経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

顧客満足には理由がある。

2007-05-31 | 新聞・雑誌記事を読む
 知財関連のテーマではありませんが、本日の日経金融新聞1面の記事がちょっと興味深かったので紹介したいと思います。
 生命保険業界に関する記事で、既存の契約をどれだけ維持できているかを示す「契約維持力」を指標化してランキングしています。業界のランキングというと、普通は新規契約の件数や契約残高を注目しそうですが、「契約した人がどれだけ契約を継続・増額しているか」というこの指標は、顧客の満足度からサービスの質が推測できそうで、非常に興味深い視点だと思います。
 3つの指標のうち「解約・失効率」をみると、プルデンシャル生命がダントツで1位になっています。平均が7%に対して4.7%と頭一つ抜けた数値ですから、これは一体何が理由なのだろう、と気になるところです。
 記事によると、同社は他社と販売手法が異なるとのこと。営業社員は「顧客の仕事や家族の状況、将来設計などリポートにまとめて支社長に提出し、リポートを基に商品が顧客に合っているかを社内で4段階でチェックをかける」そうです。質の高いサービスを提供するには、当然ながら理由があり、こうした仕組み(一種の「知的財産」でしょうか)が機能しているということでしょう。

 知財の世界でも、「三位一体を実践する」とか「明細書の質を高める」とかキャッチフレーズを唱えるだけでは意味がなくて、それを成果として示していくためには、そのための仕掛けを作り、運用することをしっかりやっていくことが重要なのではないでしょうか。

知的財産のうんちく

2007-05-27 | 知財発想法
 本日は、IAIジャパン2007年度総会で、「ベンチャー企業の競争力と参入障壁について考える」のタイトルでお話をさせていただきました。

 添付画像がレジュメの冒頭部分ですが、表紙にあるように、本日のテーマと「知的財産権を活かした成長戦略」というサブタイトルとの組み合わせが、我ながらちょっと気に入っています(どうでもいい自己満足の世界ですが)。

 レジュメのこの部分では、「知的財産ってそもそも何なのか?」という根本的なところを考えました。「知的財産とは何か」と「知的財産の定義と知的財産戦略」の記事に書いた内容をブレークダウンしたものですが、参加者の皆様(ビジネスエンジェル、コンサルタントやベンチャー経営者の方々)にどちらのイメージを持たれているか挙手をいただいたところ、なんとほぼ半々という結果でした。どうりで、「知的財産」と事業の関係を議論するときに、どうにも話がかみ合わないという場面が起こりやすいわけです。このどちらを前提にするかによって、レジュメの4枚目にあるように「知的財産戦略」のアプローチ、何を考えるかというテーマが大きく異なってきますので、最初に「知的財産」の前提を確認しておくことは、やはり重要なのだということを改めて確認しました。
 蛇足ですが、知的財産基本法によるとレジュメの5枚目が法律上の正しい定義ですが、ビジネス的には全く本質的な議論ではありません。法律家的にはちょっと説明したくなるところですが、ビジネスの場でこの定義についてウンチクを傾けるのは、うっと飲み込んでおきたいところです。

減ってりゃ怖いよね。

2007-05-25 | その他
 イチローがメジャー1000試合出場を達成しました。この記録について、
 「(記録は)もちろん、知らないですよ」
と答えたらしいですが、その後のコメントが笑えます。

「出てりゃ(記録達成は)来るからね。減ってりゃ怖いよね。単純に足し算すれば増えていくから、別に驚きはしないけどね」

 日本企業は特許出願の「件数」ばかりを競う傾向があるのが問題だ、ということがよく言われました。最近はもうそんなことはないのかもしれませんが、もし社内で単に出願件数の多さを称えるような議論が出てきたら、イチローのように答えてみてはいかがでしょうか。

「出願してりゃ件数は増えるからね。減ってりゃ怖いよね。単純に足し算すれば増えていくから、別に驚きはしないけどね」

イチロー 262のメッセージ

ぴあ

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技術のアピールに「は」なる

2007-05-24 | 新聞・雑誌記事を読む
 昨日とりあげた神戸製鋼の新技術の件ですが、本日の日経金融新聞の記事によると、「生産規模は小さく業績への直接的な寄与度は限られそう」とのことです。昨日の記事からはちょっとあらぁ???という感じですが、「技術力のアピールになる」とのアナリストのコメントまで掲載されています。よって、株価の上昇も長くは続かないだろう、とのことです。

 この件をみても、知的財産の評価について考えると、経済的な効果が見えてこないと「画期的な技術=知的財産の価値が高い」、というわけにはなかなかいきません。この生産技術(技術Aとします)の場合は、設備の大型化という課題が障害になっているようですが、逆に言えば、この課題をクリアするような新技術(技術Bとします)が開発されたならば、それによって技術Aの価値は一気に高まることになるのでしょう。つまり、技術Aと技術Bの価値はそれぞれ別に計算し得るものではなく、技術Bの存在が前提になると、技術Aの価値は単なるA+Bの価値を超えて飛躍的に高まるということになります。
 やはり、知的財産の価値評価はパラメータが多すぎて、極めて難しいテーマですね。

画期的な新技術

2007-05-23 | 新聞・雑誌記事を読む
 技術力を背景にした日本の鉄鋼メーカーの強みについて、このブログでも何度かとり上げてきましたが(「技術を手に入れる」etc.)、今日の日経新聞1面によると、神戸製鋼がさらに凄い技術を実用化するそうです。記事によると、これまでは、高純度の原料と高度な技術を前提にしていた高級鋼を、低純度の原料で、かつこれまでよりも低額の設備投資で生産することが可能になるそうです。原料費は約3分の1、設備投資額は約4分の1に抑えられるとのことなので、この数値からするとかなり革新的な技術のようです(設備の大型化が難しいという弱点もあるようですが・・・)。
 この新技術について、神戸製鋼は基本特許を抑えていて、他社への技術供与にも応じる方針とのことです。技術の性格上、実施に必要なのはおそらく特許だけではないものと推測しますが、参入障壁を有効に機能させ続けることができれば、同社の業界でのポジションを大きく変える話なのかもしれません(株価もビビッドに反応しているようです)。尤も、高級鋼を低価格で生産できるようになり、値崩れを招いたりしては困るでしょうが。今後の動きに要注目です。

経営学よりビジネスセンス

2007-05-22 | 知財一般
 「知財経営」とともに語られることの多い「技術経営」について、日経ベンチャーのサイトにちょっと面白い記事が掲載されていました。
  「経営学が進歩しても何も変わらない
 MOTブームに乗っていた数年前のメディアでは考えられないような本音ベースの話ですが、問題の本質はまさにこの記事のとおりであると思います。
 この記事の論点から少しずれますが、知財の世界でもこれからの業務のあり方を示すキーワードとして、「知財経営」など「経営」の語がよく登場します。しかしながら、通常の知財業務の中で「経営」マターといえるような問題がそれほど多く存在しているわけではありません。実務能力の他に求められることがあるのは、知財実務の中で事業への影響をも考慮することができる、「ビジネスセンス」といった性質のものであることが殆どなのではないでしょうか。
 知財人に求められるスキルを考える場合に、学術的な「経営」の理論と「ビジネスセンス」とがなんとなくごちゃ混ぜになっていることがあるように思いますが、経営学の理論を学んだからといって「ビジネスセンス」が身につくわけではありません。「ビジネスセンス」とは、仕事の経験や、経済紙(誌)を読むとか、そういった日常的なところから身に付いていくものだと思いますが、知財人が現場で求められるスキルは、こちらが中心になってくるのではないでしょうか。

閾値

2007-05-21 | 書籍を読む
 「頭のいい人が儲からない理由」を読みました。アクの強い本なので好き嫌いが分かれそうですが、基本的なものの考え方で、ハッとさせられるようなことがいくつ書かれています。
 その中に、
閾値を超えるまで続けよ
という話があります。1の努力と2の努力の差は単に2倍の結果の違いとして表れるのではなく、その間に飛躍的な効果の差を分ける閾値が存在していれば、結果の差は5倍になることだってある、ということです。従って、何かを始めるのであれば、そこまでは続ける覚悟をしなければ意味がない。この感覚は、仕事や勉強、スポーツなどの経験で実感された方も少なくないのではないかと思います。

 知財業務の効果についても、あるレベルのところに「閾値」が存在していると思います。その閾値は、量を基準として決まるものだけでなく、時間を基準にした閾値も存在しているように思います。そして、その閾値は、知財業務に初めて取り組む企業が期待しているよりも、通常はかなり高い水準に存在していることが多いのが厄介なところです。
 特にベンチャー企業の知財業務への本格的な取組みをサポートする際には、この閾値の存在とおおよそのターゲット(最初から明確に見えるものではないですが、2年くらいは頑張りましょうとか、10件くらいの出願を目指して特許ポートフォリオを作っていきましょうとかいった目標)を示していくことも必要なのではないでしょうか。

頭のいい人が儲からない理由

講談社

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さりげなく成り立つ知財ビジネス

2007-05-20 | 知財業界
 先日の「ビジネス」の記事で書き忘れたことを一点。
 知財業界で知財プロフェッショナルが「ビジネス」を論じる際に、その「ビジネス」とは、自らの「知財ビジネス」のことなのか、それとも知財を活かしたクライアントの「ビジネス」のことなのか。個々の場面では当然に区別されている概念だとは思いますが、漠然と「ビジネス」という言葉が使われる場合には、ごちゃ混ぜになっていることが少なくないように思います。

 この点について、先日も少し紹介した「マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー」に、マービン・バウワーがマッキンゼーの株式公開に懐疑的だった理由について、次のように説明されています(マッキンゼーに限らず、戦略系のコンサルティングファームは今でも株式を上場しないのが一般的です)。

公開企業として株主の利益を守りつつクライアントの利益を第一に考えることができるとは思えなかった

 知財業界で2種類の「ビジネス」のうち、知財プロフェッショナル自身の「ビジネス」について考える際にも、同じ様にこの部分が大きな課題になってくるのではないでしょうか。例えば、プロフェッショナルサービスを提供する医師が自らの「病院経営」について語る姿は、経営が不安定では患者自身が困ると頭ではわかっていても、患者のことを第一に考えてほしい、自身の経営を前面に出しているところはあまり見たくないというのが人情ではないかと思います。プロフェッショナルとして第一に考えるべき「ビジネス」はクライアントの「ビジネス」であり、自らの「知財ビジネス」はさりげなく成り立っている、という姿が理想なのではないでしょうか。

マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー

ダイヤモンド社

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地道なアフターフォロー

2007-05-18 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融新聞に、
「横浜信金と川崎信金・発明協会と連携~中小の知財管理支援」
という記事があります。両信金の顧客で知財業務への支援ニーズがある場合に、発明協会に繋ぐという協定を結んだそうです。
 知財の価値評価、知財の証券化といったテーマに比べると地味な感のあるニュースですが、本来の知財の性質を考えると、地道なアフターフォローこそが顧客にとって有意義なことであり、ひいては金融機関の与信管理にも役立つものなのではないでしょうか。企業の競争力の基となる知的財産や、その知的財産を巡る競争環境は常に変化するものであり、必要な知的財産が保護され続けるかどうかは、資金を提供する際の定点観測だけではとても測ることができません。知的財産の優位性を維持していくためには、継続的な知財業務への取り組みが不可欠ですが、特に中小企業の場合は企業の状況をフォローしている金融機関が知的財産にも気を配ることができれば(あえて信託といったスキームにまでのせなくても)、有益な経営支援になるのではないかと思いますが・・・
 こうした動きで、「協定の締結」がゴールとなってしまうのではなく、実質的にワークしていくことを期待したいと思います。

ビジネス

2007-05-17 | 知財業界
 知財業界(特に弁理士業界)では、近年「ビジネス」の語を見かける機会が多くなっています。「知財ビジネス」、「ビジネスを意識した知財業務」、「知財人もビジネスセンスを身につけよう」などなど・・・
 ところで、ここでいう「ビジネス」とはどういう意味なのでしょうか? 「ビジネス」というのは何とも曖昧で便利な言葉なので、無造作に使われていることが少なくないように思います(斯く言う私も、このブログは「ビジネスと知財との融合」を目指すなどと、曖昧な目的を掲げていますが・・・)。
 辞書には「事業」「商売」などの意味が定義されているので、おそらく知財の世界で「ビジネス」という場合には、「研究開発」とか「(従来型の)権利化実務」みたいな業務とは異なる事業寄りの業務を指していることが多いのでしょう。しかしながら、そもそも研究開発等の成果物を「財産」と認識し、その領域を知的財産権で固めようとすることは、その成果物を事業=ビジネスに活かそうという意図があるからに他なりません。研究開発の成果を論文発表するというところまではビジネスとは異なる世界かもしれませんが、それを権利化しようとする工程からは何らかの意味でビジネスを意識しているはずだと思います。個人間のトラブル処理などの仕事も行う弁護士の業務であれば、「ビジネス系」か否かという区分もあるのでしょうが、知財に携わる弁理士の仕事は必ず何らかのビジネス目的と関係しているはずであり(個人からの依頼であっても同様です)、本来「ビジネス」は知財業務の中に当然に内包されているはずの概念です(例えば、会計士や社労士の人達が「ビジネス」云々を強調しているという話はあまり耳にしません)。
 結局のところ、今の知財業界の問題点として、事業サイドとの連携が不足しているという事実の端的な表現として、「ビジネス」の語が使われる機会が増えているのだと思いますが、その問題点が解決された暁には、知財業界で「ビジネス」の語をあまり耳にしなくなる、という逆説的な現象が起きるのかもしれません。