経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

シーズとニーズはどっちが先か

2008-01-31 | 企業経営と知的財産
 昨日書いた‘知財コンサル’とは何かについて、大阪の一弁理士さんから顧客の「ニーズ」という重要なご指摘をいただきました。シーズ・オリエンティッドな発想が事業の成功を妨げがち、というのは大学発ベンチャーなどでよく言われる問題点ですので、事業分野を選択する際に「顧客ニーズ」というのは重要な視点になります。
 というわけで、フェーズ1の図を補正したのですが、「顧客ニーズ」をどこに位置づけるかという点については、大阪の一弁理士さんのご意見と少々異なる考え方に基づいています。図でいえば、「どの分野で勝負するか?」を検討する際に考慮すべき事項として、「経営資源」の他に「事業環境」を加えました。これは当然に必要な項目だったのですが、「顧客ニーズ」というのもこの中に含め、「どの分野で勝負するか?」を検討する際に考慮すべき要素になるのではないかと思います。
 図の左側で「シーズ」と表現したのは、その企業のコアになる技術・ノウハウなどですが、ここに「顧客ニーズ」をもってくると「儲かりそうなものは何でもやるコアのない便利屋」になり、企業の拠って立つ軸が失われてしまうように思います。やはり自社の持っているリソースをベースにしたうえで、そのリソースを活かして顧客ニーズにどのように応えられるかと考えるべきであって、絞り込みの順序としては「シーズ→ニーズ」になるのではないかと思います。野球に例えれば、試合に勝つという顧客ニーズに応えるには、まずは自分のリソース(シーズ)を見極めたうえで、長打力はないけど器用というリソース(シーズ)をもった選手であれば、そのリソースを活かしてバントという形でニーズに応えるという順序になるだろう、という意味です。
 また、ある本でですが、「顧客ニーズに応える」というと響きがよいので誰も異論を差し挟まないことが多いけれど、本当にそうだろうか?、という意見を読んだことがあります。ヘルシア緑茶というヒット商品が出る前に、果たして「カテキン濃度の濃いお茶を飲みたい」などという顧客ニーズがあっただろうか?、みたいな実例を挙げていましたが、確かに言われてみればそのとおりです。iPodが流行る前に、「スタイリッシュでカラフルな携帯型デジタル音楽プレイヤーが欲しい」という顧客ニーズがあっただろうか? 写メールが登場する前に「携帯電話で写真が撮りたい」という顧客ニーズがあっただろうか? これらのヒット商品は、顧客ニーズを追いかけてできたというよりも、自社の技術で何ができるかというところから想像力を働かせてできあがった‘作品’なのではないかという気がします。勿論「顧客ニーズに応える」という視点は必要不可欠な要素ですが、本当のヒット商品はそれを超越したところにあったりするとも言えるかもしれません。


最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (大阪の一弁理士)
2008-01-31 09:18:05
私の疑問点にお応え下さりありがとうございます。
私が考える「ニーズ」も、現時点でのニーズではなく、『将来』における「ニーズ」を意図しています。
例えば、任天堂の「Wii」ですが、将来の顧客ニーズを予測してヒットを導いています。これは、開発側が持つ「シーズ」だけで商品開発をしては駄目ということを表した事例だと思います。よって、私が考える「ニーズ」と先生のお考えの「事業環境」は同じものです。
ただ、私は、「将来のニーズ→シーズ」として考えていくほうが、事業発展の可能性からみて視野が広がるのではないかと思います。シーズから考えていった場合に、果たして洗剤メーカの花王が飲料業界に参入できたでしょうか?
ただ、結論としては、同じかもしれませんが…
返信する
Unknown (土生)
2008-01-31 13:00:05
大阪の一弁理士さん
コメントありがとうございます。営業の実体験に基づく骨のあるご意見であり、私もVC時代に技術系ベンチャーに‘売れてナンボ’という話をよくしてきたので、ご趣旨はよくわかります。
一方で、「顧客ニーズ」を強調しすぎることも、顧客に迎合して自らを見失うリスクを孕んでいるのではないでしょうか。「螺旋的発展」(http://blog.goo.ne.jp/habupat/e/392eebbb3ba15281a5511eabcf3641bd)に書きましたが、進化というのは往ったり来たりしながら進んでいくものであり、シーズに振り返って考えることも重要なのではないかと思います。
「花王強さの秘密」(実業之日本社)によると、ヘルシア緑茶を商品化した背景には30年以上にわたる香料技術の開発(高濃度カテキン緑茶を実現するには苦味の調整が課題になる)があるそうです。任天堂のDSやWiiにしても、白紙の状態からニーズを探ったのではなく、「ゲームメーカーとして蓄積した技術(シーズ)で何を提案できるか(ニーズ)」という発想だったのではないでしょうか。逆の例でいえば、その昔にプリクラが当たったアトラスはその後鳴かず飛ばずの状態が続いていますし、たまごっちの企画で上場までいったウィズも業績は急速に萎んでしまっています。
ニーズのない方向に走っていくのを抑えなければならないのは当然ですが、シーズの近くにいる知財人にとっては、「企業の本質となるシーズを見失うな」と主張することにも重要な役割があるのではないかと思っています。

この議論は、弁理士業のあり方に置き換えてみても面白いですね。仮に「これからの顧客ニーズは知財コンサルだ」と想定したとして、そのために必要なスキル(シーズ)を身につけようとする方向に行くか。それとも自分の持つスキル(シーズ)を見極めて、どういう顧客ニーズに応えられるか(その結果「コンサル」ではなく「明細書の品質向上」という方向に行くかもしれない)を考えるか。
返信する
Unknown (大阪の一弁理士)
2008-01-31 13:17:27
早速のご返答ありがとうございます。

>>ニーズのない方向に走っていくのを抑えなければならないのは当然ですが、シーズの近くにいる知財人にとっては、「企業の本質となるシーズを見失うな」と主張することにも重要な役割があるのではないかと思っています。

この点、確かに仰るとおりです。私もそう思いますし。これからも頑張って行かなければならないことだと思います。

弁理士というポジションは、「技術」を主観的にも客観的に見れる必要があると思います。また、専門的に且つ素人的に評価できる人間でなければ、駄目だとも思います。ヤリガイのある仕事です。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。