経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

NAND世界首位へ~東芝、・・・

2007-10-30 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融新聞より。
世界首位へ
 景気のよいタイトルです。昨日の東芝の中間決算は、NAND型フラッシュメモリーが収益を押し上げて、27%の営業増益と引続き好調を維持しているようです。微細化技術で世界シェア1位のサムソンに大きく先行し、来年中の「世界首位奪取」の可能性が高くなっているとのことです。最近は、サムソン・ノキア・インテルが携帯電話向けNANDで共同戦線を張る準備を進め、「東芝世界首位」を意識した包囲網が動き出しているとのことですが、こういう和製ITベンダーのワールドワイドでの活躍は何とも頼もしいですね。

 ところでこの記事ですが、「東芝、・・・」の「・・・」の部分は何とか書かれていたと思われるでしょうか?

 実は、「東芝、株価は弱腰~市場 価格下落を不安視」とあり、あまり明るい話ではありませんでした。価格下落を食い止めるのは、「参入障壁」を築く役割の知財部門の出番です。こういう場面こそ知財部門の真骨頂ということで、ぜひとも頑張っていただきたいものです。

NOVAウサギは雪印かペコちゃんか。

2007-10-29 | 新聞・雑誌記事を読む
 赤福とは違い、こちらは既に毀損が進んでいたブランドではありますが、ついにNOVAが会社更生となってしまいました。「NOVAうさぎ」も厳しい状況ですが、教室を引継いでくれるような支援候補企業に打診中とのことですが(楽天とイオンは否定的なようですが)、ブランドが生き残るかどうか、「ペコちゃん」と「雪印」の瀬戸際にあるようです。
 ところで、「NOVAうさぎ」「駅前留学」「お茶の間留学」を核とするNOVAのオフバランス資産(⊃知的資産)の価値は市場ではどのくらい評価されていたのか。2年前(2005年3月期末)の資本勘定が90億円で時価総額が約300億円だったので、その頃の評価は200億円強となります。これが、直近の時価総額が約10億円、2007年6月末の純資産が3.5億円ですが、そこからさらにもの凄い勢いで赤字が拡大していますので、それを考慮すると20~30億円程度といった計算になりそうです。簿外の債務があったりすると(講師の給与が止まっているそうですし)、さらに計算上は高い金額になります。さて、買い手は現れるのでしょうか。

※ 今日の新聞報道によると、簿外債務が数百億円増えるようなので(ということは営業権等を含めた知的資産の価値も数百億円)、数十億円で買えるといったような話ではないようです。

打って勝ちたいイチローと、勝つために打ちたい松井

2007-10-28 | プロフェッショナル
Sportiva’12月号がイチロー特集となっています。その中で、個人のパフォーマンスを上げることが勝利につながるというイチローと、チームの勝利への貢献を優先する松井秀喜を比較して、こう表現しています。
 「打って勝ちたいイチローと、勝つために打ちたい松井
 これって、先日書いた「経営と知財を考える2つのアプローチ 」に通じるものがあるように思いました。
 「知財を活かして収益を上げたいイチロー型知財人と、収益を上げるために知財を固めたい松井型知財人
 そして、イチローと松井の違いが生じた理由には、勿論性格もあるのでしょうが、観衆を集めることから始めなければならないチームと、大観衆の中で勝利を宿命付けられたチームという「バックグラウンド,ルーツの違い」もあるのではないかという気がします。
 ところで、この雑誌にはイチローの写真が盛り沢山ですが、極められた技術が発する「カタチ」の美しさに改めて気付かされます。特に、インパクトの瞬間を上から写した「カタチ」まで美しいのには驚きです。

日本のネット企業と特許出願

2007-10-27 | 新聞・雑誌記事を読む
 昨日の日経金融新聞によると、最近外国人投資家が日本のネット関連株に興味を示していて、先月末くらいから買いを入れ始めているらしいです。ライブドアショック以降の株価下落で割安になっているということもあるものの、携帯電話関連では米国よりも日本企業が先行しており、特にDeNAの事業モデルに対する関心が高いとのことです。日本のネット株といっても、殆どが国内展開主体の世界的に見ればローカルな企業になってしまうのですが、この記事では、国内の投資家より外国人投資家が先に再成長を予見してリスクをとり始めるとは何とも皮肉である、と結んでいます。
 それにしても、外国では実現されておらず、外国人投資家も注目するようなビジネスモデルをいち早く立ち上げているとすると、これが米国企業であれば間違いなく一気に世界を席巻してしまうのでしょう。携帯関連といえば、海外展開に熱心であったインデックスも最近は元気がなく、果たして外国人が注目するDeNAが世界を席巻するようなときが来るのか。ここでグーグルなんかとちょっと違うのは、注目されているのが「技術」ではなく、「事業モデル」であることではないかと思います。「事業モデル」は性質上秘密管理することもできないし、特許で直接保護することもできない。参入障壁は殆ど無いに等しいですから、資金力やブランド、あとは次々と新しいアイデアを投入し続けてガンガン押していくしかない。
 てなことを考えながら、こういった和製ネット企業の代表選手ってどれくらい特許を出しているものなのかなぁと思い、IPDLで検索してみました。公開公報ベースで、
 楽天 ・・・ 11件
 DeNA ・・・ 14件
 ミクシィ ・・・ 0件
  注)上記の他に関連会社等で出願している可能性もあります。
と、やはり少ないですね。「特許がなくてもネットビジネスは伸びる」という事実を示すものでしょうが、「技術的な障壁がないから、余程の資金力やブランド力がないと海外展開は難しい」という解釈もあり得るかもしれません。ちなみに、出願人「グーグル」で国内特許を検索してみたところ、54件。ほとんどがPCTですが、何と全てが2005年以降の公表(or公開)で、うち33件が2007年の公表です。要するに、3年位前から、日本への出願を急速に増やしているということのようです。
 もう一つ、楽天、DeNAの出願は、殆ど2001~2003年のビジネスモデル特許ブーム時の出願公開で、2004~2006年は公開件数が0となっていましたが、2007年から少しですが公開された出願が表れ始めました。
 さて。ひょっとしたら、これからは動きが出てくるのか?

経営と知財を考える2つのアプローチ

2007-10-26 | 知財発想法
 「経営と知財」について様々な方と議論する際に、最初から前提が共有できて話がサクサクと進む場合とそうでない場合があるのですが、その原因は、「経営と知財」を考えるには大きく2つのアプローチがあり、お互いその違いを意識していないことが多い、ということにありそうだと最近気付いてきました。また、その違いは、どうもその人のルーツ、バックグラウンドが大きく影響しているようです。

 一方の考え方はこうです。まず企業全体を見て、その強み・弱みや収益構造・資産状況などを把握した上で、さて、強みとなるはずの「知的財産」の部分について「知的財産権」を有効に活かしていくにはどうしたらよいかを戦略的に考えよう、というアプローチです。まず全体を確認し、個々の課題の1つとして「知財」にあたっていく、「アウトサイド・イン」のアプローチです。企業分析や組織をマネージメントする仕事をしていると、まずは全体像から入ることになりますから、金融やマネージメントがバックグランドであるという人は、このアプローチになるのが自然であると思います(私もあたりまえのようにこのような考え方をとっています)。
 もう一方の考え方は、企業が生み出した「知的財産」を分析した上で、その強みを経営の強みとして活かしていこう、というアプローチです。まずコアとなる要素をしっかり把握した上で、その要素を有効に展開するにはどのような全体像を描いていけばよいかを考えるという、「インサイド・アウト」のアプローチです。知財実務や研究開発がバックグランドである人は、細部を詰めたり、コアを固めるところから仕事が始まり、それを発展させていくことで価値が高まるという経験をされてきていますから、こういうアプローチになるのが自然なのだろうと思います。
 これはおそらく、どちらが正しい、どちらが優れているという問題ではなく、それぞれのアプローチには一長一短があるということだと思います。前者のアプローチは、全体を統合する上で有効であり、何をやろうとしているのかが分かりやすいですが、最初に枠組みを固めるので、ビックリするような革新は起こりにくいという限界を生みやすいように思います。後者のアプローチのほうが、画期的な変化を生じさせる可能性がありますが、企業全体としてのバランスがとれるかどうかという課題が生じてきます。よって、両者の考え方をミックスするのがベストということなのでしょうが、これらのアプローチは、その人の基本的な仕事のやり方として染み付いている部分があるので、なかなか難しいように思います。私が後者のアプローチで考えようとすると、行き先や全体像が見えにくいことがストレスになり、かなりしんどいのが実際のところです。

 例えば、最近流行の「知的資産経営」というテーマにしても、アウトサイド・インのアプローチからすると、全体像は最初に決着済で知財部門にはこれを考えて欲しいという議論を進めてきたのだから、どうして話を全体像に戻すようなことをするの?(おまけに、完全な全体像ではなくどうして「知的資産」という中途半端な議論をするの?金融資産や有形資産は考慮しなくていいの?)という違和感が生じ、このテーマが何を目指しているのかよくわからん、という話になりやすいと思います(というか私はそう思います)。また、「知的財産」に関する問題は「知的財産権」という解決策を提示できるけど、「知的資産」レベルで考えたところでどういう具体的な提案ができるのだろうか、とも。
 ところが、インサイド・アウトのアプローチだと、「知的財産」だけを見つめていても事業活動との結びつきは弱いから、それに人材、企業文化、など様々な要素が加わってどのように事業の強みが形成されていくかということが、次のステップで考えるべきテーマになってきて、トータルな「企業経営」に到達する前には「知的資産」というレベルで整理することは必然である、ということになってきそうです。こちらはあくまで推測の話ですが。

 なんとも抽象的で分かりにくい話ですが、個人的にはこの整理でモヤっとしていたものがかなりスッキリしました。こうしたことを感じている人には、何となくわかってもらえるのではないでしょうか。

赤福・続編

2007-10-25 | その他
 赤福は一体どうなってしまうのか。知財ネタからは離れますが、本日の日経金融新聞に赤福のメインバンクである百五銀行頭取のインタビューが載っており、これは重要な情報になりそうです。
 支援云々の前に、「まずは不正を全て洗い出して安全宣言なりを出すべし」、というコメントは、まぁお決まりのパターンなのですが、その上で企業の継続性に問題が生じるのではないかという問いには、
「それはないと考える。赤福はこれまで業績が好調で、無借金経営だ。財務内容には余裕があり、健全といえる。・・・」
とのことです。財務諸表からみると確かにそのとおりなのでしょうが、ちょっと待てよ、何か変な感じがします。特に「健全」という言葉について。要するに自己資金が潤沢ということなのでしょうが、消費者を欺き続けて蓄積した利益を、果たして「自己」資金といえるのか。「業績が好調」というのも、そういうのを「好調」っていうものなのか。財務会計上も、法律上も、頭取のコメントに間違いはないのですが、こういうコメントはちょっと「財務ドグマ」じゃないか、という気がして引っ掛かっています。

「そんなことしてどうすんの」と言われても信念をもって継続する

2007-10-25 | 新聞・雑誌記事を読む
 先日ご紹介した日経金融新聞に連載されている過去20年の株価上昇率のランキング上位企業の特集記事ですが、HOYA、コマツと続いて、昨日は商船三井が紹介されています。HOYAについてちょっと驚いたのは、製造拠点の海外シフトだけでなく財務統括の拠点を実効税率の低いオランダに移し、世界各国で上げた利益からの配当を節税してキャッシュフローを潤沢にしている、という話です。強い企業というのは、利用できる制度を巧みに利用しており、こういう企業はきっと「特許制度」もうまく利用しているのではないでしょうか(HOYAの特許のことは殆ど知りませんが)。
 さて、商船三井、知的財産にはあまり関係のない分野ですが、収益&株価の伸びは驚異的です。実は銀行勤務時代、円高不況の最悪期に海運業界を担当していたのですが、当時からはとても考えられない状況になっています。苦しい時期に業界内でも特に積極的に合併・ばら積み船への投資を行ってリスクテイクしてきたことが、市況の好転によって今の同社の好調を支えているとのことです。
 セブンイレブンの情報投資やオリックスの不動産投資も然りで、周囲のトレンドに左右されず、「そんなことしてどうすんの」と思われながらも信念をもって継続したことが大きな成果を生んだ例は少なくありません。それでは今、知財の世界で「そんなことしてどうすんの」と言われそうなものがあるかと探してみると・・・おっと、ありましたね。「ビジネスモデル特許」が。

赤福は雪印かペコちゃんか。

2007-10-24 | 知財一般
 最近の赤福のニュースを見ていると、
「赤福は雪印か?それともペコちゃんか?」
ということがとても気になります。ここで、「雪印」は事業者の信用と一体となったブランドの象徴であり、「ペコちゃん」は事業者から独立した価値を持つブランドの象徴という意味です。
 「赤福」はかなり微妙なところで、「赤福かわいそ~」とはなっていないところから「ペコちゃん」とは言いがたいものの、伊勢から「赤福」がなくなるという状況は、代わりがないだけにちょっと考えられません(「雪印」の場合は「明治」「森永」「農協」などいろいろ代替品がありましたが)。伊勢は個人的にも縁のある地域なのですが、赤福を売っていない近鉄の駅(特に名古屋線~山田線)というのは想像しがたいものがあります。
 ニュースを見ているとどうしても感情のほうが先走りそうになってしまいますが、冷静に見てみると、知財人にとっては「ブランドの価値とは何か」という本質を考えさせられる究極の事案であるように思います。

カネになる知財?

2007-10-23 | 書籍を読む
「カネになる知財」

 何やら、ITバブルやホリエモン・村上ファンドの全盛時を思わせるようなタイトルで、これはちょっと品がないなぁとも思いましたが、一応目を通しておきました。
 まぁいろいろ感じるところはありましたが、そこは人それぞれかと思いますので、こういった事例を読んでいろいろ「感じとって」みたうえで、自分のあり方・進むべき方向性を考えてみればよいのではないでしょうか。個人的には、「カネになる知財」というより、
『カネになる事業』を支える知財
とでも言ったほうが、まだしっくりくる感じですが。
 ちなみに、同じ号の中では証券化の影響について考察した「『前借り経済』の不安」の記事のほうが、本質を突いた印象で面白かったです。

知財ドグマ

2007-10-22 | 書籍を読む
 「指一本・・・」も鮮烈でしたが、「会社は頭から腐る」も企業経営のリアリティを理解するのにとても参考になる本です。
 この本の中で、健全な企業統治には長期的視点でモノを言う株主が必要という視点から、例えば株式の保有期間と議決権をリンクさせてはどうかという提案がされているのですが、それに対しておそらく出てくるであろう株主平等の原則云々の議論を「バカな話」と断じ、
企業がどんなふうに経済の中で動いていくか、働いていくかということを理解しない法律的なドグマの議論をしてはいけない。
と述べています。
 ビジネスの前線に近い人達からの知財人に対する評価も、残念ながらこういったものであることが多いように感じます。ビジネスの現場で教科書どおりに「独占権の効果」や「特許調査の必要性」を説くことも、現場から見れば「知財ドグマ」であることが少なくなく(「ぬるい知財戦略」もほぼ同旨)、こここでこういう話を持ち出しても「ドグマだ」と感じとれるセンスが求められるところでしょう。

会社は頭から腐る―再生の修羅場で見た日本企業の課題
冨山 和彦
ダイヤモンド社

このアイテムの詳細を見る