ケイの読書日記

個人が書く書評

山本文緒 「無人島のふたり」 新潮社

2023-04-18 16:07:05 | 山本文緒
 「120日以上 生きなくちゃ日記」というサブタイトルが付いている。

 2021年10月、58歳で膵臓がんで亡くなった山本文緒さんの日記。そうか、もう1年半以上たつんだ。ついこの間だったような気がするが…
 2021年4月、山本さんは突然、膵臓がんと診断され、その時すでにステージ4bだった。治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせることしか方法はなかった。その抗がん剤が全く合わず、止めて緩和ケアをやることにする。

 ただ、山本さんの場合、毎年きちんと人間ドックを受けていて、たばこもお酒も10年以上前に止めて食生活にも気をつけていたそうです。だから、なぜ私が? 膵臓がんってそんなに見つかりにくいものなの?って不信感を感じたそう。彼女は90歳くらいまで生きるつもりで、せっせとお金を貯めていたそうです。
 でも、彼女のお父様ががんで亡くなっているとの事、やはり遺伝的なものもあったんでしょう。

 それにしても現代のお医者さんはビシッと告知するんだ。主治医には余命半年、セカンドオピニオンで診てもらった先生には余命4か月と言われたそう。告知するかしないかで家族がすごく悩んだという話は過去のものなんだ。
 それか、山本さんが売れっ子作家で仕事のスケジュールもあるだろうし、取り乱すことはないだろうと、お医者さんが考えたのかもしれない。
 なんにせよ、死は目前に迫っている。

 ご本人も書いていらっしゃるが、山本さんの人生は充実したものだった。直木賞作家といっても、受賞直後はもてはやされるが、やがて仕事が減っていって困窮する作家さんが少なくないと思う。でも、山本文緒は売れ続けた。うつ病を発症して大変だった時期もあるけど、大したものだと思う。
 でも、いくら充実した人生だったとしても、心残りがあるのが人間。この日記に、あまり後悔めいた記述がないのは、少し不思議な気がする。それとも敢えて書かなかったんだろうか。日記といえども小説家が書くもの。かなりの創作が含まれていてもおかしくない。
 あまりにもキレイすぎて、読者の心を揺さぶらない。
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「くそじじいと くそばばあの 日本史」大塚ひかり ポプラ新書

2023-04-08 09:26:20 | その他
 そりゃ、善人では日本史に名を残せないでしょうよ。「くそじじい」とはちょっと違うけど、第4章「凄まじきは老人の権勢欲…人はなぜ晩節を汚すのか」に登場する豊臣秀吉は、あまりにもひどくて気の毒ですらある。
 信長にせよ家康にせよ、弱小とはいえ一応戦国大名の家に生まれたが、秀吉は赤貧芋をあらうがごとしの家に生まれ、その才覚が信長の目に留まり、とんとん拍子に出世、ついには太閤にまで上り詰めた人。こういう人って日本史の上で他にいないのでは?

 運もあっただろうが、抜きんでた能力があったんだろう。しかし晩年の朝鮮出兵は狂気の沙汰としか思えない。私の高校時代の日本史の先生は、結核菌が脳に入り一種の痴呆状態になっていたと言っていた。それが本当かどうかわからないが、ただの耄碌じゃない、脳に重大な病気があったんじゃないの?
 明を征服して東アジアに君臨する大帝国をつくる、その足掛かりとしての朝鮮出兵って、誇大妄想狂ってこういう人をいうんだよ。
 なんにせよ、朝鮮出兵は大失敗。400年以上たった今も、その悪評で私たち日本人は肩身の狭い思いをしている。

 もう一つ、秀吉の晩節を汚しているのは「跡継ぎ」問題。無類の女好きで手のついた女の人はどっさりいたが、子どもは生まれなかった。甥の秀次を後継者にしたが、秀頼が生まれると難癖つけ、秀次を殺してしまう。
 しかし、この淀君が生んだ秀頼が自分の子であると、秀吉は本当に思っていたんだろうか?耄碌してるな。もちろん口に出しては言わなかっただろうけど、周囲は誰もが信じていないのに。「秀吉の子であるわけがない!!!」と私の高校時代の日本史教師は力説していた。そうだよね。若くて元気な時に子どもができないのに、よぼよぼの老人になってからできる訳がない。

 源氏物語の中でも、光源氏が自分の義理の母親と関係を持ち、生まれた子が帝位につく。この秀吉の話もそうだが、なぜ日本は中国から技術や文化や制度を輸入していたのに、宦官が仕切る後宮をマネしなかったんだろうか。不思議。
 江戸時代には大奥があるが抜け道だらけ。この矛盾点を取り上げた本がどこかにあるかな? あったら教えてください。
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