経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財ビジネスは何故コツコツ系から始めるべきなのか?

2009-06-23 | 知財一般
 前回のエントリの続きです。どうして知財ビジネスでは、カテゴリ②のような切った貼った系が花開かないのか。それはそもそも、知的財産というものの価値、それを支える知財活動の意義や効果について、まだまだ十分に説得的な説明がなされておらず、それらについての社会的なコンセンサスが得られていないことにあるように思います。「知的財産は重要である」「知的財産は価値のある財産である」と理論的・観念的に説明できたとしても、現実の事業においてどのような効果を発揮しているのかを経営層や他部門のビジネスパーソンが実感できていない段階では、その知的財産を使ってどうするこうすると提案されたところで、どうしても現実を離れた空論になってしまう。価値を語る前に、その価値を実際に見せてみろよ、って。知財で価値を実現すること、知財活動の成果を見せることができて、初めて知財信託だ、知財価値評価だ、知財流通だといった語りにも説得力が生じてくるのではないでしょうか。あまり適当な喩えではないかもしれませんが、宅急便が登場する前の時代に、いくら流通革命を叫んでもそれは共感を得られるものではなく、そうした中でヤマト運輸はコツコツと宅急便の流通網を構築して荷物を届け、顧客に「これは便利だ」と実感されることで宅配という一つの流通革命の形を実現した。そこからは、宅配のモデルをベースにした様々なニュービジネスのアイデアも、空論ではなくリアルなビジネスマターになってくるわけです。だから、コツコツ系の知財活動で(知財にではなく事業に対して)成果をあげる、一番やらなければならないのは、やはりそこなのだと思います。

やはり知財ビジネスの基本は人間が働くコツコツ系か

2009-06-19 | 知財業界
 以前のエントリで‘知財ビジネス’を、①人間が働くビジネス、②お金が働くビジネス、③仕組が働くビジネス、に分類してみたりしましたが、②に分類したJDC信託について、こんな記事が出ていました。顧客からの知財に投資するために預かったお金を自社の借金の返済に流用した、ってことですから、金融機関としてはまずあり得ない話で、これは殆ど致命的ともなりかねない印象です。そういえば、JDC信託の決算が大変だというエントリを書いたこともありましたが、要するに既に破綻状態にあったのを、信託財産を流用して繋いでいたということのようです。それにしても、民事再生となったiPBは主要サービスの営業権が譲渡されたようで、カテゴリ②のメインプレイヤーはいずれも大変なことになってしまいました。個別企業の問題といえばそれまでかもしれませんが、知財とお金はあまり相性がよくないのか・・・やっぱり、知財ビジネスの基本は人間が働くコツコツ系、ってことでしょうか。
 その一方で、大新聞にこんなアバウトなコラムがあったりして(「第一線で活躍している経済人、学者」が書かれているそうですが・・・)、変に期待を煽るような記事はもういいので、メディアには厳しい事実を含めた現状分析を期待したいものです。

皆、絶句。

2009-06-15 | 書籍を読む
 既に読まれた方もおられるかと思いますが、「知財、この人にきく」の第2巻が発売されています。トヨタ歴代知財部長へのインタビューということで、知財(特許)に対する考え方や取組みを時系列で追うことができて、私のように2000年以前の知財の現場を知らない者にとっては、たいへん参考になる書籍です。
 特に興味深かったのがこの話。(トヨタに限らず)90年代の話ですが、
担当役員が社長に「知的財産は重要ですか?」と尋ねると皆が「重要だ」と答えるが、「あなたの会社の知的財産部は重要ですか?」と聞くと、皆、絶句してしまう。
 これは一体何を意味しているのか。トヨタの当時の知財部長さんは、知財部の仕事が受け身であるために役割が見えにくいためと考え、これを積極的に「見える」形に変えていく。具体的には、外に対しては主張すべきを主張し(その結果、支出超過となっても「研究開発が遅れていたのだからしょうがない」とまで割切って方針転換を進めたそうです)、内部では個々の特許の価値の見える化に取り組んだとのことです。
 見える、見えないの問題もあると思いますが、もう一つ、常々感じていることなのですが、知的財産基本法にはきっちり定義されているはずの「知的財産」という言葉(90年代の時点では知的財産基本法はまだありませんでしたが)が、実際にはかなり多義的に使われていることも影響しているように思います。広く解釈する人は、「無形資産」に近いような意味で目に見えない価値のあるもの全般を「知的財産」と言う一方で、狭く解釈する人は「特許権」などの「知的財産権」=「知的財産」の前提で話したりする。このギャップが、「知的財産」に関する議論をわかりにくくしていたり、意見の不一致を生じさせたりしていることがあるように思います。この話で社長が「重要だ」と言っている「知的財産」は、前者のように広い解釈であることが多いのに対し、「知的財産部は重要ですか」と問われたときの知的財産部については、後者のように狭い意味の知的財産権に関する業務を扱っているようにイメージされており、それが重要かどうかについての不一致(=‘絶句!’)を生んでしまったという側面もあるのではないでしょうか。

知財、この人にきく〈Vol.2〉トヨタ歴代知財部長
トヨタ自動車
発明協会

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知財人がビジネスに疎い理由

2009-06-09 | 書籍を読む
 日経ビジネス先週号のリヴァンプ・玉塚代表(カッコ良すぎですね)の書評に興味を惹かれ、「ビジネスで失敗する人の10の法則」を読んでみました。著者のドナルド・R・キーオ氏は、コカ・コーラの元COOです。ビジネスのように変化の激しい世界で「成功の法則」なんて語れるはずがなく、でも「こうすれば失敗する」ということなら示せますよ、というのがこの本で示されている10の法則(実際は11ですが)です。評論家や学者でなく‘ビジネスパーソン’たるためには、たぶんこういう事実に対して正直な態度というのは重要なのでしょう。「知的財産は価値がある。知的財産は重要だ」というのを無条件の前提にした話って、なんか胡散臭いですから。
 10の法則の中味については、ビル・ゲイツ、ジャック・ウェルチ、ルパート・マードックが推薦、序文・ウォーレン・バフェットという顔ぶれなので、読んでおいて損はないのは言うまでのこととして、ところどころに引用されている名言(?)が結構笑えたりします。その中で、デスクワークがとても多い知財人としては笑えないものを一つ。
 デスクは、世界を眺めるには危険な場所だ -ジョン・ル・カレ

ビジネスで失敗する人の10の法則
ドナルド R キーオ
日本経済新聞出版社

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