経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

「技術」×「財務」の発想

2008-03-30 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネスの最新号の特集記事のタイトルです。
  秘策は「技術×財務」
  日本の時価を上げろ
  新・モノ作り大国で危機脱却
 「知財」とか「特許」などの文字がないので知財関係者には見落とされてしまいがちかもしれませんが、‘ビジネス系’知財パーソンたるためには、こういう記事こそしっかり読んでおくべきと思います。日本企業が抱えている課題の中で、知財活動を続けることにどういう意味があるのか。「粗利率の向上に貢献する」ことが一つの解と考えていますが、この記事では「『技術』×『財務』の発想で高収益体質に転換する巧みなマネー戦略が不可欠になっている」とまとめられており、このシナリオの中で基本的な知財戦略のあり方を考えることができるのではないでしょうか。
 「技術」(含む「知財」)と「財務」は、企業活動の中ではその間に「事業」を挟むことが通常なので、比較的距離感のある要素となっており、それぞれの担当者は他方をあまり好ましく思っていない印象を受けることがあります。しかしながら、これらはいずれも「事業」を支えるために重要な道具であって、どっちが重要とかどうかということではなく、同じ方針・シナリオの下でいずれも効果的に機能させるべきものです。「『技術』×『財務』の発想」とは、まさにそのことを指した表現であると思います。
 事業活動に融合した知財活動のあり方を考えるためには、事業活動が抱えている問題をよく理解しておくことが必要であり、こういう記事を「知財に関係ない」と見てしまうかどうかが、真の‘ビジネス系’たり得るかの分かれ道になってくるように思います。

お知らせ

2008-03-28 | イベント・セミナー
 情報サービス産業協会(JISA)様のJISAレポートに、先の法務・知的財産権セミナーでお話をさせていただいた「ソフトウェア特許の新たな可能性と戦略」の骨子を掲載いただきました。こういうアプローチで考えれば、ソフトウエア特許を有効に活かせるのではないか、と考えています。「本質の把握」で紹介させていただいたNRI知財部長・井上様の講演骨子も掲載されています。
URLは以下のとおりです。
↓↓↓
http://www.jisa.or.jp/news/632/download/311.pdf

研ぐ

2008-03-28 | プロフェッショナル
 日経ビジネスの今週号に鵤工舎舎主の宮大工、小川三夫氏の談話が掲載されています。
 「すべての基本は研ぐこと
 その意味するところは、宮大工にとって研ぎはすべての基本であり、自分で研いだよく切れる刃物があれば、それを使っていい仕事をしたいと思うようになる、ということだそうです。さらに、「研いで研いでいくと、だんだん嘘がつけなくなってきます」とのこと。
 知財人としても、自分の使う道具を‘研ぐ’ことがすべての基本になるのでしょう。その道具は‘知的財産権’となるのですが、ここで難しいのは‘研ぐ’というのがどういう行為かがなかなかわかりにくいということ。何が‘研ぐ’という行為なのかは、同じ知財人でも自分の立とうとしているポジションによって違ってくるのだと思います。そして、研いでいくと嘘がつけなくなる。その意味を自分の頭で理解せずに、「知財が重要だ」、「これからは価値評価だ」とか、嘘とまではいいませんが、軽々には言えなくなってくるんです。たぶん。

知財中心主義的な切り口

2008-03-27 | 企業経営と知的財産
 知財Awarenessに‘事業経営コンサルティングが可能な弁理士の育成を目指す’(事業を管理・遂行するのが‘経営’だから‘企業経営’では?)という記事が掲載されています。その内容はさておき、一点、この記事に限った話ではありませんが、よく言われる発明の‘創造’‘保護’‘活用’という切り口について。
 事業の実態を考えると、どうもこの‘創造’‘保護’‘活用’という切り口がピンときません(バイオや新素材などの分野だと違うのかもしれませんが・・・)。特許出願は出願対象となる発明以外の要素(普通はそっちのほうが多い)も含めた一連の事業活動の中で行われているものであり、どこまでが‘創造’‘保護’‘活用’なのかよくわかりませんし、事業をやっている側ではそういう意識は全くないのが通常だと思います。例えば、取得した特許権が事業活動の参入障壁としてうまく機能しているような典型的なケースは、‘保護’と‘活用’のどちらになるのでしょうか(‘活用’だとすると、その場合の‘活用’への貢献と‘保護’への貢献は同じことになってしまいそうですが)。
 また、明細書作成以外にも力を入れると言うと「‘創造’や‘活用’にも関わっているのか?」みたいなことを聞かれることがありますが、敢えてこの3分類に区分するなら、効果的な出願戦略の構築など‘保護’の部分でこそやるべきことはたくさんあるように思います。いずれにしても「知財中心主義的」なこの切り口は、事業の現場に切り込んでいくには?という気がしますが、、、

製品の品格

2008-03-26 | 知財一般
 日経ビジネスの定期購読を始めたところ、「50人が語る経営語録」という別冊が贈られてきました。「トップの言葉で読む2008年を勝ち抜く6つのカギ」として、最初に京セラの稲盛名誉会長のインタビューが掲載されていますが、その中でこういうことを仰られています。

「・・・日本人はもともと、非常に精緻で素晴らしいモノ作りの力を持っていました。・・・ 作業者自ら『不良品を出してお客さんに迷惑をかけるわけにはいかない』と考え、実行するのです。つまり、作業者が上質だったわけです。上質な人が作る製品には品格が備わる。世界が日本の工業製品の質の高さを認め、多少高くても欲しがったのは、作り手が製品に品格を持たせていたからです。・・・」

 日頃から「知的財産権で参入障壁を形成して利益率向上を」と主張している者としては、大いに考えさせられる着眼点です。これは製造業だけでなくサービス業にも(もちろん特許事務所にも!)当てはまるでしょうし、特許権の取得云々以上に裾野の広い話だと思います。先の中小企業のための知財戦略活用セミナーでの昭和の高安社長やしのはらプレスサービスの篠原社長のお話を思い出しましたが、知的財産権によって参入障壁を形成するというだけでなく、社内のモチベーション向上にも結び付けることができるならば、知財活動をより意味のあるものとしていける可能性があるのではないでしょうか。


実質的な参入障壁から考える

2008-03-24 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ヴェリタスの第2号、創刊号に比べるとちょっと読みどころが少ない印象ですが(500円はちょっと高い!)、セブン&アイの金融事業に関する記事はなかなか興味深いです。コンビニの店舗そのものは飽和状態にあり、品揃えや陳列方法を工夫してもライバル店に「すぐにまねされてしまう」とのこと。そこで「競争力を決めるのはセブン銀行をはじめとするサービスの質」という狙いから、店舗にATMの設置を進め、収納代行業務とATMの利用手数料が収益の一つの柱となってきているそうです。その結果、為替リスクや不良債権とは無縁な新しい銀行のビジネスモデルが構築されているとのこと。
 ここまでが記事の内容で、なるほど、綿密に練られた戦略の下に進められてきた事業なんだなぁ、と納得させられますが、ではこのモデルだと他のコンビニに「まねされてしまう」ことはないのでしょうか。さすがに「すぐに」とはいかないでしょうが、このビジネスモデルを特許として独占できるわけではないので、理屈の上では追随できない話ではないようにも思えます。但し、品揃えや陳列方法と異なるのは、このモデルを追随するためにはATM網の構築に多額の投資が必要になるという点です。おそらく他社が参入するかどうかを実質的に決める要因は、そういった大規模な「投資の決断ができるかどうか」という点になってくるのではないでしょうか(そういう意味では、財務基盤の磐石なセブン&アイと同じことはなかなかできそうもありませんが)。ここで特許がどのように貢献できるかということを考えてみると、ビジネスモデルそのものの保護に直接貢献することはできないものの、実質的な参入障壁を「投資の決断」と捉えて、「投資の決断」を難しくさせるということを目的に据えて考えれば、いろいろできることがあるように思います。これだけでは何を言いたいのやら不明なエントリとなってしまいましたが、事業に貢献する特許を考えていくためには実質的な参入障壁からアプローチする発想が必要ではないか、というのが言いたかったところということで。

累積進歩する技術と不変の心得~「あきらめなければ夢は叶う」&「ウサギとカメ」

2008-03-23 | プロフェッショナル
 この週末は世界フィギュアに釘付けでしたが、いろいろ考えさせられることも多くて、大変興味深い大会でした。
 かつての世界フィギュア銅メダリスト・佐野稔が「我々の頃とは違う競技だ」と言っていたように、4回転、トリプルアクセルなど‘累積進歩’する技術は凄まじいものがあります。一方で、今大会で勝負を決めたのは、その技術以上にいつの時代も不変の‘心得’みたいなものであったところが、とても興味深いです。
 女子では、Qちゃんに代わって「あきらめなければ夢は叶う」を体現した真央ちゃんですが、フリーではパーソナルベストからトリプルアクセルの減点(8.5点)分を引いたのとほぼ同じくらいの点数を出していて、最初の失敗の後は全てのエレメンツをほぼ漏れなくこなしたことがよくわかります。準備の大切さ(∵加点される要素をできるだけ多く準備していたからこそ勝てた)、そして諦めてはいけない、という不変の心得を改めて思い知らされます。
 男子はさらにドラマチックで面白かったですが、最後の場面のジュベールとバトルは、現代版「ウサギとカメ」を見る思いでした。バトルのことなど眼中になく、ミスを連発した強敵3人に4回転1回で勝てると踏んだジュベールは、全力を尽くすことなく策に溺れ、競技中にガッツポーズを出した後には不要なミスまでやってしまった。一方、大技(4回転)のないバトルは、最後まで丁寧に持つ力を振り絞り、手を抜いたジュベールを上回った。技術云々の前に大事な心得を改めて思い知らされます。

 知財の専門家にとっても、制度はどんどん複雑になるし、守備範囲を広げることも求められるし、‘累積進歩’するテクニカルな要素を追いかけていくことは大事な課題です。しかしながら、それに溺れて重要な‘心得’を見失ってしまっては、肝心の本番で力を活かすことができない。やはりトップアスリートの戦いからは、学ぶことが多いです。

知財コンサルの機能論と産業論

2008-03-20 | 知財業界
 関東経済産業局のホームページに先日の‘知財戦略コンサルティングシンポジウム2008’の開催報告が掲載されています。
 この取組みについていろいろな方にご意見を伺う中で、内容そのものについては好意的なご評価をいただくことが多い一方で、ネガティブな意見としては「知財コンサルが果たして事業として成り立つのか?」という指摘を受けることが少なくありません。それは確かにその通りで、‘公共事業’であるからあそこまで精緻な分析ができたという面は否めないのですが、この点については、必要とされている機能に関する機能論と業として成り立つかどうかという産業論をごちゃ混ぜにして、全体を否定的に見てしまうことは避けたいものだと思っています。
 勿論、業として成り立たないと機能として提供できない、という意見も理解はできますが、それは知財コンサルを主体に業を成り立たせたいと考えている事業者からの見方に過ぎないのではないでしょうか。ここで議論されているような機能を提供する者は、知財コンサル専業者に限られるものではなく、経営コンサルの一部であっても、取引金融機関のサービスの一形態であっても、特許事務所のサービスメニューの一つであっても構わないものです。まず最初に必要なことは‘どういう機能が求められているか’を明確に認識することであり、どのような事業形態で提供し得るのかというのは性質の異なる話になってくると思います。例えば、IPO前の企業からは、必要な社内体制の整備や資本政策等を支援する‘IPOコンサル’という機能が求められますが、この機能はIPOコンサルの専業者によって提供されるよりも、こうしたスキルを有する個人がIPO前後の企業に転職して社内の一員として取り組んだり、ベンチャーキャピタルや証券会社などが事実上その機能を提供しているということのほうが多いように思われます。知財コンサルについても、スキルを有する個人が社内に入って体制整備に取り組んでもよいし、経営コンサルや研究開発コンサルの一部として、或いは金融機関等のサービスの一部として提供されてもよいわけであり、知財業務が他の分野の活動から遊離するリスクを考えると、むしろそのほうが実効性が高まる可能性すらあるとも思われます。
 実際、シンポジウムで紹介された地域知財戦略支援人材育成事業の前身である地域中小企業知的財産戦略支援事業がスタートした目的は、「中小企業における知財戦略の実践」であって「知財コンサルティング業の振興」ではありません。あくまで前者を推進するための手段として、知財コンサルティングの必要性がフォーカスされてきて、その業務のモデル化を試みることとなったものです。この業務をどのような事業形態で提供していくかは、まさにこれをサービスに取り込もうとする事業者が個々に考えていくべき問題であると捉えるべきでしょう。

知財の価値はどこへいってしまったのか?

2008-03-18 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経によると、東証一部上場銘柄のうちなんと6割がPBR1倍割れとなっているとのことです。PBR=株価純資産倍率は、オンバランスの資産を全て処分した場合の清算価値を示す指標です。これが1倍を割れるということは、
・オンバランスの資産が、実際は資産計上されているほどの価値がない
・今後収益が悪化して純資産を食い潰していく
と解釈されている可能性がありますが、見方を変えると「知財を含めたオフバランス資産の価値がマイナス評価となっている」と読むこともできるといえます。という見方で、日経の「きょうのことば」の表にある企業名(NTT,富士フィルム,NEC,ブリジストンetc.)を見ると驚いてしまいますが、さらに驚きなのが昨日のマーケットでは、あのホンダセブン&アイまでもが1倍割れをしてしまっているということです。おそらく日本企業の中でもトップを争うようなホンダやセブンイレブンの顧客吸引力(ブランド力)、さらには技術力やノウハウに対する評価がマイナスゾーンに落ち込むなんてことがあってよいのでしょうか。マーケットには様々な要素が織り込まれるものなので、PBRが直ちに知的財産の価値を反映するものとは言い切れませんが、今のマーケットがどれだけ危機的な状況にあるのかを示す現象の一つであると思います。

趣味は特許事務所。

2008-03-16 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日創刊の日経ヴェリタスの記事からです。混迷する日銀総裁人事の中で副総裁への就任が決まっている白川氏について、「趣味は中央銀行~実務によって立つ理論」と評しています。学級肌の白川氏を「趣味は金融政策」と評する意見がある中で、本当は「趣味は中央銀行」と言うべきだとのことです。
 この違いは記事の中でも「何か」と曖昧に表現されていますが、要は頭でっかちな金融政策論ではなく、中央銀行の実行できる「銀行実務」を追求してきている、ということだそうです。その「何か」を支えているのが日銀マンとしての経験であるとのこと。
 この違い、知財の分野にもある話のように思います。興味の対象は知財政策、知的財産法、知財戦略などの学究的な理論なのか、それともこれらを活かして何ができるのかという方法論なのか。知財の分野で専門家といわれる人にも両者のタイプがあると思いますが、これがミスマッチになると当然ながら専門家のスキルを活かすことができません。どちらかというとこの分野では、前者のタイプの専門家に後者の意見を求めて、特にビジネスパーソンに対して何かピンとこない話になってしまっていることが多いように感じますが、知財の分野でこれからスキルを磨いていこうとしている方々も、自分がどちらのタイプかをよく自覚しておくことが重要だと思います。趣味は「知財理論」か、「知財実務」か(「趣味は特許事務所」だとちょっと引かれてしまいそうですが)。
 白川氏はかつて日銀批判派との論争の中で、「現在の日本経済の問題を議論する時には、(海外の学者など)だれそれが言ったというはなしではなくて、まず自分の頭で考えることが重要だ」と主張されたそうです。知財協の宗定専務理事も同じことを仰られていることに驚きますが、理論派と実践派を分ける本質はこのあたりにあるのかもしれません。