経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

÷、+、さらに×

2010-03-19 | その他
 今日は知財とは関係のない独り言です。先ほどまであるIT企業の経営者の方の飲み会に参加させてもらっていたのですが、やっぱり経営者というのは考えていることが深く、哲学的で、本当にいい勉強&刺激になりました。

 仕事というものの捉え方について、これを割り算で考えようとする人達がいます。一定の量の仕事の存在を前提にして、頭数が何人だから自分に回ってくるのはいくら、これはいけそうだ、厳しくなってきた、みたいな発想です。市場分析としては理に適っているように見えるんだけれども、実際に戦っている当事者(特に経営者)はあまりそういう発想でものを考えません。そういう話を聞くと、その昔受験生だった頃「共通一次試験の全体の平均点がいくら」とニュースを耳にしたときに、「それがどうした」と言いたくなった感覚を思い出します。仕事というのは、割り算ではなく足し算で考えるもの割り当てられるものではなく積み上げていくものだと。これはおそらく、経営者か否かという立場の問題ではなく、自らが属する組織は個々人の積み上げによって支えている、という意識(=当事者意識)があるかどうかにつながるものであり、経営者に当事者意識が欠けていては話になりませんが、組織の強さというのはしっかりと当事者意識を持っている人がどれだけいるか、によってかなりの部分が決まってくるのかもしれません(少なくとも特許権が何件あるかということよりはるかに影響は大きい)。
 これが経営者ということになると、どうも足し算だけでは足りず、掛け算ができることが差になってくるようです。掛け算、すなわち人や組織、ネットワークを活かして相乗効果を生み出していくというか。こういう話って、掛け算ができる人(=ベテランの経営者)には「割り算ではなく足し算、さらに掛け算」だけで意味が通じてしまうので、おそろしい限りです。

それは、こちら側の仕事。

2010-03-16 | 知財発想法
 先週金曜は‘中小企業のための知的財産経営シンポジウムin広島’、大阪に続き多くの方にご参加をいただき誠に有難うございました。
 
 経営・事業に貢献する知財、事業・研究開発・知財の三位一体・・・といったもキャッチコピーも最近はちょっと食傷気味になってきた感がありますが、これから取り組んでいかなければならないのは、それが重要だと叫ぶだけではなく、「わかっていてるのになぜ実践が難しいのか」という部分にスポットを当てて解決策を探ることであると思います。わかっているのに実践できない理由、たとえばこんな要因があるのではないでしょうか。
1. 現場でリマインドができていない。←細かい実務に取り組むうちに原則を見失ってしまう。
2. 関係者への広がりが足りない。←知財活動の具体的な貢献が関係者にピンときていない。
3. システムができていない。←要するに業務プロセスや体制の問題。
 そういう意味で、今年の特許庁の地域中小企業知財経営基盤定着支援事業全体委員会(それにしても長い名前だ・・・)で取り組んできて、今回のシンポジウムでご披露させていただいた‘定着モデル’は1.に対する一つの解決案、昨年度から取り組んでいる経営者へのインタビューとその生の声を伝える活動は2.に対する一つの解決案、3.については今年度のヒアリング調査でいろんな事例を収集してきましたので4月以降に特許庁のホームページに公開されることになると思います(広島のシンポジウムでも‘身の丈に合った’知財活動のあり方が話題になりましたが、決して厚い体制を組めばよいという話ではありません)。
 広島のパネルのまとめは、こんな感じで締めさせていただきました。
 経営者の悩み、事業の責任者の悩みから、知財活動で解決できるものを見つけ出すことは、知財人の大事な仕事である。「知財に限らず社長の悩みをまず話してみて下さい」(広島で登壇いただいた木戸弁理士の言)と訊ね、その中から知財活動でできることを探るのはこちら側の仕事であって、「知財はこういうものですから、ネタを出してください」なんて訊ねてスクリーニングを相手に委ねるのは方向が逆。「はじめから特許ありきではなく、ビジネスプランが先でそこから特許ネタを探すのが、たぶん正しい」という信末弁理士のお話も、同じことを指摘されているのであろうと思います。


地域で生まれた技術が地域のニーズに結びつき、地域振興の期待を背負って事業を展開する

2010-03-07 | 知財発想法
 一昨日、中小企業のための知的財産経営シンポジウムin大阪が開催されました。年度末のお忙しいなか多くの方にご参加いただき、誠に有難うございました。
 今回ゲストスピーカーとしてご登壇をいただいたのが、株式会社井之商の井上社長様と、中野BC株式会社の中野社長様です。両社の共通項として興味深かったのが、いずれも地元の強い応援が得られている、知財が地域振興としっかり結びついているという点です。環境問題に熱心な滋賀を拠点に太陽の自然光を建物内に採り入れる‘スカイライトチューブ’開発した井之商さん、梅やみかんという和歌山の特産品を活かしてユニークな製品を開発する中野BCさんは、いずれも地元の自治体や企業が様々な形で熱心に応援してくれるそうです。知的財産権がどうこうという前に、地域で生まれた技術が地域のニーズに結びつき、地域振興の期待を背負って事業を展開しているという、大変興味深い2つの事例でした。もちろん知的財産権が果たす役割というのもあって、井之商さんの場合は、スカイライトチューブは施工現場から出てくる様々なアイデアを取り入れながら進化を続けている製品なのですが、そのアイデアをパートナーである施工業者さんからも募り、そのアイデアについて施工業者さんと共同で特許出願等をする。出願があたかも杯を酌み交わすような役割を果たし、施工業者さんとの結びつきを深めているとのことです。中野BCさんは以前に他社に先に特許を出願された苦い経験があり、それ以来、研究所の体制整備とあわせて知財の管理にも力を入れるようになったとのことです(地元の熱い期待を背負っている以上、そんなところで取りこぼせない、といったところでしょうか)。
 もう一つ印象的だったのが、以前に不動産事業も経験されたという中野社長様が、「利益を上げて地域貢献をするという点では同じであるはずなのに、不動産で1億円利益を出すよりものづくりで1千万円利益を出すほうが地域の強い応援が得られるものです」とお話されていたことです。まさに特許法の目指さんとする「産業の発達」を具現されているなぁ、と。

 次は広島にて、中小企業のための知的財産経営シンポジウムin広島を12日に開催予定です。

成長企業の知的財産戦略 ← 一部修正

2010-03-03 | 知財発想法
 2年少し前に「成長企業の知的財産戦略」という論文を書いたのですが、これって修正が必要かな、と考える今日この頃です。
 そもそも「成長企業」とは何ぞやですが、きっちりした定義があるわけではありません。が、敢えて「成長企業」(=成長志向の企業)をそうでない企業(=安定志向の企業)と分けるとするならば、お金の使い方にあるのではないかと思います。これは、VCの投資業務と銀行の融資業務を経験してわかったことなのですが、事業が順調に立ち上がって現金が溜まり始めたときに、その現金をどうするか。VCは成長のための投資を促し、銀行は返済原資を確保するために預金を積むよう促す。つまり、成長志向の企業はそれを新たな投資(設備投資や研究開発投資etc.)に向けようとし、安定志向の企業は預金や国債などの安全資産を積み上げる。もちろん、同じ企業でも場面によって判断は異なってくると思いますが、志向としてこの違いは結構大きいように思います。
 そこで知財戦略との関連ですが、この論文では、
「成長」には、売上増加に利益が伴わなければならない。売上を成長させるネタとして「知的財産」の創出が必要、その売上を確実に利益に結び付けるためには、価格競争を抑止する参入障壁としてはたらくような「知的財産権」が必要。
といったトーンでまとめたのですが、果たしてそれでよいのだろうか。世の中、本当にそうなっているのか。
 そこで問題になってくるのが、この前から何度か書いている
企業の競争力とは、顧客との結びつきを強める力である
というところなのですが、参入障壁の形成による価格競争の抑止を、「顧客との結びつきを強める」という視点で見てみるとどうなのだろうか。「成長」するためには、競争力の強化、すなわち「顧客との結びつきを強める」ことが必要になるわけですが、そういう視点から考えると、自社の差異化要素となる知的財産を、できるだけ利便性の高いもの、顧客に喜ばれるものとして提供することが求められる。その場合に、自社で知的財産を囲い込むことが、結果的に知的財産の広がり、知的財産を使った製品やサービスの利便性の向上を抑え込むことになってはしまわないのか。もちろん、自社が優位に立つためには差異化要素である知的財産のオリジナリティを維持すべく、知的財産権を確保しておくことは有益なわけですが、囲い込むのではなく、それをより積極的に開放して知的財産を使った製品やサービスの利便性を高めていったほうが、より「成長」に結びつくこともある。というか、むしろ成長志向の企業であるほどそういう傾向が強く、囲い込みはむしろ安定志向の表れとも言えるかもしれません。
 なんてことを最近は中小・ベンチャー企業の社長と話したりするのですが、殆どの場合「そらそうよ。」という反応です(業種の関係もあるとは思いますが)。今日もそんなことを言っていたら、ある社長さんは、
「特許っていうのは、『こちらからは特許を提供するから、そちらもそこにいろいろ知恵を乗っけてもらって、一緒に新しい製品を作っていきましょうよ』っていうふうに使ってこそ意味があるものですよ。」
なんてお話をされていました。その現象をもって「オープンイノベーション」という捉え方もあるのでしょうが。
 もちろんそればかりが全てではないですが、「成長」をテーマにするならばこういう志向をちゃんと論じておくべきでした。