ケイの読書日記

個人が書く書評

畑野智美 「感情8号線」 祥伝社

2020-01-16 14:08:37 | 畑野智美
 著者・畑野智美さんは、以前『神さまを待っている』という作品を読んで、印象に残っていた。書架で名前を見つけ、読んでみる。

 私は東京の地理が全く分からないが、車で行けばすぐなのに電車で行くと回り道という荻窪・八幡山・千歳船橋・二子玉川・上野毛・田園調布に住む6人の女性の6つの不幸せな恋のお話。
 その中の第2話『八幡山在住・絵梨』の話に、強く考えさせられる。
 絵梨は新宿のデパートの中にあるインテリアショップでアルバイトしている。2年前、同じバイト仲間から貴志を紹介してもらい、お互い気に入って、すぐ同棲を始めた。貴志は銀座にある不動産関連会社の経理部で働いていて、いわゆるエリートサラリーマン。実家も裕福だ。友達からは羨ましがられている。ただ、貴志には裏の顔があった。DV男。
 付き合って3か月ごろから暴力を振るうようになった。激昂しているようにみえて、計算して殴っている。痕が残っても隠せるところを狙って、殴ったり蹴ったりしている。
 貴志も、最初の頃は「ごめん、もうしないから」と謝ったが、今では気が済むまで殴ったり蹴ったりして、気が済むと何も言わず書斎に入る。
 絵梨も、黙って暴力が終わるのを待つ。殴られるのも蹴られるのも、自分がいなくならないか怯えている貴志の愛情表現だと、絵梨は思い込もうとしている。

 こういった貴志みたいな人は、家にいる時は、母親に暴力を振るっていただろう。殴っても蹴っても大変なことにならない相手を選んで。次は恋人に、奥さんに、子どもに、暴力を振るう。DVは治らない。逃げるしかない。

 結局、絵梨は逃げ出し、バイト仲間の所に身を寄せる。貴志は泣いてすがって「もう決して暴力は振るわないから、戻って来てほしい」と哀願しているようだ。こういう時は黙って熱が冷めるのを待つより、刑事事件として訴えた方が良いと思う。そして慰謝料をもらう。当たり前だ。そうじゃないと、この男はまた新しい相手に同じことをするだろう。なにしろ、結婚相手の条件としては、本当に良い男なのだ。
 貴志の母親も、息子に殴られたことを外に漏らさなかっただろう。もし貴志の結婚相手が「お義母さん、貴志さんが暴力を振るうんです」と訴えても、「大したことじゃない。上手く受け流せばいいのよ」なんて言いそう。


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畑野智美 「神さまを待っている」 文藝春秋

2019-10-08 09:22:08 | 畑野智美
 久しぶりに本を読んで真剣に考えた。私が、この人の立場になったら…どうするだろうって。

 文具メーカーで派遣社員として働いていた26歳の愛は、派遣切りにあい失業する。家賃が払えなくなり、ネットカフェ難民に。マンガ喫茶で寝泊まりして、菓子パンでお腹を満たし、日雇いのアルバイトを始める。しかし生活は苦しくなるばかり。
 困り果てた愛は、マンガ喫茶で出会った、同い年の女の子と『出会い喫茶』でお金を稼ぐ道を選ぶ。

 うーん、この愛さんは静岡出身で、実家では母親が亡くなり父親が再婚したので、なかなか帰りづらいのだ。父親との仲も悪い。頭を下げて拝み倒せば、小額のお金だったら用立ててくれるかもしれないが、そうはせず、ネットカフェ難民になる選択をした。
 でも、客観的にみれば、仲が悪いといっても父親は、大学4年間の学費と入学金・授業料そして家賃を払ってくれた。800万円はくだらないだろう。それを考えれば、食費や水道光熱費・衣料費といった生活費を自分で工面するのは仕方がないだろう。
 愛さんには、奨学金の返済義務はないので、他の人と比べてもラクなはずだ。

 就職氷河期で、卒業間際まで就職活動をしたが、正社員として就職できなかった。派遣切りにあい、職安でアルバイトではなく正社員の職を探すが、ない。あっても面談で落とされる。90日間の失業保険の出ている時は正社員を探すのもいいが、切れてしまうのに正社員に固執するのは…どうかねぇ。
 若い女性の場合、派遣も正社員も、条件的にはさほど差が無いように思えるけど…。むしろブラック企業に正社員で入ってこき使われるより、派遣でキッチリ定時に帰り、ちょっとアルバイトした方が、心身とも健やかでいられると思うが。

 愛さんはコミュニケーションに難がある訳じゃなく、友人も多い。(で、結婚式に多くよばれ、ご祝儀貧乏)だから、友達に「ルームシェアしたい子、いないかな?」「短期のアルバイト、ない?」などと、声を掛けてみれば良かったのに。
 見栄はって「文具メーカーで働いてたんだけど、貯金もあるから、しばらく休む。海外でも行こうって考えてる。」なんて周りに言うから誰も助けてくれないんだよ。探せば、ルームシェアしたい子、必ずいると思うよ。

 先ほど実家の話を書いたが、愛さんの母親が生きていても、20代後半の独身女にとって実家はそんな安泰な場所でない。相手もいないのに「ねぇ、結婚はどうするの?」ぶらぶらしていると「いい加減働きなさい。ご近所の目が…」と小言の嵐。子どもやダンナを連れて帰省しているならともかくね。
 そもそも地方には仕事が少ない。東京23区で気に入った仕事がないのに、地方にある訳がない。
 そして愛さんは、母親と大喧嘩して家を飛び出し、東京に舞い戻ることになるだろう。
 
 正社員になれればいいけど、なれなくても長く働き続け継続的に収入を得て、出費を抑える生活を心がけるのが良いんじゃない?
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