経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

何であんなボール球を打つの?

2009-02-25 | プロフェッショナル
 連日のWBCネタです。報道ステーションで言っていた話ですが、国際大会ではNPBより広いストライクゾーンにどう対応するかが課題になる中で、イチローは「ストライクゾーンを広げる」、横浜の内川は「ストライクゾーンをずらす」という発想で、ボール気味の球への強さを身につけているとのこと。その中で、イチロー自らが語っていた、「なぜボール球に手を出すか」という理由が大変興味深いものでした。
 低迷が続くマリナーズでは、毎年のように早い時期からポストシーズン進出の可能性がなくなってしまう。そうすると、そんなチームの消化試合は審判も早く終わらせてしまいたいから、どんどんストライクをとってしまう。だから、ボール球にも対応できる技術を身につけて手を出していかないと、確実に成績が悪くなってしまう。「周りから見ると、『何であんなボール球を?』って見えるだろうけど、そういうこと。」だそうです。なるほど、強打者であったはずのベルトレとかセクソンの成績がマリナーズに移籍してからガクンと落ちたのも、それが一因なのかもしれません。
 つまり、一見したところセオリーに反するように見える行動にも、実は現実に対応するための深い理由があったりする、ということです。こういう場面は、知財の仕事でもよく生じるものです。実務をやる上ではいろんなセオリーがありますが(クレームを上位概念化するとか、他人の商標権に抵触するおそれのある商標は使用してはいけないとか)、一見それに反しているように見える仕事にも、人間の心理や現実との兼ね合いから、深い意味があったりすることがある(単にセオリーを知らないだけのこともあるでしょうが・・・)。まぁ、それが成果に結びついてこないと、考えている意味はないわけですが。でも、たぶんその部分が‘ビジネスセンス’ということになってくるのだと思います。

格が違う。

2009-02-24 | プロフェッショナル
 WBC日本代表の合宿は大盛況だったようですが、イチローに対する注目と期待は、ちょっと半端なものではなってきてしまったようです。元々は、‘スキル’の違いが際立つプレイヤーだったのが、近年はそれが‘格’の違いに昇華してきているように感じます。では、
 ‘スキル’の違い
 ‘格’の違い
とはどこが違い、どうやって「スキルの違い」が「格の違い」に昇華していくのか。
 思うに、「スキルの違い」というのは、文字通り技術が違うということ。これに対して「格の違い」とは、周囲に対する影響力や説得力の違いであり、それは人を集める力や物事を動かす力に結び付くものなのだと思います。だとすると、知財の仕事を技術として的確に処理するだけでなく、その仕事が事業を動かし、企業活動に影響を与えるものにしていきたいと思うなら、「スキルを高める」だけでなく「格を高める」努力も求められることになってきます。前回のエントリで書いた「自らを活かすポジションを作ることも才能のうち」というのも、おそらく同じことなのでしょう。
 「格の違い」を生み出す上では、「スキルが優れていること」とそのスキルに伴う実績は、‘格’を押し上げるための一要素であり、それ以外にも、深い洞察力、言葉の力、キーパーソンとの人間関係など、ヒューマンな要素が関係してくるのだと思います。企業経営に貢献する‘知財人材’たるためには、スキルでは測れないそういう要素も重要なのでは。

本当に必要な知財業務を探る

2009-02-21 | 企業経営と知的財産
 日経ビジネスの前号に「『引き算』のヒット術」が特集されていたように、高付加価値製品が苦戦する一方で、必要な機能を絞り込んだ製品が売れている。「本当に必要なもの」が生き残る時代がやってきており、知財業務にも「本当に必要か」がより厳しく問われることになってくると思います。
 企業活動に本当に必要とされるような知財の‘実需’とは何であり、どのような形態をとり得るのか。そこが個人的には最も関心の高い領域であり、今年度は特許庁の「地域における知財戦略支援人材の育成事業」で、*先進的な中小企業へのヒアリングとそのエッセンスの抽出に力を入れてきました。知財人が進化する方向性として、技術や法律の理解を深める、語学に堪能になる、といったことがよく言われますが、企業経営に貢献して本当に必要とされる知財業務の基本設計がしっかりできていないと、こうしたスキルも有効に活かすことができません。その部分の思考を停止して「知財は独占権だから重要なんだ!」で済ませてしまっていては、ビジネスパーソンとしては?であると思います。
 このテーマについては、おそらく共通の解があるというものではなく、それぞれの企業の強み、事業環境などから、知財が現実的にどのように機能し得るのかを個別に考えていくしかない。結局のところ、知財業務の成果というのは、事業を何らかの形で支えたり押し上げたりという、事業全体の中でしか測れないものだと思います。知財を担う者もできるだけ事業活動の中に深く浸透し、事業の課題、事業の成果を共有する、そういう方向に進んでいかないと、本当に必要な知財業務にはなかなか辿りつくことができない。では、具体的にどうすればいいのか。「与えられた環境の中で発揮できるだけの才能でなく、自らを活かすポジションを作ることも才能のうち」というある人の言を思い出すに、そこを模索していくことが大事なんです。たぶん。

* この成果を、中小企業の知財活動支援者向けの冊子「ココがポイント!知財戦略コンサルティング ~中小企業経営に役立つ10の視点」として、年度末までに公表する予定です。その報告会を兼ねたセミナーが3月に開催されますが、札幌、福岡、広島はまだ申込可能とのことですので、お近くの方はご参加いただけると幸いです。
 また、知財戦略コンサルティングシンポジウム2009の基調講演でも、「中小企業の“経営課題”を起点とした知財戦略支援」と題して、上記冊子のエッセンスについてもお話させていただく予定です。

パテントサロンに表れる世相

2009-02-10 | 知財業界
 一昨日(日曜)の日経を見てちょっと驚いたのですが、求人広告が殆ど掲載されていません。日曜の日経といえば、これまでなら4~5ページは求人広告で埋め尽くされ、他のページの広告欄にも割り込んでいるくらいが普通だったのですが、僅かに掲載されていたのも公的な機関ばかりで、今の経済状況がいかに劣悪であるかを痛感します。
 そんなことを思っていたら、徒然知財時々日記さんのブログによると不況時にはメーカーから特許事務所に人が動きやすく、特許事務所の求人は衰えていないようにみえるとのこと。確かに、パテントサロンの求人スクエアには、今月に入ってからも結構な数の求人広告が新たに掲載されているようで、少々大袈裟ですが別世界の感すらあります。この違いの理由は何なのでしょうか。
 (A説) 特許事務所業界の景気は、他産業の景気に遅行する。
 (B説) 不況期だからこそ、企業が差別化のために知財活動に力を入れている。
 (C説) 採用がしやすい時期を狙って、特許事務所が先行投資として人員採用を強化している。
 (D説) 企業が固定費削減のために知財業務の外注比率を増やしている。
 (E説) 年度末の駆け込み案件を消化するために、とりあえず人が足りない。
 どれもいま一つピンとこない感じというか、いずれにせよ自分には実感がないのでよくわかりませんが・・・
 そして、最近のパテントサロンでもう一つ気づいたこと。セミナー・イベントの新着情報に、「もうかる」「不況を乗り切る」などキャッチーなタイトルが目立ち始めました。漢方薬系である知財に、即効性はあまり期待できないようにも思えますが・・・

「中小企業経営に役立つ知財活動支援セミナー」のお知らせ 他

2009-02-06 | お知らせ
 特許庁の「地域における知財戦略支援人材の育成事業」の一環として今年度取り組んできた、中小企業の知財活動支援者向けの冊子「ココがポイント!知財戦略コンサルティング ~中小企業経営に役立つ10の視点」の報告会を兼ねたセミナーが3月に全国5ヶ所で開催されます。このブログでも何度か途中経過に触れていますが(勝手知的創造サイクル意志があり発明があり特許があるキーワードは投資か?特許の居場所)、これまでの‘マニュアル’とはちょっと趣の違う面白いものがまとまりましたので、お近くでお時間のある方は、是非ご参加をいただければと思います。

※ 上記の他、先日お知らせをさせていただきましたとおり、2月17日の横浜市知的財産セミナーにおいて「知的財産に着目した中小企業向け融資のあり方」について講演します。申込フォームはこちらです。

ラクダになるか

2009-02-05 | その他
 それにしても昨年の11月くらいからの経済状況の変化、何というか、乾季の前のサバンナで泉が干からびていく中に立ち尽くす野生動物のような息苦しさとでも言いましょうか・・・減り行く水を求めて走り回るか、それとも乾きに強いラクダになるか。乾いていくときに動き回っても水は見つからず消耗してしまうだけかもしれませんし、こういうときには、まずは頭を使って状況をよく認識することが大切であると思います。
 最近身近で聞いた、珍しく景気の悪くない話を2つ。1つは、個人でWeb制作をやられているある方が、引っ張りダコでお忙しい状況という話を聞きました。その原因は、Web業界が活気づいてきたというわけではなく、コスト削減でお金のかかる大手に頼まなくなっているのではないかとのこと。もう1つは、オフィスのサポート会社の方からのお話で、最近もオフィスの移転の仕事がそれ相応にあるそうです。但しその目的は、ほとんどが縮小のための移転で、拡大というのはまずないとのこと。
 一方、日経ビジネスの最新号。「6割経済に備えよ」と題した自動車販売の話。外車から軽自動車に買い替えたり、自家用車を売ってカーシェアリングを利用したりという人が増えているそうです。さらに、液晶テレビのコモディティ化・低価格化の記事も掲載されています。そして今日のニュースでは、セブン&アイが心斎橋のそごうを売却して、その資金でコンビニの出店数を計画より増やすとのこと。PB商品を売りまくろうということらしいです。
 これらの情報に共通すること、それは買い手がどうも「なんだ、これで十分じゃん」ってモードに入っているようだ、ということです。全く物が売れなくなったというより、高機能・高付加価値を追求してきたものが売れなくなり、どうも「これで十分じゃん」というものはよく売れているようです。ニューエコノミー、「これでいいじゃん経済」の時代が到来しようとしているのでしょうか(とすると、これからの知財業界も「これでいいじゃん」分野に期待するか、或いは「これでいいじゃん知財サービス」が世を席巻するか???)。
 勿論、こうした動きは景気変動のサイクルではよく起こる話であり、また雨季が到来して、高付加価値を求める時代がやってくるのかもしれません。ただ、自動車の記事なんかからは、これは単に景気が悪いというような話ではなく、買い手の価値判断の基準がちょっと変わってきているのかもしれない、ということも感じたりします。人間に欲がある以上、いつまでも縮む方向ばかりには進まないと思いますが、求めるものが高機能、高付加価値から、他の方向(例えば環境にやさしいとか心地よいとか)に移っていく過程なのかもしれません。そうだとすると、今起こっているのは普通の景気循環に起因する問題というより、産業構造の大きな転換点が訪れているということなのかもしれない(だから表れてくる数字も景気変動の水準では説明がつかない)。なんだか話が大きくなりすぎてしまって、じゃあどう動くべきか、というところに結び付かなくなってしまいましたが・・・

ちょっと上に行く?

2009-02-04 | 新聞・雑誌記事を読む
 このニュースには、ちょっとタマげました。
特許業務のオンダテクノ、製造業に進出
 ‘会社’が特許業務代行を行うの?なんて記者の揚げ足取りは置いておいて、いやぁ、これはホントに凄いニュースで、個人的には何十億円の侵害訴訟のニュースよりはるかにインパクト大です。その昔、ベンチャーキャピタルの営業担当だった頃、東京郊外にあるネットワーク機器を製造するベンチャー企業に日経産業の記事を見て突撃営業に行ったら、普通の投資営業に対応していただいていた社長に、しばらくすると「ちょっと上に行く?」なんて別フロアに連れて行かれたところ、そこは部品が転がってゴミゴミしていた開発現場とは別世界のオフィスで、実はその社長は米国でも有名なベンチャーキャピタリストだった。「自分で経営を経験していないと、経営のことなんてわからない。そうでないとベンチャーキャピタリストなんて務まらないし、投資先への経営参加だ、経営のアドバイスだなんてできるわけないよ。」なんて仰られて、痺れてしまったことがあるのですが、思わずその時の記憶が蘇ってしまいました。う~ん、常識に囚われず、思い切った発想で考えていかないといけませんね・・・