ケイの読書日記

個人が書く書評

糸山秋子「末裔」

2012-06-30 21:54:50 | Weblog
 妻を病気で亡くし、子どもは独立して家を出て行って、一人残った初老の男。
 彼が勤め先の役所から、ごみ屋敷になりつつある自宅へ帰ってきて、カギをあけ中に入ろうとすると…なんと!!鍵穴がない!!

 こんなシュールな場面から始まるこの小説は、どうもよくわからない。わかろうとしてはいけないのかもしれない。

 家に入れないので街中をうろついていると、「あなたの奥さんに生前お世話になりました」という自称・占い師が寄ってくるし、空き家になっている叔父の家に勝手に住み着くと、おしゃべりする犬が挨拶に来る。
 それに…犬の七福神って、なんだよ!!

 だいたい、末裔というタイトルなのに、この初老男は、故人である自分の父や伯父、もっと遡って長野県に住んでいたという彼らの先祖の事を調べに、出かけている。

 初老男に子どもは2人いる。しかし、上の兄には、奥さんはいるが子どもはいないし、下の妹は、結婚の予定も意思もないので、当然子どもはいない。
 やはり、人間という生き物は、自分の子孫がいなくなるという事実を目の当たりにすると、関心が先祖に向かうのかな。

 
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ジェイン・オースティン「高慢と偏見」㊦

2012-06-25 15:03:49 | Weblog
 

 これぞ、正統派恋愛小説!!!
 ヒロイン・エリザベスは、恋敵の妨害、相手の叔母の反対、自分自身のプライドと偏見などといった幾多の困難を乗り越え、大金持ちでハンサムなダーシーと結婚。また、彼女の姉も、ダーシーの友人と結婚する、というパッピーエンドストーリー。

 だからこそ、時代を超えて世界で読み継がれるのだろう。しかし…「めでたし、めでたし」でゴールインの後がうんざりするほど長いんです。現実の生活は。

 例えば、エリザベスの一番下の妹は、ダーシーの元執事の息子と駆落ちするが、どう考えても、男が借金から逃げるのに引きずられたにすぎない。
 駆落ちという行為は、この時代、とんでもなく不道徳な事なので、女の親・兄弟姉妹・親戚は、必死になって、女に持参金をつけ男と結婚させようとする。(駆落ちして結婚しなければ、娼婦と同じ扱いを受ける)
 しかし、その借金の額が半端ではなく、その先も、いい気になって借金を作り続けるので、いつもその肩代わりをすることになる。
 ダーシーがいくら金持ちだからといって、いつまでもニコニコはしてないだろう。

 それに、両親が亡くなっているダーシーの妹は、兄であるダーシーをすごく頼りにしている。彼女が、兄嫁とそんなに仲良くなれるだろうか? 兄の関心が自分から、エリザベスに移ってしまっている事を、面白く思わないのが人情では?

 どうしても、私は小姑目線で、小説を読んでしまいます。
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ジェイン・オースティン「高慢と偏見」

2012-06-19 14:23:28 | Weblog
 英国恋愛小説の古典として、有名な小説だから、前から読みたいと思っていた。図書館の書架に㊤㊦2冊そろって並んでいるのを見つけ、ラッキー!と借りて読んでみる。

 まず驚いたのは、このお話って、私はヴィクトリア朝の時代だとばかり思っていたが、それよりも前、18世紀の終わりごろの話なんだ。なんと!!ナポレオンが出てくるもの。
 それに『ジェイン・エア』のような重厚な物語かと思えば、会話が主体ですごく読みやすく、私の嫌いな風景描写がほとんど出てこない。
 こんなことなら、もっと早く読めばよかった。


 知的で美人のエリザベスは、大地主で美男子で頭脳明晰なダーシーと知り合うが、その高慢な態度に反感をいだく。そこに、エリザベスの姉とダーシーの友人の恋愛話が絡まり、恋敵の妨害もあって、大騒動がもちあがる。

 この時代の、イギリス版婚活物語ですね。
 ちょっと驚いたのは、結婚の条件として、収入がストレートに出てくること!!
 この時代のイギリスの中・上流階級の人たちって、汗水流して働くという感覚はないです(そういう労働は下層階級の人たちがやることだと思っている)
 だから、もともと自分が手にするだろう不労所得(遺産や年金や配当、土地の小作料など)が全てで、一生懸命働いて収入をアップさせようという事は思わない。
 パーティで知り合って、お互いに好意をいだいた男女でも、お互いにお金が無いと知ると、アッサリあきらめる。
 収入がない男は、遺産が転がり込んだ女のご機嫌をけんめいにとって、結婚にこぎつけようとする。
 個人の収入がいくらか、役所で簡単に調べることができるんだ。

 それからもう一つ、社交術がその人の評価の95%くらいを占めるという事。パーティで両隣に座った異性と、いかに会話を途切れさせずに楽しく会話するかという事が、最重要課題なのだ!!
 コミュニケーション能力が低い人は、この時代のこの階級では、本当に生きづらいだろう。

 さ、エリザベスとダーシーの恋の行方はいかに? ㊦巻を読むのが楽しみです。
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平安寿子「しょうがない人」

2012-06-13 15:20:26 | Weblog
 ネットショップ「スマイルスマイル」のパート従業員・日向子は、夫と娘がいる43才の主婦。社長は高校時代の友人で、他のパート仲間とも仲が良く、盛り上がる話題は、生きている限り必ず遭遇する「しょうがない人」たち。


 平安寿子さんの小説は、どうもクセになるようだ。ドラマチックな展開もなく、キャラが立っている訳じゃない。
 どこにでもいる市井の中年女性の、どうでもいいような話が満載!
 井戸端会議でおしゃべりする楽しさ、人をこき下ろしてスカッとする爽快感がある。

 やり玉に挙がるのは、まず、金持ちに嫁いだことを自慢する親戚の女、悪口対象の王道・姑と小姑、大した用もないのに電話をかけてくる大学時代の後輩、中学になりモンスター化した子供、金銭にルーズな仕事上の知人、電話注文の時1時間以上も家庭の事情を話しまくるお客さん、実家を下宿屋にしようとする両親、その話に飛びつく妹夫婦…などなど。

 ああ、一歩外に出ると、女には7人の敵がいるのだ。

 特に面白かったのは、金銭にルーズな仕事上の知人・狸男。
 話が上手いので、よくモテて女性とデートするが「持ち合わせがないから立て替えておいて」という。そして、そのままになる。
 街でばったり出会い「そこらでお茶を」と相手を誘う。話が終わり、さて会計という時「しまった、財布を忘れた!」というので相手は「おごるよ」と言わざるを得ない。
 「○○ちゃん」となれなれしく相手を呼び、有名人の名前を列挙して「皆、ぼくの遊び仲間さ」と自慢する。だったらコーヒー代くらい払えよ!!

 人の財布は僕の財布と思っているんだろうなぁ、こういう人は。
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水木しげる「愛蔵版・ゲゲゲの鬼太郎 第1巻」中央公論新社

2012-06-07 09:55:17 | Weblog
 先にアニメの方で鬼太郎に親しんだ人が、水木しげるの描いた「ゲゲゲの鬼太郎」を読むと、すごく違和感を感じると思う。
 暗くて陰気な雰囲気の、日本の風景・気象・家屋に、とぼけた顔した人物や妖怪たち。

 この第1巻に載っているのは、週刊少年マガジンで昭和40年~43年に連載された物だから、貸本屋時代のころの鬼太郎に比べ、一般受けするように、かなり明るく描かれているようだが、それでもまだ重い。

 私が、鬼太郎をマンガ雑誌で読んだのは、いつごろだろう? 6才年上の兄がいるので、彼が買っていた少年マガジンを読んだんじゃないかな?

 確か、こんな場面があった。
 鬼太郎が小学校に通っていて、お昼ご飯の時間になり、お弁当のふたを開けるとドブネズミが入っていた。鬼太郎はそれを隠しながら「本当に、お父さんはお弁当のセンスがない」とか文句を言いながら、食べている場面を、覚えている。
 確か…猫娘が一緒にいたような…。

 良い妖怪(鬼太郎一派)が、悪い妖怪を退治して、人間に感謝されるというお話ばかり。ねずみ男のように、優勢な方の味方になるというコウモリタイプもいる。
 しかし、このねずみ男がいなかったら、本当に勧善懲悪の退屈なマンガになったろうね。

 水木しげるも、この事は認めていて、何かのインタビューで「理想とする生き方はねずみ男」と答えていた。
 NHKドラマ「ゲゲゲの女房」で、ねずみ男のモデルとなった人を、杉浦太陽が演じていた。
 しかし、モデルとなったご本人は、自分がねずみ男のモデルとなっている事を知っているんだろうか? 自分がモデルとは気が付かず「いい加減な男だなぁ」と憤慨してるんじゃ…?
 本当にねずみ男のモデルとなるほどずうずうしいなら、モデル料を請求するでしょう?
コメント (2)
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