能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

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『求塚』粟谷明生風あらすじと解説

2012-08-04 09:03:00 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
10月14日粟谷能の会にて『求塚』を勤めます。鑑賞手引きとしての投稿です。

複数の男達に求愛された女が返答に困り男達に難題を課して解決した者を選ぶと約束する物語。男達が解決出来ずに退散してしまうのは「かぐや姫」だ。

能『求塚』も一人の女に二人の男が求愛する形式で、似てはいるが、男達は難題を解決してしまい、それにより悲劇が起こる。その人間たちの、特に愛された女の心模様を中心に描いているのが『求塚』だ。

二人の男の名前は小竹田男(ささだおのこ)と血沼益荒男(ちぬのますらお)といい、美しい女の名は菟名日処女(うないおとめ)。

男達は同時に女に惚れてしまう。恋文は同時に女の元に届き、逢瀬の時刻も重なり鉢合わせ。女は困り果てて、生田川の鴛鴦を射止めた者になびくと答えてしまう。すると二人の放った矢は鴛鴦の翼に同時にあたり女はいよいよ判断に困り、返答の出来ぬ身と鴛鴦の命まで奪ってしまった罪を嘆き、生田川に身を投げる。その死を知った男達は悲しみ、女の塚(墓)をつくって葬り、互いに刺し違え後を追う。自ら命を絶ち、二人の男と鴛鴦までも巻き添えにした女には地獄の呵責が待っていた。

女は現世でも、死後来世も永劫に業火の地獄の責めを受ける。この地獄の有様は実に凄惨なもので、二人の男の霊が責め、巻き添えになって殺された鴛鴦は鐵鳥となり鉄の嘴で女の身体を突き髄を喰らう。火焔の責め、八大地獄の数々。

しかし、女にこれほどの責め苦を受ける非があったのだろうか。美しい故にこそ起きた恋の悩みのなせる業なのだ。

だれかが悪いのでもない。だれでもない。

『求塚』は恋に身を焦がすことの危うさをテーマにして、諭しているかのようだ。

では私たちはここを避けて生きられるか。そうはいかないだろう。

今時こんな純粋過ぎることなどない、と思われるかもしれないが、そうだろうか。いやそうではないだろう。

今の世でも共通する恋慕の情。

恋しく逢いたく、そして手に入れたいという思い。

『求塚』はこうした人間の本性を恋の表裏に分け入って描いている。暗いが、すばらしい作品なのだ。

粟谷能の会のお問い合わせ先
粟谷明生
akio@awaya-noh.com


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
楽しみ! (どうきゅうせい)
2012-08-04 10:52:41
しかし、疲れそう。
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お返事 (粟谷明生)
2012-08-04 12:03:16
どうきゅうせい様
確実にくたびれます。
暗く、憂鬱な空気に包み込まれ、疲れて
私の保証付きです(笑)
でもいらして下さいね

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もちろん! (どうきゅうせい)
2012-08-05 09:07:52
 私は、3D 映画とやらを見たことなくて、見る気もないですが、みんな、もっと、舞台見ればいいのにね、当然、3D で、でも、能舞台の場合は、ちょっとだけ二次元的な感覚もあり(席によって全然見え方が違うのは、アナモルフォーシスとしか思えない)、しかも、幽玄な世界に入り込める。すばらしい芸術ですね。
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