ケイの読書日記

個人が書く書評

羽田圭介 「スクラップ・アンド・ビルド」 文藝春秋社

2019-03-30 16:36:00 | その他
 第153回芥川賞受賞作。 
 「早う死にたか」「早う迎えにきてほしか」が口癖の祖父の願いをかなえてあげるよう、仕事を辞め家にいる無職の孫息子が奮闘する。
 もちろん「早う死にたか」と言っても、本当に死にたいわけじゃない事は、百も承知。だが、自分たち若者の未来のため、年寄りの財布になるのを拒否するため、無職の孫は死にたがっている老人たちの手助けをしようと思っている。

 この87歳のジイさんが、あまりにも私の実家の母に似ているので笑ってしまう。
 「早う死にたか」というジイさんは、「食欲はなか」と言って食事を残すのに、家族がいない時に冷凍ピザを温めてぱくつき、予定より早く帰ってきた孫に、食べている姿を知られまいと機敏に動き、ごみを捨て、何事もなかったように孫に「おかえり」と声をかける。
 台所の流し台には、玉ねぎのヘタと皮が。死神のお迎えを待っているはずのジイさんは、玉ねぎをスライスして冷凍ピザにトッピングし、オーブンで焼いて食べたらしい。すごい家事能力!!
 その上、「早う死にたか」はずのジイさんは、若くて可愛いヘルパーさんのお尻を撫でまわす。生きる気満々、現世に未練たらたら。

 だったらなぜ「早う死にたか」「早う迎えにきてほしか」を連発するのか?やめてほしい。「ほら、元気出して」「そんなことないよ」という慰めの言葉が欲しいんだろうが、こっちも忙しいんだよ。
 だいたい、ジイさん、あんたが若い頃、周りの年寄りに優しくしたかよ? 自分は優しくしてないのに、人に善意や優しさを要求するのってどうなの?(私も20年先、同じような事を子供たちから言われそう)

 ジイさんの長女や孫は、内心では舌打ちしてるだろうが、それでも良くやっていると思う。長女さんは私と同世代だと思うが、故郷の長崎から父親を引き取り3年。「ったく!」「クソジジイ」と口は悪いが、それでも勤めに出る前は、昼食を用意してテーブルに置いてから出勤する。ひ孫も呼んで誕生会もしてあげる。優しいなぁ。

 このジイさん、酒を飲まないようなので、まだ扱いやすい。私の実家の母は、体調の悪さをぐずぐず訴えるくらいならかわいいけど、気分の悪さを治すためと称して、朝から酒を飲むから困るよ。24時間アルコールが途切れない。暇なんだろうね。飲酒が一番手軽なレジャーなんだ。人間って、こうやってアル中になるんだとよくわかった。
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辻村深月 「鍵のない夢を見る」 文藝春秋社

2019-03-25 15:22:40 | 辻村深月
 犯罪をモチーフにした6編の中短編集。辻村深月はこれで直木賞を受賞した。
 いろんなタイプの犯罪者がいるなぁ。その中でも、第5話「芹葉大学の夢と殺人」が一番人気があり映像化しやすいと思うが、私は「美弥谷団地の逃亡者」の二人連れが印象に残った。
 陽次と美衣。世間的な尺度で言えば、陽次は加害者で、美衣は被害者だが、そんな簡単に分類できないんだ。この2人は。
 
 美衣は高校を卒業して、バイトをしたりしなかったり。出会い系サイトで陽次と出会う。陽次は相田みつをが好きなプータロー。美衣は、ホテルで相田みつをの詩集を陽次から貸してもらった。カバーがヨレヨレになっている。そうとう読み込んでいるらしい。
 「しあわせは いつも じぶんのこころがきめる」
 相田みつをの言葉を、自分の生きる指針としているピュアな男のはずなのに、陽次はだんだん美衣のストーカーとなっていった。ただ束縛するだけではない。骨が鳴るほど、歯がぐらぐらするほど殴られる。
 それもDV男によくあるパターンで、蹴ったり殴ったりした後で、陽次は泣きながら謝り、氷で冷やしてくれる。でも美衣が本気で陽次と別れようと思ったのは、同じ出会い系サイトで、新しい彼氏が出来そうだったから。
 母親に相談し、警察に被害届を出す。そしてその後…。陽次は大きな取り返しのつかない事件を起こし、美衣を連れて逃げる。
 陽次の頭の中では、自分たちは心から愛し合っている恋人同士なんだろう。


 この陽次って男は、ヘンな所で礼儀正しいんだ。食堂の中で、帽子をかぶったままカレーを食べようとする美衣に「お前、部屋の中なんだから、帽子とれば?行儀悪いよ」と言う。ああん?数日前に自分の付き合っている女の母親に何をした? 行儀悪いどころの話じゃないぞ!!! と怒鳴りつけてやりたい。

 この陽次の言動を読んでいると、千葉県野田市で起きた、小4女児を虐待死させた父親を思い出す。この父親も外面はすごく良かった。職場では、理想的な父親だと思われていた。陽次も、この父親も、自分の中に絶対的な正義や真理があるんだろう。親しくない人が、その正義に反しても別に平静でいられるが、自分の近しい(と思い込んでいる)家族や恋人がそれに反すると逆上する。
 何とか暴力をふるってでも、徹底的に自分の思い通りに矯正しなければ気が済まない。
 暴力反対男が「暴力はやめろ」とケンカの仲裁に入っても、なかなか殴り合いが止まないとイライラして、「おい! 暴力はやめろと言ってるじゃないか!」と相手を殴りつけるのと似ている。
 DVと児童虐待が、根は同じだというのは本当だと思う。
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群ようこ 「働かないの れんげ荘物語③」 角川春樹事務所

2019-03-18 14:47:24 | 群ようこ
 れんげ荘物語の①と③が面白かったので、②の「働かないの」を読んでみる。ぼんやりと想像していただけのキョウコさんの年齢がハッキリする。
 45歳の時に大手広告代理店を退職して、48歳の時に東日本大震災を経験。つまり、現在56歳。(もちろんキョウコさんは架空の人物。このお話はフィクション)ということは、バブル世代の初めの方なのか。

 前々回のブログで取り上げた「今夜もカネで解決だ」の中に、人を癒すヨガインストラクターやセラピストといった人の前職が、外資系金融機関という例が多いと書いてあった。なるほどね。あまりにも激務だと、ひとは癒す側になりたがるようだ。
 キョウコさんも、男性の同僚に嫉妬されるほど仕事ができたが、燃え尽き症候群なのか、働くことをパタリと止めた。
 キョウコさんは無職になった時、何もする事が無いのに不安を感じ、いつも(これでいいの!)と自分に言い聞かせていたが、しばらくすると何も思わなくなり、紅茶を飲みながらぼーーーっと空を眺めていても罪悪感は無くなったそうだ。
 ああ、これが正しい無職の在り方。定年後の自分のお手本を見ているようだ。

 れんげ荘での人間関係もいい。大家さんも「こんな古いボロアパートを借りてくれてありがとう。固定資産税の足しになるよ」という感じだし、不動産屋の親父も親切。入居者も変な人はいない。
 そうそう、キョウコさんの安寧を犯すものとして、区役所のタナカイチロウ君がいる。何年も無職をやっていると電話がかかって来て「本当に無職なのか?生活費はどうしているのか?何年無職なのか?どうして無職なのか?今後も働かないのか?」などを尋ねてくる。
 職が無くても株や土地の売買で不労所得があるかどうか、あるなら申告させて所得税や住民税を払ってもらおう、というつもりなんだろう。
 確かに、キョウコさんのように貯金を取り崩して生活している人は少ないだろう。


 東日本大震災の時、れんげ荘はつぶれてもおかしくなかった。遅かれ早かれ、取り壊しになるだろう。そうなった時、キョウコさんはどこに住むのか? 思い切って田舎暮らしもいいんじゃない? 
 家って空き家にして締め切っていると、すごく痛みが早い。たとえ家賃貰わなくても、誰かに住んでもらう方が、家の管理のためには良いんだよね。
 しかし家賃が安くなるとホクホクしても、交通費がかかるようになる。それに田舎の人間関係が煩わしいかも。
 田舎では60歳前は若手だから、大切にされるよ。などなど、色んな空想をしてしまうよ。
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群ようこ 「ネコと昼寝 れんげ荘物語③」 角川春樹事務所

2019-03-13 16:31:39 | 群ようこ
 「れんげ荘物語」の第3弾。ずいぶん前、最初の「れんげ荘物語」を読んだとき、ハラハラもドキドキもない、いつもの群ようこワールドの話だったけど、ヒロインが変わっていたので覚えていた。
 ヒロインのキョウコは、元広告代理店勤務の総合職OL。給料は高いがべらぼうに忙しく、パワハラ・セクハラが日常茶飯事の会社だったので、つくづく嫌になり、20年余り勤めた後、会社を辞めた。転職したのではない、仕事をすること自体、止めてしまったのだ。
 つまり、死ぬであろう年齢から計算して、なんとか生活できる金額が貯金できた時点で辞めたのだ。いくら高給取りといっても、そんなに貯まるかな?とも思うが、実家暮らしで目標があれば、貯めることができるんだろう。
 ブツブツ文句がうるさい母親がいる実家を出て、月3万円のボロアパートに引っ越し、月10万円以内(家賃込み)で生活することになる。

 家賃込みで月10万円というと、生活保護費以下だけど、どうだろ?なんとかやっていけるかな?
 私、こういう事、ちまちま考えるの好きなんだよね。家賃を払ったら、残り7万円。この人は、自分の貯蓄で最後まで生活するつもりだから、国民年金は払わないだろう。でも、国民健康保険は払わないと、ケガや病気の時、本当に困るよ。収入がないなら、国民健康保険はすごく安いから必ず入ってね。
 食費は自炊で2万円。水道光熱費は1万円。水道とガスは基本料金でOKだと思うが、電気料金はは夏冬と春秋で大きく変動するから平均で1万円。通信費5千円。交際費+レジャー費1万円。衣料+雑貨で1万円。服はお隣のクマガイさんからもらう事が多いらしい。だから肌着しか買わないようだ。
 残った1万5千円で、具合が悪くなったら医者に行ったり銭湯に行ったり、余りは来月に繰り越して…などと脳内で妄想する。

 キョウコの趣味は読書なので(つまり群ようこ自身がモデル)図書館を利用し、お金をつかわない。それにしても、図書館は家に居場所がない高齢者のたまり場になっているらしく、読書のために来るというより、居眠りのため来る老人が多いようだ。

 このボロアパートは、一人暮らしの自由業の女性ばかりが住んでいて、それなりに仲が良く、頂き物のおすそ分けをしたり、お喋りをしたりと、結構楽しんでいる。

 色々とキョウコさんの身の上を案じるが、彼女は、20年余り会社勤めをしたわけだから、65歳からは多くはないが年金が入る。それに、彼女は都内に実家があり、兄家族が高齢の母親と住んでいるが、母親が亡くなれば、財産の権利は半分キョウコにある。兄家族とは仲が良く、行き来がある。そう心配しなくてもいいか。
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ジェーン・スー 「今夜もカネで解決だ」 朝日新聞出版

2019-03-06 09:17:07 | その他
 新井ナントカという俳優さんが、自宅にマッサージに来てくれた女性に、性的暴行したというので逮捕されたけど、その時の被害女性の職業が、新聞にはエステシャンとかセラピストとか書かれていたので???すごく違和感がありました。
 でも、このエッセイを読むと理解できる。マッサージ師とか整体師とかは、国家資格を持つ人しか名乗れないのだ。
 だから、資格を持っていない若くて美しい女性が、お客さんの身体を揉んだりさすったりする行為は、エステとかセラピーになるらしい。
 たしかに、お客さんに癒しを与えているもんね。

 タイトル『今夜もカネで解決だ』から、成金オヤジがセクハラ苦情を言ってくる女性のほっぺたを札束でひっぱたいている場面を想像したアナタ! この本には、そんなシーンはありません。
 この本は、都会で働くアラフォー女性の代表・ジェーン・スーさんの、あっちの店こっちの店マッサージ放浪記なのです。
 「あとがき」に自分で書いていらっしゃいますが、「アンタ、いったいいくらマッサージにつぎ込んだんだよ!」と心底思います。職業柄、パソコンとにらめっこして首や肩がパキパキに凝ってしまうのは、よくわかります。でも、外出してマッサージの施術を受けに行こうと思うと、ちょっとは身なりを構わなくてはならないし、お金や時間もかかります。だったら、自宅の湯舟に湯を張って入浴し、簡単なストレッチでもしておこうか…と考えるのが普通だと思います。スーさんは真性のマッサージジャンキーですね。

 マッサージは大好きでもお金が無くて行けない私にも、耳寄りな情報をこの本はもたらしてくれます。
 それは、足のかかとのケアや、肥厚した足裏の角質のケア。以前TVで、香港のフットケアの職人さんが、客の足裏の角質化した部分をナイフで削り取る番組を見た事があって、ああ、私と同じように苦労している人っているんだなぁ、といたく感心したのです。
 だって、軽石でこすってもさほど効果なし。ドクターショールで削ってもすごく時間かかるし。こういったナイフで角質を削り取る施術があるなら1度やってみたい。お金かかるだろうけど。台湾式角質ケア 80分7500円。これなら払います。

 うーん、やっぱり東京以外には、こういった店はないんだろうか?
 そういえば、ジェーンさんは、あちこちの店を体験して、それをエッセイにしているが、場所はすべて都内。都下だと都落ちみたいな気分になるのかな?
 ウッディ・アレンはN.Y.から出た事が無い、と何かの記事で読んだ覚えがあるけど、そのエピソードを思い出しました。
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