能楽・喜多流能楽師 粟谷明生 AWAYA AKIO のブログ

能楽師・粟谷明生の自由気儘な日記です。
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能舞台の作り方 目の錯覚?

2013-05-13 13:16:22 | 能はこうなの、と明生風に能の紹介
昨日、興福寺の南円堂(重文)と北円堂(国宝)をご紹介したが、これら円堂と呼ばれる建物は、実はまん丸ではなく八角形である。昔の人は八角形も丸だと思っていたのだろうか。六角形、八角形、十二角形と角が多くなればなるほど内角が大きくなり、全体は円に近づいていく。だから、八角形を丸く錯覚したとしても不思議ではなく、八角堂といわずに円堂としたのも、まろやかでよいかもしれない。
まあ、こんなことは、どうでもいいことかもしれないけれど。

今回は目の錯覚についてのお話だ。


能舞台の橋掛りには三本の松が置かれている。本舞台に近いものを一の松、これが一番大きく「大」、二番目の真ん中にあるのが二の松で、大きさは「中」、揚げ幕に近い三の松は小さく「小」となる。

この「大中小」は遠近法という目の錯覚を利用して、揚げ幕近くで立つ人物が本舞台に近づくとだんだんと大きく見えるように工夫されている。ここまでは本に書いてある。

さてここからが能楽師らしい解説だ。
実はもう一つ、能楽堂の橋掛りには工夫がある。それは勾配だ。本舞台がやや高いところにあり、橋掛りは本舞台から鏡の間にかけて下り坂になっている。太鼓の撥を橋掛りの一の松に置くと鏡の間に向かい転がりだす。これを「撥転がし」といって、勾配があることの証になっている。大中小の松の配置と勾配、能舞台はこのように工夫され作られているのだ。


本日、広島護国神社で催される「広島蝋燭薪能」の能舞台は大中小の三本の松は置かれるが、残念ながら勾配はない。舞台と橋掛の交わる角度もほぼ直角なので、なかなか遠近法がうまく生かされないかもしれない。
しかしそのような環境下での公演であっても、それを補うものがあれば良い催しは出来上がるはず。


それはなにか? 

演者の力量だ。これでカバーするしかないのだ。

シテの出雲康雅氏、中村邦生氏はもちろんのこと、狂言の野村萬斎氏と急遽代演していただくことになった大鼓の亀井広忠氏、ワキの大日方寛氏など一流の演者を東京から集め良い能・狂言を広島の方々にお見せ出来れば思っている。舞台の作り方と能楽師達の力量、そのあたりをご覧いただきたいと思う。

(御礼とお詫び)
本日の「広島蝋燭薪能」の入場券は全席完売となりました。
ご来場の皆様のご協力に、御礼申し上げます。
今回、ご来場いただきました皆様にはお一人様一個、にしき堂様のご厚意により「もみじ饅頭」をプレゼントいたします。

写真撮影 
広島護国神社「広島蝋燭薪能」で使用する能舞台を12時に粟谷明生が撮影

文責 粟谷明生

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