経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

‘顧客ニーズ’と‘社会のニーズ’

2012-05-25 | 企業経営と知的財産
 昨日、ネット上にこんなコラムが掲載されましたが、なかなか厳しいところを突いた内容です。

  特許戦争で得をするのは弁護士だけ!?
  それでもアップル・サムスンが訴訟合戦を続ける理由

 アップル・サムスンの訴訟問題の他にも、ここのところ、ヤフー対フェイスブック、グーグルによるモトローラモビリティ買収、フェースブックのマイクロソフトからの特許購入など・、知財屋(特許屋)的には「やはり特許は重要ですよ」と説得するネタが次々と現れ(どれも米国ネタばかりではありますが・・・)、フォローの風が吹いているようにも見えるのですが、特許に関係のないビジネスパーソンの偽らざる本音がこのコラムには記されているように思います。

 「ただ、一般消費者にとって、こうした訴訟は見ていておもしろいものの、何らいいことはない。」
 「まず、訴訟に莫大なコストがかかっている。・・・そんな訴訟コストは、最終的には商品の価格に上積みされ、それを払わされるのは結局われわれ消費者だ。」
 「・・・特許でカバーされる範囲があいまいだったり広過ぎたりするために、競合企業製品のどんなデザインや機能も訴訟ネタにできるようなところがある。訴訟に用心すれば、何ら新しいことができなくなる。」
 「・・・世界中の裁判所もウンザリ気味だと言われる。ビジネス上の競争の始末を公的な裁判所に持ち込んでいる面があるからだ。・・・」

 そうはいっても、特許問題はそれが生じた当事者にとっては非常にシリアスな問題だし、争いが生じた以上、知財屋(特許屋)には明白な‘顧客ニーズ’が発生するわけで、‘顧客ニーズ’に最大限応えられるよう努力するのは、プロとして当然に求められる役割です。一方で、こういう見方を目にすると、そういう側面も否定し難いことは自分でもわかっており、果たして特許制度は、そしてその特許制度の下で仕事をしている自分は本当に社会の発展に貢献しているのだろうか、なんて考えてしまったりすることもあるわけです。

 ビジネスにおいて、‘顧客ニーズ’に応えることが重要、というフレーズは誰もが繰返し耳にしてきていることで、それは否定のしようもありません。一方で、金融の仕事をしていた時期も含めて様々なビジネスの盛衰を見てくると、そこにたくさん存在していたはずの‘顧客ニーズ’がいつの間にか失われてしまう例は少なくありません。比較的近いところでは、投資家を募り老朽化した不動産を仕入れてバリューアップして売却するビジネス、その前だと携帯コンテンツビジネスなど、ものすごい‘顧客ニーズ’があるということで、雨後の竹の子のように会社が生まれ、急速に業績を伸ばして次々と上場にまで至る企業が表れたものの、その多くが短期間に急速に萎んでいってしまいました。
 勿論‘顧客ニーズ’は大切だけれども、その奥にある‘社会のニーズ’はどうなっているのか。そこをしっかり見据えておくことが、さらに大切だと思うのです。
 特許紛争が生じれば、そこに明らかな‘顧客ニーズ’が生じるけれども、それを社会はどう捉えているのか、‘社会のニーズ’はどちらを向いているのか、社会が本当に求めていることは何なのか。

 特許制度が存在する理由は、その存在によってイノベーションが促進され、社会が豊かになることにあり、‘社会のニーズ’、社会が本当に求めていることはそこにあるはずです。
 勿論、企業が先行投資を回収して次のステップに進むため、新たな付加価値を提供するサイクルを繰り返すためには、悪質な模倣を排除することが必要なケースも多々あるのだから、特許紛争=イノベーションを阻害、という図式になるわけではないのだけれども、それが本当に‘社会のニーズ’に裏付けられたものであるかをできるだけ意識しておきたい。
 やはりそういった目的で設けられた特許制度の下で仕事をする以上、‘顧客ニーズ’だけでなく‘社会のニーズ’に応え、ブームを作って社会を煽るのではなく、経済社会と調和した知財屋(特許屋)としての仕事をやっていきたいものです。

 そんな思いから、最近は、知財のもつ排他的な機能よりも(それは語って下さる方が多々おられますので)、知財活動によって他との違い・自らの強みを客観的に浮かび上がらせる機能自らの強みをよく理解して、顧客に、パートナーにその強みをわかりやすく伝えてビジネスチャンスを拡大していく機能、そこに注目して、いろいろな取組みを始めています。
 知財活動のこういった機能、自らの強みを知る、ビジネスのきっかけを創る、という機能は、それは企業の存在を前提にする以上、社会において普遍的なニーズであり、いわゆる‘知財ネタ’には関心を持てないビジネスパーソンにとっても、共通の関心事であると思うからです。知財の領域に引きずり込むのではなく、知財という道具を持って共通の関心事に踏み込んでいく、という感覚です。
 自分のような知財屋(特許屋)が一枚噛むことによって、中小・ベンチャー企業がビジネスチャンスを拡げることにつなげられないものか。「結局は売上」、「知財は面白い。」、「売るための、伝えるための、デフレ時代の知財戦略」、「説明できるか、できないか。」、「人の力を引き出す」、「会社のプライド」といったエントリにそのあたりのことを書いてきましたが、どんどんいわゆる‘知財ネタ’からは遊離してきて、アイツの言っていることはわけがわからん、ともなってきているような・・・。

 ですが、今はクリアには見えないけれども、この領域にはきっと‘社会のニーズ’に裏打ちされた‘顧客ニーズ’があると信じて、引続き追求していきたいと思います。


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