ケイの読書日記

個人が書く書評

「一橋桐子(76)の犯罪日記」 原田ひ香 徳間文庫

2023-02-23 14:22:31 | その他
 NHKの夜のドラマ枠で放映されていた。見てはいないが、予告で大体のストーリーは知っている。ブックオフに行ったら棚に一冊、載っていたので読んでみる。

 一橋桐子は76歳のおばあちゃん。TVでは松坂慶子がやっていた。未婚・子なし。若いころ付き合っていた男性はいたが、両親の介護をしているうちに離れていき、両親の介護の度合いが高くなると介護離職することに。姉が一人。早くに結婚し家を出ている。親が相次いで亡くなったとき、財産問題で仲が悪くなり絶縁。その姉も亡くなり、その子供の甥や姪とも疎遠。

 友人トモが夫を亡くしたのを機に、一緒に家を借りて家賃を半分にして、年金とパート清掃の仕事の収入でつつましく生活していた。桐子さんは、両親の介護のため勤めていた会社を辞めたので、年金が少ないんだ。
 だけど、生来きれい好きお掃除好きな人なので、パート先の評判も良かった。トモと二人で、たまにオシャレしてホテルのケーキバイキングに出かけるのが楽しみだった。(ああ、なんだか自分の12年先を見ているような…)

 そんな時、友人トモが病死。精神的にも金銭的にも桐子さんは苦境に立たされる。そりゃ家賃が倍になったら払えないよね。今でもカツカツなのに。
 その上、香典詐欺にひっかかり、10万円失う。そしてもっと家賃の安いところに引っ越したら、貯金がほぼゼロ。この先、どうすればと不安が募り、以前TVで特集していた刑務所のことを思い出す。「そうだわ!刑務所に入れば、三食介護付きだわ!」
 なんで先に生活保護の事を思い出さなかったんだろうね。桐子さんみたいなちゃんとした人は「病気でもなく働けるのに、生活保護なんて受けられるわけない」と思ってるんだろね。

 ここから桐子さんのムショ活が始まる。万引きやコピー機で偽札作ろうとして、なんとか刑務所に入ろうとするのだが、捕まってもなかなか警察を呼んでもらえない。警察も忙しいんだろうね。
 桐子さんのムショ活は、ことごとく失敗する。ここらへんがコメディタッチで面白い。
 その中で、久遠とか雪菜とか、桐子さんの良さを理解してくれる若い人たちと出会う。この出会いが、桐子さんに明るい未来を導くのだが、正直言ってラストはあまりにも楽観的で好きじゃない。こんなに上手くいくわけないよ。

 それより桐子さん。正直に窮状を周囲に打ち明けて、相談したら? 健康できれい好きなんだもの。家政婦さんのような仕事があるんじゃない?
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星野仁彦「発達障害に気づかない大人たち」祥伝社新書

2023-02-13 15:30:03 | その他
 自分のことを発達障害じゃないかと疑っている大人って、相当数いると思う。「障害」というと先天的なもので、自分ではどうしようもできないというイメージがあるけど、この本に書かれているように「障害」というより「ある行動や日常生活を行う上で、多少ハンデがあるもの」という考えの方が受け入れやすい。

 というか、ぴたっと「発達障害」の枠内にあてはまる人は少なくて、その周辺のグレーゾーンにいる人の方が、圧倒的に多数じゃないかな?
 グレーにも濃淡があって、すごく濃い人もいれば淡い人もいる。私も自分が発達障害グレーゾーンと自覚しているが、自分のことは棚に上げ、友人や知人や家族の中にも「この人、発達障害っぽい人だな」と感じることが多々ある。
 そうだ!私のダンナも発達障害だと思う。「どうしても片付けられない」タイプ。ダンナのお姉さんも同タイプの人だ。

 「発達障害の人は、過去にあった嫌な体験が些細なことでフラッシュバックして、不機嫌になったり不快な気持ちになることが多い」「発達障害者は一般にストレスに対する耐性や抵抗力が極めて弱い」
 いろいろ発達障害の人が陥りやすい悪い側面が書かれていて、ああ、まるで自分のことを見ているようだと感激して読んでいたが、別に本を読んでも発達障害が治るわけじゃない。ただ、自分だけじゃない、こういう人って多いんだと知ることができて、気が楽になるとは思う。
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高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」 講談社

2023-02-06 15:13:18 | その他
 第167回芥川賞作品。タイトルが牧歌的なので、もっと穏やかな話なのかなと思っていたら、すごく不穏な小説なんだ。驚いた。

 職場でうまくやっている二谷君と、仕事はできないがお菓子作りが得意で、職場のアイドル的存在の芦川さんと、仕事をてきぱきこなす押尾さんの3人が主な登場人物。しかし、ここに隠れたキーパーソンが…パートの原田さん。この正義の味方・原田さんが、職場をいっきにざわつかせる。

 二谷君と芦川さんは付き合っている。2人とも30歳前後で、芦川さんのほうが1歳年上。結婚の話は出ていないが、芦川さんは仕事ができないことを自覚しているので、何とか結婚に持ち込み寿退社したいと思っている様子。職場のみんなは、この交際を知っている。
 押尾さんは芦川さんの後輩で、二谷君のことが気になっている。2人の交際は知っているが、二谷君にちょっかいをかけている。これは、二谷君が好き、芦川さんから奪いたいというのでなく、芦川さんより自分のほうが魅力的なはずだ、という思いからの行動だ。で、押尾さんは、二谷君と仕事帰りに飲みに行ったとき「芦川さんを見ているとイライラするから、2人で意地悪しよう」と提案する。それに、二谷君も乗っかる。彼も、芦川さんと付き合ってはいるがイラっとすること多いんだろうね。

 芦川さんは体が丈夫ではなく、よく早退する。どんなに忙しくても絶対残業せず、定時で帰る。自分が仕事で迷惑をかけていることを知っているので、よくクッキーやケーキを自分で焼いて持ってきて、皆に配る。
 お菓子作る時間があるなら残業しろよと、皆、心の中で思っているが言えない。芦川さんは職場で守られるべき存在だから。上司に守られ、同僚に守られ、パートの原田さんに守られる。

 このパートの原田さんについては、小説内であまり説明されていない。私は勝手に想像する。旦那と子供2人の4人家族。重要な仕事をやっているわけではないが、パート歴は長く、パートの人たちのリーダー的存在。正社員と違い転勤がないので、この職場に長くいて発言力が強い。上司の支店長や室長とも良好な関係を築いている。彼女なりにこの職場を愛しているんだろう。正義の味方となって、芦川さんに対するイジメを告発し、罪を押尾さん一人におっかぶせ、か弱い芦川さんと二谷君を結婚させようと画策する。

 押尾さんのイジメは陰湿で許せないものだが、それに二谷君が加担してたって、原田さんは気づいてたんじゃないの? いるよね、こういう人。私も一人、すぐ思い浮かぶ。
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