能『氷室』は亀山院に仕える臣下(ワキ)が丹波国の九世戸に参詣した帰途、氷室山に立ち寄ると、氷室守の老人(前シテ)と若い男(前ツレ)が現れます。老人は年々捧げる氷の謂れを語り、夏でも氷の溶けないのは君徳によるものだと讃えて、臣下に祭を見るように勧め氷室に隠れます。
(中入)
氷室明神に仕える神職(アイ) が雪乞いや雪まろめを見せると、やがて音楽と共に天女(後シテ)が降りて舞楽を舞い、氷室明神(後シテ)が氷を持って出現します。明神は氷の威力を見せ、君に捧げる氷の守護神となり臣下を都に送り届けます。
『氷室』は脇能に分類されますが、後シテの面が「小べシミ」(白頭の場合は「べシミ悪尉」)であるのが他の脇能の諸曲と異なります。
これは氷室明神が歴史に伝えられるような神霊ではなく、清浄な氷に対する観念を神格化した演出によるものだと推察出来ます。
前シテの老人は『高砂』同様、「小尉」の面を付け、装束は水衣に白大口袴です。箒の代わりに雪を掻き集める「柄振り(朳)」と呼ばれる道具を持って現れます。
『氷室』も『高砂』も動きのない居クセですが、二曲共、上羽(あげは)後に少し動き(型)があるのも似ています。
『高砂』は箒で掃き清める型がありますが、『氷室』は雪を掻き集めて、氷室に見立てた作り物の塚に雪を投げ込む珍しい型をしますので、そこが見どころとなります。
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