経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ちょっとちょっとちょっと宣伝・3件

2006-12-29 | お知らせ
 年の瀬もいよいよ押し迫ってまいりました。皆さま、ノロ、にはくれぐれもお気をつけください(相当苦しいですから)。
 年明けにむけての宣伝3件です。

【その1】
 準備を進めていた知財の入門書が、1月末に発売される予定です。「知的財産入門」系の本は既に数多く出版されていますが、法律面の基本事項をベースにしながら、できるだけビジネスとの結びつきを説明できるように工夫してみました。「知財2.0」を目指した入門書です。
<入門の入門>知的財産のしくみ

【その2】
 1月18日に、特許流通シンポジウム2007in大阪で、「企業価値を高める知財戦略」について講演します。あまり「流通」といった話にはならないかもしれませんが、知財と企業価値の関係について私の考え方を、シンプルにわかりやすく説明するようにしたいと思っています。
 大きなイベントですので、ノーミスできるようにがんばります。

【その3】
 1月24日に、ディー・ブレイングループの公開セミナーで、「知的財産業務支援の実践方法」について講演します。知財と企業価値の関係、知的財産権の基礎知識をざっと説明した上で、コンサルタントやベンチャーキャピタリストなどベンチャー企業の支援者が知財についてアドバイスをする際のポイントについても解説する予定です。

ビクター売却と知的財産

2006-12-23 | 新聞・雑誌記事を読む
 今朝の日経1面トップには松下がビクターを売却する記事が掲載されていましたが、5面の記事にはちょっと知財的な切り口から、
① 「VHSで蓄えた莫大な特許料収入をヒット商品の開発につなげられなかった。」
② 「再建『ブランド力』頼み」
と解説されています。
 ①については、特許の存続期間は会社の存続期間より短いものであり、持続的な企業価値の向上ということを考えると、知的財産権を有していることよりも、新たな知的財産を生み出すことが重要であることを端的に示した例であると思います(日本ビクターの企業価値を示す株価にも、ジリ貧の状況がよく表れています)。
 ②については、
 日本ビクターの時価総額≒株主持分(PBRがほぼ1倍)
という状況なので、その「ブランド価値」は市場では評価されていないとも考えられそうです。尤も、これからの譲渡交渉で現在の株価に対するプレミアムとして、このあたりが織り込まれることになるのかもしれません。
 この例からは、持続的な企業価値の向上という視点から、新しい知的財産を生み出す力と、法律上の寿命がないブランドの価値を守ること、の重要性が読み取れるのではないでしょうか。

特許侵害確信犯とコンプライアンス

2006-12-21 | 企業経営と知的財産
 タウンミーティングのやらせ問題、政府税調会長の辞任、日興コーディアルの決算訂正と、いずれも不祥事絡みのニュースが毎日のように報道されていますが、こうした事件が増えている背景には、以前に比べると人材の流動性が高まり、内部告発が起こりやすい状況が生じていることが影響しているのではないかと思います(これらの事件が内部告発で明らかになったのかどうかはわかりませんが)。
 特許権を取得した後、特に製造方法やソフトウェア特許などでは、よく「侵害されたってどうせわからないではないか。」と言われることがあります。確かにこれらの特許は、物の特許に比べて外部からの立証が困難であることは間違いありません。しかしながら、コンプライアンスが厳しくいわれるようになった昨今の情勢を考えると、会社の中で「そんな特許、侵害してもどうせわからないんだから、やってしまっていいよ。」と意思決定をすることは、それなりに、というかかなり勇気(?)のいることなのではないでしょうか。時代の流れとして、抑止力という観点からは、特許権の効力は増すようになっていくのではないかと思います。

増えるか、「何でもいいから特許にして。」

2006-12-17 | 知財業界
 久々に特許出願の件数増加につながりそう(?)なニュースです。
 「入札で『技術力』も評価」の記事によると、ベンチャー企業が政府調達の競争入札に参加しやすくするように、入札への参加基準にベンチャー企業が持つ技術力を評価対象に加え、特許保有件数が評価項目の一つになるとのことです。
 数年前には、東京都の技術開発関連の助成金だったかを申請するのに「特許出願中」と書くと評価が上がる、という理由で出願依頼を受けたこともありましたが、記事のような制度が本当に導入されるとすると、まだまだ「特許=技術力の証である」という誤解は政府レベルですらなくなっていないようです。特許事務所には、何でもいいから要件を限定して特許にして、というリクエストが増えるのかもしれません(笑)。
 ベンチャー企業を入札に参加しやすくすることが本来の目的であるのならば、特許の件数みたいな項目を設けなくても、売上や営業年数の基準を緩和するとか、調達額の数%をベンチャー企業に割り当てるようにするとか、もっと直接的な手段をとればいいように思いますが。

きしめん

2006-12-15 | イベント・セミナー
 昨日は、特許流通シンポジウム2006in名古屋で、パネルディスカッション「我が社の知財戦略」でモデレータを務めさせていただきました。パネリストの皆様は特許の大ベテランで、私がすっかり勉強をさせていただいた感じです。
 特に印象に残ったのは、調査の重要性を強調されていたことです。調査の意義と目的について、出願しようとする発明の本質を的確に捉えるスキルを高めるためにも、調査という作業が有益である、といったご説明をされていたことが印象的でした。調査というと、侵害回避などどちらかというと後向きの意識が強くなり、面倒な作業と感じてしまいがちなのですが、出願スキルの向上という前向きな姿勢で取り組めば、意欲も負担感もかなり違ってくるのではないかと思います。
 名古屋は相当久しぶりでしたが、いつの間にかトヨタのビルが駅前に聳え立っていて、「トヨタの町」であることを実感させられました。タクシーの運転手さんによると、東京からかなりの機能が移転してくるために、名古屋ではトヨタの社員さんのおかげでマンションがよく売れているとのことでした。本当に凄い会社です。

くわばら、くわばら

2006-12-14 | 知的財産と投資
 あるテレビ番組で三角合併解禁によって外資に狙われやすい業種について説明していたのですが、電機と食品が危ないということだそうです。
 外資による買収というと普通は欧米企業を想定するのではないかと思いますが、電機メーカーについてはアジア企業からの買収が起こり易い条件が揃っているとのことでした。ちょっと驚いたのですが、アジアの電機メーカーの時価総額ランキングをみると、サムソンを筆頭に韓国・台湾メーカーが上位を占めており、日本の大手電機メーカーの時価総額はそれらの数分の1という水準に止まっています。以上の前提で、アジアの電機メーカーが日本の電機メーカーを買収する根拠は、
① 時価総額はアジア企業が大きいにも関わらず、
② 技術力は日本メーカーが上であり、
③ 世界的なブランド力も日本メーカーが上
なので、割安で優良資産が手に入るということだそうです。確かに、理屈の上ではもっともな話です。
 でも、そもそも論として、どうして日本の電機メーカーは技術力・ブランド力が上回るにも関わらず、時価総額ではアジア企業に負けてしまっているのでしょうか。おそらくその理由は、土地代や人件費をはじめとするコスト構造の差にあるのではないでしょうか。
 そうであるとすると、アジア企業が日本の電機メーカーを買収しても、日本でそのまま事業を続けていたのでは意味がなく、技術力やブランド力だけを持ち帰ってコストの安い本国で事業を行う、というのが合理的な判断ということになりそうです。要すれば、知的財産だけいただき、ということでしょうか。本当にそうなってしまうと、日本の特許事務所のマーケットにも少なからず影響が生じそうです。くわばら、くわばら・・・

アウトサイド・インとインサイド・アウト

2006-12-13 | イベント・セミナー
 明日14日、特許流通シンポジウム2006in名古屋のパネルディスカッション「我が社の知財戦略」でモデレータを務めさせていただきます。アイシン精機、豊田合成、本多電子3社の知財部門のトップの皆様にパネリストとしてご登壇いただく予定です。
 アイシン精機さん、豊田合成さんは言わずと知れた中部地区を代表する、自動車関連の大企業です。本多電子さんは、超音波技術に特化したハイテク企業ですが、先の2社と比べると、知財戦略の考え方も少し違う部分があるのではないかと想像しています。
 アイシン精機さん、豊田合成さんは、自動車関連で圧倒的にシェアの高い分野を有しているので、まずは自社の優位性を固めなければならない分野があって、そこで攻めと守りをバランスよく実行する知財戦略が求められるのではないかと思います。「アウトサイド・イン」、「製品分野からのアプローチ」とでもいった感じでしょうか。それに対して、本多電子さんは、まずコア技術ありきで、その技術を活かして様々な分野に展開しているので、基礎技術の優位性を固めることが知財戦略についても最も重要になると思います。こちらは「インサイド・アウト」、「技術からのアプローチ」とでも言えるでしょうか。
 これらはあくまで私の仮説ですが、当日はどのようなお話が伺えるのか、とても楽しみです。

どこへ行くか知財信託

2006-12-09 | 知的財産と金融
 知財信託が可能になった信託業法の改正に続き、信託の基本法である信託法が改正されます。改正のポイントは、事業を信託の対象にできる「事業信託」や、自分の財産を自ら信託する「自己信託」が可能になるそうです。
 知財信託との関係を考えると、直感的には資金調達型(特に特許権を信託するもの)にかなり影響があるのではないかと思います。将来のキャッシュフローを裏付けにして資金調達を行うのであれば、権利の安定性に難があり、権利範囲もわかりにくい特許権を対象にするより、事業から生じるキャッシュフローのほうがはるかに明確で投資家にとってのリスクがわかりやすいからです。私個人が投資する立場にあるならば、無効リスクなどとりたくないですから、迷わず事業の受益権を選ぶでしょう。また、同じ将来のキャッシュフローを活かして資金調達をするのであれば、事業全体を対象にしたほうが調達可能額も大きくなるはずなので、わざわざ特許権に範囲を限定する必要性は乏しくなるように思います。そう考えてみると、特許権を対象とする知財信託は、(今も実質的にはそんな感じですが)管理型に絞られていくのかもしれません。
 資金調達という視点で考えると、事業信託は知財信託よりもかなり実現性がありそうです。しかしながら、調達する企業にとっては事業の将来収益を売り渡してしまうことになるので、信託期間(≒調達資金の実質的な返済期間)が終了するまでは、事業を行いながらもお金は投資家にスルーしていく状況が続くことには留意が必要なのではないでしょうか(ソフトバンクモバイルの資金調達みたいな話ですが)。

公開担当者の仕事

2006-12-08 | イベント・セミナー
 今月26日に、ディーブレイン主催の「株式公開プロジェクトリーダー養成講座」で「株式公開と知的財産戦略」の講義を担当します。
 株式公開に向けた準備というと、業績の向上は当然のこととして、適切な会計処理、社内規程の整備など形式的な要件を満たすための準備が必要になります。一方、知財についてはどうかというと、こういう準備をしなければいけないという形式要件が決まっているわけではありません。これは、知財の位置付けや必要な業務が、企業によって様々であることに起因するものでしょう。
 可能な範囲で、権利別・業種別の一般的な要件を考えてみると、

 まず、特許については、企業によって個別性が高く、かつその影響を事前に予測することは非常に困難なので、個々の権利についての各論において一般論としてこうだ、と規定することは難しいと思います。また、業種によって要求水準も大きく異なってきます。そうすると、個々の権利ではなく企業の取組みとして、その業種として一定の水準に達したことをやっているかどうか、ということがチェックポイントになってくるのではないでしょうか。例えば、バイオ系であれば、重要な技術に対して相応の予算を投下して取り組んでいるかどうかが問われるでしょう。メカ系であれば、企業規模に比した保有特許や出願の件数、特許業務についての管理体制などが確認対象となるのではないかと思います。サービス系であれば、特許が審査の対象となることは少ないでしょう。重要なのが中味であることは勿論なのですが、公開審査で個別の権利まで見てはいられないことが殆どでしょうから、形式的にチェック可能な部分が一つのメルクマールになるものと思われます。

 一方、商標については明らかな問題点があれば発見しやすいので、個々の権利についても説明可能な状態にしておくことが必要でしょう。尤も、経営に影響のあるような重要商標の数はそれほど多くないことが一般的と思うので、社名、コーポレートブランド、主力商品あたりを固めておくことが重要になるものと思われます。

 コンテンツ系やソフトウエア関連では著作権が問題になることもあるでしょうが、著作権そのものは通常は検証のしようがないので、開発委託契約、ライセンス契約などの契約類が揃っているか、契約の内容に大きな問題がないか、契約時のチェック・管理フローが整備されているか、などがチェックポイントになると思います。

 訴訟などの紛争が生じていると確認対象になってくるでしょうが、経営上さほど影響のない争いであることも少なくないと思うので、負けた場合の影響を含めて、きっちり説明できるようにしておくことが必要でしょう。

 一般化できる内容は、とりあえずそんなところでしょうか。

コンテンツ立国とテレビ局のPBR

2006-12-06 | 知的財産と投資
 今日の日経金融新聞に、PBR(株価純資産倍率)の低い銘柄が「三角合併」の解禁を前に見直されている、という記事が掲載されています。この記事の図表に東証1部の主なPBR1倍割れ銘柄が列挙されているのですが、その中に「テレビ朝日」とあるのがちょっと意外でした。
 テレビ局というと、コンテンツ資産がストックされて知的財産の豊富な会社、というイメージがあります。知的財産は、移転などで顕在化しない限りはその経済的価値はオフバランス資産となるはずなので(実際、テレビ朝日の連結財務諸表にはコンテンツ資産らしき多額の資産が計上されているという形跡はなさそうです)、普通に考えるとPBRは高くなりそうな感じがします。ところが、テレ朝だけでなく、日テレもフジテレビもPBRは1倍そこそこで、オフバランス資産は殆ど無いに等しいという評価がされていることになってしまいます。国家の知財戦略が語られる中で「コンテンツ立国」はキーワードの一つとなっていますが、この事実をどう解釈すればよいのでしょうか。
 テレビ局を詳しく分析したことはないので理由はよくわかりませんが、テレビ局が番組に関する権利を保有していないのか、テレビ番組には再利用の価値がないと判断されているのか、他に不採算部門や不良資産を抱えていると判断されているのか、資産があっても収益化する力がないと評価されているのか、一体何が原因なのでしょう。