るシーンがありました。

山内容堂 「答えーや、坂本。武士も大名ものうなった世の中に、何が残る?」
坂本龍馬 「日本人です。異国と堂々と渡り合う、日本人が残るがです。」

*******************************************

現代の山内容堂 「答えーや、坂本。資格も専権業務ものうなった世の中に(注;「のうなり」はせんでしょうが・・・)、何が残る?」
現代の坂本龍馬 「ビジネス・パーソンです。顧客の事業に貢献する、ビジネス・パーソンが残るがです。」

なんて聞こえてしまうのは、ちょっと病気か(笑)。

トンカチで机を叩かないように

2010-11-14 | 企業経営と知的財産
 先日訪問した企業の話です。その企業はある装置を開発・販売しているのですが、ある用途向けの装置の市場ではシェアが極めて高くなっており(100%というものもあり)、毎年相当程度の件数の特許出願を行っています。これぞ「特許で参入障壁を築いて市場シェアを高める知財戦略の典型的な成功例」と言いたくなるところですが、これだけを見て「トンカチにとってすべての問題は釘に見える」となってしまってはまずい。そこで「この高いシェアに特許はどのくらい、そしてどういうふうに効いているのでしょうか?」と素朴な疑問を社長様にぶつけてみたところ、「それには業界の成り立ちから説明する必要がありますね・・・」と、その理由について市場が形成された歴史、業界の特性から説明してくださいました。
 お話を要約するとこんな感じです。この装置の市場は顧客ありきで形成された市場で、異なる製品を製造している顧客が各々が親しいメーカーに装置の開発を依頼し、その結果、それぞれの顧客の事業分野に合わせて、各メーカーは得意な分野の技術を蓄積してきた。その結果、市場は用途別に細分化され、各々の用途別の市場に強いメーカーが生まれ、後発がそこに参入しても技術の蓄積・顧客との関係ともに太刀打ちできないということで、自然に棲み分けがなされていった。それが高シェアの原因であって、特許が他社の参入を妨げたわけではなく、当初は特許を殆ど出さなくても問題の起こらないような業界だった。ところが、技術の蓄積や顧客との関係が参入障壁になっていたとしても、特許だけはとろうと思えばとれてしまうことがあり、他社が特許をとって顧客に迷惑をかけるような事態が生じてしまうと、本質的な強みである顧客との関係に悪影響を及ぼしてしまうおそれがある。そこで、製品の品質保証的な目的から、特許出願に力を入れるようになった。そういう目的で特許を出しているから、自社の実施態様をカバーすることが第一の目的であり、クレームをできるだけ広げるとか、製品の開発計画と関わりなくアイデアを募って特許を出願するとかいったことは二の次であると。ゆえに、特許を出願するための仕組みについても、開発で採用する機能を漏れなく拾うことを重視した体制になっている、ということです。
 この例からも感じたのですが、やはり先日も書いたとおり、知財活動というのは事業モデルの必然性によって生じるからこそ定着するものであり、要は事業モデルの問題であるなぁと。知財活動で扱う対象物である‘知的財産’が事業モデルを左右することはあっても、その知的財産を扱う知財活動のあり方は事業モデルによって規定される。ゆえに、知財活動を支援する際には、まず事業モデルを理解し、その事業モデルを支える、或いは強化するための知財活動の目的を設定し、その目的にあった仕組みを作っていく、基本的にはこういう流れであって、定着モデルには、その前提として‘事業モデル’を加える必要があるのでしょう。
 という風に考えながら、話題の「インビジブル・エッジ」を読んでいると、最初のほうは、何だかトンカチで机を叩いているような書きぶりだなぁ、という印象をもったのですが、コラボレーションの例としてトヨタが出てくるあたりから、知財云々ではなく事業モデルが主題になっている印象です。やはり知財戦略を見ようとすると、事業モデルに行き着くということか。あとこの本は、やはり米国のコンサルタントが書いているだけあって、当たりまえですが‘企業’に対する考え方がいかにもアメリカ的です。知財についてもその考え方が前提になっているので、日本企業(特にオーナー系の中小企業)にはそのまま適用できそうもない話が少なくない印象ですが、その違いが見えてくるという点でなかなか興味深いかと。この本については、まだ読み終わっていないので、できれば後日改めて書ければと思います。

ベクトルをどちらに向けるか

2010-11-11 | 知財業界
 一昨日、弁理士会近畿支部主催のセミナーで大阪に行き、支部の皆様とも色々お話をさせていただきました。思う存分大阪弁で話をして盛り上がってくると、ビックなことができそうな気になってくるのが何とも不思議なところです。
 さて、‘弁理士’云々について議論することは個人的にはあまり好まないのですが(∵弁理士というのは主体ではなく属性であり同一の主体として議論することには違和感を感じるので)、本日はちょっとばかり。
 近時、弁理士業(すなわち特許事務所業)の事業環境が厳しくなっていることについて、供給サイド、すなわち弁理士の数に原因を求める考え方を目に(耳に)することがあります。しかしながら、本来供給サイドを測る物差しは弁理士の数ではなく、特許事務所業界の就業者の数で見るべきでしょう。正確な数字を見たことがないので何とも言えませんが、その基準で見た場合に、弁理士の数ほど極端な変化が生じているのでしょうか。
 事業環境が厳しくなっている主な原因は、やはり需要サイドにあるように思います。しかしながら、ここで需要創出=出願増加と捉えるのはあまりに表層的であり、出願減少の原因の先にいる企業もまた、その先で深刻な需要減に悩んでいるわけです。そしてその需要減に悩む企業の先(顧客)には、さらに需要減に悩む企業があり・・・要するに、根っ子にあるのはスパイラル状に需要が減少していく日本経済にあるわけです。
 個々の事業者や業界がマクロレベルの問題をどうこうできるってわけではないので、そんな話をしてどうするんだ、って言われてしまうかもしれませんが、やはり問題の本質が解消されないことには本当の解決にも結びつかない。結局のところ、我々にできるのは日々の行動を積上げてことしかないのだから、事の本質がどこにあるのかということを頭におき、そのベクトルに従って進んでいかないと、中長期的に見て問題の解決にはつながらないはずだと思います。そして、知財の専門家である弁理士として何ができるかということを考えると、ゼロサムゲームの中でどっちが得した損したという世界ではなく、需要を生み、経済のパイを広げるようなビジネスの創出、拡大を支援するような動き方をしていきたい。つまり、会社の活力や創造力の強化につながる知財活動(7つの知財力の1~3)や、顧客やパートナーとの結びつきを強めることにつがなる知財活動(7つの知財力の6~7)が、こういう経済状況下ではより重要になってくるのであろう。中小企業の社長にお話を伺うと、殆ど例外なく「(自社が牽引する)業界の発展」「社員が能動的に仕事をすること」の重要性に言及されることからも、それが(経営レベルからの)顧客ニーズそのものではないかと思う今日この頃です。

自分の軸をもつ

2010-11-08 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネスの先週号に紹介されていた、千葉ロッテ・井口資仁選手の「二塁手論」を読んでみました。スペシャリストとしての道を模索されている方には、これはかなりお薦めです。知財の仕事も、野球で言えば二塁手みたいなイメージがありますし(って、勝手に思っているだけですが)。
 大学球界から鳴り物入りでプロの世界に入ったものの、3年間伸び悩んだ井口がブレイクするきっかけとなったのが、盗塁王という目標をたてたことと、二塁手へのコンバートだったそうです。これによって、それまでは漠然としていた目標が具体化されることによって努力のプロセスが明確になり、これまで見えなかった側面から野球が見えるようになった。例えば、盗塁のために投手の癖を盗む努力をしたことが、それまで悩んでいたバッティングにも好影響を与えた、といった話が紹介されていますが、具体的な目標を設定すること実際に自分が違う立場に立って見直してみることの必要性は、我々の世界にもそのまま当てはまるように思います。
 また、他人(ここではその他人がプロフェッショナルであるとの前提ですが)からのアドバイスを有効に活かすためには‘自分の軸をもつ’ことが重要で、軸がなければその真意が理解できずに振り回されるだけで、その軸も日々見直しながらブラッシュアップしていくことが必要であるとも。他人のアドバイスを活かしきれない、あるいはその価値が理解できないのは、‘自分の軸’がしっかりもてていないせいかもしれません。そして、‘自分の軸’をもつためには、短所を直そうとするより長所を伸ばすことが肝心であると。この話は、先日紹介したビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業」にも通じるものがあります。
 それ以外にも思わず「なるほど」と言いたくなるエピソードが盛りだくさんです。但し、野球に興味がない方には、ちょっと理解しにくいかもしれませんが・・・。

二塁手論―現代野球で最も複雑で難しいポジション (幻冬舎新書)
井口 資仁
幻冬舎

「帰っちょれ」と言われないために。

2010-11-02 | 新聞・雑誌記事を読む
 今日は甲府までの往復の列車内で日経ビジネスに目を通していたのですが、TPP、特会の仕分け、EVといった記事を読んでいると、今という時代は社会の大きな変革点にあるのだということを改めて感じずにはいられません。龍馬伝で、龍馬が弥太郎に「これから時代が大きく動くから、おまんは土佐に帰っちょれ」みたいなことを言ったシーンがあったように記憶していますが、まさにあんな感じです。「帰っちょれ」と言われないように、やっぱり日経ビジネスはちゃんと読んどいたほうがいいなぁと。そんな今週号の中から、気になった記事を2つほど。
<その1>
「シャープ、加速する構造転換」という記事です。GALAPAGOSのことは新聞記事などでもよく報道されていますが、もはやハードだけでは差異化が難しく、収益性が低いという前提で、シャープはコンテンツ配信などのソフト事業への構造転換を進めている、という視点から解説されています。家電分野だけでなく、太陽電池でも単品売りから電力卸売に脱却しようとしているとのこと。中小企業へのヒアリングから、知財権のあり方は事業モデルによって規定される、と感じることが多いと先日書きましたが、シャープのような大企業で大きな事業モデルの転換が進められているときに、知財戦略・知財活動についてはどのような議論がされているのか、そして、これまでと違った考え方や動きが生じているのでしょうか。「投資家情報」の記述からは何もわかりませんが、ソフト事業への構造転換は知財活動にどのような変化を生じさせるのか、大変興味深いところです。
<その2>
 エコカーに関する特集で、ホンダのインサイトの開発に関する記事ですが、リッター1kmの燃費を向上させるために、「『空気の気持ちになって考えろ』を合言葉に、空気抵抗を減らそうとガソリン1リットル当たり10mずつ燃費を改善するようなアイデアを約100個考えた」との話が紹介されています。知財を創造する側がここまでやっているのだから、知財をマネジメントする側だって地道な積上げを惜しんではならないなぁと。中小企業の知財活動のあり方を追求するなら、社長100人の話を聞きにいくくらいの気合が必要ですね・・・(笑)。