ケイの読書日記

個人が書く書評

東野圭吾「新参者」

2012-05-28 10:44:50 | Weblog
 この加賀恭一郎が主人公のシリーズは初めて読む。TVでは阿部寛が演じたんだっけ。見ればよかったなぁ…。さぞ、さわやかな加賀恭一郎だったろうね。

 
 東京日本橋で、一人暮らしの45歳の女性が、自宅マンションで首を絞められて死んでいるのが見つかった。部屋は荒らされておらず、顔見知りの犯行の可能性が高いらしい。

 その被害女性の身辺を調べるうちに、浮かんできた様々な謎。大半が殺人事件とは直接関係なく、加賀の、注意深く鋭い観察と推理によって謎は解かれていく。

 物語の舞台になった辺りは、住宅街ではなく、小商いしている商店が多い。その中でも『寺田時計店』の老店主の職人ぶりは光っている。
 
 以前エッセイで読んだが、東野圭吾のお父さんって、腕のいい眼鏡職人だったんだね。だから、機械時計も修理するし、貴金属の細工もする。
 今はもう、引退しているだろうけど。

 そのお父さんへの愛情と信頼が、この『寺田時計店』店主に寄せられていて、微笑ましい。圭吾少年も、幼少期にはお父さんの仕事場で、怒られながら遊んだんだろうね。

 他にも、煎餅屋の娘やら、料亭の小僧やら、瀬戸物屋の嫁やら…いろんな人が登場する。 
 被害女性が最後にケータイでしゃべった人物がリストアップされ犯人が特定されるが、その動機は外からでは分かりにくいものだった。

 この男前の刑事は、なかなかのやり手です。他の作品を読みたくなりました。
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東野圭吾「あるジーサンに線香を」

2012-05-23 14:52:33 | Weblog
 これも『怪笑小説』という短篇集の中の1作品。ちょっと前、モト冬樹・主演のお芝居が話題になった。その原作がこの作品だというので、読んでみたかったのだ。

 たぶん大正生まれだろう、高齢のジーサンが、若返りの手術を施されてどんどん若くなっていく。
 50~60歳くらいになると、自分の身の回りの世話をしてくれた、40歳代の看護婦さんに恋心を抱く。しかし、ジーサンが20歳代になると、その看護婦さんには見向きもせず、本屋のアルバイト女子学生にアタックを始める。

 なんて正直なジーサンだ。

 20歳くらいで若返りがストップし、その後、恐ろしい勢いで老化が進んでいくジーサンは、以前にもまして死を怖れるようになる。いやだ、死にたくない。死にたくない。

 こういった設定は、映画やマンガでよくあるので、さほど面白いとは思わなかった。

 ただ見かけは20歳代のジーサンが、作家を目指す若い男女と居酒屋で飲む場面が印象に残った。
 話がどう転んだか分からないが、話題が戦争の事になった時、若い人たちが「悪い事をしたと思っている年寄りなんか、いねえよ」
「近隣諸国を苦しめたっていう反省は口ばっかり」
「頭悪いんだよ。だからアメリカみたいな、でっかい国に戦争を仕掛けたりするんだ」などなど、年寄りを罵倒し始めた。
 その時、ジーサンは、すっくと立ち上がり怒鳴った。
「おまえたちに何が分かるっていうんだ。そんなことをおまえたちに言われる筋合いはない! あの時は必死だったんだ!」

 そうだよ。後出しジャンケンではないが、後からだったら何でも言える。後から批判する事は、誰でもできるんだ。
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東野圭吾「しかばね台分譲住宅」

2012-05-18 11:37:32 | Weblog
 『怪笑小説』という短篇集の中の1作品。すごく気に入った。ストーリーが、というより題材が。

 東京都心へ3時間かかる『しろかね台分譲住宅』。緑が多く環境がいい(内心は値上がりを期待)という事で、引っ越してきた家族達は、バブル崩壊、転売してもっと都心の近くに住もうというアテがはずれ、ガックリきている。

 そんな折、分譲住宅の道の真ん中に、他殺体が転がっているのを発見!

 住民達は恐る恐る他殺体を眺めていたが、彼らの取った行動は驚くべきものだった。
 ここで他殺体が発見されると、家がもっと値下がりする。だから警察に連絡するのではなく、どこかに捨てに行こうというの!!

 ここでは、殺された男の身元も,動機も,殺害方法も全くどうでもいい。ただ、自分達の家の市場価値を落とす、憎い物体となっている。


 そうだよね。自分の家の前で他殺体が発見されたら、本当に困るだろう。
 それだけじゃない。オ○ム真理教の道場が同じ町内にあっても、ヤクザの組事務所が近くにあっても、騒音おばさんが隣に住んでいて、大音量でラジオをつけていても、我が家の市場価値はかぎりなくゼロに近づく。
 家を買うことは、本当に大きなバクチです。


 若者達よ!! バブル崩壊後の、住宅価格の下落の恐ろしさを覚えていないだろう(当たり前か)
 同じ分譲地内の、売れてない家が、折込チラシに載るたびに、200万円・300万円・500万円と値引きされていくのだ。
 これじゃあ、必死になって働いて、ローンを返済していくのがバカバカしくなるのは当然。あの頃は、こういったトラブルが各地で相次いだなぁ。
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芥川龍之介「鼻」

2012-05-13 20:02:22 | Weblog
 最近なかなか本が読めない。仕事が忙しいから時間がない…ではなく、家事が大変だから時間がない…では絶対に無く、ただ単にぼんやりしているからだけなのだが…。

 ということで、何か短篇を読んでブログの更新をしようと思い、家の本棚を探す。
 ありました!! 『芥川龍之介名作集』。困った時の龍サマ参り! その中で、子どもの頃読んだきりの「鼻」を再読。

 禅智内供(ぜんちないぐ)というお坊さんの鼻は、とても有名で、太くて長いウインナソーセージがぶらさがっているようだった。
 内供は、これをとても気にしていたが、仏に仕える身、表面的には気にしていないように振舞っていた。
 ある時、弟子が、その鼻を短くする方法を医者から教わった。ただ、湯で鼻をゆで、その鼻を人に踏ませるという簡単なものである。
 そのかいあって、鼻は短くなり、普通の鉤鼻と変わらなくなって、内供は大満足。これで誰も陰口を言わなくなるだろうと期待した。
 ところが、今度はもっとひどく、陰で嘲笑われる事となった。というお話。

 この、鼻を茹でて人が踏むと、粟粒のようなものが鼻に出来始める。この脂を毛抜きで抜き取って、再び茹でるという描写がリアル!
 これは角栓を取るという事だろう。なるほど、スッキリする。
 このお坊さんに、鼻パックをプレゼントすれば、きわめてビッチリ取れるだろう。


 しかし…私が小学生の時読んだ記憶では、この鼻の毛穴から、小さな虫が出てきたような…? 記憶違い?!
(生まれたての赤ちゃん以外、ほとんどの人は顔ダニがいるという話を聞いたのは、それから30年以上たってからだ。顔ダニ専用の洗顔石鹸が売れたよね。最近は話題にならないけど)
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曽野綾子「ボクは猫よ」

2012-05-08 16:13:49 | Weblog
 曽野綾子はキャリアの長い著名な小説家だが、作家というより知識人・文化人というイメージの方が強い。
 だいたい、この人の小説を私は今まで読んだことない。

 作者紹介の欄を読むと、1931年東京生まれ。聖心女子大学英文科卒業。すごいなぁ。大変なお嬢様なのだ。
 ローマ法王庁より、ヴァチカン有功十字勲章を受賞。やっぱりなぁ。こういう人はクリスチャンで浄土真宗じゃないんだ。ロザリオや賛美歌が似合う人なんだ。

 タイトルの『猫』に反応して、この本を借りてしまった。もちろん夏目漱石の『吾輩は猫である』になぞらえた作品を書こうという事なんだろう。
 『吾輩は…』の方は、猫の目を通して人間社会を風刺しているが、こっちの『ボクは猫よ』の方は、風刺という間接的なものではなく、直球で批判している。

 でも、そんなに堅苦しいわけでもないよ。適度にユーモアをはさんで面白いです。

 思うに、この曽野綾子さんという人は、すごく真っ直ぐで気持ちのいい人じゃないかな。なんてぼんやり考えていたら、『週間現代』に特別寄稿が載りました。

 亀岡暴走事故死「個人情報漏洩」報道に思う
 曽野綾子「私の違和感」電話番号を教えてはいけませんか?

 そう、18歳・未成年で無免許の男の子達が、夜どおしドライブして疲れ居眠り運転、登校中の小学生の列につっこみ、数人が死亡したあの事件。
 加害者の親が、被害者の遺族に謝罪したいと、学校関係者や警察関係者に名前や電話番号を尋ね、それに応じて情報が漏洩した件。

 曽野綾子が、どういう考え方をするか、というより、こういった事件に真摯に向き合う態度がとても好ましいです。
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