ケイの読書日記

個人が書く書評

森博嗣「詩的私的ジャック」

2015-03-31 10:59:30 | Weblog
 犀川&萌絵シリーズ第4弾の作品。これ、このシリーズにしては珍しく、金田一耕助化している。

 最初に、2つの女子大生殺しが立て続けに起こり(登場人物リストに、第1の犠牲者、第2の犠牲者と書いてある)、その後、大して多くない主な登場人物の中で、疑わしいと思われた人たちが、次々と殺され、最後に残った容疑者は、ほんのわずか。
 犀川先生は、専業探偵ではないので、連続殺人が起きても、頭をかきむしり「しまった!」とは言わないけど、第3、第4の殺人は防いでほしかったなぁ。

 すべて密室。第1と第2の密室は、メカニックな技巧が施されていて、まあ、工学部准教授の森博嗣が言うんだったら、可能だろうと思われる。
 第3、第4の密室トリックは、人間心理の盲点をついたカンジで、へー!!こういうプロセスをたどれば、密室じゃなくなるんだ!と感心した。(音で気づかれないかな?とは思う)

 森博嗣って、真摯に密室トリックに向き合ってるよね。トンデモ・トリックじゃないもの。


 この作品の、もう一つの読み所は「萌絵さん、犀川先生に猛烈にプッシュする」部分。
 いやーーー! 良家の子女が、ここまで求愛するだろうか?! というか、13歳年下の女の子に、ここまで意思表示をさせるか?フツー?! 犀川先生、だらしないよ。

 
 いつも思うけど、この二人の関係って、男の夢なんだろうね。
 若くて、キレイで、お金持ちで、頭の良い女の子が、わきめもふらず、自分だけを見つめ、愛情を示してくれるというのが。
 でも、こういった萌絵さんのような女の子は、森博嗣の小説にしか、いません。
 現実では、女子高生くらいまでは、自分の父親の優秀な教え子という事で、ほのかな恋心を抱くことは多いでしょが、大学に入学したり、社会人になったりすると、恋愛の対象がうんと広がります。「私、なぜ、あの人を好きだったんだろう?」と不思議がるようになるものです。
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津村記久子「バイアブランカの地層と少女」

2015-03-26 10:24:08 | 津村記久子
 バイアブランカは、アルゼンチンの一地方の名前らしい。どっから、その地名を引っ張ってきたのか、よく分からないが(津村記久子の小説では、よくある)「母をたずねて三千里」のマルコが行こうとしていたのがバイアブランカだという。へーーーー。


 作朗という京都の大学生が、インターネットの京都観光に興味がある外国人のためのコミュニティサイトを覗くようになり、そこでファナJuanaというバイアブランカ在住の女の子と知りあう。
 ファナは、三島由紀夫がとても好きで、三島を研究するために日本の大学に交換留学生としていく予定があるらしい。
 地球儀を見れば、日本の真裏に住むアルゼンチンの女の子が、京都が好きで、金閣寺が好きで、三島由紀夫が大好きでいてくれるのだ。ああ、世界は本当につながっているんだな、とつくづく思う。


 そのファナの恋人は、サッカー選手らしい。彼がケガで大変な時、作朗はメル友ファナの恋人の回復を願い、女の子とのデートをすっぽかし、清涼寺の法輪(ハンドルのついた大きな櫓のようなもの。中に経典が収められている。1回廻したら、お経をすべて読んだのと同じ功徳があるという。昔は文字が読めなかった人が多かったから、こういった物を作ったんだろう)を、ぐるぐるまわすのだ。ぐるぐるぐるぐる「ファナの彼氏のケガが治りますように」と叫びながら。


 どうして、私が津村記久子の小説を好むかと考えてみた。
 石原慎太郎が、彼女の『ポトスライムの舟』を、いささか退屈と評したらしいが、私は全然退屈とは思わない。すごく面白い。
 確かに書いてある事は、大した事件が起こらない平凡な日常だけど、ゆるーーーいユーモアがあって、声を出して笑う事もしばしば。初期の作品は、どんより暗い作品もあったが、最近はその可笑しみが、どんどん増していると思う。

 こういったほのかな可笑しさは、私が敬愛する岸本葉子さんのエッセイと通じるものがある。だから私は、津村記久子の小説が好きなのか。納得。
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津村記久子「サイガサマのウィッカーマン」

2015-03-21 10:19:55 | 津村記久子
 サイガサマという固有名詞は、たしか遠野物語にあったような記憶があるので、東北地方の土着の神様の話だろうと思って読んでいたら…どうも関西の話らしい。

 とっても変わった神様で、人々の願い事をかなえる代わり、その人の身体の一部を取ってしまうという。だから、お願いする人は、心臓とか脳とか、絶対に取ってもらっては困る物をサイガサマに申告するため、そのパーツの模型を作って、大きな人形の中に入れ、その人形を冬至の日の祭りで燃やすのだ。

 折り紙で心臓らしきものを作って、簡単に済ませる人もいるが、時間とお金と労力をつかって美術品みたいな物を作る人もいるらしい。
 へーーー!すごいなぁ!と感心したが、そこで気が付いた。これって架空の祭りだよね?
 だって、こんなユニークなお祭りが大阪の方であるなら、絶対TVか新聞で取り上げられるだろうけど、私、いままでそんなニュース、見た事ない。

 
 シゲルという、ニキビに悩んでいる高校2年の男子生徒が主人公。彼の家はゴタついている。
 父親は不倫中で、あまり家に寄りつかないし、弟は学校に行かないで、サイガサマの祭りで燃やす申告物のパーツばかり作っている。母親は、家庭内の不和におろおろするばかりだし、シゲルはそういった揉め事から目をそらし、せっせとバイトしお金を貯めようとしている。
 
 そういえば、津村記久子の書く小説って、仲のいい家族ってホント出てこないよね。かといって、空中分解してバラバラになる所まで行かない、その一歩手前で踏みとどまっている家族というか…。割合で言えば、そういった家族が一番多いんだろう。

 弟は、家族が再び以前のように仲良くなる事を願ってサイガサマにお祈りするし、シゲルは気になる女の子のために、サイガサマに願い事をする。
 さて、その願いはかなうのでしょか? そして、サイガサマはシゲルの身体の何を奪うのでしょう? 興味のある人は読んでみて。
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森博嗣「どちらかが魔女」

2015-03-16 19:39:45 | Weblog
 犀川&萌絵シリーズのキャラクターが活躍する8編を収録している短篇集という話だったので、最初に「ぶるぶる人形にうってつけの夜」が来たのが意外だった。でも、最後は「刀之津診療所の怪」だったので、納得。この2作品は対になってるんだ。
 フランソワって、そういう事だったのか。私は、萌絵さんが、時をかける少女になって、色んな時代に登場しているのかと思ってた。


 この短編集の最大の読み物はコレ! 「いつ入れ替わった?」
 誘拐事件が発生し、用意した身代金を、警察がまんまと奪われる。トリックも面白く、犀川先生の推理も冴えるが、読みどころはそこではない!
 なんと!!! 犀川先生が、萌絵さんに指輪を渡すのだ! 長かった、本当に長かった。第1作品の「すべてがFになる」で、もうすでに公認のカップルのはずなのに、全然進展せず。「封印再度」で、二人は婚姻届を書くが、それは萌絵さんの叔母さんが預かっていて、提出していない。
 「有限と微小のパン」では、フィアンセと主張する青年実業家に、萌絵さんは「犀川先生と婚約している」と伝えるが、こういう状況で婚約と言えるんだろうか?と不審に思うほど。


 とにかく犀川先生が煮え切らないのだ!! 読んでいる方がイライラしてくる。その犀川先生が、非常に不器用ながら、きれいにラッピングされた小さな箱を渡すのだ。プロポーズの言葉もなしに。これだけで、創平君には、精一杯だったんだろう。評価してあげなければ。


 しかし…サナダさんから仕入れた情報によると、萌絵さんは、その後、大学院を卒業し、助手として東京の大学に赴任するのだそうだ。という事は、このシリーズの短編は、まだ私が読んでいないのがあるのだ。探すのが楽しみだなぁ。
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池田暁子 「思ってたウツとちがう!『新型ウツ』うちの夫の場合」

2015-03-10 13:42:41 | Weblog
 池田暁子さんの実生活をもとにしたコミックエッセイは、以前一冊読んだ事がある。たしか、30代半ばになっても貯金が0円の女性が、なんとか貯金を始められるまでの奮闘記で、面白く読んだ。
 けれど、今回の場合は…本当に大変だと思うよ。これまでも、そしてこれからも。

 1969年生まれの暁子さんが、3歳年下の男性と数年前に結婚。楽しく新婚生活を送っていたが、2年ほど前から、夫がウツ病になり、会社を休職そして退職。1日中家にいるようになる。
 ただ、従来のウツとは違い、『新型ウツ』(非定型ウツ)なので、仕事以外の事に関しては、すごく元気で行動的。1人で北海道に旅行したり、夫婦でパリに出掛け、はしゃぎまわる。こんなに元気なら、仕事に復帰できるだろうと勧めると、とたんに具合が悪くなる。
 単に働かないだけじゃなく、妻の仕事にドンドン口出しするようになる。実際の出来事を描くコミックエッセイなんか止めて、フィクションを描け とか、小説なんか読むな!もっとマンガを読んで研究しろ!とか、業界内で人脈を作り、もっと自分の作品を売り込め!など、寝ている暁子さんをたたき起こして、説教を始めるらしい。
 どうやら、マンガ家・池田暁子を売り出すプロデューサーとかマネージャーをやりたいみたい。困るなぁ。こういう人。自分が無職なので、妻で自己実現をする気なんだろう。ちょうど、自分の夢を果たせなかった母親が、我が子に夢の実現を強要するような。


 当然、夫婦仲は険悪に。離婚を考え、暁子さんはプチ家出をするが、根は優しい人なのだ。「死なない程度には、面倒をみなければ」と思い直す。

 今は(2013年当時)ダンナさんは、国がやってる職業訓練の学校に通って、ずいぶん落ち着いているらしい。えらいなぁ。暁子さんは。私だったら、とっくにダンナの頭をトンカチで叩き割っているだろうな。あとさき考えないで。
 ただ、正直な所、ダンナさんの就職は難しいと思う。やっぱり池田暁子のマネージャーという所が落としどころかも。女流小説家とか女流漫画家は、ダンナがマネージャーやってる人って多いと思うよ。でも、暁子さんも言ってたけど、こんな不安定な仕事で二人も食べていくのは至難の業だろう。

 このダンナさんも、地道に仕事するのが苦手らしく、すぐに管理職になりたがるのだ。例えば、「オレがプロデューサーで、スピルバーグを呼んで映画を撮らせる」とか。ああ、暁子さんの前途は多難です。
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