経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

キュウリの種の法則

2012-11-24 | 知財一般
 最近のセミナーでは、先日書いた「上から知財」の他に、「キュウリの種の法則」、「赤外線理論」という意味不明な説を述べているのですが、本日は「キュウリの種の法則」について。

 ここのところ禅に凝っていて、時々京都の禅寺で坐禅をしているのですが、「キュウリの種の法則」の元ネタは、「禅が教えてくれる 美しい人を作る『所作』の基本」という禅の入門書です。この本に、
 すべての事柄には、‘原因’があり、そこに‘縁’という条件が整って、はじめて‘結果’が生まれる
という仏教の考え方が紹介されています。
 その一例が、「キュウリの種」です。ここで‘原因’に該当するのがキュウリの種ですが、種を納屋にしまったままで芽が出ることはありません。土を耕して種を植え、肥料を与え、水をやり、雑草をとり、そういう‘縁’が加わることでようやくキュウリが育って実がなる、という‘結果’が生じるわけです。‘原因’があれば直ちに‘結果’が生じるわけではない。‘原因’と‘縁’が整い、‘因縁’を結ぶことによって‘結果’が生まれる、ということだそうです。つまり、よい‘結果’を得るためには、‘原因’だけでなく、良い‘縁’を結ぶことが必要。どういう‘縁’を結ぶかで‘結果’は変わってくる、だから仏教では‘縁’を結ぶこと、すなわち‘縁起’を大切にする、というわけです。

 これを読んでいて思いました。知財にも当てはまるなぁ、と。知財は‘原因’であって、どういう‘結果’を生むかは、それをどのように扱い、誰にどのように働きかけ、どのような関わり合いの中で生かされていくかという‘縁’次第である。そうすると、良い‘縁’を結ぶにはどうしたらよいか、が気になるところです。

 仏教では、良い‘縁’を結ぶには、「三業」を整えよ、と教えるそうです。「三業」とは、「身業」、「口業」、「意業」のこと。
 「身業」とは、所作を正しくする、ということですが、知財でいえば、知財制度のルールを正しく理解して、実直に実務をこなしなさい、といったところでしょうか。
 「口業」とは、愛情のある親切な言葉を使う、ということですが、知財であれば、知財人以外に理解できないような専門用語を振り回さず、関係者としっかりコミュニケーションをとりなさい、といったところでしょうか。
 「意業」とは、偏見や先入観を排して柔軟な心を保つ、ということですが、知財の場合もそのまま解釈して、知財の役割を決まったパターンの成功モデルに囚われることなく、柔軟に考えなさい、といったところでしょうか。

 というわけで、知財セミナーといえば「身業」系のものが多い中で、私が担当するセミナーでは、「意業」の部分で参考にしていただけるような情報や考え方を提供したい、ということで努力しておりますので、機会がありましたらぜひご参加ください。


<お知らせ>
1. 11月30日(霧島市) 鹿児島県工業技術センター研究成果発表会の知財セミナーで、「知的財産の力を経営に活かそう! ~中小企業の事例に学ぶ会社を元気にする秘訣~」と題して講演します。

2. 12月7日(松江市) 島根県発明協会のセミナーで、「知的財産の力で会社を元気にしよう!~各地の事例にみる中小企業のための知的財産入門~」と題して講演します。

3. 1月9日(米子市) チャレンジ The 知財2012 in 鳥取 で、「知財の力で会社を元気にしよう!」と題して講演します。

4. 1月18日(広島市) 知財協・臨時研修会(広島)で、「経営に貢献する知財活動の実践と事例紹介」についてお話させていただく予定です。


禅が教えてくれる 美しい人をつくる「所作」の基本
クリエーター情報なし
幻冬舎

仕事の楽しさ、仕事への誇り

2012-11-23 | お知らせ
 取急ぎのお知らせですが、ガイアの夜明け「町工場からお茶の間へ!~職人たちが大ヒット商品を生んだ~」が、BSジャパンで再放送されるそうです。私は本日ビデオで見たのですが、特に中小企業に関する仕事に携わっている者には感動ものの名作です。
 需要がどんどん拡大する高度経済成長期は、良い物を作れば売れる時代でしたが、国内市場の縮小、先進諸国での需要不足に悩む今の時代は、需要そのものを創り出さないと生き残っていけません。その戦いに挑む中小企業の姿がストレートに伝わってきますが、これは中小企業に限った話ではなく、今の時代を生きるビジネスパーソンに求められている共通の課題といえるでしょう。
 今までとは違う頭の使い方をしなければいけない、そして、リスクをとって戦う覚悟をしなければいけない、ということです。なんて書いてしまうと、ちょっと窮屈な感じもしますが、番組に出てきた各社からはそんな悲壮感というより、むしろ仕事の楽しさや、仕事への誇りが伝わってきます。エンジニアの高崎社長が、アメリカ版のネジザウルスである「バンプライヤーズ」のグリップの部分を委託している、老夫婦がお二人でやっている工場(?)を訪ねたシーンで、奥様の方が「わたしらの作ったものが海を超えて使われるのは誇りですわ」と仰っていましたが、作る方もカッコいいし、安く作れる海外に委託せずに国内のモノ作りにこだわるエンジニアさんはさらにカッコいいです。
 最近のセミナーでは、知財で他社排除云々を考える前に、知財によって自らの誇りを確認することが大切だ(「会社のプライド」のエントリetc.)、なんて話をよくさせていただいていますが、誇りをもって仕事をすること、良い仕事をするにはそれが一番大切なことではないか、と改めて思う次第です。
 そして、日本の中小企業には様々な技術が存在している。それをどういう形にして、どうやって世の中に伝えていくかが課題だ、ということが番組でも語られていましたが、中小企業の知財を考える際には、この課題にどう貢献できるか、やはり「伝える知財」、「つなぐ知財」という発想が重要になってくるということでしょう。

上から知財

2012-11-01 | 企業経営と知的財産
 中小企業の知財のあるべき骨格をわかりやすく示すのに、これまでに「経営課題→知財活動→成果のループ」(ここがポイント・3p.)とか「定着モデル」(プランニングブック・13p.)とか、いろんなモデルを考えてきましたが、現時点で一番使えると思っているのが、定着モデルをフローで表したこの図です。今までこのモデルには名称がなかったのですが、これでいくことに決めました。名付けて、「上から知財」。

 「定着モデル」において特に重要なポイントは、知財に取り組む際には、法制度や実務に関する知識の習得、体制整備に力を入れればよいというものではない。そもそも何のためにわざわざ時間とお金をかけて知財活動に取組むのか、その目的意識を明確にしておくことが必要だ、というところにありますが、ではその知的財産活動に取組む目的はどうやって導き出されるのか。そして、定着モデルと日々の業務との関係はどのようにあるのか。その関係をフローで示したのが、この「上から知財」です。

 現在講師を担当している、あいち知財経営塾、高知県知財塾、そしてその原型である西条知財塾は、いずれもこのモデルに基づいてカリキュラムを設計しています。
 まず、参加者の皆さんに、知財を意識することなく、自社が抱えている‘経営の悩み’(=経営課題)を書き出していただきます。社長でなくても社長になったつもりで、これを考えるところからスタートします。
 次に、私から具体的な事例を紹介しながら‘知的財産の力’(=7つの知財力+1)について解説します。ここでは、知財=排他権=参入障壁・模倣排除、のように固定して考えないことがミソ。その多様性とあわせて、会社が本当に目指すべきものは何なのか、他者を排除することだけを考えていて本当に会社の発展につながるのか、中小企業ゆえに考慮すべき問題は何なのか、といったことも考えていきます。
 そして、最初に考えた‘経営の悩み’と‘知的財産の力’を照らし合わせて、自社が抱えている悩みに対して、知的財産活動を通じて何ができるのか、ということを考え、そこから‘その会社が’知的財産活動に取組む目的を明らかにします。ここをしっかりと腑に落ちる、説得力のあるものにして、関係者で意識を共有することが大切。目的がちゃんと見えていないと、どんな活動だって長続きしません。
 知的財産活動に取組む目的がはっきりすれば、そのために必要な組織のあり方・仕事の役割分担、必要な規程や書式、仕事の流れといった知的財産活動に必要な仕組みも、自ずから見えてくるはずです。そして、ここで重要なことは、仕組み作りを目的化するのではなく、そもそもの活動の目的に沿った仕組みを作ること。特許の力で市場で独占的なポジションを固めていくことが目的であれば、特許の実務知識が豊富な専任の担当者をおいて集中的に取り組んだ方がいいだろうし、社員の意識共有やアイデア出しの活性化が目的であれば、手続面の敷居を下げながら幅広く参加できる仕組み作りが必要。「中小企業が知財専任の担当者を置くべきか?」といった議論自体は不毛であり、それは目的によって自ずから決まってくるはずのものなのです。
 こうして作った仕組みに基づいて日々の実務が行われ、1件1件の特許や商標がつくられ、ノウハウの管理が進められていく。
 これが、「上から知財」のアウトラインです。

 一方、「知財、ヤルぞ!」と気合を入れた場合に嵌ってしまいやすいパターンが、その逆である「下から知財」です。特許を取った、商標を登録した。もっと取るには、これを活かすには、専任の担当者が必要だ。規程や書式も整備しなければ。なんてやっているうちに、お金も時間も賭けてる割には儲からないぞ、取っただけじゃだめだ、活用しろ。で、活用ってどうするの?ライセンス?侵害を見つけて警告?誰がやってくれるの?特許流通?コンサルタント?・・・こうなってくると泥沼です。

 そもそも論になりますが、ビジネスがどうしてビジネスとして成り立つのか。中小企業や零細業者が、いろいろ不利な条件も克服しながらどうして飯を食っていけているのか。それは、自分の仕事にこだわりをもって、その仕事が必ず世の中の役に立ち必要とされるはず、俺がやらなくて誰がやる、と「魂を込めて」やっているからに他なりません。そういう根っこの部分でのパワーがないと、普通は幾多の困難が待ち受けている事業の立上げなんてやっていけないでしょう。それを、「私は使いませんからどうですか」って流通してきた他人様の知財を、果たして「魂を込めて」事業にしていけるんだろうか。未利用特許を活用して・・・といったコンセプトを絵に描くことはできたとしても、そこにはそういう精神的な支えとなるものが考慮されておらず、もちろんいろんなケースがあるので可能性ゼロとは言いませんが、私はこうした‘特許活用’や‘特許流通’にはかなり懐疑的です。今まで耳にした中で、これはいい事例だと感じた‘特許流通’の成功例は、ある中小企業が推進していた事業でどうしても行いたかった新サービス、そのために欠けていた1ピースを、当時の特許流通アドバイザーさんが特許を検索して発見し、技術導入に結びつけた。こういう事例は、まさに魂を込めた事業を実現するのに必要なピースとして外部の特許が活用された例ですが、これは「こういう事業をやりたい、こういうピースが足りない」と「上から」いっているからこそ嵌ったのだと思います。
 知財が「下から」になってしまいやすい理由は、「財産」としての側面が強調されやすいことにもあるように思います。財産なんだから、まずは確保しておくことに意味があると。しかしながら、誤解をおそれずに言えば、知的財産そのものに価値があるわけではない。これは「オープンビジネスモデル」にも、「テクノロジー自体には固有の価値はない。テクノロジーを市場に投入するためのビジネスモデルが価値を決定する。同じテクノロジーであってもビジネスモデルが異なれば、提供される価値は異なる」と書かれているとおりで、「上から」いかないと知財はなかなかその価値を見せてはくれません

 少し話がそれましたが、個別の企業に限らず、行政の知財支援も「下から知財」になってしまう傾向があるように思います。例えば、地域の産品の商標を登録して地域を元気にしましょう、なんていうのも「下から」の典型例で、商標を登録したからといって物が売れるようになるわけでもなく、それだけで地域が元気になるはずもない。地域を元気にするために必要なものは何か、例えばそれが、この地域ならではの強みの理解とその意識共有、さらにはPRと考えられるのであれば、まずはそこから取組みを進める。つまり、その地域の産品の特徴をもう一度みんなで洗出して議論し、ではその強みを何と表現すればよいのか、それをみんなで考えて意識を共有し、一つの地域ブランドとして表現し、最後に商標登録をする。この順序が「上から知財」の発想です。

 考え見れば、「上から」いくべきなのは知財に限った話でなく、企業がソフトウェアを導入するときも資金調達をするときも同じことです。グループウェアを導入してから「さぁ何をしようか」ではなく、何かをするためにグループウェアを導入する。資金調達をしてから「さぁ何に使おうか」なんてことになればバブルを疑ったほうがよく、資金調達は何かにお金が必要だから行うべきものです。それを考えても、やはり「上から知財」は基本中の基本といえるのではないでしょうか。