経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

中小企業の立場に立ったマッチングを地道に続けていけば、産業育成の有効な手段になる。

2014-08-26 | 知財一般
 本日の毎日新聞朝刊6面「大手特許に中小活路」の記事に、知財マッチング事業に関して、私のこんなコメントをご掲載いただきました。

「中小企業の立場に立ったマッチングを地道に続けていけば、産業育成の有効な手段になる」

 同じ記事がWeb版では「大企業の休眠特許:中小が新商品に活用」になっていますが、以前に「活かすべきは『休眠特許』ではなく『開放特許』」のエントリに詳しく書いたとおり、各地で行われている知財(ビジネス)マッチング事業の対象になっているのは、「休眠特許」ではなく「開放特許」です。この点は電話取材を受けた際に詳しく説明して、記者さんもよく理解してくださっていたのですが、おそらく「休眠特許」のキーワードを使わないと注目されにくいし、検索にもひっかかりにくいといった事情があるのでしょうか、Web版ではやはりタイトルは「休眠特許」になっていました。

 そもそもこの事業に自治体等が取り組む意義がどこにあるかですが、地域の中小企業の活性化というところが主目的で、典型的なイメージとしては、下請けとしてしっかりした技術を蓄積してきた中小企業が自らの技術を活かして自社製品を開発し、新規事業を立ち上げようとする際に、大企業の特許技術のライセンス(特許ライセンスではなく特許技術を活かした素材の提供を受けるケースも多いようです)を受けて、元々の自社にある技術にその特許技術を活かして、オリジナリティーのある新製品を開発する、といった展開を目指しているものです。自社技術だけで製品開発をするケースに比べると、特に初めて自社製品を開発するような場合には、「富士通の特許技術を活用」「日産の特許技術を導入」といったPRができれば注目を浴びやすくなるし、注目されることでビジネスチャンスが増えるだけでなく、モチベーションも上がるし自信もつく。これをきっかけに、地域の中小企業の開発活動を活性化して、地域経済の活性化に結びつけたい、というのが事業の主目的です。
 「休眠特許」については、私の個人的な見解ですが、そもそも「休眠特許の活用」なんていう課題が存在するの?存在するとしてもそんなに重要な課題なの?と考えています。不動産のように有限の資産であれば、限りある資産を無駄にしないように遊休地の活用を考えることも必要になるのでしょうが、特許のような知的財産は次々と新しく創作していくことが可能なわけで、何も特許がとれているからといって、いつまでもそれに固執する理由はないはずです。後ろを向くのではなく、前を見るのがイノベーションの本質であるはずです。維持コストが負担になるなら年金納付を止めてしまえばいいわけだし、「過去の投資額が...」なんてこだわりも、切るときにはスパッと切って次に向かうのが経営判断というものです。また、特許権が失われたからといって技術そのものが世の中から消えてしまうわけではなく、自由技術になるのだから国民経済的にはプラスになるともいえます。そうやって考えると、やはり「休眠特許の活用」を求める真の理由はなかなか見当たらない。
 知財マッチング事業に参加して特許技術を提供する大企業から見ると、中小企業の開発した製品から得られるライセンス収入は、おそらくインパクトがほとんどない水準であると思います。それゆえに、知財マッチング事業を推進するためには、どういうインセンティブで大企業に参加してもらうかが重要な課題になります。社内には「海外の成長市場への進出を目指せ!」という大号令がかかっている中で、なぜ国内のニッチマーケットの開拓に向かうのか、と問われると答えようがなくて...という大企業側の意見は至極尤もであり、どこに実質的な意義を見出すことができるかです。この点については、昨年度の調査事業でお会いした日産自動車の方が「『技術の日産』を少しでも広めていきたい」と仰られていたことに、一つのヒントがあるように思いました。それにしてもこの日産自動車さんのコメント、熱い、というか格好いいです。
 まとめますと、この事業は大企業の「休眠特許の活用」を目的とするものではなく、主役はあくまでも地域の中小企業である。その中で、大企業の協力をどのように得ていくかが重要な課題の1つになっている、ということです。

 そんなことを記者の方にあれこれとお話ししたところ、上記のコメントにまとめていただきました。「中小企業の立場に立った」や「産業育成の有効な手段」はそういう趣旨を汲み取っていただいたのだと思いますが、この1文に言いたかったことの本質をよく織り込んでいただいていて、こういうのはプロの仕事だなぁと感じます。まぁ読む側からすると、そこまで読み取るなんてことはあり得ないでしょうが、本日はコメントの行間解説ということで。