能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
能の世界も個人の生活もご紹介しています!

似たもの同士

2006-03-03 07:29:42 | カルーク面白楽屋裏話
「鮑」と「トコブシ」は似ている。
同じように見えるこの二つ、実は中身が全然違う。

では~その違いは?
細かいことは専門家に任せるとして、簡単に言えば~~
「生命力が強く、生でも食べられるのが鮑。
その逆にすぐにノビてしまって生命力が弱く、
熱を通さなければ食べられないのがトコブシ」これが答え、
馴染みの寿司屋のご主人が教えてくれた。

同じようで違う二つ!となると『野守』『鵜飼』もそうだ。
この二曲の後シテは装束・面が
唐冠・赤頭・小ベシミ、紅入厚板・半切という全く同じ扮装だ。


昔、旅役者は数少ない衣装で多くの曲をこなすために
何にでも使えるものを持ち歩いた。
そんななごりなのか?『野守』『鵜飼』の格好は同じだ。

で~ここに「錯覚」という落とし穴がある。
深く考えずに舞台を踏んできてしまった私は勘違いをしていた。
『野守』の鬼神も『鵜飼』の閻魔様も同じだと~~。
全然違うのにね~~~。

今度勤める『青野守』の後シテは普通の鬼神とは異なるイメージで演じるつもりだ。

『鵜飼』と『野守』を鮑とトコブシに例えては失礼かもしれないが
『鵜飼』は閻魔大王様、
『野守』は土着の神、国津神、春日野を守り鏡を守る番人で
ある荒ぶる神の存在だ。
全然違うものなのだ。

同じ貝殻・装束を背負っていながら中身の違いに気付かなかった
自分の反省をもとに『青野守』として鬼神であっても独特のスタイルを
作り上げたいと思っている。

最後の場面「大地をかっぱと踏み破って奈落の底にぞ入りにける」で
終曲するが、どうもこの「奈落」という言葉が気になっている。
この引っかかる詞章の解明はいずれ粟谷能の会ホームページの演能レポートで書くつもりだ。

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