経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

お知らせ2件

2007-12-27 | お知らせ
 年明けの話ですが、PRを2件ばかり。

■ 「よくわかる 知的財産権担保融資」(きんざい)を上梓予定です。
 知的財産権担保について、不動産担保に代替する債権回収の手段として考えた場合にはネガティブなスタンスなのですが、「知財を通じて企業をみる」でも書いたとおり、「担保という切り口を通じて金融機関が融資先の知的財産権にも着目する」ことの意味に重点を置いて書き上げました(勿論、手続的な部分もしっかり書いたつもりですが)。1月中には発売される見込みですので、‘知財を通じた企業の見方’に興味のある方にご一読いただけると幸いです。

■ 小冊子「ビジネスパーソンのための知財発想法」を作成しました。
 雑誌「ビジネス法務」に6回にわたって連載した記事を加筆・修正して、小冊子にまとめました。年明けに印刷があがる予定ですので、追ってご紹介させていただきます。ちなみに、ここでいう「知財発想法」(このブログのタイトルでもありますが・・・)とは何か。以下に、小冊子のまえがきを引用します。

 近年、「『知財』を理解することが重要になっている。」という意識がビジネスパーソンの間に広がっています。一方で、「知財」が重要とはわかっているものの、日常的なビジネスのどのような場面で知財が重要になるのかピンとこない、ビジネスの現場と知財の必要性をうまく結びつけて考えることができない、と感じられている方が少なくないのではないでしょうか。ビジネスパーソンにも「知財センス」が必要であるとはいっても、特許制度や個別の事件に関する「知識」が求められているわけではなく、ビジネス上の発想法として役立つような「知財センス」を身につけたいところです。一方で、知財分野の専門家にも「ビジネスセンス」が求められる時代となってきましたが、何も知財の専門家にMBAレベルの経営知識を駆使することが求められているわけではありません。自らの得意とする「知財」を切り口にして、「知財」が「ビジネス」の中でどのように活きるのかをビジネスパーソンの視点で見ることができる「センス」こそが、今まさに必要とされているものなのです。
 このような問題意識から、ビジネスパーソンの「知財センス」、知財人の「ビジネスセンス」に活かせるような「発想法」について、本稿ではいくつかの切り口を提示していきたいと考えています。

一目置かれる存在

2007-12-26 | 知財一般
 昨日、ある方と話していたことなのですが、三位一体の知財戦略だの知的資産経営だのいったところで、理屈の美しさの問題ではなく結局は「誰がやっているか」というところに帰着するのではないかと。どんな仕事でもそうですが、本業で忙しいときに他の作業の依頼を受けた場合に、その作業に力を入れて取り組めるかどうかは、その依頼を「誰から受けたか」という部分に大きく左右されるように思います。その依頼が「一目置いている人」からのものであれば優先順位があがるでしょうし、「分かってない人」からのものであれば机に置いたままになってしまうでしょう。
 そうすると、真に知財戦略に貢献できる「知財人材」なる者の要件は、関係者から「一目置かれる存在」であることなのではないかと思います。「一目置かれる」のは、もちろん知財ムラの中でということではありません。大企業であれば事業部門や研究開発部門、ベンチャー企業であれば経営者に対して、「こいつに言われたことはやっておいたほうがよい」と思わせる迫力があるかどうか。その迫力の裏付けとなるのは、教科書に書いてあることをどれだけ知っているかということではなく、仕事人としての「実績」説得力のある「自分の言葉」なのではないかと思います。ショートカットする方法などないので、頭を使いながらコツコツやっていくしかありません。たぶん。

ブランド戦略の本質

2007-12-21 | 新聞・雑誌記事を読む
 今週火曜の日経金融に、英国のブランドコンサルティング会社会長のインタビューで、「日本の銀行はブランド戦略が遅れている」という話が掲載されていました。「業務内容に差が付きにくくなっているから、ブランド戦略で差別化すれば収益力を高められる」ので、「名前やロゴを一新するのも一つの手だ」とのことです。
 「知的資産経営」だとか「三位一体の知財戦略」だとか「ブランド戦略」だといった格好いい言葉で締められると、何となくハハァ~っという感じでひれ伏してしまいがちですが、この記事を読んでよく考えてみると、ホンマかいなという気になってきました。一利用者の立場として考えた場合に、名前やロゴが格好いいからといって、果たしてその銀行を選択する理由になるものだろうか(かなり昔の話だと、ハローキティの通帳で預金口座の開設が増えたという話がありましたが)。もしサービスが全く同質であるとすると、おそらく選択基準になるのは、第1に絶対潰れないだろうという信用力、第2に近くにATMが多いといった利便性の問題になってくるのではないかと思います。
 という疑問についてあるブランドコンサルの方に意見を伺ってみたところ「ロゴが視覚的に訴えて、覚えてもらうという効果は大きい」とのこと。なるほど、顧客に選ばれる理由は他にある(信用力etc.)としても、顧客をそこまで導いてくるための道具としてロゴ(or社名)が活きてくるということですね。ロゴ(or社名)をそのように働かせるためには、本質的な強み(信用力etc.)とロゴ(or社名)がしっかりと紐付いている(そのマークをみたら「あの信用力の高いor近所にあって便利な~銀行だ」と思い出す)ことが前提であり、そのためにはメディアを有効に活用してその紐付けに努めることがポイントになってくるわけです。要すれば、
ブランド戦略の本質は、企業の本質的な強みと社名・サービス名・ロゴマークなどを結び付けいくことにある
というふうに理解することができそうです。勿論、単に商標権を取得しましょう、といった手続的な話ではなくて。

来年はモノ作り?

2007-12-20 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融の記事ですが、最近の新興市場を引っ張っていたDeNAがマザーズを卒業して東証一部に鞍替えとなり、新興市場が主役を失って低迷し始めた、ということが書かれています。日本の新興市場を引っ張ってきたネット株も、ヤフー、楽天と各分野の勝者が固まってしまうと規模の経済が働いてその勢力図が塗り替えられるようなことは殆ど起こらないから、沈滞ムードとなってしまう。Web2.0という未開の分野で久々に盛り上がったものの、これもミクシィやDeNAの勝利が見えてきて、再び沈滞ムードが漂い始めているということだそうです。
 ベンチャーキャピタル関係者の話では、今さら「Web2.0で売り込んでくる企業には首をかしげてしまう」とのことですが、そうした中で「来年の投資テーマはモノ作りかな」と語られることが多くなっているそうです。モノ作り≒テクノロジー、ということで、ネットの分野でも新しいテーマでなくとも勢力図を書き換えるような地殻変動が起こるとすれば、グーグルの例にあるように、それはテクノロジーではないかと。ビジネスモデルではなくテクノロジーで差別化するとなると、特許の役割も変わってくるはずです。知財屋としても「来年のテーマ」に乗っかって、市場をアッといわせるようなところに絡んでみたいものです。

NEO

2007-12-19 | 知的財産と投資
 JASDAQの新市場NEOについて、詳しいご説明を伺う機会がありました。新興市場のJASDAQにさらに新興企業向けのマーケットって、どんどんアーリーステージの企業に対象を広げていくのかなと思っていたのですが(上場第1号の企業をみるとそうでもなさそうなのでますます疑問に思っていたのですが)、しっかりと話をお聞きすると、従来の価値基準とはちょっと違う、基本的な設計思想の異なる市場であるということがよくわかりました。要すれば、単に実績数値や成長ステージで切るというのではなく、企業の志向として「継続性・収益性」と「成長性」のいずれを重視するかが、JASDAQとNEOのいずれの市場を選ぶかの基準になるとのことです。従って、NEOでは過去の実績を重視するというよりは、将来に向けての事業計画とその進捗状況の開示を重視する制度設計になっています。上場企業自身が3ヵ年分の事業計画を数字で開示するとのことで、これは相当画期的なことだと思いますが(上場企業にとっては計画を達成することが相当なプレッシャーになりそうですが)、投資家と上場企業の間にこれまでとはちょっと違った緊張感を生む市場ということになりそうです(勿論、コンセプトどおりの企業が上場し、制度が当初の目的どおりに運営されていくことが前提になりますが)。
 NEOへの上場申請には「技術説明資料」の提出が求められるとのことですが、そこでは成長ドライバーとなる新技術の内容に加えて、事業家の状況、市場性などの説明が求められるとのことです。単に技術の価値だけでなく、市場における競争環境とその中での優位性を示すシナリオが求められるので、特許が有効な事業形態であれば成長シナリオの中で特許に関する情報開示が重要になってくる可能性もありそうです。

「知財コンサル」はどうして売りにくいか?

2007-12-18 | 知財一般
 「知財ビジネスとは何か?」で①に分類した‘知財コンサル’について。サービスを提供する側にもサービスを受ける側にもまだまだ形がよく見えない業態です。
 ‘知財コンサル’というサービスについて考えると、
① ‘コンサル’というのが成果が曖昧で必要性のわかりにくい仕事である。
ことに加えて、
② ‘知財’は成果が極めて曖昧で必要性のわかりにくい仕事である。
ということで曖昧の掛け算になってしまい、懐疑との戦いになることがなかなか避けられません。これを出願代理と比べてみると、②の点については同じ問題がつきまといやすいのですが、①については少なくとも「出願」という見えやすい成果物が発生します。また、経営コンサルや人事コンサルなど他の分野のコンサルティングと比べてみると、①の点は同じですが、②については課題を明確に設定することで(「X部門の収益性改善」「Y部門の人員再配置」「モチベーションを高める新人事制度の導入」etc.)必要性を明確にし、その結果①についても成果をわかりやすくしているように思います。
 おそらく‘知財コンサル’についても同様で、「職務発明規程の導入」「効率的な特許出願フローの構築」「商標権の棚卸しと維持管理コスト削減」といった具体的なテーマにまで落とし込めば比較的‘売りやすい’サービスになるのでテーマ設定が重要なポイントであり、これを「知的財産による経営改革」とか漠然としたテーマ設定にすると曖昧×2に陥ってしまいます。尤も、具体的に落とし込めば落とし込むほど範囲(=報酬)は限定され、ニュービジネスとしてのインパクトは失われていきますが。何か、特許の中間処理(クレームをどこまで減縮するか)と似たような話ですね。

ユーザー・オリエンテッドな知財本

2007-12-16 | 書籍を読む
 友人の的場弁理士から「インターネットユーザーのための事例で学ぶ知的財産権の基礎知識」のご紹介をいただきました。まだパラパラと目を通したところではありますが、今までにあまりない、ユーザーの視点から整理されたとてもよい本のようです。ついつい知財屋の視点から「特許権とは~、商標権とは~、」となりがちななかで、「ユーザー・オリエンテッドな知財本」としてこういうまとめ方があったのか、とちょっとばかり新鮮な驚きがありました。表紙もなかなか格好良いですね(これって結構大きいと思います。「基本からよくわかる知的財産権」の装丁もイケてると思いますが。)。
 取急ぎお知らせということで。

インターネットユーザーのための事例で学ぶ知的財産権の基礎知識
知的財産教育協会
日本経済新聞出版社

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‘知財ビジネス’とは何か?

2007-12-12 | 知財業界
 知財コンサル、価値評価、知財ファイナンスなどなど…何やら中味のはっきりしない‘知財ビジネス’がいろいろ言われています。その定義云々はさておき、事業構造(特に収益構造)の点から整理して考えてみたいと思います。
 世にあるビジネスには、大きく分けて、
① 人間が働くビジネス
② お金が働くビジネス
③ 仕組が働くビジネス
の3種類があると思います。①がいわゆる労働集約型産業で、②は金融業(これも一種の仕組ですが)、その他の殆どを③として考えます。①は程度の差こそあれいくら働いてナンボのモデルであり(実績連動報酬という例外もありますが)、基本的にはレバレッジが効きません。②③は初期投資の負担が重くなりやすいですが、回りだすと大きな果実が期待できるモデルです。‘ビジネス’というものを狭義に捉えるならば、①はあくまで‘労働’であって‘ビジネス’にはあたらないのかもしれません。

 特許事務所のやっている代理人業務は、規模の大小に関わらず全体としてみると当然ながら①に属します。

 さて、期待の‘知財コンサルティング’ですが、ブライナベンチャー・ラボIPTJiPBなどが頑張っている分野です。事業構造としては、人間の働き方が違ってはくるものの、基本的に①であることに違いはありません。代理人業務との大きな違いとしては、「どちらが提案するか」という部分が全く逆になります。代理人業務はクライアント側(発明者)が「提案」したものをまとめることになりますが、コンサルの場合はコンサル側がクライアントに企画書(≒仮説)を提案します。そのため、前者はクライアントからの提案なので基本的には空振りがありませんが(出願取り止め云々は例外として)、後者は提案を受けてもらえず空振りということが多々あります。よって、提案にかかるコストを考えると前者より単価が高くないとペイしないのは当然です。要するに、両者は事業構造の基本は同質であるものの、前者はローリスク・ローリターン型、後者はハイリスク・ハイリターン型のモデルといえるでしょう。経営コンサルタントの人達の単価の高さという部分だけに目を奪われては、事実を見誤ってしまう可能性があると思います。また、単価が高いかどうかは、代理人業務かコンサルかという業務の種類によって決まるのではなく「需要と供給」によって決まる、つまり代理人業務であってもニーズの高い領域で質の高い仕事をすれば単価は高くなるでしょうし、コンサルであっても需給が悪ければ単価は下がるということだと思います。

 次に②ですが、知財ファンドの管理や運用は、残高の○%の管理報酬や値上がり分の×%の成功報酬という利益が得られというビジネスモデルになります。JDC信託iPBなんかが追求しているのがこのモデルと思われます。このモデルの成否は、第1段階では運用資産の残高がどれだけ積み上がるか、第2段階ではどれだけのリターンを実現できるるかにかかってきますが、第2段階が成功すれば第1段階の運用資産の募集も楽になるという好循環が期待できます。要するに、‘知財’に投資したい投資家をどれだけ掘り起こせるか、さらにどれだけパフォーマンスをあげられるかがこのモデルの成功の鍵です。

 続いて③ですが、商品やサービスを売る仕組みを作るということで、知財関連のツール販売や、人材や知的財産権のマッチングサービス、教育ビジネスなどが考えられます。ツールではコスモテックみたいにビジネスモデルを既に作り上げていると思われる企業もあります。マッチングビジネスでは、人材関連だとマーケット(知財人口)がそれほど大きくないので、ポテンシャルという意味では権利を対象にするほうが大きそうで、IPTJが代表プレイヤーといったところでしょうか。教育ビジネスでは今はLECが代表プレイヤーなのでしょうか(代々木塾はビジネスとしてやっているという感じではありませんし)。この領域での成否は、まさにビジネスセンス次第ですね。

 最後にもう一つ話題の‘価値評価’ですが、②のイメージが強いかもしれませんが、事業モデルとしては①(評価業務への報酬)か③(評価ツールの販売)になることが多いと思います。本当に資金を投じてリスクをとるに足る評価であれば、評価に基づいて実際に投資するという②のモデルにしてしまうことも可能でしょうが。

 以上、あくまで主観に基づく分類ですので、例示した企業の方が「うちは違う」ということがありましたら、たいへん申し訳ありません。非公式の個人的な見方ということでお許しいただければと思います。

不祥事?

2007-12-11 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融に企業の不祥事と株価の関連性に関する記事が掲載され、京都大小佐野教授と立命館大堀准教授のまとめた「企業の不祥事と株価パフォーマンス」の研究結果が紹介されています。これによると、
 製造物責任 ⇒ マイナスの影響。発覚後10日程度で回復する傾向。
 法令順守違反 ⇒ 持続的にマイナスの影響。投資家は損失の可能性大。
だそうです。そして何と「特許訴訟」も不祥事の一つに採り上げられていて(「不祥事」とはちょっと違うように思いますが…)、発覚後の株価の特徴は、
 一貫した傾向見られず。上昇する場合も。
とのことで、以前に私がいくつかの事件を調べたときの結論と同様でした。株価は基本的には将来収益を織り込むものであり、過去の清算である特許訴訟による損害賠償云々は基本的には気にされず、設計変更やライセンス等で事業継続が可能であれば、株価への影響は軽微ということなのだと思います。
 この記事では不祥事全般についての結論として、事後対応が重要、とまとめられています。特許訴訟についても同様で、将来の事業への悪影響をどのように回避するかを速やかに情報開示することが求められるのでしょう。

シンプルな戦略(ダイ・ハード4.0より)

2007-12-10 | 知財発想法
 週末に‘ダイ・ハード4.0’をDVDで見たのですが、いつものようにブルース・ウィリスが一人で敵陣に乗り込んでいくときに、今回の事件に巻き込まれて同行することになった相棒から、
「で、戦略とか、そういうのって考えてるんですか?」
と問われたのに対して、
「娘を救出する。それ以外は全部殺す。」
と答えるシーンがあって、思わず笑ってしまいました。実はこれは笑いごとではなく、本当にシビアな戦いの場では、戦略はこのようにシンプルでないと徹底することができない。ごちゃごちゃいったところで、知財戦略も結局のところは、
利益を生み出すビジネスを、知的財産権でしっかり守る。
ということに尽きるし、あまり複雑な戦略を策定したところで、それがどこまで実行工程に浸透していくかには疑問があります。勿論、企業の場合はブルース・ウィリスのように一人で戦うわけではないので、戦略を実践するための仕組みはしっかりと作り込んでいくことが必要になりますが、目指すところはシンプルにまとめておくべきであると思います。
 これは‘戦略’というよりもう一つ上位の‘規範’に関するものですが、オリックスの行動規範なんかはシンプルでとてもよいと思い、ブックマークをしています。

 その行動は前向きだろうか
 その行動は公正だろうか
 その行動は謙虚だろうか


ダイ・ハード4.0 (特別編/初回生産分限定特典ディスク付き・2枚組)

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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