前回の仮想事例について、「よくわかる知的財産権担保融資」の解説は以下のとおりです。
**************************************************************
このような説明を受けた場合に考慮しなければならないのは、この新規事業の参入障壁がどのような状態にあるかということです。ユーザニーズに合った優れた商品であり、急速な売上の伸びが期待できるものであるならば、A社のみでなく他社も参入をしようとしてくるはずです。この点について、A社はどのように考えているのでしょうか。
仮にこの新製品の市場規模が5億円前後であり、A社が市場をほぼ独占する計画となっているのであれば、A社が独占的に新製品を販売できる理由を検討しなければいけません。販売ルートを独占的に確保しているのか、あるいは競合が登場し得ないようなニッチな市場なのか。そのような状況にない場合であれば、他社が模倣できないようなノウハウがあるのか。模倣の可能性があるのであれば、技術的なポイントが特許権で保護されていて独占可能な状態となっているかということが、事業計画の実現性を判断する上で重要なポイントになってくるでしょう。もしこうした裏付けがないようであれば、競合の存在を前提にして、A社の作成した事業計画を評価し直さなければいけません。
また、A社は「売上高の増加に伴う量産効果によって原価率が低下する」という説明をしていますが、これは実現可能なシナリオなのでしょうか。たしかに、売上高が計画通りに増加すれば、量産効果によって原価が下がることが期待できますが、販売単価のほうは変化しないという前提で考えてよいかが問題です。新しい市場に注目した他社が類似製品を発売し、競合他社との間でシェア争いが激しくなると、通常であれば価格競争が起こります。販売単価が変化しない計画となっているからには、価格競争が生じないと想定している理由を確認しておくべきでしょう。その一つとして、知的財産権によって参入障壁が設けられており、他社と競合する状況が生じにくいといった理由があるのならば、事業計画を評価する際にはプラス要因として評価することができます。
この例で見たように、技術力を活かした独自性の高い製品やサービスによって事業展開を進める企業への融資を検討する際には、技術開発の成果が適切に保護されているかを確認することが重要なポイントになります。
ある新製品を開発・販売する事業計画を評価する場合、その製品が市場ニーズに合致するものであるならば、計画に沿って販売が進む可能性があると考えることができるでしょう。しかしながら、その新製品に採用している新しい技術に対して何ら保護が施されていないとすると、やがて競合製品の登場を許してしまうことが予想されます。競合製品が登場すると、シェア争いや価格競争が激しくなることは避け難く、当初の計画より売上高や利益率の低下を招きやすくなるものと考えられます。逆に、その技術を対象に特許権を取得したり、営業秘密として外部への漏洩を防止したりすることによって、競合他社に対する参入障壁が有効に機能しているならば、シェアや販売価格の低下をできるだけ抑制することによって、計画に沿った売上や利益を実現できる可能性が高まるといえるでしょう。
(中略)
以上に説明したように、特に独自性の高い製品やサービスを対象にした事業計画を評価する場合には、単にその製品やサービスが市場ニーズに合致して売れそうなものであるかということだけでなく、その製品やサービスが売れる根拠となる要因に対して、知的財産権などの参入障壁が機能しているかという視点からの分析が、非常に重要になると考えられます。 参入障壁は知的財産権に限られるものではありませんが、知的財産権が有効に機能するかどうかによって、事業計画の実現性も影響を受けるものであることを意識しておきたいところです。
**************************************************************
**************************************************************
このような説明を受けた場合に考慮しなければならないのは、この新規事業の参入障壁がどのような状態にあるかということです。ユーザニーズに合った優れた商品であり、急速な売上の伸びが期待できるものであるならば、A社のみでなく他社も参入をしようとしてくるはずです。この点について、A社はどのように考えているのでしょうか。
仮にこの新製品の市場規模が5億円前後であり、A社が市場をほぼ独占する計画となっているのであれば、A社が独占的に新製品を販売できる理由を検討しなければいけません。販売ルートを独占的に確保しているのか、あるいは競合が登場し得ないようなニッチな市場なのか。そのような状況にない場合であれば、他社が模倣できないようなノウハウがあるのか。模倣の可能性があるのであれば、技術的なポイントが特許権で保護されていて独占可能な状態となっているかということが、事業計画の実現性を判断する上で重要なポイントになってくるでしょう。もしこうした裏付けがないようであれば、競合の存在を前提にして、A社の作成した事業計画を評価し直さなければいけません。
また、A社は「売上高の増加に伴う量産効果によって原価率が低下する」という説明をしていますが、これは実現可能なシナリオなのでしょうか。たしかに、売上高が計画通りに増加すれば、量産効果によって原価が下がることが期待できますが、販売単価のほうは変化しないという前提で考えてよいかが問題です。新しい市場に注目した他社が類似製品を発売し、競合他社との間でシェア争いが激しくなると、通常であれば価格競争が起こります。販売単価が変化しない計画となっているからには、価格競争が生じないと想定している理由を確認しておくべきでしょう。その一つとして、知的財産権によって参入障壁が設けられており、他社と競合する状況が生じにくいといった理由があるのならば、事業計画を評価する際にはプラス要因として評価することができます。
この例で見たように、技術力を活かした独自性の高い製品やサービスによって事業展開を進める企業への融資を検討する際には、技術開発の成果が適切に保護されているかを確認することが重要なポイントになります。
ある新製品を開発・販売する事業計画を評価する場合、その製品が市場ニーズに合致するものであるならば、計画に沿って販売が進む可能性があると考えることができるでしょう。しかしながら、その新製品に採用している新しい技術に対して何ら保護が施されていないとすると、やがて競合製品の登場を許してしまうことが予想されます。競合製品が登場すると、シェア争いや価格競争が激しくなることは避け難く、当初の計画より売上高や利益率の低下を招きやすくなるものと考えられます。逆に、その技術を対象に特許権を取得したり、営業秘密として外部への漏洩を防止したりすることによって、競合他社に対する参入障壁が有効に機能しているならば、シェアや販売価格の低下をできるだけ抑制することによって、計画に沿った売上や利益を実現できる可能性が高まるといえるでしょう。
(中略)
以上に説明したように、特に独自性の高い製品やサービスを対象にした事業計画を評価する場合には、単にその製品やサービスが市場ニーズに合致して売れそうなものであるかということだけでなく、その製品やサービスが売れる根拠となる要因に対して、知的財産権などの参入障壁が機能しているかという視点からの分析が、非常に重要になると考えられます。 参入障壁は知的財産権に限られるものではありませんが、知的財産権が有効に機能するかどうかによって、事業計画の実現性も影響を受けるものであることを意識しておきたいところです。
**************************************************************
![]() | よくわかる知的財産権担保融資土生 哲也金融財政事情研究会このアイテムの詳細を見る |