ケイの読書日記

個人が書く書評

管野仁「友だち幻想」ちくまプリマー新書

2022-12-24 16:05:24 | その他
 「人と人のつながりを考える」というサブタイトルが付いている。こういった説教臭い新書でよいと思うものはあまりないのだが、これは違った。すごく面白い。大人の人間関係というより、中高生の友人関係に的を絞っている。まあ「友だち幻想」というタイトルからも分かるが。

 「身近な人との親しいつながりが大事だと思っていて、そのことに神経がすり減るくらい気を遣っている。なのに上手くいかないのはなぜ?」「友だちが大切、でも友だちとの関係を重苦しく感じてしまう。そうした矛盾した意識をつい持ってしまう」(本文より)
 そうだろうな。中高生にとって、友人関係というのは恋愛関係以上に大事なんだ。

 所ジョージの番組で「吹奏楽の旅」という企画ものがある。吹奏楽の強豪校の練習風景やコンクール出場の裏側を長期にわたって取材する番組だが、低体温の私でも感動しちゃう!!素晴らしいと思う。彼ら彼女らの連帯感が羨ましい。
 でも私は、自分が決してこの中の一員になれない事を知っている。楽器が出来ないこともあるが、性格的に無理なんだ。素晴らしい集団の一員であることに誇りを感じるだろうが、息苦しさも感じる。早くひとりになりたいと切望する。
 で、こういう私みたいなタイプは、別に珍しくない事が自分で分かってきた。

 外から見て、すごく仲良しでいつも一緒にいるグループがある。もちろん一緒にいて心地良いからという理由もあるが、そのグループから離れると、待ってましたとばかりに別行動とる人の悪口をいうから、怖くて別行動とれないという理由もあるんじゃないかな?
 別にいいじゃん、何を言われたって、と開き直れないのが中高生だよね。

 私も社交的な人がうらやましかったけど、このトシになると、社交的な人なりの悩みがある事が分かってくる。自分に無いものを欲しがっても仕方ない。自分の手持ちのカードで勝負しよう。
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津村記久子 「現代生活独習ノート」 講談社

2022-12-16 15:17:28 | 津村記久子
 大好きな津村記久子の名前を見つけ手に取った。8つの心にしみる短編集。
 本当に、どうって事ないお話なんだ。仕事に疲れた女子会社員や地味な男女中学生たちが、さえない日々を送っている。キラキラしている登場人物がいないから読みやすいのかな?どうして私は、津村記久子の小説に心惹かれるんだろうと自問する。

 彼女の小説に一番よく登場するのは、職場の同僚や上司との人間関係に疲れ切った女性だが、そうするとどうしても彼女たちの食事がおろそかになる。それを書いた短編が「粗食インスタグラム」。
 豪華な食事をSNSで見ると体調が悪くなる主人公は、自分の貧弱な食事をSNSにUPするようになる。ひどいよーーー、その内容。「×月×日クラッカーと水」「×月×日ソフトクリームとコーンスープ」「×月×日インスタントのフォー」などなど。
 でも最後に主人公は自分でお米を洗ってご飯を炊く。なんとか立ち直れそうな気がする、という独白。良かった。少し明るい兆しが見えてきたぞ。彼女が無くしてるのは、ご飯を作る気分というより、何を食べようか決める気力なんだろう。

 疲れ切っていると、決定というか選択する気力がなくなる。「レコーダー定置網漁」の主人公は、会社の仕事として入社希望者のSNSをチェックする仕事をしている。もちろん入社を希望する大学生たちの自己申告するSNSに、ヘンな内容があるはずないと思うが、あるらしい。
 一番厄介なのは、自分ではこれOKだろうと思っていても炎上必至の内容があり、そういう人は要注意判定されるようだ。
 そういった大量のSNSを見ていると、もう何も見たくなくなる。情報疲れというのは、確かにある。
「膨大な情報を選別することは、その作業だけで私たちを疲れさせ、最悪の場合、選択そのものを放棄させます」(本文より)

 本当にその通り。大昔の切手を貼った封書をペーパーナイフを使って開け、中を確認した時代が無性に懐かしい。毎日届く大量のクズメールを確認するのに、どれだけ無駄な時間を費やすか、大損している気分になる。
 人に情報を送ろうとするなら、その対価(切手)を払えよ!タダで人に読んでもらおうとするな!
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中野京子 「絵の中のモノ語り」 角川書店

2022-12-04 16:16:17 | その他
 提灯、煙草、百科事典、釘、案山子、箒、ホタテ貝、ワイン、バジル、猫、ハチドリ、蝶、ドラゴン、甲冑、日傘、長剣などなど、絵の中に描かれている32のモノとそれにまつわる物語

 32の絵画がドンと載っていて、それに関する文章は多くないので、すごく読みやすい。32の短編は、それぞれが独立しているので、どこから読んでもOK。ぱらぱらとページをめくって、気に入った絵の所から読んでも楽しい。

 その中で、私が一番印象に残ったのは、ルノワール「猫を抱く少年」
 ルノワールといえば、胸をはだけたふくよかな女性像を思い浮かべる。が、この絵の少年は、背中を見せ猫を抱きしめながら、顔だけこちらを向けたヌード像。この絵は、若き日のまだ印象派グループができる以前のピエール・オーギュスト・ルノワール(1841-1919)が描いた、後にも先にも唯一の男性ヌード像らしい。

 ルノワール自身は、丸々として健康的な女性ヌードが好きだったが、この絵は、誰か裕福な紳士が囲っている少年をルノワールに大金を握らせ描かせたのだろう。筆者の中野京子は「交差された脚が強調するヒップの丸みが妖しいエロスとなってたちのぼる」と説明しているが…そうかな?
 私、この絵を見て、そんな魅力的な少年には思えなかったなぁ。失礼な事を書くけど、脚が太い!! ダイコン脚!! 少年の脚とは思えない。私のように運動が不得手な女のドテ脚です。全体のバランスも良くないと思う。上半身がほっそりして、下半身がドテっとしている。確かに顔はキレイだけどね。

 そうそう、すね毛はないしわき毛もない。脱毛してる?あっても描かないんだろうか?ただ、体毛は現代では嫌われるけど、本来なら体臭と同じくセックスアピールに効果があったようだ。

1868年 油彩キャンバス 123.5X66cm 所蔵:オルセー美術館
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