ケイの読書日記

個人が書く書評

道尾秀介 「向日葵(ひまわり)の咲かない夏」

2016-09-27 14:13:14 | その他
 小学校4年の僕が、その日お休みしたクラスメートのS君に、夏休みの宿題プリントを持って行く。
 しかし、そのS君が首つり自殺をしているのを目撃、慌てて学校に駆けもどり、先生に知らせる。先生は警察に通報し、警官と一緒に現場に行くが、どういう訳か、死体は消えていた…。

 小学校4年生の夏休みなんだから、ほとんどの子は9歳だろうけど、それにしては頭が良すぎる。しっかりしすぎ。S君が書いたという作文『悪い王様』なんて、素晴らしい内容。ちょっとグロいけど。
 それに、9歳の子って、首つり自殺するかなぁ。高い所にロープを引っかけたり、先端をきちんと固定したり、結構難しそう。それよりビルから飛び降りる、電車に飛び込む、刃物でお腹を切るetcといった方法を思いつくんじゃないかなぁ。

 この僕には3歳の妹がいるが、すっごく大人びている。僕のお母さんも、生ごみを捨てずに庭にため込んだり、妹を溺愛し兄の僕を無視したり、かなり偏りのある人。お父さんは、そんなお母さんの言いなり。どうも、この家庭には秘密があるみたい。

 だから、S君の死体消失の謎よりも、僕んちの謎の方に興味津々なんだ。なぜ、お母さんは、夏休み中のお昼ご飯を妹の分は作って僕の分は作らないのか? 激しい言葉の虐待は、なぜ起こっているのか?

 担任の岩村先生も歪んでいる。児童ポルノが大好きで、自分の嗜好の先を、クラスで孤立しているS君に定める。いるよね。こういう教師。たまに逮捕されて新聞に載っているが、表面化しない例も多いんだろう。
 子どもに対する性犯罪が無くならないのは、性的に子供が好きと言うのもあるが、被害が分かりにくいから、性犯罪者がやりやすいという事もあるんだろう。

 読み終わって後味スッキリ!!とはいかない小説。作者のミスリードが上手く機能していない。突っ込みどころ満載。だいたい、なぜ死体を消失させなければならないの? ごちゃごちゃになるだけ。
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酒井順子 「中年だって生きている」

2016-09-20 15:20:09 | 酒井順子
 すごいタイトルだなぁ。当たり前じゃん。中年も生きているって事は。酒井さんって、あまりにも若さに価値を置きすぎていると思う。「中年になってゴメンなさいね」ってお詫びしているような題名。その実、「でもね、私は中年だけど、おばさんじゃないのよ!」というふてぶてしさが感じられる。

 酒井さんはエッセイの名手なので、楽しく読んでいたが…『寵愛』という章で、あの小保方晴子さんに対する攻撃が…。
 あれ?! これ読んだことあるかも、と自分のブログや読書ノートを調べても、読んだ形跡がない。だいたい、このエッセイ集は2015年5月に刊行されているので新しいのだ。 
 という事は、酒井さん、あちらこちらで激しい小保方バッシングをしてるんだ! で、私はそっちの方を読んだと思われる。(エッセイ集って、こういう事がよくある。同じ題材で、あちこちの雑誌に書くから)

 だいたい、スタップ細胞があるかないか or 論文をねつ造したか否かが問題ではなくて、男性上司が彼女を贔屓したことにムカついているようだ。エッセイ中にも「若い女として存在することによって、おじさま達から無条件で可愛がってもらえる」「ちょっと前まで私が享受していた利益を、この人に奪われた」という感情を嫉妬と認めている。
 「ちょっと前まで」なの? 何十年も前じゃなくて? こうやって認めることによって、公正な判断力のある自分を演出している。

 しかし…ねぇ、酒井さんって、本当に女子校育ちのいじめ体質の人だと思うなぁ。「男性にはウケが良い彼女(小保方さんの事)でしたが、女性からの評判は芳しくありません。ヤワラちゃん以来、久しぶりに『女に嫌われる女』のスター登場という感じがして」などと、言いたい放題(書きたい放題)。
 それでいて、小保方さんを「オボちゃん」と呼んだりして、親しさを演出。
 
 酒井さんって、小・中・高とクラス内のスクールカーストの頂点に君臨して、自分はあまり表面に出なくてもクラスメートを操り、いじめをやっていただろうね。場の空気を読むことに長けているし、頭が良いから腹芸ができる。

 いつもは面白く読んでいる酒井順子さんのエッセイですが、今回はカチンと来た。
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今野信雄 「江戸の旅」

2016-09-15 16:43:44 | その他
 「江戸の旅」というと、パッと頭に浮かぶのは、参勤交代とお伊勢参り。
 大名の参勤交代は、旅というより仕事で、参勤交代をしないと、幕府から謀反のおそれ有りと疑われ、お取り潰しになっちゃうだろうから、必死だった。(そういえば、高速・参勤交代とかいう映画があったね)
 大名側にすれば、すっごい出費。例えば、仙台の伊達藩は、江戸から国許まで帰る途中お金が無くなり、野宿したという記録があるそうだ。
 もともと幕府が、諸大名の財政を逼迫させ謀反を計画させないようにと始まったものらしい。
 江戸時代は270年続いたが、家康って本当にアタマ良い! 徳川の世を続かせるために、いろんな手を打っている。もっとも、この参勤交代のおかげで、いろんな街道が整備され、庶民も旅に出かけやすくなったんだ。

 もう一つのお伊勢参りは、現代でも大人気。江戸時代も遷宮の年に合わせて、爆発的に流行したらしい。こういった「おかげ参り」の時は、すべての街道が人々で埋まったという。それが幕末「おかげ踊り」となって京で大流行。
 至る所でたくさんの人々が浮かれ、貴賤の別なく昼夜踊りながら歩き、三井や大丸と言った豪商を襲う。奉行所や関所に押し入って勝手にふるまう。奉行所や関所も、普段は威張りくさっているのに、あまりの数の多さに群衆を鎮めることができず、小銭を握らせ、過ぎ去るのを待つだけ。一揆のようなありさま。
 そして、そういう集団に、街道筋の人々は、喜んで食べ物やお金や衣類を渡し、自分の信心深さを表わそうとした。そういった施しをしなければ、神罰たちどころに下りて…と思われていた時代だったんだ。
 それに、奉公人が無断で「おかげ参り」に参加してもお咎めなし。こういうのを「ぬけ参り」と言うらしい。

 そうそう、この本の終わりの方に、費用の事が書かれてある。米の価格を基準にして考えると、一両はだいたい6万円。そう考えると、江戸後期、一泊二食付きの旅籠だと、上宿で1700円~3000円、中宿で1500円~1700円、下宿で1000円~1400円。思ったより安い! 食費が安くすむからかな? この時代、ほとんどのおかずは野菜だものね。それに部屋にしても、鍵がかかる訳じゃないし、隣室とは襖1枚で隔てられているだけだし、客が立て込んでくれば相部屋も普通だった。そう考えれば、この価格かな?
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山本周五郎 「赤ひげ診療譚」

2016-09-08 17:25:41 | 時代物
 長崎遊学から戻った保本登は、本当なら幕府の御番医という出世街道を歩むはずだったが、江戸を留守にしている間、婚約者は他の男と駆け落ちし、御番医という話もうやむやになって、くさっていた。
 やけになっている保本を、小石川養生所の医長・赤ひげが呼びつけ、医員見習い勤務を命じる。

 小石川養生所は幕府が運営していて、貧しい人々を無料で診察していた。最下層の人間の現実を目の当たりにして、保本はここから逃げ出す事ばかり考えていたが、赤ひげの強靭な精神に次第にひかれていく。


 ずいぶん前、NHKのドラマで、この『赤ひげ』をやっていて、何回か見た事があった。赤ひげは小林桂樹、保本はあおい輝彦が演じていたなぁ。評判は良かったと思う。
 勧善懲悪、悪人はあまり登場せず、最後はまるく収まる短編ばかりなので読みやすい。

 江戸時代に、無料で病人を診る小石川養生所という所が存在していた、という知識はあったが、これってスゴイ事だよね。こういう無償の病院というのは、世界的にみると宗教団体が運営することが多いのだが、日本の坊主は何をやってたんだろうね。この短編集に収録されている『おくめ殺し』という作品には、さびれた寺の坊主たちが、近郊の地主たちとグルになって長屋の住民を追い出し、岡場所を作ろうとする話があった。
 有名な寺と花街というのはセットになっている。精進落としに花街でぱあっとやろう、という事らしい。とにかくこの小説の中には、名僧と言われる人は一人も出てこない。

 江戸幕府も色々な問題や矛盾を抱えていたと思うけど、なんせ15代・270年続いたのだ。それなりに、しっかり政治をやろうという人たちが多かったんだろう。
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岸本葉子 「カフェ はじめます」

2016-09-01 09:24:35 | 岸本葉子
 エッセイストの岸本さんの書き下ろし小説。小説というか、素人がカフェを始めるときのハウツー本という感じです。

 44歳のいさみは、小規模だが堅実な会社の事務員。たまたま知り合ったおばあちゃんのお家が、とても可愛いので一目で気に入ってしまう。古いが縁側があり、玄関の所だけ赤い屋根の、和洋折衷のおうち。
 おばあちゃんが、娘さんと同居することになって転居するのを機に、その中古住宅を借りて、カフェをオープンさせようと奮闘する。焼きおにぎりと、自家製糠漬けと、番茶しかメニューにないカフェ。

 なんといっても、食べ物を扱う店だから、食品衛生責任者の資格を取らなければならないし、保健所の検査にパスしなければならない。その事務手続きがなかなか面倒で、行政書士さんに頼むことになり、追加でお金がかかる。
 飲食店ができるように、中古住宅の台所を改装するのに、またまたお金がかかる。もちろん、月々の家賃だって払わなければならない。

 実は少し前、いさみの兄が亡くなり、その遺産50万円が予期せぬお金として入ってきたので、そのお金をオープン資金として考えたのだ。もともと堅実ないさみなので、借金してまでやるつもりはない。
 女子大時代の友人を手伝いに頼んで、『おむすびカフェ さんかく』をオープンさせるも、客足はサッパリで…。

 そうだろうね。カフェを経営してみたいと思っている人、世の中に本当に多いみたい。それだけ多いという事は、それだけ潰れているんだ。テナント料を払えなくて夜逃げした店の経営者はたっくさん。

 小説の最後に、大家さんが家族3人で来てくれ、いさみが「また来て下さい、この店に」と伝えて、この小説は終わる。
 少し明るい兆しが見えたような終わり方だが…また来た時には廃業している可能性大。
 いくらなんでも、焼きおにぎり2個と自家製糠漬け、それに急須に入った番茶で900円というのは高いよね。濡れ縁と赤い屋根の可愛いおうちを愛でながら、ゆっくりできるとは言っても。あまりにもすいているカフェには、入店しづらい。



P.S. 実家の母がリハビリ病院から自宅に戻ってきたので、私も、実家と自分の家を往復して、てんてこまいです。だから、読書の時間がなかなか取れず、更新が遅れますが、ちゃんと続けますので、よろしくお願いします。
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