ケイの読書日記

個人が書く書評

有栖川・法月他「気分は名探偵」

2009-09-26 13:55:49 | Weblog
 犯人当てアンソロジー。作家は、有栖川有栖・貫井徳郎・麻耶雄嵩・霧舎巧・我孫子武丸・法月綸太郎の6人(掲載順)。

 すっごく面白い。初出は2005年「夕刊フジ」紙に犯人当て懸賞ミステリーとしてリレー連載されたもの。
 こういった事件篇・解決篇としてハッキリ区別し、その際の正解率まで載っている。
 喜び勇んで読み出したが…当たらないですネェ。犯人はこの人だろうと思っても論理的に説明ができない。すべてハズレ。


 賞金が出る懸賞ミステリだから、応募はどっとあったらしい。正解率11%、1%、22%、6%、8%、28%。
 特に、貫井徳郎の「蝶番の問題」なんか、正解者はいないんじゃないか?と思ったが、完璧に当てた人が1人いたらしい。
 すごいなぁ。ミステリの鬼だね。
 文章のほんの些細な違和感に立ち止まって考える。WHY?
 そうすればわかるのかなぁ。


 でも、最後の著者座談会で、有栖川有栖が他の作品を読んで「全然わかりませんでした。解決篇で探偵がこうこうだと言う1行くらい前にわかるという程度」と言ってたのを読んで、ちょっと気分が落ち着いた。
 そうだよね。だいたい正解率1%というのは、ミステリ作品として失敗なんじゃない?
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

唯川恵「病む月」

2009-09-21 21:01:18 | Weblog
 久しぶりに唯川恵を読んでみる。十の作品が収められている短篇集。やっぱりいいなぁ。

 唯川恵は金沢出身。この十の作品は皆、金沢を舞台に展開していく。
 金沢が舞台というと…雪深い北国、歴史ある城下町、伝統工芸、上品な和菓子、美しい加賀友禅、華やかな夜の香林坊、着飾っている女性達…もう、これだけで作品が成立するような気がする。

 残念ながら気に入った感情移入できるヒロインはいなかったが、それはそれで淡々と読めて気に入っている。

 唯川恵は自身にお子さんがいないせいか、子どもを書くのがヘタ、というか母性を書くのがヘタだったが『聖女になる日』などは良い作品だと思う。
 金沢の由緒ある商家などに嫁ぐと、周りからは玉の輿と言われるが、本当に大変だという事がよくわかる。


 そうそう、『過去が届く午後』という作品は、以前TVで放送していた『世にも奇妙な物語』とそっくりだった。この作品の初出が1997年らしいから、『世にも奇妙な物語』は、これを原作としたのだ。ホラーっぽい作品。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

島田荘司「ら抜き言葉殺人事件」

2009-09-16 10:57:03 | Weblog
 不思議な作品。殺人事件が起こっており、社会派ミステリと言えなくはないが、筆者の本当に書きたかった事は「礼儀を知らない読者に反撃」ではないだろうか?

 因幡沼という売れっ子作家が、読者から作品中で「ら抜き言葉」を使ったと痛烈に批判され、因幡沼がそれに反論するエッセイを書き、それが事件の発端となるという内容。

 「ら抜き言葉」というのは、最近あまり問題視されないから、若い人は何のことか分からないかも知れない。例えば「食べられる」(可能)を「食べれる」と「ら」を抜いて表記したり発音したりする事。
 私の学生の頃は結構「美しくない」「日本語をゆがめている」とか非難する投書が新聞に載ったりしたのだ。


 とにかく、こんなことに狂信的に情熱を傾ける人がいて、因幡沼は「人間のクズ」のように罵られる。
 ここら辺の事は、島田荘司の実際の体験がベースにあるんじゃないだろうか?

 他にも、「因幡沼は愛読者の会という招きに応じて出掛けて行き、いい気分でにこに喋っていると、だんだん会の空気が変化してきて、因幡沼を糾弾するような趣に変わってくる」という事を書いているが、これも島田荘司の実体験だろう。

 売れっ子作家も大変である。やっぱり作者に手紙を書く人や、愛読者の会に参加するような人は、自分でも文章を書いている人が多いだろうから、やっかみもあるんだろうね。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

喜国雅彦「本棚探偵の回想」

2009-09-11 10:14:31 | Weblog
 面白い事は面白いが、1作目より、あきらかにパワーダウン。自分でも認めているが、古本への興味が以前より薄れつつあるんじゃないのか?
 なんていったって売れっ子マンガ家。お金が一杯あるから、フツーの人より集めやすい。めぼしいものはもう、ほぼコンプリートしたんじゃないのかな?

 筆者以上の古本集めの猛者のお宅を訪問して、そこを撮った写真を本に載せているが、その圧倒的な本の物量に感心するというより、あきれる。
 すざましい物欲だなぁ…と。
 失礼な言い方だが、ゴミ屋敷とたいして変わらないんじゃないだろうか?

 こういう人って、本当はその収集を止めたがっているんじゃないかなぁ。何かのキッカケで止めたいとは思っているが、そのキッカケがないから、漫然と集め続けている…なんて私の勝手な思い込み? 
 でも、そうじゃなかったらもっと本を大切に扱うと思うけど…。

 『鋼の錬金術師』に、確か1度読んだ文章は決して忘れない(内容ではない、文章だよ)というコピー機のようなお嬢さんが出てくるが、こういう人こそ尊敬に値するね。まず、いないと思うけど。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

橘由歩「身内の犯行」

2009-09-06 16:35:44 | Weblog
 いまや殺人事件のうち、2件に1件は「身内」で起きている、らしい。(あ、この本は推理小説ではありません。現実の事件のルポ)

 しかし、考えてみればうなづける。「通り魔殺人」「無差別殺人」もあるが、人間関係のもつれが殺人事件の原因になるなら、身内こそふさわしい。
 だいたい金がらみの犯行なら、身内の方が遺産なり保険金を受け取りやすいので動機があるのだ。

 亭主が殺されたら女房を、女房を殺されたら亭主を、まず疑えって言うじゃないか。

 筆者は「いまや…」と書いて昔よりも現代の方が身内の殺人事件は多くなっているような書きぶりだが、統計的にはどうなんだろう。
 昔の方が家族関係が濃密な分、ただの喧嘩ですまなくなって、行き着くところまで行ってしまう気がする。
 昔の方が、鎌とか斧とか、凶器になりそうなものが身近に転がっているしね。

 しかし、つまらない事で親を殺しているなぁ。
 ある男は、買ってきて欲しい食べ物リストをメールで母親に送る。母親は買って来てくれた。お礼を言いに母の部屋へ行くと、母は一人で食べていた寿司をそそくさと隠した。これが殺害のキッカケだ。
 もちろん、そこに行くまでには、子どもの頃の虐待があり、自分自身が抱えている病気があり、現在の自身の不遇な状況がある訳だが、「おまえも食べるかい?」と母親がエビやイカのお寿司を別の小皿に取り分けていたら、彼女は死ななかった。
 でも身内の犯行なんて、そんなものかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする