経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

「地域密着型中小企業」の「広義の知財活用」促進について

2015-04-26 | 知財一般
 2月に設置された知的財産戦略本部の「地方における知財活用促進タスクフォース」に、委員として参加させていただいています。第1回の「中小企業による大企業の知財の活用促進」、第2回の「産学連携における大学の知財の活用促進」に続き、第3回は「地方中小企業による知財の活用促進」がテーマとなりました。
 この会議では、中小企業の知財活用について議論する場合、少なくとも2つのレイヤーに分けて考えるべきだ、ということがコンセンサスとなってきましたが、おそらくこの点は議論を整理する上での重要なポイントになるはずです。

 中小企業に知財活用を促す施策(もちろん知財活用自体が目的ではないので、知財活用という手段によって中小企業を活性化する施策、が正確なところですが)について議論すると、よく出てくるのが「中小企業が特許を取得しても、使えないことが多い。なぜならば、1件や2件の特許では大手に対抗できないことが多いし、訴訟をするにはコストがかかる。勝訴しても日本では大した損害賠償額は得られないから、こんな状況では特許をとる意味がない」といった意見です。もちろんそういう側面があるのも事実ですが、それが問題の本質であるかのように言われると、個人的には以下の2つの理由から違和感を覚えることが否めません。

 1つめは、こうした意見が、特許権は競合他社を排除するために活用できなければ意味がない、という考え方に固執しているということです。
 こうした意見では、前提となる中小企業に、自社の独自技術を活かした製品で市場を独占する、いわゆるグローバルニッチトップの中小企業がイメージされていると思いますが、現実に目を移すと、そういった中小企業は全体のほんの一部でしかありません。大多数の中小企業(ここでは規制に依存して生き残る特徴のない中小企業やペーパーカンパニーは除き、広義の「知的財産」に関連する中小企業に限定します)はそうしたモデルで事業を展開するのではなく、地域をベースに様々なニーズに対応したものづくりやサービスの提供に努めているというタイプの企業です。訴訟コストだ、損賠賠償額だと言われてもピンとこず、知的財産なんて当社には関係ない話だ、と感じてしまうことでしょう。
 やはりここは、グローバルニッチトップを狙う先鋭的な「海外市場展開型中小企業」と、地域のニーズにしっかり応えて実績を積み上げていく「地域密着型中小企業」に区分して、知財活用のための課題と対策を整理していかないと、特定のレイヤーにしか響かない施策ばかりになってしまいかねません。

 2つめは、先に示したような意見では、「知財≒特許」「知財活用≒特許権の行使やライセンス」のように、狭義の「知財」「知財活用」が前提になっているということです。
 詳しくは以前に「一番必要なのは『知的財産』の意味の社会的なコンセンサスを形成することではないか」のエントリにも書きましたが、知的財産基本法にも明記されているとおり、特許権などの知的財産権そのものが「知財(知的財産)」ということではなく、その対象になる発明や考案、さらには技術情報や営業情報など、幅広くその企業に蓄積されている独自の知的資産が、活用の対象となる「知財(知的財産)」であるはずです。例えば、属人的なノウハウを見える化して社内で共有することにより社員のレベルアップを図るというように、その企業ならではの強みをうまく引き出して事業に活かせれば、それも立派な「知財活用」です。先日の日刊工業新聞に掲載いただいた「中小企業の底力・特許の力で引き出そう」のコラムも、そうした「知財活用」について述べたものです。
 こうした広義の「知的財産」の活用を促進する施策についても考えていかないと、特に前述の「地域密着型中小企業」にも訴求して、知財活用の裾野を広げていくことにはつながらないでしょう。

 といったことから、タスクフォースの第3回ではあれこれ意見を述べさせていただきましたが、今後も「地域密着型中小企業」の「広義の知財活用」促進のためのプロジェクトには、積極的に関わらせていただきたいと思っています。

中小企業の底力・特許の力で引き出そう

2015-04-18 | 企業経営と知的財産
 本日は「発明の日」ですが、昨日の日刊工業新聞の発明の日・特集記事に寄稿させていただいたコラムの本文を、以下に転載します(掲載前の元原稿のため、紙面掲載文とは若干の違いがあるかもしれません)。ややエモーショルな感じの仕上がりになってしまいましたが...


特許の力を活かして中小企業の底力を引き出そう

 手間や費用がかかるのに、どうして特許を取得する必要があるのか。中小企業関係者との間でよく話題になるテーマだが、多くの場合、特許の専門家からは次のような答えが返ってくるであろう。技術を模倣されないため、市場を独占するため、ライセンスで稼ぐため...
 では、現実に目を移してみるとどうだろうか。たしかに、自社製品に関連する特許権を取得して、高収益を実現している中小企業が存在している。特許権が参入障壁として働いていることが推測されるが、そうした企業が競合に積極的に権利行使しているかというと、必ずしもそうではない。参入障壁として機能する他に、何か違うメカニズムが働いているのではないだろうか。
 そうした疑問を抱いているとき、特許活用の成功事例としてよく知られているある中小企業の経営者に、次のようなお話を伺った。
「当社の製品は、特許があるから売れているのではない。製品がいいから売れるのだ」。「だから、なによりも重要なのは製品開発である」。
まさにそのとおり。顧客が製品を購入する理由は、特許があるからではなく、その製品が欲しいからだ。しかし、ここで一つの疑問が湧いてくる。製品開発が最重要と言いながら、なぜその企業は特許取得にも力を入れているのか。特許に費やす労力や費用も、製品開発に回すべきではないのか。
 その疑問に対する答えの1つは、特許取得のプロセスが開発力の強化に役立つということである。
 特許を取得しようとすれば、出願前に先行技術の調査が必要になる。調査を通じて既存の技術水準を客観的に把握し、未解決の課題を乗り越えなければ特許を取得することはできない。特許取得を目標に製品開発に取り組めば、開発された製品は、これまでの悩みを解決する新たな機能を備えた製品となるはずである。その経営者の言葉を借りれば「当社が世に出す製品は常に新しい」ことになる。その分野をリードして、新たなトレンドを作り出す存在となっていることが、こうした企業が競争優位となる最大の要因であり、特許取得のプロセスがその支えになっているといえるであろう。
 さらにもう1つの答えを、多くの元気な中小企業と接するなかで発見することができた。特許の存在がオリジナリティーの証明となり、その企業で働く人々のプライドを支えているということである。
 特許を取得した事実は、自社の技術が世界初であることの客観的な証明になる。それは開発担当者のみならず、営業担当者にとっても、自分が扱っている製品は他にない最先端のものという自信につながる。営業の自社製品に対する自信や思い入れが、顧客の心を動かし、売上に結びつく。特許の存在が販売力の強化につながるのである。
 開発、営業にとどまらず、他にはできない仕事をやっているという意識は、社員の力を引き出す原動力になる。一人ひとりがプライドをもって生き生きと働いていれば、魅力のある企業として多くの協力者を惹き寄せ、社外の力を活かしてくことにもつながるであろう。
 他社を攻撃して、自社の技術を守ることだけが特許の活かし方ではない。法の力のみに頼らず、人の力によって支えられている企業こそが、本当に強い中小企業である。人の力を引き出し、開発力や販売力という企業の基礎体力強化にも役立つのが、特許のもう一つの働きだ。
 優れた技術、固有の技術を持つ中小企業は各地に存在している。特許の力でこうした中小企業の底力を引き出すことが、地方創生という国家的な課題への貢献にもつながるはずだ。