経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

「知的財産を活かした経営戦略」と「経営に資する知的財産戦略」の違い

2013-12-01 | 企業経営と知的財産
 年明けの1月27日に開催される「国際知的財産活用フォーラム2014」のパネルディスカッション「知的財産を活かしてグローバルに展開する中小企業の成長戦略」(トラックB-1)で、モデレータを務めさせていただくことになりました。
 このセッションのパネリストは、中小企業の知財に関するオピニオンリーダー・鮫島弁護士、拙著・論文・このブログ等で度々とりあげさせていただている株式会社エルムの宮原社長(「見て感じること」etc.)と株式会社エンジニアの高崎社長(「エンジニア・高崎社長の「MPDP」理論」etc.)、そして今年の春に大変刺激的なお話を伺わせていただいた株式会社ナベルの南部会長という豪華メンバーです。パネリストの皆様から素晴らしいお話を伺えることは間違いありませんので、中小企業と知的財産というテーマにご興味のある方は、是非ご参加ください。

 さて、このパネルディスカッションの「知的財産を活かしてグローバルに展開する中小企業の成長戦略」というタイトルですが、よくありそうなキーワードを並べただけのようにも見えますが、実は事務局の皆様の御意見も伺いながら、かなり悩んだ上で決定したものです。
 ちょっとばかり裏話をしてしまうと、当初の仮称は、「中小企業の・・・グローバルビジネスにおける・・・知的財産戦略」といった感じのタイトルでした(以下の話に繋げるために、本当の仮称をちょっとばかり変えています)。
 ところが、ご登壇いただく経営者の皆様とこれまでに何度かお話をさせていただたことや、鮫島先生と各種委員会で考えてきたことを思い出してみると、この案では、何かうまくテーマの本質を表現しきれていないような・・・。
 自社のオリジナリティ、自社の強みである知的財産をしっかり意識し、それを活かしたビジネスモデルを構築・実践している経営者のお話は、「知的財産戦略(技術開発戦略、デザイン戦略、ブランド戦略etc.)」とはちょっと違うような気がする。それは「知的財産に関する戦略」というより、「知的財産(自社のオリジナリティ)を活かした経営戦略」なのです。そう考えてみると、
 「知的財産を活かした経営戦略」
 「経営に資する知的財産戦略」

の2つは、あまり意識して使い分けられていないかもしれないけど、同じようでありながら実は違う。前者が経営者目線であるのに対して、後者は知財部門や知財の専門家の目線なのです。「上から知財」の図で言えば、各々の企業が抱える「経営・事業の課題」に対して、多様性のある「知的財産のはたらき」を当てはめ、「知的財産に取り組む目的」をしっかりと定めるところまでが「知的財産を活かした経営戦略」。そして、その目的をしっかりと意識し、目的に対して効果的な知的財産マネジメントを実践する仕組みを作り、実践可能にしていくのが「経営に資する知的財産戦略」。
 各社がどのような課題を抱えていて、知的財産マネジメントに取組むことによってその課題にどのような効果が得られたのか。どのような考え方・ビジネスモデルによって、自社のオリジナリティである知的財産がビジネスの優位性に結びついているのか。海外展開の場面にもスポットを当てながら、今回のパネルディスカッションはそのあたりを中心に議論していきたいと考えていますので、「知的財産を活かしてグローバルに展開する中小企業の成長戦略」というタイトルにした、という次第です。尚、「経営戦略」ではなく「成長戦略」としたのは、各社が海外市場にも積極的に挑戦している企業であること、「成長戦略」が現在の日本経済に求められているキーワードでもあることから、方向性がやや漠然としてしまう「経営戦略」ではなく、より具体的な方向性を意識できる「成長戦略」としました。

 さて、「知的財産を活かした経営戦略」と「経営に資する知的財産戦略」の違いをこうやって意識してみた場合、特に中小企業と知的財産というテーマについてこれまでに論じられてきている内容は、後者に偏りがちではないかという気がしています。前者については、何か型にはまった一般論が所与のものとして一律にザックリ当てはめられてしまっている。例えば、
国内市場の縮小→中小企業も海外展開が必要→海外では模倣品対策が課題→海外の知財制度を知り権利取得に努めよう!
大企業の低迷→下請企業の受注減→新規事業・自社商品開発が課題→新商品開発のために特許を取得・活用しよう!
といったストーリーを前提として、「海外展開のための知的財産戦略」や「新製品開発のための知的財産戦略」といったパッケージが提供される。もちろん、各社が経営戦略を熟考して、海外展開や新製品開発の必要性が明確になっているならこうしたパッケージは十分に意味をもつのですが、知的財産(=自社のオリジナリティ)をどのようにハンドリングするかということは、経営戦略の方向性が固まった後だけでなく、その前の段階でも考えるべきことなのではないだろうか。
 先日、「元気な中小企業はここが違う!」にもご登場いただいたしのはらプレスサービス株式会社の篠原社長に、「知識集約型産業」を標榜し、社員間での情報共有を進めることによって「メンテナンスサービス」という新たな市場を開拓してきた詳しいストーリーをお聞かせいただいた際に、次のようなお話をされていたことが大変印象に残っています。
「中小企業が元気になるために必要なのは、新規事業とか、海外展開とか、そういった形の問題ではなく、『考え方』こそが重要なんですね」
 社員のもつ経験や知識を「知的財産」と捉え、それを見える化して社員間での共有を進め、日々の業務に活用することで、ハイレベルで安定した「メンテナンスサービス」を提供する。この「考え方」こそが、まさに「知的財産を活かした成長戦略(経営戦略)」であるのだと思います。