経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財・ポジティブ

2007-08-30 | 新聞・雑誌記事を読む
 久々に見る知財・ポジティブな記事です。
「知財力、企業成長映す?/数値化で関連ファンド人気」(8/30付日経金融新聞)
 トヨタアセットマネジメント、三菱UFJ投信などが設定した特許などの知的財産権に注目したファンドの販売が好調で、「第二のSRIファンド」の呼び声も高いそうです。IPBの特許スコアリングを参考に投資銘柄を決めるそうですが、同社のスコアリング上位20%の企業の時価総額は相当程度TOPIXをアウトパフォームしているとのこと(1994年以降で50%くらいアウトパフォームしているようです)。記事の最終文では、「~知財を投資材料として評価する動きはさらに強まりそうだ」と書かれています。
 さて、これをどう解釈するか。これもまた「本質的な問い」と言えるでしょう。

<仮説1> 特許の資産価値を投資家が評価した結果だ。→良質な特許をとれば、必ず投資家は評価する。
<仮説2> 良質な特許が事業に貢献して収益を押し上げた結果が時価総額に反映された。→特許は経営に有効なツールだ。
<仮説3> どんな経営指標であれ、ランキング上位の企業を抽出すれば平均以上になるのは当然である。他の指標で上位20%を抽出した場合のアウトパフォームの程度との差を比較しないと、特許が企業価値向上に効果的かどうかの立証にはならない。 
<仮説4> 特許はお金のかかるものなので、時価総額上位の企業=お金もちの企業ほど良質な特許がとれるのは当然であり、順番が逆である。
<仮説5> 時価総額を左右するのは技術の優位性であるはずで、特許はその一要素に過ぎない(ノウハウの場合もある)から、ノウハウも含めて技術力が高いといわれる企業をピックアップすれば、もっとアウトパフォームするはずである。
 
などなど、ぜひ皆さんいろいろ考えてみてください(上記はいくつか考えてみた仮説で、私の意見ということではありません)。

ソフトウエアの減損処理

2007-08-30 | 新聞・雑誌記事を読む
 システム開発のニイウス・コーが約300億円の当期損失を計上して債務超過に転落、というニュースにはちょっと驚きました。野村総研とIBMの合弁からスタートとお家柄がよく、金融向けを中心に手堅い商売をやっている会社というイメージがあって、かなり前にはちょっとばかり株を買ったこともあったのですが・・・
 大幅赤字の主因は、ソフトウエアの減損処理とのことです。販売目的で開発したソフトウエアは無形固定資産に計上されますが、販売見通しが立たない160億円ほどのソフトウエア資産を減損処理したそうです。前々期末の無形固定資産は200億円弱ですから、これは凄い金額です。減損対象となったソフトウエアは医療関連が中心ですが、金融関連でも約27億円の減損処理を行っています。金融向けのSIerは好調な企業が多いようなのですが、一体この違いは何なのでしょうか。
 それにしても、販売目的ということではあれ、販売先の確定していないソフトウエア資産を資産計上できるというのもいかがなものでしょうか。前々期の決算書には約200億円もの「知的財産」が数字として明確に示されていたものが、1年後には約160億円が吹っ飛んでしまいました(因みに、新たに計上された資産もあるので前期末の残高は約100億円です)、という話です。で、160億円の資産が消え失せていく過程は、一般投資家にはまずわかるはずもありません。
 資産計上されているものですらこうですから、こういう実態を目の当たりにすると、「投資家は見えない資産の価値を評価すべき・・・」といった議論も、とても空虚なものに聞こえてしまいます。うまく説明できませんが、知的財産などの無形資産とは、B/S上で確かに存在している「資産」と捉えるよりも、将来のP/Lに影響を及ぼす要因として把握すべきもの、という気がします。
 

I shall return.

2007-08-28 | その他
 昨日、安倍改造内閣が発足しましたが、今回の顔ぶれを見ると何やら最近のマーケットと同様に「反省モード」といったイメージです。少し前までの「改革派=○」「抵抗勢力=×」という色分けはいつの間にやら影が薄くなって、「実務能力」やら「脇の固さ」やらが○×を決める要素に変わってきたようです。このあたりも、「質への逃避」が進むマーケットのトレンドとよく似ているように思います。
 社会のムードというのはいろんな分野に拡がっていくものですが、知財の世界でも知的資産経営や知財ファイナンスを語る「改革派」こそがヒーロー、といったムードが変化してくるのかもしれません。勿論「進化のために何かをやっているか」という点が重要であることに変わりはないと思いますが、パフォーマンスだけでなく「脇を固めてコツコツと実務をやる」というところがないと、`I shall return.´てなことになってしまうかもしれません 。

知財価値スコアリングの実用性

2007-08-27 | 知的財産と金融
 先週、金融に詳しい3名の弁理士の方(この業界では珍しい存在なので3名というのは凄い話ですが)と議論をさせていただく機会があったのですが、中小・ベンチャー企業への融資の際の「知財のスコアリング」が話題に上がりました。
 先日の記事で「トランザクションバンキング」について書きましたが、最近の中小企業融資では、財務データ等を入力するだけで自動的にスコアリングが行われ、これに基づいて融資を行うという審査業務の効率化が進められています。この傾向からすると、知財担保融資等を普及させるためには、なるべく現場の負荷をかけずに知財の担保価値等がスコアリングできるシステムが要求されるのではないか、という考え方です。
 確かに、効率性の点を考えるともっともな考え方のようにも思えますが、スコアリングというのは統計学の世界ですから、その効果を利用しようと思えば、相応の数量をこなさないと統計を利用した効果を得ることができません。中小企業融資をスコアリングに基づいて行うことができるのは、そのスコアリングに基づいて多数の融資を実行するから全体で見ると貸倒率も想定された範囲に収まってくる、というものであって、そもそも融資の件数が少なくては統計的手法も活きてこないでしょう。同じように、知財もスコアリングに基づいて担保融資等を行うというのであれば、大量の融資を実行しないと統計的手法の効果が得られないことになってきます。とすると、統計の信頼性が明らかにならない時点で大きなリスクをとるかという話になってくるため、なかなか前に進まないのは当然といえば当然の話です。
 やはり知財とファイナンスの融合は、個別対応せざるを得ない→非効率だから普及しない、というところから抜け出すことが難しいのでしょうか・・・


地域金融論―リレバン恒久化と中小・地域金融機関の在り方
多胡 秀人
金融財政事情研究会

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ノウハウというより決断力の差?

2007-08-24 | 新聞・雑誌記事を読む
 伊勢丹と三越の統合が正式に決まりました。金融業界の再編、阪急・阪神の統合などもそうでしたが、以前の常識では考えられなかったような統合が実現していきます。
 今朝の日経にもありましたが、伊勢丹の強みは店舗運営ノウハウ、三越の強みはブランド力(+一等地にある不動産の含み益)ということで、知財的にはわかりやすい補完関係です。持株会社による統合方式ですが、日経金融によると事実上は伊勢丹による買収とのことで、「ノウハウ」の価値が勝ったようです(伊勢丹にだってブランド力はあるので、ノウハウの差が大きいということでしょうが)。
 さて、その「ノウハウ」ですが、わかるようなわからないような部分があります。一つには、情報システムを活かした商品開発や仕入れの機動力とありますが、調達に情報システムを活かすこと自体は当たり前の話ですし、そんなに違う部分があるのだろうか、という気がしないでもありません。また、メンズ館に代表される売り場構成(ブランドの壁を外した仕切りのない売り場)がよく指摘されますが、それは売り場を見ればわかる話なので、「ノウハウ」とは言い難いように思えます。結局は、「ノウハウ」というよりも、そういった思い切った売り場改革などを「やるか、やらないか」という決断力の差なのではないか、という気がしますがいかがなものでしょうか。

そこは、センスだね

2007-08-20 | 知財発想法
 なかなか一皮剥けないマリナーズの若きエース・ヘルナンデスについて、イチローがこんなことを言っているそうです。
何を感じているかじゃないのかな。そこは、センスだね
 その人がどういう方向に向かって進化していくか、進化できるか、ということは、「何を感じているか」にかかっている部分が大きいと思います。
 野球であれば、「勝つ」ということが目的であり、その中で自分が勝つために何をできるかという視点で、物事を感じとるということが大切なのでしょう。
 知財も同様に、「収益の向上」ということが目的であり、その中で自分が収益に貢献するために何をできるかという視点で、物事を感じとるということになるかと思います。
 してみると(←拒絶理由通知の読み過ぎか・・・)、例えば、ある顧客から10件の特許出願の依頼を受けて7件が特許査定になったときに、「特許査定率70%とは、私は素晴らしい」と感じるか、「7件が特許になって、顧客のビジネスにプラスになっただろうか」と感じるかが、「そこは、センスだね」ということになってくる。「ぬるい知財戦略」を耳にした場合であれば、「教科書に書いてあったとおりだから正しい」と感じるか、「本当にそれで収益のプラスになっているの?」と感じるかが、「そこは、センスだね」ということになってくる。先日の記事のネタでいえば、シカゴカブスの判決のニュースを見た際に、「商標権のことが大きなニュースで扱われて嬉しい」と感じるか、「経済社会においてはどうでもいい話」と感じるか、「そこは、センスだね」ということになってくる、といったところでしょうか。

リレーションシップパテントオフィス

2007-08-19 | 書籍を読む
 「地域金融論」をとても興味深く読んでいます。4年ほど前から金融庁主導で、地域金融機関(地方銀行や信金、信組)の戦略として「地域密着型金融(リレーションシップバンキング)」がキーワードになっており、取引先への経営支援や資金調達の多様化という部分で、知的財産もいくらか関係してくると思われます。

 それはそれとして、地域金融機関の抱える問題やその対策について読んでいると、何やら「地域金融機関」が「中小特許事務所」のように思えてきます(随分スケールが違う話ではありますが)。メガバンクの進めるトランザクションバンキングが、徹底した合理化による価格競争力の強化であるのに対して、地域金融機関は異なる攻め方をしていかないととても対抗できない。それが、顧客密着型のリレーショナルシップバンキングである、ということです。ここでいう顧客密着型とは、足繁く通って仲良しになればよいというような意味ではなくて、要すれば顧客をよく知り、顧客の収益向上に貢献することによって、「定価販売」であっても顧客に選ばれるような関係を作っていくということだそうです。スモール事務所の弁理士が集まるといつも出てくる話と、そっくりのような気がします。
 この本では、「定価販売」を実現するサービス業のビジネスモデルとして、
①コンビニエンスストア型(顧客の利便性を追求する)
②高級ホテル・高級旅館型(「おもてなし」で差別化)
③マツヤデンキ型(単なる量販ではない「街の家電アドバイザー」)
の3つを挙げ、①はコストに見合わない(サービス提供側が持たない)、②は顧客層がちょっと違うので難しい、よって③が最も近いモデルだろう、という分析をしています。こうやって当てはめてみると面白いですね。特許事務所も③が一番現実的な感じがしますが、「おもてなし」の意味によっては②もありかもしれません。が、少なくとも①(24時間オープンの特許事務所)は避けたいところですね・・・

地域金融論―リレバン恒久化と中小・地域金融機関の在り方
多胡 秀人
金融財政事情研究会

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反省期間

2007-08-17 | 知財一般
 昨日「ITバブル崩壊以来の反省モード」とか書いていたら、今日は本当に「ITバブル崩壊以来の下げ相場」となってしまいました。こういう状況を目の当たりにすると、知的財産がどうこうといったことを考える気力も失せそうになってきます。
 カブドットコム証券マーケットアナリストの山田氏のコメントによると「みんなが一斉にリスクを減らしに行くと、リスクが極大化してしまった」とのこと。当分は茫然自失が続く「反省期間」で、混乱が落ち着いた後には一番信用のおける先に戻っていくのではないか。その信用の源泉は、国であれば「経済成長」、企業であれば「利益成長」だろう、とのことです。
 数年来の知財ブームも今年に入った頃からかなり沈静化してきた感がありますが、「反省期間」にすべきことは、やはり原点回帰、信用の源泉である「利益成長」のために、コツコツと実務をこなしていくことでしょう。勿論、コツコツとこなしていさえすればよいというものではなく、「利益成長」への貢献を意識することが前提ですが。

サブプライムローンと知的財産の証券化

2007-08-16 | 知的財産と投資
 最近の経済ニュースは「サブプライムローン」一色で、市場は崩壊の一途をたどっています。まったく、たまったものではありません。
 サブプライムローンは、信用力の低い人に高金利で貸し出した住宅ローンで、これが証券化されて、高利回りを売りに世界中の投資家が購入しているそうです。このローンの焦げ付きが増加し、その損失が投資家に波及しているようだとのことですが、証券化して様々な投資家の手に渡ってしまっているため、一体誰がいくらくらい損をしたのかが把握できず、その不透明感が市場を混乱に陥れているとのことです。こういう状態になって、「金融のテクニックに溺れて、何でもかんでも証券化してばら撒くのは問題だ。」と、すっかり反省モードに入った論調も出てきているようです。こうした市場の反省モードは、ITバブル崩壊以来のことかもしれません。
 そういえば、知財の世界でも注目のテーマの一つに「証券化」がありました。おそらくサブプライムローンよりハイリスクで、おまけにリスクの質がわかりにくい(サブプライムローンは少なくともリスクの質は比較的わかりやすいと思います)金融商品ですから、こういった反省モードに入ってくるとしばらく出番は巡ってこないかもしれません。

A型発明とB型発明はサナギとチョウほど違う

2007-08-13 | 書籍を読む
 「毎日が自分との戦い」からもう一つ。
 信越化学には、新規事業を企画するための「Z委員会」というのがあるそうですが、その委員会では「事業化まで研究者に委ねたのが失敗」だったそうです。「研究開発段階は研究者に任せていいのだが、事業化するには経営のセンスが不可欠だ。研究と事業化は連続する過程ではあるが、サナギとチョウほどの違いがある。」とのことです。
 研究と事業化の違いは、大学発ベンチャーなどでもよく言われており、特に珍しい論点というものではありませんが、「研究と事業化は連続する過程ではあるが、サナギとチョウほどの違いがある。」という部分に注目してみたいと思います。特許業務は、研究開発段階、商品化段階のいずれにも絡んでくるものですが、「サナギとチョウの違い」があまり意識されることなく業務が行われていることが多いのではないでしょうか。
 「特許の利用率~A型発明とB型発明 」に書きましたが、研究開発段階において取得する特許と、事業化段階において取得する特許は、その性質・役割は大きく異なるものです。連続する過程ではあるものの、各々の段階で出願する特許への取り組み方は、意識的に変えていくべきなのではないでしょうか。

毎日が自分との戦い―私の実践経営論
金川 千尋
日本経済新聞出版社

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