先日の
中小企業のための知財戦略活用セミナーですが、和歌山では
昭和の高安社長に、高知では
しのはらプレスサービスの篠原社長にご講演いただきました。いずれもとても説得力があり、迫力のあるお話でしたが、両社長ともに人材・モチベーションの問題として知財戦略を語られていたことが印象的でした。
知財戦略というと、我々知財人は当然ながら「技術」「ブランド」といった要素に対する効果に目がいきます。勿論、知的財産権とはそういう制度なので、そこを外しては考えられないのですが、中小企業の現実に照らした問題として考えると、実はそれだけでは不十分なようです。
くしくも両社長は「人の定着」「モチベーションの向上」といった同じ経営課題を挙げて、その経営課題との関係で知財に言及されました。高安社長のお話によると、
会社の向かう方向・未来像を形にして示す上で、特許という手段が有効であるということ。そこに時間や費用を投下することは、社内外に‘本気度’を示す効果もある、とされています。篠原社長からは、特許ということだけでなく、社員の行っている作業手順をマニュアル化したり、顧客データを管理したりすること(いわゆるナレッジマネージメント)が、
全て会社の‘知的財産’として蓄積されており、それが社員の知的満足度を高める効果を生んでいる、といったお話がありました。これらの取組みを始めてから社内の雰囲気が変化し、経常利益が倍々で伸びているとのことです。
どうしても我々知財人は、「特許をとったことで、収益に~の効果があった」という側面にばかり目が行きがちですが、モチベーションが高まって社内が活性化した場合の収益に与える効果に比べると、特許権が収益に直接的に与える効果など、おそらくしれていると思います。知財活動に力を入れるといった場合にも、
それが社内のモチベーションを高める活動か?
という視点も、とても大切なのではないかと考えさせられました。ここでいうモチベーションとは、技術者が自分で特許調査をするようになった、発明提案書を書くようになった、とかいうような知財人の基準からみた‘知財マインドの向上’みたいな話ではありません。個々の社員が会社に誇りを持ち、会社の目標に向かってそれぞれの持ち場で最大限の力を発揮していけるようになるか。そのためには、知財の常識を形式的に当て嵌めようとするのではなく、
社長の示す方向性・未来像を引き立てることができるような知財活動にしていくことが大切なのではないかと思います。
2人の社長の講演をお聞きしてもう一つ感じたこと。多くの経験の中で悩み、
深く考えられた上で発せられる言葉には‘力がある’ということです。プレゼンの方法云々の問題ではなく、
言葉に力があることが両社長の魅力なのだろうと感じました。