経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

最近考えることを2つ。

2012-10-16 | 企業経営と知的財産
 先週は、土、日とお休みの貴重なお時間を頂戴して中小企業の経営者お2人にインタビュー、いろいろといい話を伺うことができました。その件は追ってまとめるとして、今日は最近考えることを2つ。

 1つめは、元気な中小企業とそうでない中小企業の違いについて。
 このテーマについては、最近は中小企業向けのセミナーでもよくネタにしていますが(プレゼン資料ではこんな感じです。)、元気な中小企業に共通する
(1) 気持ちのよい挨拶
(2) 上手な説明
が、その会社のファン、その会社の応援団を生み、規模は小さくてもそれ以上のパワーをもった存在になっている、というのがその骨子です。
 つまり、元気な中小企業は、社員が自分の会社・自社の製品にプライドを持ち、強い当事者意識をもって仕事をしているから、30人なら30人のパワーが最大限に活かされている。そしてそれだけでなく、(1)や(2)が周りの人を巻き込み、その会社の製品を宣伝しましょう、販売しましょうという代理店、面白い技術、面白いテーマだから一緒に開発をやりましようという共同開発先、その製品に合った部品はうちが供給しますよ、その工程の加工はうちで請け負いますという外注先、興味深い事業だから資金面を応援しましょうという取引金融機関、新しい支援制度ができたら御社にピッタリではと知らせてくれる支援機関など、多くの協力者のパワーがそこに加わっていくわけです。それに対して、説明は独りよがりでよくわからない、なんだか感じが悪いという会社だと、周囲の人々をなかなか巻込めないだけでなく、30人なら30人の社員のパワーすら十分に引き出せない。これが大きな差になってくるのは当然のことです。先週末にインタビューをした2社の社長も、いずれも社員より1桁~2桁くらい多くの社外の方々が、自社に関係して動いてくれているのではないか、とのことでした。
 同じ社員が30人という中小企業でも、その先にどれだけ多くの関係者が動いているかによって、パワーも元気も全く違ってくるということです。
 中小企業の場合、限られた人材、資金などのリソースを有効活用することは、極めて重要なポイントになります。ここが大企業とは大きく異なる部分であり、その重要性は知財を考える際にも例外ではありません。だから、中小企業の知財を考える際には、排他的な側面ばかりに目を奪われることなく、知財を使っていかに自らの活動領域を広げ、仲間を増やしていくか、という視点を常に意識しておくことが重要になるのです。

 2つめは、「特許権を取得した分野で市場シェアが高くなっている→特許権が参入障壁として働いたので事業がうまくいった」という論調の、ある論文を読んでいる際に感じたことです。自分自身もかつては特許で参入障壁を構築→事業をコントロールして高い利益率、となるのが知財戦略の理想像、といったことを主張してきたのであまり偉そうには言えませんが、このような短絡的な因果関係は事実を正確に反映していないことが多いし、時としてこうした論調は、経営者に対してとても失礼な言い方になるので、注意が必要です。
 特許をとったから事業がうまくいった、ということは、つまり、道具が良かったから勝てた、バットが良かったからヒットが出た、と言っているようなものです。以前のエントリに書いた、微妙な空気・複雑な表情は、こういう場合に表れてしまうのかもしれません。
 そりゃあ、バットに問題があればヒットを打ちにくいのは事実だから、バットの重要性を否定するものではないけれども、じゃあこのバットを渡したら貴方もヒットが打てるのか、と。それは、日頃からのトレーニング、試合前の準備、打席での読みがあってこそヒットが生まれるわけであって、ヒットを打ったのはバットではなくプレイヤーです。だから、我々のような立場にあるものが調査・分析すべきことは、単にこのバットでヒットが出ました、ということではなく、プレイヤーがバットに何を望み、どのように使おうと考え、ヒットの出たバットのどういう部分が良かったのかといったことであり、そういった情報を基にして、プレイヤーによりよいバットの使い方を伝えていくことです。つまり、経営者がなぜ特許を取ろうと考え、特許が事業の成功にどのような役割を果たしたかを把握し、そこから経営者が特許についてどういう場面でどのように考えていけばよいのか、というコツなりガイドラインなりを示していくことにあるはずです。
 こういう思考は、いかにしてよいバットを作るか、という世界とは頭を使う方向が全く異なるので、バット職人同士で議論をしていても埒があきません。やはりプレイヤーの意見をよく聞くこと。そして、ゲームのルール、ゲーム全体を構成する要素をよく理解して、バットの果たすべき役割を客観視できるようにしておくこと。事業、経営と特許の関係を考えるには、そこができていないと話になりません。


<お知らせ>
1. 10月26日(宇都宮市) 第5回首都圏北部4大学(4u)合同知財実践セミナー で、「事例で学ぶ知的財産の意味と役割」と題して講演をさせていただきます。6-7月に関東各県を回らせていただいた「発見!元気な中小企業の3つの秘訣~知的財産で磨こう!あなたの会社の強み~」に準じた内容となる予定です。

2. 11月9日(三条市) 戦略的知財マネジメント促進事業 知財セミナー で、「発見!元気な中小企業の3つの秘訣
~知的財産で磨こう!あなたの会社の強み~」と題して講演をさせていただきます。6-7月に関東各県を回らせていただいたシリーズと同じ内容になる予定です。

3. 1月9日(米子市) チャレンジ The 知財2012 in 鳥取 で、「知財の力で会社を元気にしよう!」と題して講演します。特許や商標を出願したことがないという中小企業の皆様にも、是非ご参加いただければと思います。

4. 1月18日(広島市) 知財協・臨時研修会(広島)で、「経営に貢献する知財活動の実践と事例紹介」についてお話させていただく予定です。この他に知財協さんでは、11月16日(金)にも、関東化学第一部会の会合で講演をさせていただく予定です。

「売るための知財戦略」の螺旋的発展

2012-10-08 | 企業経営と知的財産
 前回のエントリで、中小企業の知財活動を考える際のポイントとして、
(1) 知財の外部への働き以上に、内部に生じる効果を重視すべき
(2) 「知財をどう守るか」以上に、「売り上げをどう増やすか」を強く意識すべき
ということを書きました。
 では、(2)について、具体的に何をすべきかというところですが、以前から、特にビジネスモデル特許ブームの頃にも「カタログに『特許出願中』と表示しましょう」ということはよく行われてきました。それと一体、どこが違うのか。むしろそういうやり方は、誇大広告で胡散臭く見えてしまうケースもあり、抑制的であるべきではないか、といった意見が出てくるかもしれません。

 しかしながら、同じようにカタログに「特許出願中」と表示するとしても、ビジネスモデル特許ブームの頃によく行われていたようなPRと、(1)と(2)に基づいた方法は、大きく異なるものです。
 つまり、内部的なプロセスを重視した後者の方法では、先行技術との対比などの特許出願のプロセスを通じて、自社が開発した技術の特徴、他との違いを客観的に理解することによって、自らの開発した製品は「ここが他社にはない、当社にしかできない特別なもの」であるとの自信を深めることになる。そして、それを営業担当にも伝えることによって、自らが売っている製品に「他社にはない、特別な製品である」とのプライドを持ち、顧客に対して自信をもって推奨できるようになる。営業担当がそうやって開発の成果を積極的に外部にPRしている姿を知って、開発担当は「もっとよいものを作らなければ」とモチベーションを高めることになる。こうした流れを作っていくこと、つまり、単に表面的に「特許ですよ」とPRすることではなく、よりよい製品を作って顧客に使ってもらおうという会社の内部のエネルギーを高めていくこと、そこに「売るための知財戦略」の本質があるわけです。

 こうやって考えてみると、かなり昔のエントリで紹介した、「使える弁証法」に書かれていた「螺旋的発展」という考え方を思い出します。一見すると同じところにいるようであっても、実は螺旋状に発展して一段高いところに登ってきている。そうであって欲しいというか、そうであってもらわなければ困りますが。

使える 弁証法
クリエーター情報なし
東洋経済新報社


微妙な空気・複雑な表情の裏にあるもの

2012-10-04 | 7つの知財力
 今週は、ある仕事の関係で、中小企業2社の社長さんにインタビューをさせていただきました。

 問題意識の一つである、
「実際のところ、中小企業にとって知財とは何か、知財権を取得することにどういう意味があるのか?」
について、7つの知財力(+1)の図を示して、「特にどこが効いていると思われますか?」 と質問するのですが、いろいろな部分で 「そういう効果はある」 とご同意をいただけるものの、一方で、今週のインタビューに限った話ではありませんが、諸手をあげて 「そうだ、そのとおり、それが知財権だ!」 というわけではありません。社長さんのちょっと複雑な表情から、
「確かに知財権が効いているといえば効いてはいるけれども、あなたとしてはそういう風に説明したいわけね」
という微妙な空気を感じることが少なくありません。

 その傾向は、特に図で見た場合の右側(=外部にはたらく効果)において顕著で、高いシェア、大手へのライセンスや事業提携などを実現するのに、確かに知財権があったこともプラスにはなっているものの、当然ながらそれだけでできたことではない。つまり、
社長が(知財権も含めて)うまくビジネスをハンドリングしたから実現できた
わけであって、特許権などの知財権を取得したから、高シェアやライセンスが実現できたというわけではない、ということです。シェアを高めたり、事業提携を実現したりするためには、知財権以外にも複雑な要素がいろいろと絡み合ってくるから、当然といえばあまりに当然のことなのですが。

 その一方で、「そこは確実に言える」 と共感いただくことが多いのが、図で見た場合の左側(=内部に生じる効果)の部分です。
 特許権などの知財権取得を通じて、自らの強みを客観的に認識する。オリジナリティが証明されて、営業マンが自らが売っている商品に自信を持つ。社員の貢献を形にする。自分達が取組んできたこと・実現してきたことを、周囲にも見える形で記録に残す。
 こういった効果は、確かにあると。そして、これらの効果が右側にある効果(=外部にはたらく効果)と決定的に異なるのが、「自らがコントロール可能である」という点です。

 「知財権の排他的効果で模倣を防止できる」 といっても、多少性能が落ちたり少しコンセプトを変えたりした類似品に圧倒的な低価格で市場を抑えられてしまう、模倣品云々以前に商品が認知されず市場が広がらない、といったことも起こり得ることです。 「知財権を抑えることで取引先との交渉力を強化できる」 といっても、相手が出口(=顧客)を抑えていたら、強気に出るにも限度があります。つまり、右側にある効果(=外部にはたらく効果)は、知財権を抑えただけでコントロールしきれるような性質のものではありません。
「知財権は一つの武器になり得るにせよ、そこから先が難しいところなんだよ」
というのが、社長さんの複雑な表情の裏にあるのでしょう。
 それに対して左側は、もちろん一人一人の人間をコントロールできるという意味ではありませんが、少なくとも外的要因の影響を受けにくい社内の問題として取り組んでいけることができるのです。だから、そこについては「確かにその通り」 と答えやすい。そして、これらの効果というのは、どうやって個々人の力を引き出して会社の力に結集していくかという中小企業に共通かつ重要な課題に直結するものであり、やはり、
中小企業の知財への取り組みは左側(=内部に生じる効果)に軸足を置くべきで、右側(=外部にはたらく効果)は+αの効果と認識しておくべき
ではないでしょうか。
 中小企業の知財というテーマに対しては、いまだに「模倣排除」「侵害防止」みたいな切り口で語られていることが殆どですが、経営者の共感を得てシンクロするためには、ここをわかっておくことがとても重要であるように思います。

 そしてもう一つ痛感するのが、昨日も書きましたが、どんな切り口にせよ中小企業経営を考える際には、「売り上げをいかに増やすか」というテーマから離れるべきではない、ということです。模倣品を排除しても、他社権利の侵害を予防しても、ライセンス先を見つけたとしても、売り上げがあがらないことにはどうしようもありません。資金調達だって一時しのぎにはなりますが、売り上げをあげないことには会社の将来はありません。
 そこを理解して
「売り上げをどう増やすか」 という意識を 「知財をどう守るか」 の上に置いておくこと
これももう一つの重要なポイントであるように思います。


<お知らせ>
1. 10月から開催される「あいち知財経営塾」の講師を務めます。
 ‘塾’形式になる第2回以降はほぼ定員に達したようですが、10月10日(水)の第1回は公開セミナーで、第1回のみで、どなたでもご参加いただけますので、お近くの方は是非ご検討ください。
 愛知県ホームページ~「あいち知財経営塾」の参加者を募集します!

2. 10月26日(宇都宮市) 第5回首都圏北部4大学(4u)合同知財実践セミナー で、「事例で学ぶ知的財産の意味と役割」と題して講演をさせていただきます。6-7月に関東各県を回らせていただいた「発見!元気な中小企業の3つの秘訣~知的財産で磨こう!あなたの会社の強み~」に準じた内容となる予定です。

3. 11月9日(三条市) 戦略的知財マネジメント促進事業 知財セミナー で、「発見!元気な中小企業の3つの秘訣
~知的財産で磨こう!あなたの会社の強み~」と題して講演をさせていただきます。6-7月に関東各県を回らせていただいたシリーズと同じ内容になる予定です。

4. ‘ローマの市場にて’の‘会員の声’のページに登場させていただきました。特にQ5への回答、ベンチャーは一見若者の世界のようでありながら、変化を体感してきている経験、年季が入っていることには大きな意味がある、というのが一番言いたかったところです。

インタビュー記事掲載のお知らせ(その2)

2012-10-03 | お知らせ
 先般このブログでもお知らせした月刊「発明」のインタビュー記事ですが、10月号に後編が掲載されました。
  中小企業の知的財産でニッポンを再生! Vol.2
 インタビュー記事のPDFファイルを下記リンクに公開しました。
  http://www.ipv.jp/images/archives/invention1210.pdf

 このブログにも何度か書いてきた内容ですが、中小企業の知財を考える場合、「売り上げを意識する」というところが非常に重要なポイントであると思います。
 大きな組織であれば専らディフェンシブという立ち位置もあり得るでしょうが、中小企業だとやはり一人一人が前を向いてボールを受け、得点=売り上げを狙っていかなければならない。たとえ自分自身はシュートを打たなくても、FWがシュートを打ちやすくするためにどういうボールを出せばよいかを意識することが必要です。例えば、最前線で戦う営業マンに、「特許取れたよ、やっぱりうちの商品はライバルより進んでいるから、自信を持って売り込んできて!」と背中を押す、そういうスタンスで取り組まないと、知財は中小企業の日常的な活動と同期しないというか、中小企業の仕事にうまく溶け込んでいかないように思います。
 昨日も、ある中小企業の社長に、
「会社を元気にするためには、お客さんに喜んでいただいていると社員が実感することが必要。お客さんに支持されるということは、商品が受け入れられているということであり、売り上げがあがるということです。つまり、商品を売ってお客さんに喜んでいただくこと、これが何より重要です」、
といった趣旨のお話を伺いましたが、こういうことをよく理解した上で、もう一度自分の頭を使って、知財でできることを考えていく。「知財とはこういうものだ」、と囚われてしまわないことが肝心です。

THE INVENTION (ザ インベンション) 発明 2012年 10月号 [雑誌]
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