経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

景気と出願の関連性

2006-08-30 | 知財業界
 今回の景気回復は、どうやら本物のようです。昨年からの近隣のオフィス賃料の上昇をみていると、ちょっと尋常ではない(少々バブルかという)感じです。
 加えて、これだけ知財が注目される時代になったから出願も急増、かと思いきや、特許の出願番号の数字を見ていると、例年並みか、若干少ないくらいなのではないでしょうか。私はソフトウエアやビジネス関連発明が中心ですが、この分野については、案件数がかなり減っているという印象を受けます。いわゆる「ビジネスモデル特許ブーム」が去ったというのもあるのでしょうが、それは既に2~3年前から表れていた傾向であり、今般の減少傾向には他の要因もあるように思います。
 推測するに、おそらくこういった分野では、トラディッショナルな技術分野と比べて、特許が商品やサービスの主たる競争力をカバーする性格のものではないことが多いので、景気がよくなって売上が伸びるようになれば、特許に対する期待や関心が薄くなる傾向にあるのではないでしょうか。逆に、景気が悪くてどうにも売上が上がらないときには、起爆剤の一つとして特許に対する期待が高まってくるのではないかという気がします。
 逆に、昨年に比べて増えていると感じるのが、商標登録出願です。景気がよくなると商品やサービスの数も増加し、利益が増えてくるのでカバーしておく範囲も広めにとる余裕が出てくるのではないでしょうか。こちらは、素直に景気連動型、という感じです。
 ということは、ソフトウエア・ビジネスモデル系の特許事務所は、商標にも力を入れることがリスク管理上は望ましいポートフォリオ、ということになるのでしょうか。こうやって分析すると、特許事務所向けのファイナンシャル・プラニング業務ができるかもしれません(笑)。

バイ・アンド・ホームワーク

2006-08-28 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融の「複眼/独眼」というコラムに、「ジム・クレイマーの株式投資大作戦」という書籍に書かれている「バイ・アンド・ホームワーク」という考え方が紹介されています。
 個人投資家が株式投資を行う際の手法として、よく推奨されるのが「バイ・アンド・ホールド」という考え方です。簡単に言うと、株式市場というのは長い目で見れば右肩上がりになるのだから、株価変動に惑わされて短期売買を繰返すより、買ったものをそのまま放っておくほうがリターンが拡大する、という考え方です。同書ではこれを否定して、「バイ・アンド・ホームワーク」、つまり買った株をそのままにしておかないでよく研究することの必要性を強調し、株式投資を行う以上は、ホームワークを他人任せにせずに時間をかけてやり通す覚悟が必要だ、と説明しているそうです。

 この話を読んで、結局のところ、どういう世界でも原則論というものはそんなに違わないのだなぁ、ということを感じました。特許の世界も同じで、特許を出したことをビジネスに活かしていくためには、「出願・アンド・ホールド」ではなく、「出願・アンド・ホームワーク」が重要であり、特許業務で成果を上げようと思うならば、自ら主体的な取り組みを続けていく覚悟と辛抱が必要であると思います。
 また、個人の資産運用本でもまともなものになると、「一番大事なのは、運用の元になる資金を稼げる能力を身につけるための自己投資」ということがよく書かれていますが、特許の世界も同じで、一番大切なことは出願の元となる発明を生み出し、それをビジネスに結び付ける力であり、特許の成果というものは、それを前提に初めて成り立つものであると思います。

全米No.1投資指南役ジム・クレイマーの株式投資大作戦
ジム クレイマー,James J. Cramer,井手 正介,吉川 絵美
日本経済新聞社

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費用対効果とは何ぞや

2006-08-23 | 新聞・雑誌記事を読む
「知的財産権活用はコスト高? 取得簡素化に期待の声」

 パテントサロンで見つけた、東京新聞の記事です。中小企業と知財に関する問題というと、こうした根本的な誤解に基づく議論が繰返されていることは、何とも歯がゆいところです。
 知的財産権を取得する上でのネックとして、「取得しても売り上げに結びつかない」、「取得費用が高い」という意見が多いらしく、要すれば費用対効果の面で割に合わないのが問題だ、ということのようです。

 こうした意見が出やすい背景には、2つの議論の捻れがあるように思います。

 1つは、「費用対効果が悪いからどうするか」というテーマは基本的には経営判断に関する問題であって、それをもって補助金を出すべきだとか、制度を変えるべきだとかいう議論は本筋ではないのではないかということです。費用対効果が悪いのであれば、そのような投資を抑制するか、或いは投資をしなければならないのであれば費用対効果を上げるような投資の方法を第一に議論すべきではないでしょうか。知的財産権に対する投資は、純粋にその企業の収益に資するから行うべきものであって、補助金をつけてでも国策として推進する環境対策のような分野とは根本的に性格が異なります。中小企業振興という政策目的もあるので、補助を全く否定するものではありませんが、費用対効果を上げるような知財戦略に取り組むことこそが真に企業の足腰を鍛えることになるのではないでしょうか。

 もう1つは、ここでいう費用対効果を、はたしてどの費用に対してどの効果をもって測っているのだろうか、という問題です。「特許権を取得した→チン・ジャラで売上がいくら」なんておいしい話は、知財先進企業でも滅多にある話ではありません。費用対効果は、特許権を取得した事業全体をもって特許権を取得しなかった場合に比べて、トータルでどれだけの収益を押し上げる効果があったかによって測るべきです。例えば、1億円の研究開発投資を行って新規事業を立上げ、その成果を守るために500万円の特許取得費用をかけたとして、その事業の売上が年1億円になったとします。仮に特許を取得しなかった場合の粗利が20%だったところが、特許により競争激化が抑制できて粗利が25%になった。この場合、5%分=500万円分の投資を回収したことになるので、割引率を考慮しなければ翌年以降の粗利の底上分はまるまる投資の効果ということになります。現実的には、特許がなかった場合との粗利の差を計算することは極めて困難なので、投資利回りを正確に算出することは難しく、多分に感覚的な判断にならざるを得ないのですが、ここで言いたいことは、特許取得の効果というものは特許と紐付いた売上として見えやすい形で現れるものではないので、特許がなかった場合との事業全体の収益の差から捉えるべきである、ということです。

プロ知財人の条件

2006-08-22 | 知財業界
 昨日に引続き、経営本から学ぶ真の参入障壁とは何か、について。
 グッドウィル・グループの折口会長の著作「プロ経営者の条件」では、次のように説明されています。

「・・・技術というものは必ずライバルに真似され、追いつかれるものでもあります。技術は大切ですが、頼ってはいけません。・・・何よりも大切なことは、高い志を持って、それに向かっていくモチベーションを持つことです。・・・」
「・・・順番を間違えてはいけないということです。夢があり、志があって、技術と仕組みがある。最初に技術と仕組みがあって、ではありません。・・・」

 ハッと目を覚まされ、共感するところ大です。言わんとしていることは、昨日の記事のポール・ホーケン氏の言葉と殆ど同じであるように思います。技術や仕組みというのは車で言えばエンジンみたいなもので、行きたい場所があり、その方向に向かって人が車を運転するからこそ、エンジンはその効果を発揮するともいえるのではないでしょうか。

 この論理は、我々のような弁理士業にもあてはまるのではないでしょうか。我々にとって特許の実務能力や様々な法律知識は、「技術と仕組み」に該当します。つまり、「技術と仕組み」である実務能力や法律知識というものは、勝ち進むための必要条件ではあるものの、おそらく十分条件ということではありません。実務能力や法律知識をどのような志に向けて活用しようとしていくのか。「依頼者のビジネスが成功すること」という志を基礎にして、自らの持つ実務能力や法律知識を活用していくことこそが、「プロ知財人の条件」なのではないかと思っています。

「プロ経営者」の条件

徳間書店

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2006-08-21 | 知財発想法
 企業経営者やコンサルタントの書いたビジネス書を読む際に、職業柄いつも気になるのが、競合他社の参入をどのように考え、どのようなスタンスで臨んでいるのか、という部分の考え方です。弁理士的な立場からは「そりゃあ、知的財産権ですよ」と当たり前のように考えてしまうのですが、経営とはそんなに単純ではないので、実際のところ強い会社はどうやって勝ちあがっていくのか、大いに興味があるところです。

 そうした中で、米国の起業家、ポール・ホーケン氏の「ビジネスを育てる」という著作の一節が、とても印象に残っています。

「・・・あなたが始めるビジネスのベスト・アイデアはあなたの奥深くにあるということだ。それはだれにも盗めない。なぜなら、あくまでもあなた独自のもので、だれか第三者がやろうとしても肝心のアイデアの肝はあなたの無意識の底にあるものだから、うまくいくはずがないのである。・・・」



 基本的には、個人色の強いスモールビジネスを指して言っている話なのだとは思いますが、組織的なレベルになっても、企業の本当の強みという部分には当てはまるところがあるのではないでしょうか。
 単に定型の商品やサービスを提供している限りにおいては、オリジナルにもコピー商品にも大差はないのでしょうが、そこからさらに商品の機能やサービス内容を進化させたり、顧客のニーズに合わせた調整を行ったりという場面になると、本家と二番煎じの差は明白になることが多いのではないでしょうか。
 そういうことを考えると、知的財産権というものは、本家として一歩先を行く分野でその強みをサポートするからこそ本当の効果が出てくるのであって、知的財産権を得ることによってビジネスの「肝」までも手に入れることができるわけではない、ということを意識させられます。
 個人的にはこうした考えがあって、知的財産権に関する業務とはいっても、前の記事で取り上げたような「休眠特許の活用」とか、「特許の流通」といった業務にはあまり関心が持てず、経営者や発明者の「肝」をサポートするような業務に関わっていきたいと思っています。

ビジネスを育てる

バジリコ

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休眠特許・・・資金源に?

2006-08-17 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日も日経金融新聞から。
<休眠特許、中小の新資金源に?>という見出しの記事で、
「中小企業の休眠特許が知財信託を活用することによって、資金調達の手段として活かされる」
という内容です。
「中小企業の休眠特許が知財信託を活用することによって、資金調達の手段として活かされる」
 何となくこう言われるともっともな印象を受けるかもしれませんが、少し考えてみると何やらよくわからない話です。
 まず、信託という制度そのものは、財産を運用のプロに預けるという制度なので、資金調達とは直接的には結びつきません。信託財産等を証券化して販売することによって、はじめて資金調達になるものなので、「知財信託の活用→資金調達」という論理には飛躍があります。知財が資金調達に活かせるかどうかは、知財信託が普及するかどうかではなく、知財に投資したいという投資家が出てくるかどうかということのほうが問題だと思います。
 次に、この記事によると、中小企業の「時間とお金をかけて取得したものの、うまく活用されていない休眠特許」が対象とのこと。その特許が、「ノウハウ・人材不足から侵害されたり、大手と不利な契約を結ばされたりしている」ので、信託銀行に預ければ、「自らは無償で使いながら、煩雑な管理事務を任せられる」とのことですす。
 「休眠特許」なのに「自ら使う」とは一体どっちが本当なの???
 権利行使ができずに侵害されてしまうのは、「煩雑な管理事務」を回避すれば解決する問題なの???
と、どうにもよくわからない話です。記事の見出しの最後の「?」は、実は記者さん自身も「?」と思っていたのかな、などと推測したりして。まあ、あげ足取りをするのも悪趣味なので記事の話はこれくらいにしておいて、

 「知財信託」についての個人的な意見として、この制度は著作権には有効だと思いますが、特許権については普及は難しいと思っています。左脳的な分析は特技懇の記事に詳しく書かせていただきましたが、一番のポイントは、著作権は出来上がった作品について生じるものなので手離れがよく、完成後は他人に委ねるほうがむしろ好ましいことも多いのに対して、特許権というのは事業との関係で権利化したからといって完結するような性格のものではなく、当事者から切り離して管理することが本質的に難しい権利であるということだと思っています。だったら「休眠特許」ならいいじゃないか、という説もあるかもしれませんが、特に中小企業が考えなければならないことは、「休眠特許を活用する」ということよりも、その前に「休眠特許を作らない(事業化の意思がない特許の出願に無駄なお金を使わない)」ようにすることなのではないでしょうか。

「レコード会社」の意味

2006-08-16 | 新聞・雑誌記事を読む
 今日の日経金融新聞に、
「レコード各社、収益力に格差 ~自社アーティストがカギ」
という記事が掲載されています。この記事は、知財と企業収益の関係を考える上で、興味深いものだと思います。
 記事によると、上場しているレコード各社の収益力を比較すると、自社アーティストを多く抱えるエイベックスの営業利益率が10%に近づいているのに対して、自社アーティストが少ないコロムビアやビクターの営業利益率は2~3%程度に低迷している、よって自社アーティストを育成してヒットさせるのがカギ、という説明になっています。

 ベンチャーキャピタルで投資を担当していたのがインターネットが普及し始めた頃だったのですが、インターネットで何かを買うとすれば、現物の受渡しを伴わない金融ビジネスか音楽配信が最初だろうと考えて、音楽業界のことをいろいろ調べていました。そのときに業界関係の方から、
「一口にレコード会社といっても、SME(ソニーミュージック)とエイベックスは、他の大手レコード会社とは性格が全く違うんですよ。なぜなら、自社で原盤権を持つビジネスモデルなので、ヒット作品が出たときの利益や、二次利用の拡がりが全然違うんです。」
ということを教えていただきました(因みに、音楽CDの原盤権は、世の中では余り知られていない音楽出版社という会社が保有していることが多いそうです。)。確かに、当時はSMEも上場していたので損益計算書を確認してみたところ、両社の利益率の水準は他のレコード会社と全く違ってたように記憶しています。

 つまり、原盤権(楽曲の著作隣接権)の有無を考えると、SMEやエイベックスが音楽CDの中味(コンテンツ)の製造・販売会社であるのに対して、その他の大手レコード会社は音楽CDのプレス製造・販売会社と捉えられるということでしょうか。「知財」という意味でいえば、前者のモデルは、CDという媒体ではなく知財そのものを商品としており、それが高い収益力を生み出しているといえるのではないでしょうか(勿論、その裏返しとして、アーティストへの初期投資というリスクも存在するわけですが)。
 今日の記事から、そんなことを久しぶりに思い出しました。

注)上記の原盤権の話は、あくまで7~8年前に音楽業界の方に伺った話であり、正確な裏付をとったわけではありません。実際のところは各社が真っ二つに分かれるという類のものではなく、各社いずれのビジネスモデルも混在しており、どちらの比率が高いかという程度問題なのではないかとも推測されます。

特許の3形態から見たベンチャー投資

2006-08-15 | 知的財産と投資
 昨日の記事の「特許権とビジネスの3形態」を意識するようになって、前職のベンチャー投資について改めて考え直してみると、日本で成功している圧倒的多数のベンチャーは、実は3つめのカテゴリーに属するものであるということに気付きました。一般にベンチャーというと、何となくハイテク関連の1つめ、2つめのカテゴリーのイメージが強いかもしれませんが、実際にIPOに到った企業を数えてみると、これらのカテゴリーは思った以上に数が少ないのではないかと思います。ある意味、ベンチャーの立上げは力技みたいなところがあるので、現実的には3つめのカテゴリーで市場をおさえた者が勝ち、という側面が強いのではないでしょうか。
 一方で、近年少しずつ実績が出始めているのが、1つめのカテゴリーです。大学発のバイオベンチャーなどが典型例になりますが、母数が少ないことを考えると、2つめのカテゴリーよりもIPOに到る比率は高くなっているのではないでしょうか(あくまで感覚的なもので、データの裏付けはありませんが・・・)。

 こうした傾向を特許という側面から考えてみると、ベンチャー企業にとって特許業務への取組み方が一番難しいのは、ベンチャー企業が最も成功しにくいと思われる2つめのカテゴリーになります。3つめのカテゴリーは、そもそも競争の本質は特許にはないことが多いので、マーケット感覚のある経営者が「使える」「必要だ」と思ったタイミングで、適宜特許制度を利用していけばよいわけなので、高度な特許戦術云々が要求されるわけではありません。逆に、1つめのカテゴリーでは特許が極めて重要ですが、特許のマネージメントがどうこうというより、必要な特許を1件1件丁寧に仕上げていくという質の問題に帰着することになるので、力のある代理人を探して仕事を依頼することでかなりの部分が決まってしまうことが多いように思います。これらのカテゴリーに対して、2つめのカテゴリーは、特許が重要な要素の一つである一方で、1件特許をとったからどうというものでもなく、特許ポートフォリオ全体のマネージメント、継続的な取組みが必要になってくるわけです。こういった特許戦術の世界には固有のノウハウが求められ、特許事務所にアウトソースすれば済む話でもないので、この機能をどうやって備えるのかが2つめのカテゴリーの大きな課題になってきます。また、特許ポートフォリオを構築していくためには、継続的に相応の予算を割く必要も生じるので、資金負担も馬鹿になりません。
 特許実務を扱うようになって、日本でエレクトロニクス・メカトロ系のベンチャーが成長しにくい理由の1つには、特許面の課題もあるのではないかという気がしています。

特許権とビジネスの3形態

2006-08-14 | 企業経営と知的財産
 技術開発を伴う事業において、「特許が重要である」ことは確かであると思います。そこで発明の発掘、発明提案、先行技術調査といったオーソドックスな特許業務の必要性が言われることになるわけですが、対象となるビジネスのカテゴリーによって、特許の重要性や位置づけは大きく異なるものです。その違いを意識しないままに「特許業務」であることを優先すると、経営に活かすべきツールである特許の本来の効果を発揮することができないのではないでしょうか。

 特許という観点からビジネスを分類した場合、大きく3つに分けることができるように思います。
 1つめは、特許権を取得することによって事業そのものが独占し得る分野で、医薬品がその典型例です。特許=製品となることが少なくないため、この分野では特許の有無がビジネスを決定づける極めて重要な要素になります。
 2つめは、エレクトロニクス、メカトロなどの分野です。この分野では、1つの製品が極めて多くの技術によって構成されていることが通常であり、1つの製品に関連する特許権を1社で全て取得するということは、殆ど不可能な状況になっています。しかしながら、どのような特許権を保有しているかは、類似の製品の中で機能の一部を差別化したり、クロスライセンスの条件を有利にしたりする上で重要な要因となるため、特にこの分野では特許権の取得活動が活発に行われています。
 3つめは、サービス業などその他の分野で、一見したところは技術開発に関係ない業界のようですが、IT技術の導入によって特許権が関係する場面があらわれるようになっています。これらの分野でも、特許権の有無がビジネスに影響することが生じてるようになったわけですが、特許権がビジネスの本質的な競争力というわけではないことが通常だと思います。

 この3つのいずれのカテゴリーに属するかによって、特許に対する取り組みも当然ながら異なってくるはずです。1つめの分野では、先行技術調査や1件1件の特許の質が非常に重要になるため、オーソドックスな特許業務をしっかりとこなすことが重視されます。2つめの分野では、個々の特許の質以上に、どのような特許ポートフォリオを構築しているか、クロスライセンス等の交渉戦術に長けているか、といったことが実質的には効いてくるのではないでしょうか。3つめの分野になると、特許の中味に必要以上に拘るより、特許以外の本質的な競争力をどれだけサポートすることができるか、特許制度の利用方法、特に実際に動いているビジネスのタイミングとの関係が重要になると思います。
 こういった整理がされないままに、例えば、3つめの分野に属する企業に1つめの分野で行うような先行技術調査を行っても、ビジネスの成果という意味では実効性を高めることはできないのではないでしょうか。

フレンチレストランと餃子

2006-08-11 | 知財業界
 今日の日経新聞に、珍しく「弁理士」の文字が大きな活字で掲載されていました。制度改正のポイントについて説明されていますが、このとおり改正になったとしても、実質的にはあまり大きな変化にはならないような印象を受けました。
 その中でちょっと目を引いたのが、特許業務法人の有限責任の導入という話です。法人化することのメリットを考えると、有限責任というのは望ましい話なので、それはそれで必要な改正だと思います。一方で、その趣旨について「技術が複数分野にわたる企業の特許出願を1つの事務所で効率的に処理できるようにしたい考えだ」とありますが、本当にそうなのでしょうか。特許事務所に何を要求するかは依頼者によって様々であって、取扱範囲の広さやワンストップというニーズは、その一つに過ぎないと思うからです。要は、実質的な代理人=出願担当者のマネージメントを、企業自身が行うのか、事務所にアウトソースしたいかというポリシーの問題であり、前者の考え方に立つ企業の場合は、むしろ事務所内の事情で担当者が交代することを嫌い、敢えて小規模な事務所を選んで企業自らが代理人をコントロールしようとされているように思います。考え方としては、どちらもあり得ると思うので、政策的に一方向に誘導する必要性があるのかについては、少々疑問を感じます。
 こういう議論の食違いが生じる理由として、規模の大きい組織的な特許事務所も、弁理士1人の特許事務所も、いずれも「特許事務所」を名乗り、同じカテゴリで扱われていることにあるのではないかと思います。弁理士1人の「特許事務所」の存在理由は、取扱分野の広さとは別のところにあるはずです。例えば、一軒家のフレンチレストランに行って「何で餃子がないんだ」という話になったり、近所の耳鼻科に行って「腰痛も直して欲しい」という話になったりするでしょうか。そういう意味では、業務法人化が促進され、組織的な「特許業務法人」と個人経営の「特許事務所」の区別が明確になっていくのは、良いことなのかもしれませんね。