能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
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2014-05-16 06:01:22 | 言いたいこと・伝えたいこと 
ホテルと言っても高級なホテルの話ではない、安いビジネスホテルでの話だ。

朝食を注文すると、若い従業員の女性が、お膳に御飯や味噌汁、焼き魚などが並べられた和朝食を運んで来て、「はいどうぞ」と無愛想な投げやりな口調で言って、お膳をバーンと荒く置いていった。若い女性と言ったが、もしかすると20代後半、いや30代前半なのかもしれない。女性の年令というものはなかなか当てられないものだ。

この従業員の女性にホテルの支配人は、接客のイロハをちゃんと教育しているのだろうかと思った。そして「お茶とコーヒーはセルフサービスです」と付け加えると、私の斜め前のたぶん決められた場所なのだろう、そこに戻ると、少々お疲れなのか、どう見ても覇気がなく、ふて腐れているとしか思われないような顔をしてつっ立っている。私以外に客はいない。

従業員として彼女にすべきことは、もう何もないのだろう、そんな状況となった。

「和食だから日本茶にしよう、コーヒーはあとにして」と、内心思いながらセルフサービスのコーナーに出向きお茶を注ぎ、テーブルに戻る。「セルフサービスであるのだから、この女性がやる仕事ではない、そう、そうだよ」と思いながら、この女性の今の生活や将来をちょいと想像しながら飯を口に運んだ。

自分の仕事範囲外であっても、「お茶、おつぎしますね。本当はセルフなんですが、特別ですよ」などと、もし言われたら、少々美人でなくても、ぞくぞくして、なんだかよい一日がはじまりそうな、そんな予感がするのではないだろうか。

父が「おべっかのひとつも言えないようじゃだめ」と言っていたことを思い出したが、ウソをついてまでとは言わないが、気の利いた言葉の一つや二つ、自然と口から出てくるといいなあ、と目の前の無愛想姐さんを見ながら思った。

能は虚構の世界、能役者は虚構を演じるのだから嘘つきとも言えるが、気の利いた言葉を発しながら舞台活動を繰り広げたいものだ。あれ? そう強く思わせてくれたのは、気の利かない無愛想な姐さんのお陰かな? 

文責 粟谷明生
写真 粟谷明生
黒塚写真 シテ 粟谷明生 撮影 潮康史


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