経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

経営に効くか?

2010-08-31 | 7つの知財力
 本日は拙著‘経営に効く7つの知財力’の宣伝です。
 
 今年で弁理士登録から10年になるのですが、大袈裟に言えばその集大成、どうして金融を離れて知財の世界に足を踏み入れたかという原点を振り返り(そう言えば一昨日からのニュースでも原点がどうのこうのって話がありましたが)、中小・ベンチャー企業の経営に知財のスキルをもって何ができるのか、ということを取りまとめたのが今回の書籍です。編集の方のご理解もあって、本当に好きなように書かせていただいたのですが、いわゆる知財マネジメント・知財戦略本とはちょっと違い、これまでの中小企業と知財を謳った本とも趣の異なる、何か不思議な仕上がりとなりました(と、自分では思っています)。中小・ベンチャー企業にターゲットを絞っていて、細かなハウツーを解説するものでもないので、知財のプロのニーズに沿ったものではないかもしれませんが、
■ 知財って、結局のところ何なのか?
■ 知財(活動)って、果たして企業の役に立つものなのか?
といったそもそも論を考えることが嫌いでない方や、中小・ベンチャー企業で経営と知財の境目におられるような方には、是非ご一読をいただければと思います。

 当初はもう少し早く上梓する予定だったのですが、実際に書き始めてみるとなかなか筆が進まず、予想以上に苦戦してしまいました。これまでにセミナーで話してきたことを使えばネタには困らないだろうと踏んでいたのですが、難しかったのがパーツとパーツの「つなぎ」です。あれはこうだ、これはどうだと、個々の問題について論じることはそれほど難しくはないのですが、要するに自分のそもそもの問題意識はどこにあって、それに対する考え方の基軸はどこにあるのか、根っ子にあるものは何で、それぞれの主張にどう結びついているのか、というところが、わかっているようで実はよくわかっていない。もっともらしいことを言いながらも、実は外部からの刺激に対して反応しているだけに過ぎない、なんてことが少なくないわけです。入門書や実務書とは違い、自分の考え方がちゃんと整理できていないと書けないので、そこがなかなか難しいところでした。
 なんて大作を書き上げたみたいなことを言いながら、仕上がりは180ページほどで、電車の中で数時間で読めてしまうような内容です。カテゴリは「実務書」ではなく「読み物」。知財の本に「経営」なんて文字を付けると遠ざけられてしまいがちなので、極力読みやすさを重視した結果なのですが・・・

 以下、本書に関連するセミナーの宣伝です。

◆ 9月22日に、本書の刊行記念セミナー「経営に効く7つの知財力~社長に聞かせたい知財の話~」を、発明協会東京支部で開催します。
◆ 9月30日に、知的財産経営ケーススタディセミナー(@札幌)で「経営に効く知財活動の実践法」と題して講演しますが、本書に紹介している事例等について解説する予定です。
◆ 11月2日に、知的財産経営戦略塾(@山梨)で「『経営に効かせる知財活動のポイント』 中小企業の事例から見出した7つの知財力」と題して講演しますが、本書に紹介している事例等について解説する予定です。

デフレ経済と知的財産

2010-08-26 | 知財一般
 またもやマーケットでは株価・為替が酷いことになっていますが、バブル崩壊からもう20年もの間、ちょっと上がっては下がりを繰り返して、日本経済は結局立ち直ることなくこのままズルズルと縮んでいってしまうのか、と暗い気持ちになる今日この頃です。1ドル80円に近付いて大変なことになってきたと思いきや、ある記事によると、95年につけた1ドル79円75銭との比較では実質的にそれほど円高というわけではなく、その間の日米のインフレ率の差を考慮すると、1ドル50~60円くらいになって初めて当時の最高値と同水準になるそうです。裏を返せば、この15年もの間、日本経済が異常なデフレに苦しんできたことの証でもあり、今さらながらちょっと驚かされます。
 そして今や日本だけでなく欧米でも、需要の低迷、成長率の低下、デフレの恐怖に悩まされることになっています。経済成長を前提に今の社会システムが成り立っていることを考えると、需要喚起、成長促進、デフレ退治は今や世界の先進国経済に共通かつ最需要課題となっており、経済活動の一部を支える知財活動もそこを離れて考えることは出来ないはずです。
 先日紹介した「マイクロソフトを変革した知財戦略」には、「知的財産の最も大きな価値は、競争者に対する武器としてではなく・・・他の企業とのコラボレーションの橋渡しに役立つということである。」と書かれていました。eビジネスがご専門の幡鎌先生の新著「発明のコモンズ」も、発明の実施を重視した思想に基づく提言がされています。近々に上梓する私の新著も、参入障壁という役割から、顧客との関係(顧客の利便性重視)にかなり重心を移した内容になっています。オープンイノベーションという研究開発の側面からだけでなく、需要喚起を求めるマクロ経済の動向からも、知的財産が‘囲い込み’から‘利用促進’へと重心をシフトさせていくのは必然なのではないでしょうか。

 最近、大手メーカーの方のお話を伺ったり、新聞・雑誌の記事などを読んでいると、日本企業は、アジアをはじめとする新興国の需要を取り込んで成長に結び付けていくことが、非常に重要な課題になっています。それも、従来のように「輸出をする」というイメージではなく、アジア全体をローカルの市場として取り込んでいくというか。そうしないと、縮んでいく日本だけではどうやってもジリ貧であることは、この20年を振り返るだけでも明らかであると。そうしたアジア市場の中で、高コストの日本が存在価値を示していくためには、おそらく、築地の店で中国人が刺身の舟盛りに歓声を上げているように、他にはない最先端の繊細さ・センス・性能などを維持し、発信していくしかありません。日本国内に喩えれば、どんなに高コストでも人を吸い寄せる銀座や青山のような存在、日本全体がアジアの中でそういう存在になっていくということなのだろうと思います。

 というわけで、デフレ経済におけるこれからの知的財産の位置づけですが、キーワードは利用促進、そして日本の将来はアジアにおける‘銀座化・青山化’にかかっている、かと。将来を考えるときにどうしても目先のミクロの世界にばかり目がいきがちなので、ちょっとばかりマクロから考えてみました。

発明のコモンズ (創成社新書44)
幡鎌 博
創成社

このアイテムの詳細を見る

白鳥精神

2010-08-21 | その他
 日経電子版・経営者ブログのTDK・沢部肇会長の記事をいつも楽しみにしているのですが、今日もまたいいことが書かれていました。「美しい利益」という記事です。
 沢部会長が若い頃に当時の社長から、次のように言われたそうです。

「沢部君、君はあほやから、何が正しいかを分かるのは難しかろう。ただ、君でも花や景色の美しさに感動する心はあるはずや。美しいものを求めなさい

 特に自分で商売をやっていると、いろいろとジャッジが必要になる場面が多くなりますが、あれこれ考えていると何が正解なんだかよくわからなくなってくることがあります。仕事の中味にしても、以前であれば強引に「俺のやり方・考え方が正しい」と思えたものが、不合理・非効率と思われるものにもそれなりに理由があることが見えてきたり、自分の見えていなかったところに気づくようになったりすると、何が正しいのかがよく分からなくなってきたりします。要するにあほなわけですが、そういうときには、美しいものを求めればよいのですね。
 経営者である沢部会長は、「美しい利益」、すなわち質の高い利益(近江商人の「三方よし」の理念に通じるものがありますが)をイメージして経営に当たっているとのことですが、それも業績が伴ってこその話であり、「会社というのは白鳥のようなもの」と喩えられています。見た目には優雅でも、水面下では必死に水をかいている。要するに、目の前の課題に懸命に取り組んでこそ、利益の質も高まるということだそうです。かなり前に、極められた技術が美しさを発する、なんて書いたことがありましたが、やはり必死に水をかいてこそ作られる美しさなのです。
 というわけで、夏バテ気味の体で実務をコツコツやるのは楽ではありませんが、白鳥精神で頑張りましょう。