ケイの読書日記

個人が書く書評

「白痴 3」 ドストエフスキー著 亀山郁夫訳 光文社古典新訳文庫

2018-08-24 15:58:09 | Weblog

 訳者によると、この「白痴」は世界文学史上有数の恋愛小説らしいが、これを恋愛小説というのかなぁ。今の感覚で言うと恋愛というより執着。「ストーカー小説」だよ。

 ロゴージンのナスターシャに対する執着がすざましく、ナスターシャはロゴージンと結婚の約束をするが、直前になると逃げだしてしまう。そんな事を何回も繰り返す。しかし、じゃあ彼女はどうすれば幸せになれる?
 聖なる愚者ムイシキン公爵を愛しているのは確かだが、彼のもとに数週間いても、結局彼のもとを去る。アグラーヤという女性にムイシキン公爵と結婚するのはあなただという手紙を、何通も送り付ける。
 ナスターシャは①発狂する ②自殺する ③尼寺に入る の3つぐらいしか選択肢が無いと思う。

 あまりにごちゃごちゃドロドロの愛憎劇なので、ちょっとウンザリして読書にも飽きてきたが、この第3巻の終わりの方に、興味深い事件が発生!! がぜん読む気が出てきた。


 レーベジェフという、こすっからい小金持ちのフロックコートのポケットから400ルーブルが消えた。容疑者は2人。1人はさすらいの居候。もう1人は、女と酒とギャンブルにだらしない退役将軍。最初は、さすらいの居候の方の容疑が濃かったが、だんだんもう1人の容疑者が疑わしくなり…。
 この事件の犯人は第4巻ではっきりする。ああ、第4巻を読むのが楽しみだ。(でも第4巻はまだ出てない。9月の中旬らしい)でも、いくら酒と女とギャンブルで身を持ち崩したとはいえ元将軍。ちゃんとした家族もいる。この人が、いくら金に困っているからといえ、こんな事するだろうか?
 ひょっとするとドストエフスキーは、犯人をハッキリさせないかもしれない。なんせ「カラマゾフの兄妹」でも、父親殺人の犯人をハッキリさせなかった。どう考えても長男だし、長男が捕まったが、本人は最後まで否認していたし。


 この「白痴」は、第1巻の最初から、ほとんど会話(というか演説)で成り立っている。ロシア人の演説好きは恐ろしいほどで、この本の中に書かれてある演説を本当にしゃべるなら、何本もペットボトルがいるだろう。でも誰もお茶や水は飲んでない。お酒は飲んでるけど。これって国民性なのかな?
 ソ連の政治指導者たちの演説も、5時間6時間なんて、当たり前だったようだ。これは共産国だから長いのかな? 死んじゃったけど、キューバのカストロ議長の演説はすごく長く7時間15分なんてのもあるそうだ。独裁者が演説してるのに、聴衆がトイレに行ける訳ないから、困っただろうね。
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米澤穂信 「真実の10メートル手前」  東京創元社

2018-04-10 17:07:44 | Weblog
 米澤穂信は売れっ子だけど、実は私、いままで1冊しか読んでいない。『儚い羊たちの祝宴』…だったかな? すごく女性的というか繊細な印象で、続いて読もうとは思わなかった。
 でも、この短編集、タイトルが良いよね。『真実の10メートル手前』って、真実にほんの少しの所で到達できなかったんだろうか? なぜ? などと思い読みたくなってくる。

 フリーライターの大刀洗万智が、まだ東洋新聞の記者だったころの事件。20代後半か。ベンチャー企業の若き経営者と広報担当のその妹が、企業の経営破綻にともない姿を消した。大刀洗万智は、以前、その妹を取材したことがあり、好印象を持っていた。最悪の結果になるのを防ごうと、彼女を追う。
 本当に僅かな手がかりから、大刀洗は妹の居場所を推理する。一見、神がかっているように見えるが、よく考えてみるとスジが通っている。すごいね。

 松本清張の短編『地方紙を買う女』を思い出すね。一見、なんの犯罪性も見いだせない普通の出来事なのに、恐ろしい犯罪が隠されていた。嗅覚の鋭い万智のような人が、それを見つけ出すのだ。

 ほか、社会人になりたての万智の話が1話、あと4編は新聞社を辞めてフリーライターになった万智の話。
 たしかにサラリーマンでは、自分の興味のあるテーマに取り組むこともままならないだろうから、小説としてはフリーライターになった方が良いだろうが、社会的信用と彼女のフトコロ具合が気になる。
 新聞社の名前の入った名刺は(フリーターより)絶大な効果を発揮するだろうし、給料の他に必要経費などは支給されるだろう。フリーライターは、すべて自腹で、出来上がった記事をどこかの雑誌社が買ってくれなければ1円にもならないんだ。キビシーーーーイ!!! 
 自分で本が出せるような知名度がある人じゃないと、生活できないよ。それか、親か配偶者が生活を支えてくれる人。

 文章の単価がどんどん下がってる。それはイラストや写真でも同じようで、クラウドソーシングなどでプロの仕事をどんどんアマチュア(orセミプロ)が奪っているからね。
 だから本当に質の高い記事を書かなきゃ、やっていけない。大刀洗万智は、それができるんだ。

 『王とサーカス』は大刀洗万智の1人称でつづった作品だそうだ。これもぜひ読まなくっちゃ!
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立憲民主党について

2017-10-04 09:22:45 | Weblog
 民進党が希望の党に吸収された時、心底驚いた。政治家って、票さえもらえれば誰とでも寝るんだって。
 だから、枝野さんたちが新党を立ち上げたとニュースで聞いた時、とても良い事だと思った。確かに政権交代するような大きな勢力にはならないだろう。でも、いわゆるリベラルという考えの人が一定数いて、その人たちの投票先が無くなるのは、おかしいと思う。

 「安倍政権をなんとしても止めなければ」って言って止めるのは良いが、もっと右寄りの政権を作ってどうするの?
 
 小池さんの風など、いつかは止まる。現にもう弱くなってるよ。有権者は見ている。政治家の皆さん、あまりにあさましい真似はしないでください。

 私は支持政党なしだけど、選挙は毎回行きます。立憲民主党に投票はしないが、多様性の必要は感じています。枝野さんたちに頑張ってほしいです。
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群ようこ 「寄る年波には平泳ぎ」

2016-12-09 15:04:19 | Weblog
 2013年出版の比較的最近のエッセイ。
 群ようこのエッセイや小説が昔から好きだった。無印シリーズなど、読んではケタケタ笑っていたが、エッセイの方が断然面白かったな。エッセイには、群さんのお母さんや弟さんがよく登場し、私はまるで親戚みたいに、家庭の内情を把握していた。
 お母さんのキャラが強烈で、群さんが売れっ子小説家になって、ドンと印税が入るようになると、パッパと買い物して、その請求書をすべて群さんにまわした。このエッセイの中に「必需品ではなく、贅沢のために、彼女が家を含めて2億円近い金を遣ったのは間違いない」と書いてある。
 ちなみに、その豪邸には、お母さんと弟さんが暮らし、群さんは家の合鍵ももらってないそうだ。

 なんて親だ!! いくら今、売れっ子作家だったとしても、この先、何の保証もない仕事。結婚してないので、夫や子供に頼る訳にはいかない。だからせめて、お金だけは貯めておきなさいね、と娘に諭すのが母親だろうに。憤慨する。

 でもね、昔のエッセイの中では、収入の不安定な画家の夫と離婚し、群さんと弟さんの二人の子どもを育て、仕事は定年まで勤めあげた。洋裁や編み物が大好きで、器用に子供たちの服を作って着せ、動物も大好きで、小鳥や猫を何匹も飼い、植物の世話をするのも好きだった。立派な日本の母だったのだ。
 それがどうして、買い物依存症みたいになるのかなあ?
 お母さんは脳梗塞で倒れ、認知症の症状も出てきたので、お金は弟さんが管理し、お母さんは施設でお世話になっているそうだが「私がいない間に、私のお金を探し出して使い込んでいるに違いない」と疑っているそうだ。
 ああ、いやだいやだ。

 弟さんも弟さんなんだよなぁ。子供の頃は群さんとすごく仲が良く「おねえちゃん、おねえちゃん」と群さんの後をついてきた。一流大学を出て一流企業に勤め、収入は多いはずなのに、お姉さんの稼ぎをあてにする。弟さんも独身なので、給料まるっと自分で使えるのにね。

 結局、家族の中に一人、突出して収入が多い人がいると、そうなっちゃうのかなぁ。お母さんはデパートで、30分間に500万円つかったことがあるそうだ。
 デパートの店員さんに「まあ、奥様、お似合いです」「もちろん、一生モノでございますよ」「やはり、このぐらいの物をお召しにならないと」なんてセールストークに乗せられ、湯水のように娘のお金を遣っちゃうんだろうね。楽しいと思う。消費するって本当に楽しい。
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三輪達司 「パキシル」

2016-10-25 13:03:58 | Weblog
 パキシルという抗うつ薬の名前は知っていた。ずいぶん前、山本文緒のエッセイで「うつ病で医者から処方されたパキシルを飲むと、すごく仕事がはかどる」みたいな事が書いてあったから。それに語感が良いよね。「パラソル」とか「ペンシル」を連想して。

 この本は自費出版なのかな? 文章がひどいので、途中で読むのを止めようかとも思ったが、主人公の27歳女性・ななめが、あまりにもダメダメ人間なので、それに引きずられるように読んでしまった。
 「ななめ」はもちろん本名ではなく、世の中をななめに見ているからと自分でつけた。唇にピアスをじゃらじゃら付けているので、一見怖そうに見えるが、本当は気が弱く、バイト先の同僚に強いことを言われても言い返せない。過去にいじめにあって、手首にリストカットの跡がたくさんある。
 自宅で家族と住んでいて生活の心配がないので、バイトをしたりしなかったり。父親から生活費を入れるようにと強く説教されるがしない、というか出来ない。さすがにお小遣いは親からもらえないので、本当にお金に困ると、出会い系サイトで援助交際の相手を見つけようとする。(中高生が援交という言葉を使うのはまだ分かるが、27歳女がエンコーというのは、どうなんだろう?売春と言った方が、正確な表現だと思うけど)
 うまくいく時もあるが、本当に怖い体験をする時もある。

 そんな彼女が、ミシン販売のアルバイトをしている時、職場は違うがイサトという中年男と出会う。彼とギターの話で盛り上がり、ななめはベースギターを買ってギター教室に通う。
 イサトは彼女の才能を認め、2人はバンドを組み、『パキシル』と名付け、あちこちに遠征する。

 ここまで読むと、この小説はロックバンドのサクセスストーリー物なのかと思うが、違うんだよね。支離滅裂なストーリー。
 だいたい、今までなんの楽器もやったことないのに、ベースギターってそんなに簡単に弾けるようになるんだろうか?

 一時は上手くいっていた二人だが、ケンカ別れし、ななめは音楽への興味を無くす。保険のつもりで付き合っていた男と同棲するが、家賃の折半を要求される。彼はななめと結婚する気はないようだ。そんな時、実家に気味の悪い荷物が届き…。

 神さまのように、ななめを守ってくれていたイサトが、ストーカーに徐々に変化していく。ストーカーも最初からストーカーだった訳じゃない。初めは良い人だったんだ。それにしても、このイサトっていう男はよくわからないな。
コメント (2)
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