能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
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『融』の見どころ その1

2016-02-20 11:12:48 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
喜多流の『融』は、汐汲みの老人(前シテ)が田子桶を担ぎ登場し、常は常座(太鼓前)に出て、すぐに謡い出しますが、一度揚げ幕の方(東の方角)を振り返り、その後、正面に向き直し「月もはや、出潮になりて盬竃の、うら寂まさる、夕べかな」と謡います。

この、一度振り返る型はなにを意味するのか?
伝書には「東見る」としか記載されていませんので、ここは演者が考えなくてはいけないところとなります。私は、「お、月は出たがまだ低いなあ」と言う気持で演じようと思っています。この型、喜多流では当たり前だと思ってやっていましたが、他流ではなさらないようなので、喜多流独特の演出といえます。

『融』の前場は三つの場面から構成されています。まず老人が僧(ワキ)と出会い、河原の院の廃墟を紹介します。次に老人は僧に栄耀栄華の時代の河原の院を回想し、そして最後は河原の院から見える名所を教え、遂に、潮汲みを見せては姿を消すのでした。

最初の場面の僧との問答がすすむうちに、籬が島を教えると老人はまた振り向き「や、月こそ出でて候」と月がはっきりと高いところに上がって見えた、と謡います。老人はとても月にこだわりを持っています。
観客の皆様には『融』をご覧になるとき、前シテが最初に登場した時はまだ月は低い位置にあるので、さほど六条河原の院は薄暗いイメージで、そして「や、月こを出でて候」で、辺り一面が明るくなった、と想像していただけると演者としては嬉しい限りです。

写真 
能『融』シテ粟谷明生  撮影 吉越立雄
能面「三光尉」粟谷家蔵 撮影 粟谷明生


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