経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知的財産を活かして競争力を高めよう

2011-10-12 | 企業経営と知的財産
 経営情報誌「オムニマネジメント」(2011年8月号)にご掲載いただいた原稿、「知的財産を活かして競争力を高めよう」を以下のWebページに公開しました。

  論文・記事アーカイブス http://www.ipv.jp/activity/archives.htm
  「知的財産を活かして競争力を高めよう」 http://www.ipv.jp/images/archives/omni1108.pdf

 論文には長々と書きましたが、要するに(といってもちょっと長いですが)こういうことです。

 「知的財産を活かす」とかよく言われるけれども、企業(特に中小・ベンチャー)の経営者は何をどのように考えればよいのだろうか?

 知的財産というと、技術やブランドを守る、とイメージしやすいかと思いますが、企業の競争力強化という目的を考える場合、大事なことは「技術やブランドなどの知的財産を囲い込むこと」ではなく、「技術やブランドなどの知的財産を活かして『顧客を囲い込むこと」です。では、知的財産がどうやって顧客の囲い込みに結びつくのか。
 技術やブランドなどの知的財産は、自社が工夫して磨き上げてきた他社との違い、顧客に対するセールスポイントとなるものです。
 知的財産に力を入れるということは、第1にそれをしっかりマネージメントする(権利を取得したり情報を管理したりする)ことによって、顧客にアピールする自社の特徴に形をつけること。これをやらないと、どこが自社の特徴なのか、社内で認識を共有することができないし、自社の強みを「会社の財産」として保有することもできません。また、強みに形をつけようとする過程で誰が貢献したかも明らかになってくるので、社員の成果を評価し、ヤル気を引き出すことにもつながります。
 こうして形をつけた知的財産は、知的財産権を得ることで競合他社の排除に結びつくほか、サプライヤーとの交渉も有利になるし、「わが社のオリジナルですよ」とPRすることにも使える。形をつけて権利にしておけば、他社と一緒に使いやすくもなり、自社だけで足りない部分をパートナーにカバーしてもらう可能性も広がる。競合他社を排除するというだけでなく、形を付けた知的財産=自社の強みを顧客に届けるために、様々なオプションを得ることができるということです。
 ステレオタイプの知財の成功イメージ(他社を排除して市場独占・ライセンス料でがっぽり儲ける)に囚われず、こうしたオプションの多様性を意識して、「顧客を囲い込む」という目的のために最適の方策を探ること。これがまさに「知的財産を活かす」ことの本質と言えるでしょう。

「人の力」を引き出す

2011-10-01 | 企業経営と知的財産
 時が経つのは早いもので、銀行を辞めて独立してから昨日でちょうど10年となりました。心技体、どれが欠けてもやっていけないのは勿論のことですが、いろいろ自分で動いてみて感じるのは、特に「心」の影響が大きいということです。「気」というものが周りに伝わるのか、前向き・外向きな気持ちで動けているといろんなチャンスをいただけることが多い。後向き・内向きになってしまわないよう、気を付けなければいけないと改めて思う次第です。

 さて、今年度も中小企業の知財支援関連のいくつかの事業でお声掛けをいただき、アンケート調査や委員会での議論などがスタートしました。こうした機会に感じることは、「知財活用」という言葉に表れているように、どうも「知財」というと「創造→保護→活用」、すなわち「発明をして特許を取り、市場の独占や他社へのライセンスでお金を稼ぐ」というステレオタイプの思考から抜け出せないことが多い、ということです。だから、具体論になると、模倣品対策とか特許流通=ライセンス促進といったテーマに向かい、その面での効果が見えずに「知財をやっても・・・」という結論に陥ってしまうか、そこを重点課題と捉えて対象となる領域を狭めてしまいがちです。
 しかしながら、経営者が目指しているのは「会社をよくする」ことであって、「知財を活用する」ことではありません。「独自の製品やサービスを展開し、かつ知財活動にも積極的に取り組んでいる元気な中小企業」の経営者にお話を伺うと、経営者の意識は「知財を活用している」のではなく、「事業を運営し」「会社を経営している」のであって、その中で「知財活動にも効果的に取り組んでいる」というケースが殆どです。ステレオタイプのイメージ通りに知財が活用され、知財が目に見える形で利益を生んでいるかということよりも、知財活動が会社の強みを固めていく上で役に立っているかどうかが問題なのです。「知財活用」という言葉に引きずられ、権利そのものが利益に結びつくことをイメージしすぎてしまうけど、ほとんどの場合、会社に利益をもたらすのは権利よりも人の力です。知財活動がその「人の力」を引き出すのにどのように役立ち得るのか、例えば、ナベルさん(「経営に効く7つの知財力」80-83p.)は自社の強みを知り提案力を磨くことに知財活動を活かし、しのはらプレスサービスさん(「ココがポイント!知財戦略コンサルティング」83-91p.)は知識の創造と共有を目的に知財活動に力を入れている。テンパール工業さん(「会社のプライド」のエントリ参照)では「営業も含めた社内の士気に関わる問題」とのお話がありましたが、知財活動が「規模は大きくなくても、うちの会社はこの点に関しては一番だ」というプライドの裏付けとなっているというケースもあります(これは中小企業に固有のケースで大企業とは異なりますが)。ここをうまく説明するのは難しいのですが、そういう企業は、どこかが、ちょっと違う。その違いは、たぶん社内に「うちの会社は、ちょっと違う。」というプライドがあって、それが社内で人の力を引き出すことに加えて、周囲にも良い「気」を出して様々なチャンスに結びついているのではないか。おそらく知財活動は、そこを支える大事な役割を果たしているということなのだと思います。つまり、「権利」がお金を生むというステレオタイプの効果だけでなく、「活動」が人の力を引き出して結果的にお金にも結びつくという効果を見ていかないと、中小企業が知財に取り組むことの本当の意味は見えてこないのではないでしょうか。