経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財権取得を通じた自己確認のプロセス

2012-07-02 | 企業経営と知的財産
 先日、このブログでも紹介させていただた、
 『発見!元気な中小企業の3つの秘訣』
 ~知的財産で磨こう!あなたの会社の強み~
の私の担当分は、さいたま、静岡が終了し、この後、塩尻(4日)、甲府(5日)、高崎(10日)、東京(12日)と続きます。
 プレゼンテーション資料の最初の部分のムービーを
  経営に効く7つの知財力・Facebookページ
にアップしました。知財を切り口に訪問してきた元気な中小企業の、
① 挨拶が違う
② 説明が上手い
という共通の特徴について、その背景にある知的財産に関する取り組みとの関係から切り込んでいきますが、‘知的財産権の法律的な効果’ではなく、‘知的財産への取組みによる人への効果’を考えるのがこのセミナーの特徴ですので、ご興味のある方は是非ご参加ください。

 さて、最近、知的財産と企業経営、特に中小企業を対象にしたセミナーでは、上記のとおり、知的財産への取組みの‘人’に与える効果を中心にお話をさせていただいています。その中でも、知的財産の存在が「自分達の会社は他社とは違う特別な商品・サービスを提供している」という‘会社のプライド’を支える効果は、中小企業にとっては特に重要である、と強調しているポイントです。例えば、特許権を取得するプロセスで、自社の開発した技術と他の技術との違いが炙り出され、自社の技術が「新しい」ということが客観的に明らかになる。自分達の会社がその部分では最先端にいるということが開発のプライドを、ライバルよりも進んだ技術を搭載した製品を扱っているということが営業のプライドを、それぞれ支える根拠になるわけです。
 この話をしたときに、よく出てくるのが次のような質問です。
「知的財産権といっても、サービス業のように商標権しか取得できないような企業はどう考えればよいのでしょうか?」
 確かに、同じ知的財産権でも、商標権の取得によって‘新しさ’が証明されるわけではないので、商標権の取得=サービスのプライド、に直ちに結びつくものではありません。

 しかしながら、技術であれサービスであれ、最終的に取得される権利が特許権であれ商標権であれ、本質的に重要なことは、他との違いを認識する‘自己確認のプロセス’にあり、その結果が知的財産権という形で見える化されるならば、それが会社のプライドを支え得る存在であることに変わりはないはずです。

 自社のサービスのどういった点がこれまでのサービスと異なる特徴であり、その差異が顧客に対してどういう新しい価値を提供できるのか。それを社内で十分に検討し、そこから浮かび上がってきた新しい価値は、どのようなサービス名やロゴであれば的確に表現できるのか。そうしたサービス名やロゴマークを、できるだけ社内の多くのメンバーで議論しながら決定し、そうやって皆で確認したサービスの本質的な価値を集約させた商標(サービス名やロゴマーク)が登録されれば、それは単に権利としての法的な価値だけではなく、社員の価値観を統合し、会社のプライドを支えるスピリチュアルな価値をも有する存在になるはずなのです。
 特に中小企業にとって、せっかくお金をかけて商標権を取得するのならば、権利侵害などの法的なリスクをヘッジするというだけでなく、その取得までのプロセスを通じてサービスの本質的な価値についての社員の意識を統合し、それがシンボライズされた存在を創り出すことに意義を見出すべきではないでしょうか。

 こうした考え方は、我々知財の専門家に対しても重要な問題を提起しており、商標に関する仕事というのは、法的なリスクをヘッジするという消極的な側面だけではなく、その前工程を重視することで、積極的により価値のある権利を創り出すことに関与し得るということを意味するものです。
 商品やサービスの本質的な価値を抽出して、それを最終的なアウトプットでは知的財産権という形に見える化する。特許も意匠も商標も、真の価値を抽出するために求められることは、結局は同じなのではないでしょうか。