経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

黒烏龍茶

2006-09-30 | 知財一般
 今日の日経朝刊に、ヘルシア緑茶などカテキン系飲料の記事が掲載されていました。ヘルシア緑茶については、
①「知的財産」そのもの(商品コンセプトやそれを実現する技術)が優れていたのでヒット商品になった。
②「知的財産権」などの参入障壁が有効に機能して、価格競争を回避し、高い利益率を実現した。
という、2つの意味で「知財」が収益を生み出した例として、よくセミナーなどで取り上げさせてもらっています。各社横並びの茶飲料の相場を、上の方向に「価格破壊」したわけですから、全く凄い商品だと思います。
 最近、同じく①②を実現する商品として登場してきたのが、同じく今日の日経に取り上げられていた黒烏龍茶です。①については、記事によると初年度は計画の倍以上の売上とのことですが、自分もはまっている1人として、確かに実感があります。②についても、類似品は目にしませんし、これまでのところ168円という価格も崩れていないようですので、果たしてこの状況がこれからも続いていくものか、興味深いところです。

 ところで、ヘルシア緑茶と黒烏龍茶、いずれもダイエット系の茶飲料ということで、効果は類似していますが、その作用は全く異なっているとのことです。ヘルシア緑茶はカテキンが脂肪の燃焼を促進するのに対して、黒烏龍茶はそもそも脂肪の吸収を抑制して、体脂肪の増加を抑止するそうです。そのため、ヘルシア緑茶が「1日当たり1本を目安に」としているのに対して、黒烏龍茶は「お食事の際に1回350mlを目安に」とのこと。ということは、潜在的には黒烏龍茶はヘルシア緑茶の3倍の市場をターゲットにできるということで、この点から見ると黒烏龍茶のポテンシャルのほうが大、ということになりそうですね。

赤字は悪か

2006-09-27 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経に、大学発ベンチャーの成長が鈍化している、との記事が掲載されています。その主な根拠は、経常損益が黒字企業の比率が前年より減少したとのことですが、スタートアップのベンチャーについて、赤字黒字云々で議論することはどうにも理解できません。

 ベンチャーキャピタルにいた頃にも、投資を決定する会議で「赤字じゃないの」と言われ、熱くなって反論したことがよくありました。ベンチャー企業の損益を見る上で大事なことは、今の時点で赤字か黒字かということではなく、
◆ その損益がどの程度信頼できるものか
◆ 損益がどういう傾向にあるのか
◆ 経営者が現在の損益をどのように認識しているのか
ということだと思います。ある企業は、前期に数億円単位の経常赤字が出ていましたが、数値の信頼度は高く、月次決算が翌月初早々には部門別に予実対比まで集計され、翌月半ばには社長が分析結果と対策を投資家に報告するという体制が出来上がっていました。さらに、経常赤字は毎月縮小傾向に向かっており、こういうタイムリーに状況を把握して随時方向性の修正を加えていく企業は、成功する確率が高いのは間違いないだろうと考えました(実際、そこから数年で株式公開に到りました。)。

 赤字とはいっても、その原因は様々です。例えば、市場ニーズの高まりに対応するために大型の先行投資を行った場合、研究開発費や減価償却費の負担で赤字になることだってあります。こういった赤字は、「成長鈍化」とは全く逆の意味を持ちます。逆に、黒字企業が増えるということは、投資の余地がなくなってきた=成長鈍化、である可能性のほうが高いのではないでしょうか。成長性の変化率が高く、企業体力に比して投資負担が重くなるベンチャー企業について、赤字か黒字かで傾向を把握しようとするのは、なんともナンセンスであるように思いますが。

「系列化」という知的財産の防衛策

2006-09-26 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融新聞の「IR虚像・実像」というコラムに、「株式持ち合いを生かしたトヨタ」というタイトルで、知財について興味深い見方が紹介されています。

 かつてトヨタ系列の小糸製作所に投資した外国人投資家が、「系列」が株主価値を毀損していると主張して役員受け入れ等を要求したものの、これを突っぱねた両社の株主価値は、結果的に増大することになった。その理由は、系列化の固い結束が「知的所有権が外部に流出しにくい仕組み」として機能したことにあり、系列の弱いエレクトロニクス産業では、製造装置や部品メーカー経由で知的所有権が流出していった、というものです。

 知的所有権(知的財産権)は流出を防止するための権利なので、それ自体が流出するという表現は正確ではありませんが、ここで言わんとしていることは、系列という仲間意識がノウハウを主とする知的財産の流出を防止した、ということかと思います。確かにノウハウのような目に見えない財産は、管理規程や契約でどれだけ縛ったところで、法的な縛りにはどうしても限界があります。それに対して、「系列」のような精神的な縛りは、「やっちゃダメ」というどちらかといえば後向きな法的縛りより前向きであり、違った意味で効果的に機能する側面があるのでしょう。
 とはいっても、「系列化」という防衛策はノウハウ管理のように自社の意思だけで直ちに導入できるものではないし、色々他の面の影響も大きいので同列に論じることはできませんが、知財の保護というのは複雑系である、ということを改めて感じさせられました。

COACH

2006-09-22 | 企業経営と知的財産
 今さらという感じもしないではないですが、東洋経済にコーチの特集が組まれているようです。
 10年ほど前までは堅気のカバン屋さんというイメージだったのが、今では世界的なブランドにすっかり様変わりしてしまいました。業績面でも快進撃が続き、株価も(ここ1年ほどを除いて)うなぎのぼりの状態です。デザインやイメージを転換した戦略が功を奏したのでしょうが、何といってもこれまで空白地帯だった中二階的な価格帯にはまった価格戦略が効いているのでしょう(かつて何かの番組では、普通の人を「エルメスやヴィトンを持った友達と出かけられるようにしたブランド」と説明していました)。
 で、知財人としては、参入障壁はどうなっているだろうか、というテーマですが、法律的には意匠や商標の領域になってきます。それはそれで勿論やっているのでしょうが、事実上の参入障壁について考えると、今のポジショニングそのものが強力な障壁になっているような気がします。なぜならば、上の階にいるヴィトンやエルメスは、おそらくブランド価値を維持するためにはコーチのポジションには降りてこれないでしょうし、逆に下の階から上がってこようとしても、コーチの場合はバックでの長年の信頼、ブランド力があったからこそ中二階的な値付けが通用した部分が大きく、ポッと出のブランドではなかなか難しいのではないか、と思うからです。そういう意味で、このゾーンにおいては、無敵の状態が当面続くのではないか、と予想していますが、果たしでどうなるでしょうか。

父性的知財支援

2006-09-21 | 知財一般
 先ほどちょっと見たテレビで、京大霊長類研究所の教授が、母性と父性の違いについて説明していました。
 母性とは、子供が未知の世界に踏み出して恐怖感を感じた際に、それを温かく受け止めるもの。
 父性とは、子供が未知の世界に踏み出して恐怖感を感じた際に、それを乗り越えられるように後押しをするもの。
 両方に支えられて、子供は健全に成長する。
という話でした。自立できない大人が増えているのは、日本社会に父性が欠如しているからではないかと。

 少々飛躍しているかもしれませんが、日頃考えているベンチャー企業への知財支援のイメージも共通する部分があり、特に父性的な部分は非常に重要であるように思います。知財駆け込み寺、管理型の信託など、いろいろな支援方法が出てくるようになってきましたが、これらは母性的な色彩が強い支援のように思います。知財業務とは企業の競争力の本質に関わる話なので、本質的にアウトソースに向く性格のものではありません。父性的支援とは、継続的に企業の近くで一緒に考え、地道に必要な作業を続けてていくようなイメージなのですが、ベンチャー企業の成長のために本当に必要な方法なのではないでしょうか。

あれをやるべき、これもやるべき

2006-09-19 | 知財一般
 特許行政年次報告書2006年版が公表されています。全体版はさすがに重いので、ポイントのほうにざっと目を通してみました。
 統計部分以外で、個別企業の問題として興味があるのは16ページの「企業における特許戦略の事例」あたりではないかと思います。
 1つめには、「日米欧で特許取得していたところ、その後の市場がアジアにも展開し、アジアで他社に生産・販売される事態を招いてしまった。アジアへの知財戦略が失敗した結果で、将来の市場を予測して出願しないとだめですね。」といった事例が挙げられているのですが、本件に限らず、「~すべきであった」とった類の説明には、どうも違和感を感じてしまいます。というのは、この事例においてアジアに出願をしなかった原因は、将来見通しが欠けていたということが問題なのではなく、その時点での経営判断、プライオリティの問題からやむを得なかったことなのではないかと思うからです。
 できるものならば、どんな発明だって世界中に出願したほうがいいわけですが、限りある経営資源を全て特許だけに割くわけにはいきません。この事例で日米欧に限って出願したことは、その時点の予算等から考えて合理的な判断であったのならばそれは仕方なかったわけで、特許担当の側から見れば歯がゆいこととは思いますが、経営資源の不足である部分から先には手が回らないということは、他の部署でも同じように起こっていることなのです。単に、あれをやるべき、これもやるべきと指摘するのが戦略なのではなく、限りある経営資源の中で、どういう基準に基づいて何を優先するかという判断の考え方が、経営戦略・経営判断の肝なのではないでしょうか。
 そうはいっても、何を優先して何を切るかという判断は個別・具体的なものなので、この報告書のような形式でとりまとめることはそもそも難しく、一般的な問題点の指摘から入っていくのはやむを得ないところでしょう。個別論については、我々が日々の業務として取り組んでいかなければいけませんね。

成長分野への投資

2006-09-17 | 新聞・雑誌記事を読む
 「せいぜい数十億円レベルの知財紛争」なんて書いた矢先に、東芝がメモリカード関連の特許紛争で米マイクロン社に338億円の和解金支払、との記事が各紙に掲載されました。東芝の今期の経常利益が約2200億円、設備投資額約6400億円、研究開発投資額が約3900億円の予想ですから(いずれも会社四季報より)、十分に吸収可能なレベルでしょうが(実際、業績予想も据え置きだそうです)、百億円単位となるとちょっとインパクトは大きいですね。
 ただ、これを投資家がどう判断するかというと、明日のマーケットをみてみないことにははっきりしませんが、おそらく悪い影響は出ないのではないかと予想します。338億円を支払うということよりも、今の東芝を牽引しているフラッシュメモリの足場固めが進んだという将来を評価して、むしろプラス要因に働く可能性があるのではないでしょうか。
 東芝はここのところ、大手電機メーカーの中でも株式市場での評価が高いですが、その大きな要因はフラッシュメモリーの好調にあるようです。投資家は一般に、多額の資金支出が生じる場合であっても、それが成長分野への投資であれば前向きに評価します。今回のケースも、東芝におけるフラッシュメモリーの重要な位置づけを考えると、この和解金は前向きに捉えられるのではないかと思います。
 そう考えてみると、知財戦略について考える場合には、個別の事件の勝ち負けに目を奪われることなく、企業全体の戦略・方向性において適切な経営判断がなされているかといった視点で評価することが必要なのではないでしょうか。

ミクシィ

2006-09-14 | 企業経営と知的財産
 今日のマーケットの話題は、何といってもミクシィの上場でした。株式市場に久々に登場したハンカチ王子級のスーパースター候補生ですから、騒ぎになるのも当然でしょう。今日は結局値段がつかず、気配値ベースで時価総額が2000億円を超えていますから、こういう金額を目にすると、せいぜい数十億円レベルの知財紛争のニュースがあまりビジネスマンの気を惹かないのも仕方のないことかといった感じもします。
 ところで、ミクシィは市場の期待に応えて、ヤフー・楽天のような存在になっていくのでしょうか(因みに、楽天の時価総額は6000億円を切りましたので、たぶんミクシィの時価総額はその半分くらいまではすぐに行ってしまうのでしょう)。ミクシィの強みについては、SNSにおける80%を超える高いシェアが評価されているようです。確かに、理屈からするとシェアが高いところには多くのコミュニティが生まれ、ますます強くなるという構図は成り立ちそうです。シェアの高さ=参入障壁として機能するので、我々知財人の出番があまりない領域なのかもしれません(実際、IPDLで検索してみてもそんな感じです)。同じような理屈が言われたもののうち、ヤフー、楽天などは、確かに高シェアが強力な障壁となって、新規参入を弾き返してきているように思います。ただ、いつまでもその流れが続くのか、例えば楽天であれば、最近楽天市場で商品を検索するとヒットするものが多すぎて、個人的にはかえって不便を感じることがあります。一方で、アマゾンを使ってそういうストレスを感じることは比較的少ないのですが、サイトが重くなればなるほど、テクノロジーの出番は増えてくるのではないでしょうか。
 いずれにしても、こうした新しいビジネスの参入障壁がどのように機能し、どの企業が勝ち残っていくのか、大変興味深いところです。

プロの証・プロの技

2006-09-13 | 知的財産と投資
 知財業界の著名ブログ「特許男プロジェクト」にて、特許男さんがベンチャー投資の失敗談をカミングアウトされています。弁理士が中小・ベンチャーの仕事に積極的に取り組むための方法として、出資とかストックオプションとかが言われることがありますが、そう簡単にうまくいくものではありません。何故でしょうか。

 特許の専門家である弁理士にとって、発明のアウトラインを聞くと、(明言はしにくいですが)特許になりそうかどうか、感覚的にだいたいの目星がつくことが少なくないと思います。
 同じように、ベンチャー投資の仕事を何年かやっていると、公開までいける会社というのは、何となく感覚的にわかるようになってきます。それは単に、技術がよいとか、経営者のキャリアが凄いとか、そういったものだけではなく、社長や会社の姿勢や全体の雰囲気から、パブリックになっていく要素を何となく感じ取れるものなのです。こういう感覚は、単に会社を定点で見るのではなく、経時的に見る経験を積み重ね、実際に公開した会社に触れることによって身についていくものです。この感覚を身につけたベンチャーキャピタリストにとって、そういう会社をどうやって見つけるか、どうやって出資する関係を作るか、そういう要素が足りない場合はどうやって補完していくかといったことが、そこから先の競争のポイントになってきます。
 弁理士にとっての特許もおそらく同じことで、特許が成立するまでの過程を経験することによって、初期の段階(発明をヒアリングした段階)から、何となく特許成立までのシナリオが見えるようになってきます。こういう感覚をもっていることが、プロの証とでもいうべきなのでしょう。どうやって見つけるか、どう補完するかがプロの技であることも、ベンチャーキャピタリストと同様です。

 特許男さんは、自らのプロの証・プロの技が生きる部分とは違うところで勝負をしてしまったことから、たいへん残念な結果となってしまったようです。株式公開ができる会社のイメージをしっかりと持たないでベンチャー投資をすることは、審査の実情を知らずに自分で特許を出願するのと同じ様に、宝くじを買うような危険な行為です。よく言われる出願報酬の代わりにキャピタルゲインというアイデアは、現実的にはちょっと難しそうですね。

ロードマップ

2006-09-12 | 知的財産と投資
 ベンチャーキャピタルで投資の仕事をしていた頃に、何かの機会で「自分なりのロードマップを持って投資しろ」という話を耳にしたことがあります。「ロードマップ」の言葉の意味を、自分なりには「社会や業界の将来像への道のり」と解釈し、投資を決める際には「ロードマップに載っている製品・サービスを提供する企業か?」ということを自問していました。

 同じ投資をするのにも、余程先天的なセンスに優れた投資家でない限りは、単に面白い・面白くないで投資するよりも、将来の見通しをもって投資したほうが確率がよいのは当然です。よって、投資する際にはよく考えることが大切なのですが、株式投資の難しいところは、単に投資した企業の収益が伸びるかどうかだけでは決まらないということです。市場には流行りがあるものなので、同じような業績であっても、時流に乗った銘柄かどうかで公開までの期間も株価も全く違ってきます。そのため、これからの社会や産業がどうなっていくか、の基準になるロードマップを持っておくことはとても重要だと思うのです。

 ビジネスである以上、できるだけ確率の高い選択を行うべきであることは、投資活動も知財活動も同じです。知的財産を生み出す研究開発について考えると、「ロードマップ」は本来の意味に立ち返ることになりますが、特許出願を行う際にも「ロードマップ」を意識して、ロードマップに沿った発明を重点的にカバーしていくことが勝利への近道なのではないでしょうか。