経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

職場環境はブランドか?

2011-06-25 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネスから気になった記事を1つ。「敗軍の将、兵を語る」を読んで初めて知ったのですが、「千円札は拾うな。」で知られるワイキューブが3月末に民事再生法の適用を申請していたそうです。他人の失敗を後付けであれこれ批評するのは悪趣味なので好きではありませんが、最近自分がよく考えることとの関係で、どうしても気になる点がありました。
 このコーナーは「敗軍の将」本人が失敗の原因を振り返って書かれた(語られた?)ものなのですが、ワイキューブの失敗の主因は、「借りられるだけお金は借りろ」「無駄金を使え!」というポリシーに基づいた無謀な借入れにあったとのことです。こうやって書くといかにも浮ついた放漫経営という感じですが、ただ意味もなくお金を使っていたわけではなく、優秀な人材の確保→快適な職場環境の提供→優秀な人材が能力を発揮→業績拡大、というシナリオを描いていて、世間から注目を集めるようなオフィスや福利厚生の充実(ビリヤード台のある社員専用バー、社内にパティシエが常駐etc.)に思い切って投資をしたとのことです。
 安田社長はこうした支出について「・・・会社のブランド力向上のためにどんどん投資しました。」と説明されているのですが、ここがどうしても気になる部分です。ここで言う「ブランド力」というのは何なのだろうかと。本来、ブランド力というのは企業の提供する商品やサービス、あるいは企業そのものが顧客を惹きつける力であり、顧客を惹きつけられるからこそ、ブランド力の向上は企業の収益、競争力にプラスになるものなのではないか。あの会社はオフィスがカッコいいし、福利厚生が充実していていいなぁとかいうことは、企業のイメージアップにつながることはあるかもしれないけれども、顧客と企業を結ぶラインには直接関係ない。何となくカッコいいことをひっくるめて「ブランド」と誤解してしまうことは恐ろしい、ブランドというのは顧客と企業との結びつきであるということをよく心しておくべし、なんて思う次第です。
 また、最近「会社の体温を上げる」という表現をよく使っているのですが、このケースに当てはめてみて、オフィスがカッコいいことやバーがあることは会社の体温を上げることにつながるのであろうか。会社の体温を上げる、つまり社員の当事者意識が高まり活動が活発化する動機付けとなるのは、やはり仕事の中味そのものでであって、職場環境は「体温を上げる」という点に関しては副次的なものであるはずです。仕事に誇りがあるからこそオフィス環境の良さもよい仕事を引き出すインフラになるというか、体温を上げる着火剤になるのは仕事の内容や企業の理念であって、環境を整えるということは温度を下げない保温材みたいな位置づけではないかと。そういう意味で、この記事は保温材の話ばかりで着火剤が何であったのかが語られていない。「体温を上げる」という視点からは、そこがとても気になりました。

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6 コメント

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お久しぶりです。 (waki)
2011-06-27 00:29:26
取り上げられている会社は知らないのですが。一般論として、やっぱりオフィスのデザインを素敵にすると人材も集まるし働きやすい職場になるような気はしてます。ただ、その」「素敵」が、何をもって素敵!というか・・・。たぶん心がこもった素敵じゃないと、見る人が見たら見透かされてしまうかもしれません。。。自分だけかっこよくみせたい、という思想があれば、それが反映されたデザインになってしまうし・・・。H社青山の建物は、地震が来てもガラスが割れて外の人に被害がいかないように設計されているとか・・・。一つ一つの思想がデザインに反映されてくるのだと思います。結局「素敵」は、デザインの外観デザインではなく、経営者の思想や製品のコンセプトが素敵じゃないと、デザインに反映されないんだと思います。一発当てよう!というビジネスの志向が背後にあれば、それはそのようなデザインとなって表れるし・・・、そういう文化が好きな人が集まってくる。

~なぁんて話を只今研究中です。。。先生たちにどこまで通じているのか・・・。
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Unknown (土生)
2011-06-27 10:41:27
wakiさんこんにちは。
「経営者の思想や製品のコンセプト」、すなわち仕事の中味が充実してこそ、オフィス環境の良さが生きるということですよね。オフィス環境の良さというのは、やる気をサポートする機能はあるけど、やる気の源にはならないんではないか、という気がします。
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Unknown (Katayama)
2011-06-30 01:39:27
あの社長は会ったこともあるし、友人の友人で話はよく聞いていました。あの頃から「こんなことしていては絶対駄目」と思っていましたが、実際あの頃も駄目で粉飾していた様ですね。大体、綺麗なオフィス、タクシー通勤、社内ビリヤード、社員専用の服屋などに惹かれて来る学生なんて元々全然駄目で、それが証拠にそんな社員が集まって潰れてしまったと思います。つまり、あの「投資」(無駄遣い)で採用できた学生はそもそも優秀ではなかったということ。その点リクルートも同じ様なイメージですが(この社長も副社長もリクルート出身)、実際に優秀な学生を惹き付け収益性も高い。
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Unknown (土生)
2011-06-30 20:27:30
この会社の実情がどうだったかは知らないので軽々にはコメントできませんが、社長自身の言葉で、バーやらパティシエやらを「会社のブランド力」と言っているところに強い違和感を覚えました。失敗の原因は「無謀な借入れ」という社長の自己分析ですが、この記事を読む限りそうではないんじゃないかと。
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プレジデント8月1日号 (Katayama)
2011-07-11 10:25:49
このインタビュー記事がより詳細に報じていますが、ほんと、しょうがない人です。でも金融機関も含めてちやほやする人がいたのも事実。無担保で40億円借りた方も借りたほうだけど、貸す人がいるのもびっくりします。良い会社だと思って入社した新人、この会社の言う事を真に受けてオフィスに投資したクライアントなど、やはり世の中は複雑、怪奇ですね。
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Unknown (土生)
2011-07-12 01:41:24
本屋でパラパラとめくってみましたが、‘ブランド’を外見と解釈して、とにかく格好よく(何をして格好良いというかというのはありますが)やりたかったみたいですね。とはいえ、その時は多少おかしいなぁと思いながらも時の流れに飲みこまれてしまいやすいのも人の常というか、向かい風を浴びてみてようやく追い風に吹かれていたことに気付かされるなんてことも多々あり(さすがにこのケースは極端なので気付きそうなものですが)、経営者というのはやはり常人には務まらない仕事であるなぁ、と思ったりもします。
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