ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子 「現代生活独習ノート」 講談社

2022-12-16 15:17:28 | 津村記久子
 大好きな津村記久子の名前を見つけ手に取った。8つの心にしみる短編集。
 本当に、どうって事ないお話なんだ。仕事に疲れた女子会社員や地味な男女中学生たちが、さえない日々を送っている。キラキラしている登場人物がいないから読みやすいのかな?どうして私は、津村記久子の小説に心惹かれるんだろうと自問する。

 彼女の小説に一番よく登場するのは、職場の同僚や上司との人間関係に疲れ切った女性だが、そうするとどうしても彼女たちの食事がおろそかになる。それを書いた短編が「粗食インスタグラム」。
 豪華な食事をSNSで見ると体調が悪くなる主人公は、自分の貧弱な食事をSNSにUPするようになる。ひどいよーーー、その内容。「×月×日クラッカーと水」「×月×日ソフトクリームとコーンスープ」「×月×日インスタントのフォー」などなど。
 でも最後に主人公は自分でお米を洗ってご飯を炊く。なんとか立ち直れそうな気がする、という独白。良かった。少し明るい兆しが見えてきたぞ。彼女が無くしてるのは、ご飯を作る気分というより、何を食べようか決める気力なんだろう。

 疲れ切っていると、決定というか選択する気力がなくなる。「レコーダー定置網漁」の主人公は、会社の仕事として入社希望者のSNSをチェックする仕事をしている。もちろん入社を希望する大学生たちの自己申告するSNSに、ヘンな内容があるはずないと思うが、あるらしい。
 一番厄介なのは、自分ではこれOKだろうと思っていても炎上必至の内容があり、そういう人は要注意判定されるようだ。
 そういった大量のSNSを見ていると、もう何も見たくなくなる。情報疲れというのは、確かにある。
「膨大な情報を選別することは、その作業だけで私たちを疲れさせ、最悪の場合、選択そのものを放棄させます」(本文より)

 本当にその通り。大昔の切手を貼った封書をペーパーナイフを使って開け、中を確認した時代が無性に懐かしい。毎日届く大量のクズメールを確認するのに、どれだけ無駄な時間を費やすか、大損している気分になる。
 人に情報を送ろうとするなら、その対価(切手)を払えよ!タダで人に読んでもらおうとするな!
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