ケイの読書日記

個人が書く書評

糸山秋子「ニート」

2010-11-29 16:33:33 | Weblog
 帯に「傑作小説とは、こんなにも危険で、こんなにも甘美なものだとあらためて震えました  ダ・ヴィンチ編集長・横里隆」という賛美の言葉が載っているが…私にはムカつくだけの中・短篇集だった。

 無職の男が、昔少しかかわりのあった女のもとに転がり込んでくる話が、3篇入っている。
 その、ガス代どころか電気代も払えなくてパソコンも使えなくなった男が、世間的に少し成功し余裕のある暮らしをしている女の住居にもぐりこみ、1週間ほど暮らし、しかも自発的に出て行ってくれるというのは…あまりにも世の中の男女関係を無視しているのではないだろうか?

 だいたいこういう場合、男はヒモ化し、女に金をせびり、暴力をふるい、いつまでたっても出て行こうとせず、食費も家賃も払わないのに、我がもの顔でのさばるのだ。

 そこで、女はあきらめるか、男と大立ち回りをするか、手切れ金を渡すかして、決着をつける。

 その修羅場を読むのがすごく楽しいのに、金もせしめないで自分のアパートに帰るヒモ男の気が知れない。
 どうせまた行き詰るのに。

 ああ、もっと後味のいい小説を読みたいね。
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島田荘司「犬坊里美の冒険」

2010-11-24 15:11:46 | Weblog
 コレを読めば、石岡や御手洗の近況が少しでも分かるんじゃないかと期待して読んだが…残念。期待ハズレ。
 石岡はヨレヨレになって電話口に登場したが、御手洗の出番は無し。わずかにスウェーデンにいるという記述があったのみ。

 さて、本題です。

 お祭りで、大勢の人が詰め掛ける神宮の境内に、突然現われて消えた死体。残された髪の毛から死体の身元が特定され、容疑者として一人のホームレスが逮捕された。
 しかし、死体はどこに消えたのか?

 司法修習生として、倉敷で研修を始めた犬坊里美は、これが冤罪ではないか?真犯人は他にいると確信し、独自に調査を始める。


 ストーリーもトリックも中々面白かったが、どうも探偵役の犬坊さんには好印象が持てないなぁ。
 以前、『臥龍亭事件』で登場した時は、まだまだ本当に子どもで、石岡とたいして話した訳ではないが、今ではすっかりオトナの美しい女性に成長した。
 石岡とはビミョーな関係。
 研修先の倉敷では、同じ司法修習生のハンサム君といいセンいってるし。

 しかし、ここで一つ彼女に苦言を呈しよう。
 性犯罪の前科がある被告人に面会に行くのに、なぜ座ると下着が見えるようなミニスカートをはくのか?!
 パンツスーツくらい用意しろよな!!
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皆川博子「伯林蝋人形館(ベルリンろうにんぎょうかん)」

2010-11-19 16:45:00 | Weblog
 プロイセン貴族で義勇軍くずれの、アルトゥール・フォン・フェルナウという美青年をめぐる人間模様を、様々な視点(亡命ロシア娘、ナチス親衛隊員、ユダヤ系ドイツ人、ベルリンのキャバレーの大スターなど)から書いている。
 ちょっと少女マンガチック。

 もしタイムマシンがあって過去に遡れるとしたら…私は第一次大戦と第二次大戦の間の、ベルリンとミュンヘンに行きたい。

 ドイツは第一次大戦に負け、天文学的な賠償金を支払わなければならなくなり、猛烈なインフレが始まり、ドイツ紙幣は紙屑になって、コーヒー一杯飲むのにもトランク一杯のお札が必要な大混乱の中にある。
 それでも、数年したらアメリカ資本が大量に流入し、一時的に落ち着いたかに見えた世情も、1929年の大恐慌でぺしゃんこになる。
 街には大量の失業者があふれ、革命を起こせとストやデモが頻発する。

 そんな中からナチスが生まれたんだ。


 これから先のドイツ国民の苦難を思うと…胸が苦しくなるね。
 日本も確かに大変だったろうが、一応、第一次大戦では戦勝国になり、火事場泥棒のように領土をかっさらったのだ。
 日本中が沸きかえってたんじゃない?

 国内の不景気を、他のアジア諸国を植民地化することにより打開しようとして、どんどん深みにはまって行き、第二次大戦に突入する事になる。


 しかし、どうすれば日本もドイツも戦争にならずにすんだんだろう? 戦争反対という理念は大賛成だが、唱えるだけでは、避ける事はできないよ。
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島田荘司「帝都衛星軌道」

2010-11-14 14:43:10 | Weblog
 帝都衛星軌道(前編)(後編)の間に『ジャングルの虫たち』という中篇が挟み込んである構成。

 この「ジャングルの虫たち」が、「帝都衛星軌道」と何か関係あるんだろうかと思って一生懸命読んだが、関係ないことがわかりガッカリ。
 東京の地下が、いかに穴ぽこだらけか、ということを強調したかったんだろうか?

 東京の地下もベルリンの地下も、第二次世界大戦で地下要塞を作ろうとしていた事はチラッと聞いた事がある。
 それだけじゃなく、昔、燃料不足の時に亜炭を掘りまくって地下を穴ポコだらけにして知らん顔しているから、今になって人家が陥没したという事件も何件も起きているらしい。
 
 皆さん、家を作る時は、地下に軍需施設がなかったか、亜炭坑がなかったか、しっかり調べてから建てましょうね。



 この「帝都衛星軌道」はなかなか面白かった。男子中学生が誘拐される事件といい、御手洗が登場しない事といい、ひょっとしてコレ社会派の推理モノ?!と危惧したが、そうじゃなかった。

 このミステリの最大の謎は、犯人と被害者の母親が持っているトランシーバーは3Kmくらいの距離しか通話できないのに、母親が山手線一周しても通話が途切れる事は無い、いったい犯人はどこにいるのか?という事。
 最後に謎解きされるが、うーん、なるほど、そういう仕組みか…と感心する。
 まあ、現実にはそんなにうまくいかないだろうけど、論理的には可能だろう。

 島田荘司ってやっぱりすごいね。
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酒井順子「いつから中年」

2010-11-09 14:44:42 | Weblog
 「惑い続けて40年」というサブタイトルからも分かるとおり、酒井さんの40歳前後のエッセイをまとめたもの。

 「いつから中年?」と問われてもねぇ…。世間的には、もうとっくに中年だと思うけど、酒井さんは以前、『35歳成人説』を唱えた人らしく、40歳で中年というくくりには納得できないらしい。

 これは彼女だけの感じ方ではなくて、首都圏の独身で裕福なバブルを経験したアラフォー世代に共通の感覚のようだ。
 まさに、日本版セックス・アンド・ザ・シティ!

 読んでて、酒井さんって本当にリッチだものね。子どもの頃も、大人になっても、現在も。

 例えば、酒井さんが高校生の時。親の旅行中に友達が遊びにくる事になった。繁華街でAM1時頃まで遊び、さて何か食べようかという事で、(親から、そのお鮨屋さんで食べなさいと言われていた、親の行きつけの)お鮨屋さんへ行って食事。
 代金は、後から親が払ってくれる事になっている。もちろんくるくる寿司ではないよ!!

 しっかし…AM1時に高級鮨屋のカウンターで鮨をつまむ女子高生って…!!
 羨ましい、実に羨ましい。
 ああ、人間の運命って、生まれた家庭で決まってくるんだと、つくづく思う、読むとちょっと落ち込む1冊でした。
コメント (2)
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