ケイの読書日記

個人が書く書評

唯川恵「愛に似たもの」

2009-11-30 09:47:47 | Weblog
 よくもまあ、こんなイヤな女達をあつめたものだなぁ、と感心する8人を主人公にした8篇の短篇集。
 イヤな女、というのは言葉が過ぎた。誰にでもある女のイヤな部分をクローズアップして書いてある。だからそれぞれの女性主人公は、どこにでもいる人たち。
自分自身にも重なるし、隣の女の人のようでもある。

 しっかし、読んでてイライラする。(唯川恵が上手いせいだろうが)例えば『教訓』の主人公・美郷(みさと)。

 「結婚なんて時期が来れば自然にそういう男が現れて、小さな迷いやためらいはあるにしても(中略)結局はそのポジションに納まってゆくものと思っていた」
 「自分は特別な女ではない。(中略)例えばお見合いパーティに10人が参加したら、人気はせいぜい4番目か5番目といったところだ」
 「自分を知っているだけに、今時の若い女の子のように結婚相手の職種や年収に手厳しい条件をつけるつもりはない。(中略)とにかく家族を持って子どもを産んで、穏やかに慎ましく人生をまっとうしてゆきたいというそれだけだ。」

 34才になったその美郷さんは、学生時代の友人から「婚約しました」のメールが来て大変ショックを受けている。

 私だったら、ハッキリ結婚したいという気持ちがあるんだったら、自分から上司や親戚に「いい人がいたらお願いします」って頼むね。結婚相談所に登録するのも良いし、婚活サイトだって悪くないと思うよ。(お金を貸してと要求されたらサヨナラしよう)

 とにかく自分から動く事! そして恋愛至上主義を捨てる事!
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鮎川哲也「下り”はつかり”」

2009-11-25 10:32:33 | Weblog
 鮎川哲也短篇傑作集①の「五つの時計」が、あまりにも面白かったので、傑作選②の「下り"はつかり"」を読んでみる。

 うーん、「五つの時計」ほどの感激はないなぁ。北村薫や有栖川が褒めていた「達也が嗤う」は、確かにパズル推理小説としては優秀だけど、あまりにも肉付けが無さ過ぎてあっけない感じ。
 ①の短篇集に収められていた「薔薇荘殺人事件」の方がいいと思う。


 鮎川哲也のような、トリックを前面に出す本格派の宿命かもしれないけど短篇過ぎる。
 こんな素晴らしいアイデアがあるのなら、もっとふくらませてページ数を増やして、原稿料をいっぱい貰った方が、儲かるだろうに。
 短篇ばかりだと経済的にキツイんじゃないだろうか?なんて余計な心配をしてしまう。


 また、ちょっと意外に思ったのは「地虫」や「絵のない絵本」といったファンタジックな作品も書いているんだ、という事。
 とくに「地虫」はロマンチックなラブファンタジーで、私のすごく好きな作品。ディズニーアニメになっても可笑しくないような美しさ。
 しかしタイトルが「地虫」とは…。自分でも題名をつけるのがヘタと鮎川氏は認めているが、あまりにもネーミングのセンスなし。

 いろんな鮎川哲也が読みたい人に、お奨めの1冊。
コメント (6)
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桐山秀樹「アエラ族の憂鬱」

2009-11-20 11:23:22 | Weblog
 朝日新聞出版が発行する『AERA(アエラ)』は、私もファンで自分で買って読むほどではないが、歯医者の待合室なんかに置いてあると必ず読む。
 図書館に行って、時間がある時も、たいてい読む。

 だから、この本が新聞の書評欄で紹介されていた時は、ちょっとショックだった。タイトルからわかる通りアエラ族に好意的な本ではない。

 筆者は1954年生まれのノンフィクションライター。職業柄、女性編集者・女性新聞記者・企業の女性広報担当・PR会社の女性社員といった人たちーつまりアエラを愛読しているだろうアエラ族の人たちーと付き合いがある。

 その彼女らが、リーマンショック以降めっきり元気が無くなった、その足元が揺らいでいる、と筆者は感じている。

 『AERA』が特集記事で、世の中のトレンドとして度々取り上げた「バリバリのキャリア女性」「おひとり様女性」は、本当に幸せになっているんだろうか?
 それを検証しようとしている本。


 しかし…ねぇ。彼女らが幸せになっていないとしても、それは彼女らの勝手であって、筆者が説教するのは、お門違いだと思う。意地悪な見方をすれば、フリーライターが安定した職のあるキャリア女性を嫉んでいる様にも感じる。
「わーい、リーマンショックで、あいつらコケたぞ!ザマーミロ!」みたいな。


 「幸福な専業主婦が読む『VERY』の賢さ」という記事には笑った。筆者の奥様やお嬢様が『VERY』の愛読者なんだろうか?
 で、『very』の取材を受けて紙面に登場するようなハイクラスの生活が出来るような結婚を娘に望んでいるんだろうか?
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横溝正史「獄門島」

2009-11-15 17:33:55 | Weblog
 有栖川有栖や赤川次郎が、横溝作品の中で一番好きだと書いていたし、たかさんが全ミステリの中で№1だと高い評価をしていたので読んでみる。

 ここで一つお詫びがあります。35年ほど前、横溝正史の爆発的ブームがあった時、主だった作品は読んだつもりだったが、この「獄門島」はどうも読んでいなかったみたい。
 それを、読んだのに忘れてしまった、何て書いてごめんなさい。そうだよ。こんな完成度の高い作品をキレイサッパリ忘れちゃうなんて事、ありえないよ。
 「獄門島」ファンの皆様、お詫び申しあげます。


 「3人の妹達が殺される。おれの代わりに獄門島に行ってくれ」戦地から復員してくる途中に死んだ戦友・鬼頭の遺言で、金田一は彼の故郷・獄門島を訪れる。

 瀬戸内海に浮かぶ小島で、網元として君臨する鬼頭家。
 そこで金田一は美しいが頭のネジが緩んでいる鬼頭三姉妹に出会った。その後、遺言どおり、悪夢のような連続殺人事件が立て続けに起こる!
 いつもどおり金田一は殺人を防げない。しかし珍しく、防げない事に自責の念に駆られている。

 終戦後の混乱期、不吉な名前を持った閉鎖的な島、地主と小作人以上に封建的な関係の網元と漁師、そういった横溝正史的エッセンスがふんだんに盛り込まれていて、素晴らしく面白い。
 難を言うなら、小説として面白すぎてトリックがあまり印象に残らないという事かなぁ。釣鐘のトリックなんて、とても優れているけれど。
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信田さよ子「母が重くてたまらないー墓守娘の嘆き」

2009-11-10 11:33:13 | Weblog
 最近、推理小説ばかり読んでいるので、ちょっと目先を変えてみた。

 臨床心理士・信田さよ子の本は、これが初めてではない。以前、上野千鶴子との対談集を読んだ事がある。(つまらなかったけど)
 実際に、原宿カウンセリングセンター所長として、たくさんの事例を診てきた人。

 この本は、題名からも分かるように母と(主に未婚の)娘との困難な関係を取り上げている。
 先祖代々の墓を守るのは、昔は長男と決まっていたが、今は少子化で娘が一人しかおらず、その娘にすべてをおっかぶせようという母親が大勢いて、娘には重くてたまらない。


 私には守らなければならないお墓は無いので、いいじゃん無縁仏になっても、このご時世しかたがないよね、なんて気楽に考えているが、当事者にとっては大変な問題なんだろう。


 筆者の、世の母親に対する提言はとても厳しいが、父親に対してもビシビシ注文する。
 確かに、子どもの問題が母親の問題に限局されるのはおかしいが、しかし子どもが小さくて従順なうちは、父親に口を出されるのを好まない母親は多い。

 娘がピアノのレッスンを嫌がる時、父親が「ま、いいか。ピアノなんか弾けなくっても生きていける」なんて言おうものなら、「子どもの教育に口出ししないで!母親の私がちゃんと付いているんだから!」とダンナにくってかかる母親は少なくない。

 それなのに、大きくなって子どもが自分の思い通りにならない時に「お父さんが子どもに関心がないから、こんなふうになっちゃった」とヒステリーを起こすことが母親にはないだろうか?

 私にはあります。自戒を込めて。
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