経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

複雑なものは何かが決定的に間違っている。

2008-05-31 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネスの5月26日号はなかなか面白い記事が多かったですが、ウォーレン・バフェットの語りから、その一節を以下を引用します。

 金融の専門家や経済学者が我々にあまり関心を示さないのは、私の投資哲学があまりにもシンプルだからだ。大学教授は複雑なモデルや方程式を作りたがるが、教室で知性をひけらかすためのものであって、現場では役に立たない。複雑なものは大抵の場合、何かが決定的に間違っている。

 これは、たぶん知財戦略についても同じことが言えるように思います。知財戦略について難解な本がいろいろ出ていますが、現場を動かすために必要なのは、複雑で難しい理論ではなくシンプルなメッセージです。知財戦略の基本構造は、知的財産権というツールを参入障壁として効果的に活用し、自社の優位性を収益に結び付けていくというシンプルなものであり、あとはその企業が戦っている市場の中で特許権等のそれぞれのツールが実態的にどのように働いているのかを分析し、効果的な使い方をよく考えていく。その原則を関係者間でしっかり共有することが大切だと思います。

↓ バフェット自身の著作ではありませんが、投資の本質や企業経営のあり方を深く考えさせられる名著です。
ビジネスは人なり 投資は価値なり―ウォーレン・バフェット
ロジャー ローウェンスタイン
総合法令出版

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競争環境に関する問題を解決する

2008-05-28 | 知財業界
 出張中に「SEからコンサルタントになる方法」という本を読んだのですが、「知財実務家からコンサルタントになる方法」とでも置き換えて読んでみるとなかなか面白いです(ご参考;知財コンサルタントと情報系コンサルタント )。「特許を作る」ことが仕事か、「競争環境に関する問題を解決する」ことが仕事か、というところが決定的に違うんですよね。たぶん。SEの場合は、コンサルタントに必要なプロジェクトマネージメントのスキルはSE業務で身に付いているだろう、ということが前提になっていますが、知財実務をやっていても普通はプロジェクトマネージメントのスキルは身につかないところが大きな壁になってきそうです。

SEからコンサルタントになる方法
北添 裕己
日本実業出版社

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「知財戦略コンサルティング活用事例集」のお知らせ

2008-05-24 | 知財一般
 昨年度の関東経済産業局/地域知財戦略支援人材育成事業の成果をとりまとめた
知財戦略コンサルティング活用事例集
~専門家との協働で実践する知的財産経営~
が公開されています。この事例集には、私も監修としてお手伝いをさせていただきました。特に第1章の「知財戦略とコンサルティング」では、このプロジェクトの基本的な考え方である中小企業にとっての知財マネジメントの意義についてわかりやすく解説するように努めましたので、是非一度ご覧いただければと思います。

100-1=0

2008-05-21 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネス最新号の有訓無訓より。日本の老舗ブランド・帝国ホテルの藤居会長の言葉です。
  サービスは「100-1=0」
 この意味がすぐに分かる方は、ブランドのプロかもしれません。その意味のヒントですが、
  ブランドは10秒で崩れる
 これでお分かりの方も鋭い。

 帝国ホテルに対する顧客の評価は「さすが帝国ホテル」か「帝国ホテルともあろうものが」のいずれかであって、中間がない。つまり、1つのマイナスが全体の評価をおとしめる。だから、100-1=99 ではなく、100-1=0 ということだそうです。
 こうやって考えてみると、要はブランドというものは、「帝国ホテル」という名称、商標権の客体のことではなく、そこから顧客に生じるイメージであり、日々変化するものであるということです(「ペコちゃん」のように客体自体が価値を持つようになると話は違ってきますが)。そのあたりが、客体そのものの価値が問題になる特許権や著作権とはだいぶ事情が違うと考えられます。
 それにしても、逆に考えてみると、顧客から「さすが~」とか「~ともあろうものが」とあまり言われることがないという場合は、それは顧客にとってどうでもいい存在=ブランド力がないっていうことですね、、、これはヤバい。心しておかないと。

大阪企画

2008-05-20 | お知らせ
 先日お知らせした大阪でのセミナー「知財ビジネスの最新動向」ですが、私の担当するプログラム「知財コンサルティングの現状」では、こんな流れでお話をさせていただく予定です。
 (1) 知財コンサルティングとは何か
  ⇒ 世に言われる知財コンサルティングについて、とっても主観的にですが分類して説明してみたいと思います。知財コンサルの議論をする際のものさしの一つとしてご利用いただければ。
 (2) 知財コンサルティングに関する支援事業等の動向
  ⇒ 私の知る限りでは、特許庁の地域中小企業知的財産戦略支援事業、発明協会の研修、弁理士会の検討委員会などがあります。「知財戦略」(中味)に重きを置くか、「コンサルティング」(方法)に重きを置くか、アプローチには少々違いがあるように感じます。
 (3) 知財コンサルティング会社の例
  ⇒ 地域中小企業知的財産戦略支援事業でお手伝いいただいた会社を中心に、知財コンサルティング会社の特徴について、これまた主観的ですがご紹介させていただく予定です。

【日時】 5月26日(月) 18:30~20:00
【場所】 大阪市中央公会堂会議室
【参加費用】 1,000円(資料・会場代として/当日会場にてお支払いください。)
【申込方法】 twatanabe●ird-pat.com まで、e-mailにてお申込みください。
      (スパム対策のため、お手数ですが●を@に変更して送信ください。)

外観的にはヘルシア緑茶、されど機能的には黒烏龍茶。

2008-05-19 | 知財一般
 知的財産権による保護によって高い利益率を維持している例として花王のヘルシア緑茶をよくとりあげていますが(ex.「知的財産のしくみ」p.134~135)、「カテキン緑茶」という新製品を見かけるようになりました。「カテキン緑茶」の商品名からついに類似品登場か、と思いましたが(この商品名は「ヘルシア緑茶」の品質表示そのものですね)、よく見てみるとカテキン濃度(ヘルシア緑茶の4割弱)、効果ともにかなり違ったものになっています。ネーミング的にはヘルシア緑茶狙いが明らかですが、「燃やす」のではなく「吸収を抑える」という機能からみると、ヘルシア緑茶よりも黒烏龍茶の競合品ともいえそうです。ただ、トクホの表示は「コレステロールを低下させる」で、黒烏龍茶の「脂肪の吸収を抑える」のような直接的な表現に比べると、一見しただけではその効果がわかりにくい。こうしてみると、両横綱に比べると何だか中途半端な商品のように見えてしまいます(まぁ、普通はそこまで観察しないのかもしれませんが・・・)。発売時期にしても、トクホ飲料ブームもやや下火になってきた感がある(花王の決算短信によるとヘルシア緑茶もついに前期は減収とのこと)今日この頃であり、タイミング的にもどうなのかなぁという印象を受けます。
 そんなことは当然よくわかった上での市場投入でしょうが、茶飲料最大手の伊藤園でさえ、時期・商品コンセプトともに中途半端な感じにならざるをえないところにこそ、参入障壁の効果が表れているといえるのかもしれません。そういえば、黒いペットボトルのコーヒーはあまり見かけなくなったような気がしますが、さてこの新製品はどうなるでしょうか。 

配転教育

2008-05-17 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ヴェリタスの「会社がわかる」のコーナーが面白いと紹介しましたが、今週(5月11-17日号)では家具・生活用品チェーンのニトリが採り上げられています。売上高は4年で2倍、21期連続増収増益の高成長企業です。で、その強みですが、東南アジアの山奥まで分け入って家具製造業者を探しているとか、商品解析室を設置して改善に取り組みクレームを減らしているとか、製造業のような「この技術」といった明確な決め手があるわけではありません。勿論、製造業がそうでないというわけではありませんが、明確な差別化が難しいサービス業では、個々の課題をどこまで執念深く追求できるかということがより重要な要素になってくると思います。
 これはたぶん知財業務についても同様で、サービス業の知財戦略を考える場合、何らかの差別化要因を特許などでカバーしていったとしても、決定的な参入障壁にはなりにくい。前述のニトリの差別化要因のように、こうした執念深い取り組みの一つの要素として、知的財産権も一つの差別化要因になり得る場面ではコツコツと取り組んでいくしかないのでしょう。

 もう一つ、この記事で面白かったのがニトリの「配転教育」という制度です。役員も例外ではなく、本社の常務が常務の地位のままでいきなり店舗の店長に配転になり、日々店舗に張り付いて現場を指揮しながら、本社では役員会のみ出席して現場の視点から経営の意思決定に参加しているそうです。「象牙の塔の方針は現場に悪い影響を与える」とコリン・パウエルが言ったそうですが、こういう制度こそが現場に活きる経営の意思決定に結び付いていくのだと思います。知財ムラに求められるのも、象牙の塔でのお勉強ではなく、「配転教育」なんじゃないでしょうか。

お知らせ

2008-05-09 | お知らせ
 「知財ビジネスの最新動向」なるセミナーを、下記の要領で大阪で企画させていただくことになりました。
 プログラム1では、私が知財コンサルの現状と課題について概説し、プログラム2では、大阪の谷川弁理士が先端特許ツールの動向についてご説明されます。大阪在勤の知財関係者の皆様のご参加をお待ちしております。ほな、当日っちゅうことで。

【日時】 5月26日(月) 18:30~20:00
【場所】 大阪市中央公会堂会議室 (予定;詳細は追ってお知らせします)
【参加費用】 1,000円(資料・会場代として/当日会場にてお支払いください。)
【申込方法】 twatanabe●ird-pat.com まで、e-mailにてお申込みください。
      (スパム対策のため、お手数ですが●を@に変更して送信ください。)

知財の仕事もいずれはサービス業へのシフトは必然か?

2008-05-07 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ヴェリタス最新号のキッズビジネスに関する特集の中に
「国内市場 意外な成長~衣料などの縮小 サービス分野が補う」
という記事があります。少子化で縮小していると思われがちなキッズビジネスですが、子供の数の減少に伴って確かに製品販売分野は縮小傾向にあるものの、託児所等のサービス分野が牽引して全体として市場は拡大基調にあるとのことです。確かに意外です。
 これはおそらくキッズビジネスに限らず、高齢化社会を迎える日本の産業界全体に表れてくる傾向を予見しているような気がします(そんなことは大昔に社会科の授業で、社会の成熟に伴い1次産業→2次産業→3次産業にシフトすると習った当然のこと、と言われてしまうかもしれませんが・・・)。
 知財の仕事は製造業とともに歩む、というのがまだまだこの業界のスタンダードであるとは思いますが、サービス業に対して知財のスキルをどのように活かしていくことができるのか。製造業だと、特許がそのまま参入障壁として機能する場面が多いですが、サービス業の参入障壁を考える場合には、当然ながらもっと他の要素をいろいろ考慮していかなければならない。教科書に書かれている効果に囚われない柔軟な発想(もちろん「それは商標ですよ」とか単純な話ではありません)が求められるところであると思います。

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5月15日
知的財産権担保融資入門~知的財産権の基礎知識から担保設定・評価手法の実務まで~(金融財務研究会)
5月22日
「企業評価における知的財産権の着眼点」-知的財産権担保から考える知財の評価と事業の見極め方(ストック・リサーチ)

これも「知財経営」?

2008-05-04 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネスの最新号に、中古マンションの売買で急成長するスター・マイカが紹介されています。居住者のいる中古マンションは空室の場合に比べて売買価格が2~3割程度安くなるらしく、その価格差に注目して居住中の中古マンションを購入し、空室時に売却して利益を得るというビジネスモデルだそうです。こうやって簡単に説明できるモデルなので、いくらでも新規参入が出てきそうなものですが、これまでのところ有力な競合が現れるでもなく、同社の成長が続いているそうです。
 では、他社の参入を阻んでいる要因は何なのか。
 一つは、リスクのある物件購入のための資金調達力であり、もう一つが効率的な運営体制にあるそうです。特に後者ですが、マンションは個別性の高い物件であり、仕入の調査、契約、購入後のメンテナンスと問題発生時の対処など、ビジネスモデルとしては簡単そうでありながら、実際に行うとなると非常に手間がかかる割には、新築物件の売買に比べると利幅が少ない。この「苦労の割には見返りが少ない」ビジネスの「苦労」の部分を極小化する仕組みを構築したことがスター・マイカの強みとのことであり、それは一朝一夕にできるものではないでしょう。前回のエントリの例もそうでしたが、強固なビジネスの参入障壁は、知的財産の取得といったもの以上に、時間をかけて積み上げてきたそのビジネスに必要な仕組みにあることが多い。そこのところをよく理解した上で、知的財産権という道具の有効な使い方を考えていくというアプローチが、「知財経営」に結び付いていくのだと思います。
「知的財産権があれば独占できますよ。」というか、
時間をかけた積み上げが最大の武器ですが、知的財産権でその強みをサポートできることもありますよ。」というか、
「知的財産権なんてとってもしょうがないですよ。」というか。
そこのアプローチの違いが重要なのです。たぶん。


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