経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

攻めの知財戦略・守りの知財戦略

2014-03-29 | 企業経営と知的財産
 今年度は代理人としての仕事の他に、中小企業支援関連では、知財戦略の骨子を組立てる知財塾(高知・島根・愛媛)、知財情報を活かした企業の強みをPRするコンテンツ作成(横浜)、各地に広がりつつある知財ビジネスマッチング(大企業保有特許等のライセンスを受けた中小企業の新事業創出)に関する調査事業などの仕事を通じて、様々な企業の皆様と接し、中小企業の知財のあり方についていろいろ考えてきました。本日はそうした中から、以前からモヤモヤとしていたものが最近かなり自分の中でスッキリしてきたことについて、少々整理してみたいと思います。

 ここ5~10年くらいのトレンドかと思いますが、「『守りの知財戦略』から『攻めの知財戦略』へ」といったキャッチフレーズを目にすることがあります。
 こうした場合の「守りの知財戦略」とは、競争相手からの防御を主な目的に知財活動に取組むことを指しており、典型的には防衛特許を含めた大量出願型の知財活動がイメージされやすいようです。一方の「攻めの知財戦略」ですが、特許権等の知的財産権を積極的に行使して競合企業を市場から排除する、あるいはライセンスフィーを払わせてコスト競争で優位に立つ、未利用特許をライセンスや売却によってキャッシュに換える、といった「知的財産『権』」を積極活用する知財活動を指しているようです。
 こうした前提での「『守りの知財戦略』から『攻めの知財戦略』へ」というキャッチフレーズは、さほど異論もなく受け入れられていることが多いように感じますが、個人的にはどうも違和感が拭えず、腑に落ちない状態でいます。
 なぜならば、今まで自分が接してきた多くの「知財活動に熱心に取り組み、ユニークな製品・サービスで成長している元気な中小企業」が、ここでいうところの「攻めの知財戦略」を実践しているようには見えないからです。以前に「シェアの高さと特許の関係をどのように考えればよいか」のエントリにも書きましたが、「特許で守られているから強い」のではなく、「顧客の求める、顧客を喜ばせるよい製品を作っているから、よいサービスを提供しているから強い」というのが、こうした元気な中小企業の本質的な特徴であると感じます。

 結局のところ、前述の「『守りの知財戦略』から『攻めの知財戦略』へ」という考え方の根底にあるのは、「知的財産権」の排他性を消極的に捉えるか積極的に捉えるか、といった「知的財産権」の扱い方の区分でしかなく、事業を「知的財産権」の切り口だけで見ようとしてしまっているところに限界があるように思います。「攻めの知財戦略」といいながら、「知的財産『権』」の法的な力で「攻める」ことだけを考えていると、「攻める」相手は競合企業や一時的な収入源に過ぎない知的財産権の売却先となってしまい、企業の収益を支えてくれる肝心の顧客の方を向いた「攻め」にはなりません。サッカーでいえば、敵の選手の動きを気にするばかりでなく、ちゃんと前(ゴール)を向いてボールをもらえているか、というところです。

 じゃあ顧客のほうを向いて「攻める」とはどういうことなのか。
 そこが大いに問題となってくるわけですが、おそらくそのポイントは、「知的財産『権』」ではなく「知的財産」に軸足を置いて、その活かし方を考えなければならない、というところにあります。なぜならば、顧客がその企業の製品やサービスを欲しいと思うきっかけになるのは、その企業が商品やサービスに様々な創意工夫を加えた成果である「知的財産」だからです。先ほどの「顧客の求める、顧客を喜ばせるよい製品を作っているから、よいサービスを提供しているから強い」というロジックに照らせば、良質な知的財産を創造する力こそが企業の強さになる、と言えると思います。
 要するに、良質な知的財産を創り出す力を高め、それを顧客につなげるルートを拡大していくこと、それが競合企業ではなく顧客の方を向いた「攻めの知財戦略」の骨子ということではないでしょうか。
 1月にモデレータを務めさせていただいた国際知財活用フォーラム2014の「知的財産を活かしてグローバルに展開する中小企業の知財戦略」では、私から次のような仮説を投げかけさせていただきました。
「特許を保有してシェアが高い会社は常に訴訟して他を排除しているかというと、そういうわけでもない。法的な効果以上に、特許のプロセスを通じて高いレベルでの製品開発が推進され、結局は製品の力で勝っているということなのではないか?」
 これに対して、パネリストとしてご登壇いただいた、全自動鶏卵選別包装システムで国内シェア1位・世界シェア2位の株式会社ナベルの南部会長が、次のようにお答えくださいました。
「それがまさに物を作ることの本質だ。特許は人定法であり、顧客に喜んでもらう商売の基本を踏み外してはいけない。・・・」
 
 では、良質な知的財産を創造する力は、どうやって高めていくことができるのか。そして、知財活動はそこに貢献できるものなのだろうか。
 ここでヒントになるのが、1つは「知的資産・知的財産・知的財産権」という企業にある無形資産の捉え方、もう1つは「知識創造経営のプリンシプル―賢慮資本主義の実践論」等に解説されている、暗黙知と形式知の関係を整理した「知識創造」の考え方です。後者については、以前の「知識創造のプロセスと知財活動」のエントリにまとめていますが、要するに、属人的な暗黙知が形式知化されて共有され、組織的な形式知の融合が新しい知識を生み出し、その知識が個人の暗黙知を進化させる、こうした暗黙知と形式知のスパイラル的な進化が企業の成長につながる、ということです。
 「暗黙知」を生み出す源泉となるのは、企業の人の力(人材)や人のつながり(企業文化)、顧客やパートナーとの交流(顧客基盤)などの「知的資産」です。こうした知的資産から生み出され、実際に企業活動で活かされるのが、情報やコンテンツ、ハウツーやノウハウといった「形式知」化された「(広義の)知的財産」です。そうした「知的財産」のうち、対外的な関係をコントロールし易くしておきたいものには「知的財産権」という囲いが与えられます。つまり知財活動は、暗黙知を形式知へと見える化して共有可能にし、さらに形式知を共有・融合しやすい形を整える作業と捉えることもできるのです。そうすると、「知識創造の力」すなわち「良質な知的財産を創り出す力」を高めることを目指した「攻めの知財戦略」があり得るのではないか、といった方向で、あれこれ考えるようになっています。

 長くなってしまいましたが、とりあえず今日はそんなところで。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
同感です (久野敦司)
2014-03-30 20:52:31
知的財産を用いたイノベーション創造が知財業務の王道であると思います。

http://www.patentisland.com/memo224.html

http://www.patentisland.com/memo229.html

http://www.patentisland.com/memo276.html
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Unknown (土生)
2014-03-31 11:16:59
久野様
コメントありがとうございます。
いずれのコラムも全くそのとおりです。
特にリンクの2つ目のコラムで指摘されている知財業務の価値創造への貢献を、具体的に示していくことが重要であると思います。
返信する
価値創造に貢献する知財業務 (久野敦司)
2014-04-02 20:25:08
コンセプトオーガナイジングと私が名付けた業務は技術開発や事業開発の段階での概念の混乱から関係者を救出して、問題解決とさらなる発展に導きます。
http://www.patentisland.com/memo188.html
これなどは、知財業務の価値創造への貢献としては、即効性のあるものとなります。

他にも次のようなものもあります。
http://www.patentisland.com/memo261.html
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