経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知的財産と資金調達(ちょっと視点を変えて)

2014-09-23 | 知的財産と金融
 昨年くらいからまた、中小・ベンチャー企業が知的財産を資金調達に活かす、といったテーマに関するニュースを時折見かけるようになりました。
 このテーマ、5-6年間隔くらい(関わったメンバーが異動になるタイミングとも言えるかもしれませんが)で表れては消え、という状況を繰り返しているように思いますが、知財担保融資云々については自分としては語り尽くした感があるので、本日はちょっと違った視点で考えてみたいと思います。

 資金調達というと、融資、出資と考えてしまいがちですが、企業が必要な資金を賄うための手段はそれだけではありません。
 銀行に勤務していた頃の話ですが、長期資金を融資する際には、その期の資金収支に問題が生じないかを確認するために、資金計画という表を作成していました。期中の資金需要と資金調達を整理して、両者がバランスするかを計算するのですが、資金需要の主な項目に設備投資と増加運転資金があり、すごく大雑把にいうと、資金調達は前者に長期借入金や増資が対応し、後者に短期借入金が対応するのが標準的なパターンになります。
 設備投資のほうは回収に長期を要するので、返済が長期、あるいは返済が不要となる資金を充てようという考え方です。一方の増加運転資金は、売上の増加に伴って発生する資金、つまり、仕入れの支払から売上の入金までの間のタイムラグで発生する資金需要が売上の増加に伴って膨らんでいくというものです。売上が増えると仕入れも増やさなければならないし、在庫もたくさん持たなければなりません。その支出が増える一方で、作って、売って、回収するまでには一定の時間がかかるので、立替え払いになるお金を調達する必要があるということです。この資金は一定の期間で回収できる見込みが立ち易いので、短期資金で調達するのが基本です。ところが、売上が入金されるまでのつなぎ資金が調達できないと、会計上は黒字なのに資金がショートしてしまう、いわゆる黒字倒産につながってしまうおそれだってある、中小・ベンチャー企業にとっては重要な課題の一つとなりやすいものです。
 ところがこの増加運転資金、必ず発生するというわけではなく、「現金商売はおいしい」とよく言われますが、売上の発生と同時に資金を回収できてしまえば(=現金商売)、仕入れの支払いのほうが後であれば、そこで資金が手元に残る状況が生じることになります。売上の増加に従って資金が潤沢になる、その資金を活かしてさらに設備投資ができてしまうことだってあるのです。

 つまり何が言いたいかというと、同じように売上が増加したとしても、支払と入金の条件次第で、資金がショートしてしまうこともあれば、実質的に資金調達ができてしまうこともある、ということです。それくらい支払と入金の条件、また、在庫をどの程度持たなければいけないかという条件が、企業の資金繰りに大きく関係してくるわけですが、こうした条件は商慣習と合わせて、取引先との力関係によって決まるのが通常です。力関係が弱いほど、支払は早く、入金は遅く、在庫は多く持たされることが多くなり、資金需要が膨らみます。逆に力関係が強くなれば、この部分での資金需要が減少して、資金を他に回す余裕が生じる、言い換えれば実質的な資金調達ができてしまうことになるわけです。
 知的財産のはたらきの1つとして、拙著「元気な中小企業はここが違う!」には「取引先との交渉力を強化する」ことを挙げていますが、銀行やベンチャーキャピタルからの目に見える形での資金調達には結びつかなくても、知的財産の存在が取引先との交渉力の強化につながって、支払条件や入金条件が改善されたり、不要な在庫を持たされることがなくなったりすれば、それによって資金収支も改善され、資金調達と同じ効果が得られることになります。第三者である金融機関に理解してもらうよりも、当事者である取引先のほうが、その企業にしかない「知的財産」の意味を理解し易いはずです。
 もちろん、金融機関からも調達できるに越したことはありませんが、取引条件の改善による実質的な資金調達というのも中小・ベンチャー企業にとっては意味のあることではないでしょうか。
 

知財で伝える我が社の強み

2014-09-15 | 企業経営と知的財産
 以前にお知らせした産官学連携ジャーナル5月号「中小企業にとっての特許の活かし方」の記事に、以下のように考えた「特許の活かし方」の可能性を示させていただきました。
■ 特許等の知的財産権取得の効果について中小企業にアンケート調査を行ったところ、規模の小さい企業ほど、他者排除という知的財産権の典型的な効果だけでなく、PRに活かせた、販路開拓につながった、業務提携が実現したといった多様な効果を選択している。
■ この傾向は、規模の小さい企業ほど、競合を排除すること以上に、自らの存在を知らせること、その存在を世の中に広めていくための仲間を得ることが重要な課題となっていることが推測される。
■ 中小企業が特許について考える際には、「特許を取得して参入障壁を築き、模倣品を排除する」といった典型的なイメージにとらわれることなく、「特許の力を活かして自社の強みを顧客やパートナーに伝え、事業展開に必要な多くの仲間を得る」という視点からも考えてみるべき。

 「特許活用」のあり方として、権利行使やライセンスのような‘法的’な活用手法だけでなく、自らの強みを伝える手段、あるいは強みを確認する手段として特許を活かすことができないか。
 そうした考え方に基づいて、私がパートナーを務めている日本IT特許組合で、企業紹介ビデオ「知財で伝える我が社の強み」を制作しました。
 第一弾としてご登場いただいたのは、シンクライアント用ログ管理ソフトで国内シェアNo.1を誇るアイベクス株式会社です。
 同社は、今泉社長が福島県郡山市でSIerとして1995年に創業、創業10年目頃には受託開発型から自社開発製品に軸足を移してパッケージベンダーへとビジネスモデルを転換、東京に拠点を置いて事業を拡大しています。これまでに3件の特許を取得した目的について、今泉社長は「独自性を示したい」「信用力を高めたい」と説明されていますが、まさに特許の多様な効果に着目した一例といえるでしょう。

 再生はこちらから → 企業紹介ビデオ「知財で伝える我が社の強み」Vol.01 アイベクス株式会社