ケイの読書日記

個人が書く書評

中野孝次「ハラスのいた日々」

2008-01-29 11:08:28 | Weblog
 人間は「猫党」「犬党」に分かれるそうだが、私は「猫党」。亭主は「犬党」。
実家にはだいたい猫がいたし、今もここにみぃ太郎がいる。壁紙をがりがりやっても、鉢植えをひっくりかえしても、やっぱり猫はかわいい。

 3年ほど前、亭主が大きな犬を飼いたいといいだし、大反対した。チワワのような室内犬ならともかく、大型犬は無理。アンタ、20年後老犬介護できますか? 自分が介護されている可能性大なのに。


 さて、本作品だが、ハラスというのは犬の名前。ドイツでは一般的な犬の名前らしい。
 こういった犬と人間の交流を書いた物には、犬を飼った事の無い私でもホロリとさせられる。だから、愛犬家の人たちならグッとくるだろう。
 しかし、私にとっては、人と犬との交流以外の部分に関心をもつ。

 たとえば作者夫婦。夫は1925年生まれ。東京大学文学部卒。(ドイツ文学専攻らしい)妻は…経歴は分からないが、夫より3歳年下の専業主婦。子供はいない。
 しかしこの年代の人には珍しく、ご夫婦ともスキーがすごく上手。また英会話も達者なのだ。びっくりでしょう?私の母より年上の女性が…ですよ。

 こういう所から、ご夫婦ともかなりの知識階級出身、ということがわかる。本当にすごいなぁ。
 また「1966年に1年間、夫婦でヨーロッパ旅行をして以来、外国に行くのは生活の一部になっていた」と書かれている。
 1966年(昭和41年)1ドル360円の時代。海外旅行に行くのは特別な人だった。その時代に、夫婦で1年間ヨーロッパ旅行に行くとは…本当にすごいなあ。
 どこかの大学の客員教授で行くのではない。お金だってすごくかかっただろうに。

 本書の初めの方に「人間については血統の尊貴などということを認めない…」と書いてあるが、それは一種のポーズであって、この中野孝次さんも血統の尊貴で生まれながらにして有利なポジションにいただろう。
 だって、いくら賢い人でも貧しかったら(戦前など特に)大学に行けなかったはずだもの。

 この1966年のヨーロッパ旅行は作品になっているんだろうか?それなら読みたい。
 また、ずいぶん前ベストセラーになった「清貧のすすめ」も読んでみたい。
 しかし、金持ちとはいえないが、清貧ともいえないと思う。中野先生の生活は。

 横浜の郊外に一戸建ての家を持ち、犬を飼い、海外旅行が生活の一部となっているのが『清貧』というんだったら、みんな怒るよ。
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中島たい子「漢方小説」

2008-01-24 09:53:40 | Weblog
 以前、新聞の書評欄に紹介されていて、面白そうだったので読んでみる。
 一応、小説だが、作者が自分の身に降りかかった事を題材に書いている。


 みのり(作者がモデル)は30台前半のシナリオライター。自称ではなく、大きな賞ももらっているし、そこそこ売れているライターなのだ。

 昔の男が結婚する、と聞いてから、どうも体調が良くない。あちらこちらの医者にかかるが、なかなか良くならない。
 高校のとき、喘息を治すため漢方医にかかった事を思い出し、5人目の医者は漢方医にする。漢方が身体に合うのか、めきめき丈夫になり、久しぶりに飲み会に参加する。
 そこで、自分の友達もほどんどが具合が悪い事に気づく。
 皆、キャリアウーマンとして頑張って働いているのに、ストレスからか、半病人ばかりなのだ。中には病気で仕事をやめてしまった人もいる。

 皆、みのりが健康を取り戻した事を喜んでくれるが、漢方薬については胡散臭く感じている。  ざっと、こんなストーリー。


 作者は、高名な文芸評論家が「30女のぐだぐだを読むのはもうたくさん」と批評していたのを、とても怒っていたが、男の立場からすれば、そうかも。
 女の私は、思い当たる事が多々あったので、とても興味深く読めた。

 しかし、シナリオライター・デザイン事務所勤務・大学事務職員etcといった普通のOLではない働く女性達が、こんなに体調を崩している、という現実には考えさせられる。
 いきいき仕事をしている人は、ほんの一部なんだろうか?
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綾辻行人「時計館の殺人」

2008-01-19 10:05:56 | Weblog
 とても雰囲気のある秀作。『眠りの森の美女』や、ルパン3世の『カリオストロの城』を思い出した。

 
 鎌倉の森にたたずむ洋館『時計館』。10年前、主の14才の娘が死んでから、自殺、事故死、病死と次々と不幸がその一家を襲う。
 その不吉な時計館に取り付いている霊たちと交信しようと、霊能者、大学の超常現象研究会のメンバー、雑誌編集者たちが交霊会をおこなうが、その後霊能者が行方不明になってしまう。
 残った人々も館に閉じ込められてしまう。
 そして、連続殺人劇の幕は切って落とされた。


 『十角館の殺人』でも強く感じたが、館に閉じ込められた人たちって、どうしてまず飲食物に注意を払わないんだろうか? 午前0時に寝て、全員が翌日の午後以降目覚めるなんて、どう考えてもおかしい。
 普通だったら、一服盛られていると疑う人がいるだろうに。

 また、こんな凝った屋敷を建てた時計会社社長なんだから、隠し部屋や、秘密の通路があって当然と思うが、あらかた殺人が実行された後で、やっとそれに気づくのも不自然。

 それに、いくら弱い睡眠薬を飲まされ体調が悪いといっても、若い成人男女がそろっているんだから犯人を返り討ちにする可能性も大きいだろうに、皆あっけなくやられていく。


 文句ばかり書いたが、とても大掛かりなトリックが使われていて、なぜこんな窓の無い半地下の建物を作ったのか、最後にその謎が解き明かされる。
 館シリーズを皆読んだ訳ではないが、その中でも優れているのではないだろうか?
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草薙厚子「僕はパパを殺すことに決めた」

2008-01-14 15:59:29 | Weblog
 奈良エリート少年自宅放火の真実…というサブタイトルがついている。

 2006年6月、高校1年生男子が父親からのたび重なる暴力と勉強の強要から逃れようと、自宅に放火して家出。結果として母・弟・妹を焼死させるという痛ましい事件が起こった。

 このノンフィクションについては、少年Aの供述調書が流出し、逮捕者まで出た事は記憶に新しい。また、少年法の観点から問題ありとして、取り扱っていない図書館もあるそうだが、私の通っている図書館では貸し出していた。

 一読して、少年Aに不利な事が書いてあるとか、彼の更生の妨げになる記事があるとかは、全く感じられない。
 ただ、家庭内の事がすごく踏み込んであるので、父親やその親族はイヤだろうなと想像する。



 それにしてもこの父親、本当に病的な暴力癖である。勤務先の病院では、とても親切で優しいお医者さんという話だが、家の中では恐ろしい暴君。
 かっとなると妻や子どもに見境なく手をあげる。

 少年Aの担任の先生などをまじえて「暴力は振るわない」という申し合わせをするのだが、守られた事は無い。
 前妻とは暴力が原因で離婚し、現在の妻(焼死した奥さん)も、夫の暴力に耐えかね実家に帰ったことがあるそうだ。

 ドメスティックバイオレンスという言葉を知らない訳は無いだろうに。自分はおかしいんじゃないか?と自問自答したことはないんだろうか?


 この事件は少年Aの、というよりこの父親の引き起こした事件である。確かに少年Aに対して真摯な愛情を持っていたことは事実だが、だからといって殴りつけて勉強させていい訳ではない。

 しかし、この父親も自分の母親から暴力を受けて勉強させられていたようだ。
 暴力の負の連鎖ということなんだろう。
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乙一「GOTH」

2008-01-09 16:22:02 | Weblog
 サナダさん、お奨めの一冊。「GOTH」ってゴスロリのゴスなんですね。
 6つのファンタジックホラー短篇集。

 外面はとても明るいが、心の中に犯罪者嗜好を持つ男子高校生と、森野という被害者フェルモンを発散して犯罪者を挑発する美少女が2人組で登場。このコンビがなかなかいい。

 一見付き合っているように見えるかもしれないが、友情・恋愛感情があるわけではない。人と群れたがらず、教室ではクラスメートの騒がしさの陰に隠れ、静かに生息。
 異常で猟奇的な殺人事件が何よりも好き、というこの2人。

 しかし、最後の「声」という作品では、森野は「最初、あなたは私に似ていると思ったの。姉さんと同じ雰囲気を持っていたから。でも違う。私達は似ていない」「私は、あなたがときどきすごく憐れに思えるの…」と感情を爆発させる。 
 ただの恋愛小説になっちゃったみたいで、つまらない。


 この短篇集の最初の作品「暗黒系」の中に、連続猟奇殺人者を崇拝する少女が出てくる。
 その少女は、殺され解体されバラバラに配列される所だったが、危うく難を逃れ、しかもノーテンキなことに自分がターゲットにされかけた事を知らない。
 でも…もし、殺されたら、自分が生贄に選ばれた事に無上の喜びを感じただろうか? それとも、自分がそういった犯罪を神聖視していたことも忘れ、ただ恐怖に震え上がるだろうか? 
 興味深いところです。
コメント (2)
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