経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財を軸にしたカテゴリー化はあまり意味を持たなくなる?

2012-04-07 | 企業経営と知的財産
 前回のエントリ「結局は売上」に、
 
 ・・・ある事業で行った中小企業向けのアンケートに、「知的財産権を取得してどのような効果があったか」という質問がありました。約1,000社から回答があったのですが、「模倣の抑止」「対競合の優位性」に効果があったと答えた企業の比率が企業の規模(従業員数)が多くなるほど高くなるのに対し、「取引先との交渉力」「販路開拓」「業務提携」「独自性のPR」に効果があったと答えた企業の比率は企業規模が小さくなるほど高くなる、という傾向が明らかになりました。つまり、規模が小さい企業にとっては、知財権によって他社を排除するということより、知財権によって信用を得たり、注目を浴びたりする効果のほうが、より重要であることが多い、ということです。

 と書きましたが、その元ネタが以下の小冊子に公開されています(最終ページにちょこっと出ていますが、委員として監修のお手伝いをさせていただきました)。

 「知財とうまくつきあうコツ! -伸びる会社はココが違う!知財体制と管理のヒント集 in KANSAI-
 (http://www.kansai.meti.go.jp/kip-net/jirei/thizai2012press-web.pdf)
 
 第2章の先進事例には、知財活動に力を入れる中小企業30社について、取組みのきっかけ、管理体制、工夫しているポイントがコンパクトにまとめられており、大変参考になるのではないかと思います。第4章には近畿地区の中小企業1000社強から回答のあったアンケート結果が取りまとめられていますが、87p.の回答結果に、先に挙げた傾向がくっきりと表れています。
 87p.の回答結果からは、規模の企業が大きくなるほど、知財の力を対競合に働かせる(排除する)ことの意味が高まるのに対して、知財の力を顧客やパートナーに働かせる(信用を得たり注目を惹き寄せたりする)ことの意味は、企業の規模が小さくなるほど高まるという傾向が読み取れます。また、もし「社員のヤル気を引き出すのにつながった」「社員が自社商品に誇りを持てるようになった」という選択肢を加えていたとしたら、おそらく同様に規模が小さいほど高い数値を示したのではないでしょうか。
 知財活動の目的について、対競合ということよりも、対顧客やパートナー、対社員に意識を置くとするならば、知財支援の形も管理体制の構築や権利の質の向上ということよりも、より効果的なPR手段への活用、すなわち営業活動への関与や、社員のモチベーションを高める評価制度の設計、すなわち人事制度への関与が重要になるはずです。そして、営業活動の促進が知財情報の活用だけで実現できるわけではないので、ここでの活動は営業戦略の一部として、営業担当と連携してよりよいものを作っていくことが必要です。人材の活性化も発明褒賞や知財権の取得だけで実現できるものではないので、ここでの活動は人事戦略の一部として、人事担当と連携してよりよいものを作っていくことが求められるはずです。こうなると、もはや「知財をどうしたらよいか」という知財中心の発想ではなく、「営業を強化するのに知財では何ができるか」「人材を活性化するのに知財では何ができるか」という、知財を手段と捉える発想が必要となり、知財戦略だ、知財人材だという知財を軸にしたカテゴリー化はあまり意味を持たなくなってくるのかもしれません。

<お知らせ> 申込み締切日(4月9日)の直前のお知らせになってしまいましたが、4月19日(木)に開催される社団法人日本食品・バイオ知的財産権センター・平成24年度第1回「発明の日」記念講演会で、「発明の日に考える~新時代の経営に果たすべき知的財産の役割」と題してお話をさせていただきます。「発明の日」関連の記念イベントということで、今回は少々大きなタイトルを付けさせていただきました。